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新型コロナの出口戦略 なぜ流行中の今、専門家たちが社会に投げかけるのか?

新型コロナウイルスの第7波が続く中、専門家有志から8月2日に公表された出口戦略の提言。どんな狙いがあるのでしょうか? 有志の一人として名を連ねた岡部信彦さんに聞きました。

新型コロナウイルスの第7波が続く中、専門家有志から8月2日に公表された出口戦略の提言。

なぜ今、どんな狙いを持って出されたのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、有志の一人として名を連ねた新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに聞きました。

※インタビューは8月9日夕方に行い、その時点の情報に基づいている。

専門家に相談なしで方針が出されることに危機感

——なぜ感染者が多い今のタイミングで出したのですか?

あの提言については数ヶ月前から議論を続けていました。本当は感染者数が減っている時に出したかったのですが、他の緊急案件やスケジュールの問題があって、なかなか出せませんでした。タイミングは遅かったと思います。

「専門家は何を考えているのかわからない」という声も聞かれますし、なるべく早く出したほうが良いという考えは皆持っていました。

専門家の意見が政府に対して全て通っているかと言えばそうではありません。すべて通るとも考えられません。

しかし、自分たちから離れたところで感染対策に関して医学的に考慮したとは思えない方針が決まっているところもあります。専門家への連絡なしに方針を変更することも出てきています。

それはそれであり得ると思いますが、どうしてそのような方針になったかという説明は、一般の人や私たちに対してあるべきではないかと思います。

それに対し、専門家集団としては、ある程度、専門的な知見から考えた方向性を出すべきではないかという声が高まってきたのです。

——具体的に言うと、濃厚接触者の待機時間短縮などが政府によって勝手に決められた件が響いているのですか?

それは決定的な問題だったと思います。あれは、やはりもう少し詰めるべきでした。国民に対する説明も足りなかったと思います。

政府が医学以外のいろいろな考え方を踏まえて決めるのはわかります。科学的根拠に基づくことはとても大切ですが、すべてにエビデンスがあるわけではありません。その場合は、「エビデンスとしてはこうだが、決断はこうだ。こういう理由があるからだ」と説明しなければいけません。

濃厚接触者の待機時間の短縮についても、解除後も気をつけるべき事柄について説明していたのかもしれませんが、明らかに説明が足りない。

政府と専門家のずれについて早く対処しなければお互いの不信感につながりますし、メディアから対立構造で書かれてしまうと妙な方向に動きかねません。

法律の改正まで行うことについては時間がかかるので、これまでのやり方では問題がある場合の対処法について示した方がいい。つまり、今できることややるべきこと、今から取り組んでおくべきこと、について明示するわけです。

本来、分科会で出すべき内容だと思いますが、なかなか分科会が開かれなかったのでこのような形で出すことになりました。

また、このウイルスはまだ生まれたての赤ん坊のようなもので、極めて流動的です。それによる病気もまだまだ安定したものではありません。それなら今の時点ではこうだ、と示した方がいいと考えました。

政府の方針を単にひっくり返すのは建設的ではない

——7月14日に専門家分科会は5つの対策を国民にやってほしいと訴えていました。その5つの対策と、今回の提言の内容は重なるところもあります。

そうですよね。でも今回の提言はもっと細かいところに踏み込んで議論しています。そこを詳しく説明した方がいいと思いました。

新型コロナが発生した当初は、いろいろな動きがあった時に記者会見などで補足的な説明をしてきたつもりです。例えば「『緊急事態宣言』が出されることになりますが、その内容はこれこれこのようなもので、都市封鎖とは違います」といった具合です。

最近、会議終了後に会議内容に関する記者ブリーフィングはありますが、もう少し最近の状況や見通しについて専門家が今何を考えているのか、説明しなければいけないと思いました。またそのタイミングは遅くなっていけないとも思われました。

——社会経済を回すという政府の方針を、専門家も受け入れた形の提言になっているのが気になりました。

ここは人によってかなり意見が異なると思いますが、僕はよっぽど間違った方針であればともかく、最終的に政府が決めた判断を180度ひっくり返すことは、建設的ではないと思います。

