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いよいよ新型コロナ第7波? 入り口に立った今、必要な対策は?

新型コロナウイルスの感染者が日に日に増え、第7波の到来とも言われている。この増加は何が要因なのか。世界中で対策緩和が進む中、日本はどのように対応すべきなのか。感染症の専門家に聞きました。

新型コロナウイルスの感染者が日に日に増え、第7波の到来とも言われている。

この増加は何が要因なのか。

世界中で対策緩和が進む中、日本はどのように対応すべきなのか。

BuzzFeed Japan Medicalは、新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに聞きました。

※インタビューは7月7日午後に行い、その時点の情報に基づいている。

コロナ急増、オミクロンの亜系統「BA.5」の仕業?

——新型コロナウイルスの新規感染者数が日に日に増えてきています。だんだん皆心配になってきているようです。

心配してくれるのは新規感染者数を抑えるためにはありがたいことですが、一方で行き過ぎた不安が広がってしまってはよくないですね。

——これは第7波の到来と考えてもいいですか?

警告的な意味ではその表現は良いかもしれませんが、本当に7波といえるかどうかは経過をみなければ言えないと思います。現段階で7波と断定するのは言い過ぎではないでしょうか?無視してよいということではありませんが。


今はいわゆる6波の緩やかな減少の山が、再びこぶが現れて少し右上に傾いたところです。増えてくるのが早く、増え方が急峻であることは確かですね。走り始めた時に、もう優勝かビリかを断言するのは無理で、そこは冷静に、特に行政と医療は備えの構えが必要です。

——早かったですか?

もう少しなだらかな状態が続いてくれるといいなとは思っていましたが、そうはいかないですね。

——この増加の原因は、オミクロンの新しい亜系統、BA.5への置き換わりですか?

BA.4やBA.5が出てきていますが、席巻しているわけではないですよね。ただ全体の25%ぐらい、地域によっては50%くらいになっているわけですから、置き換わりつつあり、その影響は確かにあると思います。

——感染力はこれまで主流だったBA.2よりも強いわけですね。

海外からの報告をみても、事実上感染力は強い、つまり拡がりは速いと言えそうです。統計・疫学的にはまだきちんと証明できていませんが、明らかに強くなっている状況が見えます。

一方で、重症度は目下のところこれまでと変わらないようです。

ヨーロッパのデータなどを見ていても、感染者数の増加に応じた重症者の増加はみられていますが、重症化率の割合が高くなったようには見えません。

現時点でBA.5にかかった人の重症度が高くなったわけではないと思いますが、この点は注意深くみていく必要があります。ただしいくら重症化率が低くても、感染者数が多くなれば重症者数は多くなるので、この点は常に注意が必要です。

——これまでよりもワクチンが効かなそうだともわかっていますね。

それはあるかもしれません。ただまだ新たな変異株が入ってきたばかりなので、効果に関する検証はまだ行われていないと思います。


感染した人のうち、ワクチンを接種した人がどれぐらいで、接種していない人がどれぐらいか、その症状はどうかなどを比較しなければいけませんが、単純比較はできません。

日本でワクチンを接種した人が8割ぐらいに達しているので、感染する人の中でもワクチンを既に接種した人が目立ってきます。

ただその感染された方々が軽症であったとすれば、ワクチンとして一定の効果はあったと言えるので、症状の比較も重要です。加えて二次感染を起こす可能性が低下しているのかどうかもみていく必要があります。

重症化を防ぐためにワクチン接種を

——3回目接種は今年に入ってからうった人が多いと思いますが、そろそろ効果が切れる頃でしょうか?

抗体の高い低いだけではなく、ワクチン接種した人としていない人で発症の度合いがどう違うかも比べてみないと、そこもはっきりわからないです。

ただ接種をした人の方が症状が軽いのはこれまでの研究調査では間違いない。そうなると「かかっても軽く済めばいいじゃないか」という考え方にはなりますね。インフルエンザワクチンとこのあたりは考え方が共通のように思えます。

ワクチンをなんらかの理由で受けられない、または受けない人は、接種を受けた人に比べれば明らかに重症になる可能性が高くなるので