正反対の意見でひっくり返そうとするのにエネルギーをかけるよりも、方針を鵜吞みにすることなく、その決定をどう生かすか、少しでも良い実施方法に結び付けるにはどうしたらよいかを提案する方が建設的であり、実際的だと思います。

たとえば濃厚接触者の待機時間の短縮も、政府が決めてしまったことをひっくり返し、話をゼロに戻そうとするよりも、どこが足りないのか、どこをちゃんとすればうまく動かせるのかを考えた方が良いと思います。

濃厚接触者が増えて生活が回らなくなっている今の状態で、待機時間を短くするアイディアを考えること自体はいいと思っているからです。

——3日経てば解放、と受け止められてしまうのが問題なわけですね。

そうです。政府の発表をよく見ると、解除後も気をつけるようには言っています。でもその注意と強調が足りない。説明不足です

世の中の人は「待機時間3日に短縮」という見出しを見ると、「4日目にはもう普通にできる。飲み会にも行ける、遊びにもいける!」と受け止めてしまいます。そこを丁寧に説明する必要があります。

社会経済を回すために、良い面ばかりの強調はダメ

僕自身は、イギリスのように社会を開く考え方にはいつも賛同していました。

ただ、イギリスのように一気に開くのは問題があると感じていました。ステップを踏むことが必要だと思っていたので、ステップ1、ステップ2に分けて、二段階で説明していくという、阿南英明先生の提案はいいアイディアだと思いました。

——ただ、提言にも書かれていましたが、社会経済を回すと感染者は増えて、高齢者や基礎疾患のある弱者の死も増えます。弱者にリスクを負わせる社会にしていいのでしょうか?

油断をしてしまえば感染者は増えます。増えると、致死率がいくら低くても、重症になる方、亡くなる方は増えます。最初のしわ寄せは高齢者に行きます。そういうことを知りながら、進まなければいけません。

放っておくわけではありません。「社会経済を回すので、対策は取りません」ということではなく、「社会経済を回すので、感染対策・高齢者対策もしっかり取るべきです」と言うことが大事です。

一般の人も「社会経済を回すのだから、感染対策はおしまい。全てフリー」ではなく、注意はし続けなければいけません。

少しでも普通の生活に戻すには、私たち一人ひとりが努力しなければいけません。しかし、努力しても一定数感染者は増えるでしょう。極端なことを言えば、多少増えても、軽症者が多数であるならばビビらないでください、漠然とした不安に落ち込まないでください、と申し上げたいです。

——どちらにしても弱者が亡くなることを含んで進む、ということですか?

社会経済を回すことの良い面ばかりを強調して、「患者さんは増えても風邪みたいなもので、放っておいても大丈夫。コロナの患者さんが病床にあふれることはありません」などとは言えません。病はどのようなものでも、重くなることはあり、死に至ることがあります

またそのような病気が溢れて、医療がパンクしたらやはり困る。医療機関も困りますが、真の影響を被るのは、病気の人、病気になるかもしれない人々です。

しかもその病気だけではなく、その他の病気も診る余裕がなくなると、他の病を抱えている人は行き場がなくなる。真の医療崩壊です。そのようなことになりそうな手前で、社会経済が少々停滞しても行動制限をかけざるを得ないことはあるでしょう。

——オミクロンでは、これまでのような緊急事態宣言やまん延防止等重点措置では抑えられないのではないかという指摘もあります。

評価は難しいですが、重点措置や緊急事態宣言をかける少し前から、日本では「ヤバいぞ」と人々の動きが小さくなり、感染者が減る現象がこれまでに見られています。重点措置や宣言にはそういうアナウンス効果もあります。

脅かしてはいけませんが、注意を促すことが必要な時期はあります。

一方、そろそろ制限解除かというような話が出始めると、人々の動きは活発になり始めます。

一線を超えると、重症者だけを診る体制にせざるを得ない

救急車はコロナばかりを搬送するのではなく、一般の病気にも必要ですし、他の病気の入院を断ってばかりでもいられません。コロナに全力を投じるのではなく、コロナを特別視しない方向に近づける方策を考えなければいけません。

日本を見ると、諸外国に比べれば致死率はまだ低い。感染者は増え、医療はひっ迫しかけていますが、全体から見るとまだ抑えています。

もっと皆さんに落ち着いてもらいたいのです。不安にならずに医療にかかり、落ち着きながら医療を運営していくようにしたい。

救急車を呼ぶ人が全て救急車が必要な人かと言えば、そうではありません。不安のために呼ぶ、足がないから呼ぶ、救急車で行けばきっと入院できる、という心理で呼ぶこともあります。

日本はもともと不安で救急車を呼んでも無料で使える国でした。「救急車はタクシー代わりではありません」と注意が出るぐらいの国です。今のような不安な状態だとそういう人も出てきます。

でもそんな人が増えると、本当に急を要する人が救急車に届かなくなります。海外では医学的に必要な人しか運ばないとする国が多い。救急に到着してもトリアージ(選別)によって、真の救急以外は1時間でも2時間でも待たせます。

そういう国と、「不安なら来てください」という日本を比較すると、僕は日本の方がある意味いいと思います。不安を解消するのも医療だからです。

しかし、それは「救急」ではないという意識も必要です。ある線を超えてしまうと、重症な人だけを集中的に診る方向に転換せざるを得ません。

誰もがほったらかしにならないように、より多くの医療機関で

——今回の提言では、入院に関しては、コロナとそれ以外の病気を診る区域を病棟単位で区切るのではなく、病室単位で分けるようにするとしています。

ワンフロアを新型コロナ専用にしてしまうと、50%入院しても、もう半分は空いています。でもコロナのために空けておかなければならない。他のフロアは他の病気でいっぱいになっているのに、コロナ病床だけが空いている。それでもコロナ以外の新たな患者を受け入れられないことになります。

受け入れるにはどうするか考えた時、フロアごとのゾーニング(感染リスクごとの区分け)ではなく、病室単位の区分けにして、そこだけ感染管理をきちんと行えば、他の病室はそれ以外の患者の入院が可能になります。

少しでも受け入れ範囲を広げていく方法を考えなければいけません。もちろん、ゾーニング部分の感染管理は、しっかりと、かつやり過ぎないようにしなければいけません。

もう一つの背景は、最初は重症の肺炎が多かったのが、今はそれがとても減った病態の変化があることです。

コロナにかかって、肺炎ではなく、むしろ血糖の調節ができなくなる、心筋梗塞を起こしている、腎不全が出てくるなど、元の病気や隠れていた病気が悪くなる人が増えています。

そういう人が「コロナ病床でなければ入れません」「コロナ病床は当病院に今ないので......」と医療が受けられなくなるのでは、本末転倒です。

——外来について、軽症の人は今後、病院で診断を受ける必要もなくなることを想定しているのでしょうか? 重症化リスクの低い人は、病院にかからずに自宅で療養すればいい病気にするのでしょうか?

例えば、日本ではインフルエンザにかかった時、医療機関に行く人が多いのが通常です。もちろん家で寝て様子を見ている人もいますが、症状が軽くても、「心配だから検査してください」と受診し、医師も応じているところが多くなっています。

そんな国で、コロナに関して「検査もなしで大丈夫だから家にいてください」というわけにもいかないでしょう。

——医療用の抗原検査キットで自宅で検査をして、オンラインや電話で診療してもらって登録する、というイメージですか?

本来、人が人を診るのが医療です。人が診て、人が触って、人が話して医療になる。すべてオンラインでは本来の医療はできません。

しかし、パンクしてその本来の医療が提供できないのであれば、たとえ画面越しでも「今日の体調はいかがですか?」と様子を聞かれるだけでも安心するでしょう。そのためにも、どこでもコロナ患者を診られるようにすべきと思います。

——感染した同僚記者も、「医療とつながらない時は不安だった」と言っています。

ほったらかされるのは一番よくありません。救急の時も、何がなんでも救急車ではなく、ある程度のやりとりができたら落ち着くものです。またそのやりとりを全て保健所が引き受けていると、保健所本来の仕事が回りません。

保健所は重症化対応にシフト 数字の基準を機械的に当てはめるのは危険

——提言では保健所の役割も重症者に集中させようとしていますね。

保健所のスタッフは、医療者の集団ではありません。医師は少ししかいないし、看護師、保健師も職員の一部で非常に忙しい。

非医療者がチェックリストを見て、これは何点、これは何点とスコア形式で積み上げて、「まだ点を満たしていないので大丈夫」などと判断せざるを得ない場面も多くみられます。

保健所などのマニュアルでは、「点数より必ず医師の診断を優先すること」と書かれています。スコアが基準を達していなくても、診断した医師が必要だと判断したら優先して入院させなければいけないのです。

病は本来、病名ではなく、症状でいろいろな対応を取るべきだと思います

今後は保健所も重症者対応にシフトしていくと提言では打ち出しました。そのために濃厚接触者の特定や軽症者の健康観察から手を引いて、療養者や周りが自分で判断するようにしていくわけです。

「インフルエンザ並みに」とよく言われますが、インフルエンザでは1事例ごとに濃厚接触者調査を行い、健康観察の連絡を行い、隔離等を法によって求めているわけではありません。コロナもインフルエンザ並みの対応でよいかと思います。

しかし、新型コロナはインフルエンザほど歴史があって固定された病気ではない。また症状の変化については放っておいてはいけません。

検査については本来、ちゃんとプロが検体を取るのが原則です。正しい検査は検体の取り方が基本、とは僕らはいつも学生や研修生などに言っています。一般の人が自分でやる検査は、検体の取り方はいい加減になりがちです。

でも感染者の数が多い時には、その不十分さもある程度飲み込んで進めるしかない。自宅で様子を見てもいい場合は、簡便な検査・医療でいいと思います。

日本感染症学会など4団体が出した「限りある医療資源を有効活⽤するための医療機関受診及び救急⾞利⽤に関する4学会声明 」がありますね。

受診するか判断する基準として「37.5℃以上の発熱が4⽇以上続く場合」とありますが、流行当初に厚労省が出した受診の基準と近い。厚労省の基準は、「決められた日数経つまでは受診してはいけない」と誤解されてしまいましたね。

——誤解されましたね。「具合が悪ければいつでも」という但し書きがあっても、そうは受け取られませんでした。

こうした基準をもとにマニュアルで判断する人は、どれだけ目の前の人、あるいはご本人が具合が悪くても、まだ日数を過ぎていないからかからなくて大丈夫、などと判断してしまう恐れがあります。

数字ではなく、病気になっている人を診なければダメです。そこは気をつける必要があります。特にこれが役所からの文書だとすると「文書にあるから」「文書にそうは書いてないから」ということがしばしば見られます。繰り返しになりますが、病は病名ではなく、症状でいろいろな対応を取るべきです。

全数把握、いらないのか?

——提言では感染者数の数え方も変更すべきだと書いています。届出による全数把握はもういらないのでしょうか?

WHOも世界のコロナ陽性者の人数を定期的に一桁単位まで出していますが、あの数字が本当の感染者数だと思っている人はおそらくいないでしょう。

しかし、世の中では「数字」を求めます。また連続性を持って流行状況を見る上では、一定度の役には立つとはいえます。

でも日本で、今、医師は患者を診る大変さよりも、発生届のための入力や、いろいろな書類を書くことが大変になっています。保健所はもっとそうです。

そうであるならば、「医」は手を抜いてはいけないけれど、「発生届や書類作成」の負担はなんとか軽くすべきではないかと思います。その分の時間を「医」に振り向けるためにです。

——早速、通知が出て、重症化リスクの低い人は5項目だけ入力したらいいことになりましたね。

発生届の効率化自体は良いことですが、あの5項目も、発症日・検査日・ワクチン接種状況などまで抜いてしまってはいけないと思います。どれを残すべきか省くべきかについて医学的議論ができていたのかどうか、定かではありません。

——厚労行政も混乱しているのですね。

それを議論している時間がないままに出しているのだろうと思います。早く対応しろ、という声も多いでしょうから。

検査キットを十分に流通させることが必要

——高齢者施設も基本的に施設で療養し、抗原検査キットでクラスターを抑える戦略にしていますね。ただ検査キットがなかなか手に入らない状況です。

この項目に抗原検査キットについて入れる時に、僕らの中でも議論になりました。ないものをやれと言っても無理だからです。流通そのものに問題がありそうです。増産をする必要もあるでしょう。キット等が十分供給できるよう要望も出しています

当初は検査が足りなくても、ないならばないなりにやるしかないので、重点を絞って効率的な利用方法を考えてきました。しかし、検査能力の向上は必須であるとはずっと言い続けてきたことです。

日本では、通常のインフルエンザのほとんどで検査を行って診断しています。海外の多くの国ではインフルエンザぐらいではあのような検査をしていません。

そのような日本で、コロナかもしれない人に「検査はやりません」と言っても納得してもらえないでしょう。抗原検査キットを活用しながら普通の病気として対応していくためには、それなりの数を揃えることが必要になるでしょう。

——インバウンドも陽性者の隔離を行わない対応になっていくのですね。これは海外の対応に合わせていくということでしょうか?

日本だけ独自の方法を取るわけにはいかなくなっているでしょうね。

新型コロナはまだ安定していない 新しいカテゴリーも

——今後はどういうスケジュールで出口戦略は進みそうでしょうか? 7波が収まり、4回目接種も十分行き渡って免疫が上がった段階で緩和、というタイミングなら犠牲者が少ないと西浦博先生が言っていたことがあります。

法律の改正はそんなに簡単に動く話ではないので、ステップ2の議論はすぐにでも始めてほしいところです。

——2類相当から(感染症法上の)5類へ」という声がずっとありますが、今回の提言では別のカテゴリーを作る、ということも想定されているのですね。

5類=インフルエンザ のように受け取られることが多いようですが、5類と言っても色々な病気があります。麻疹、HIV/エイズも5類、インフルエンザや手足口病も5類です。5類相当でいいのかという議論が必要です。

——この分類変更で、今は公費で全てまかなっている治療費が自己負担になるのをみんな心配しています。重症者や高額な治療は公費負担で、と提言していますね。

これだけ人数が多い病気について、軽症者まで全て税金でまかなうのはおかしい。健康保険制度などに振り向けてよいと思います。

一方、高額療養費制度や低所得者への医療補助が今もあります。でもできるだけ手続きは簡素化した方がいいし、これに手間暇かかるようでは本末転倒です。

保険診療で誰でも1本何十万の点滴が使えるかというとそうもいかなくなります。でも実は、今も何百万もする抗がん剤も保険診療で使っているのですよね。

これだけ数の多い感染症で一定程度重症化する人がいることを考えると、別の仕組みを新たに作る方がいいのではないかと思います。「新型コロナウイルス」という特別なカテゴリーを作ってもいいかもしれません。

このウイルスは今後も変化する可能性が大いにあります。それによって病態も変化していく可能性があります。法律でいったん、5類に決めたとしても、ウイルスがかなり変化したら、5類から例えば3類に上げるのはそう簡単ではありません。

病気としてはまったくの新顔でまだ安定していないので、柔軟に対応できる特別なカテゴリーを作った方がいいかもしれません。

——この提言、一般の人は十分理解し切れていないと思うのですが、どのように考えてほしいと思っていますか?

コロナが現れて1年目、2年目、3年目で病気も変わってきているし、病人も変わってきているし、人々の考え方も変わってきています。それならば、対処の仕方だって変えなければいけません。

理想も現実も見ながら、今からコロナを特殊な病気ではなく、日常あり得る病気として診ていくための議論をしておかないといけません。まずはそこに至るまでの移行時期として、できるところから変えていく時に来たのだ、ということをご理解いただけたらと思います。

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員を歴任し、 西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長、世界ポリオ根絶認定委員会委員などを務める。日本ワクチン学会・日本小児感染症学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。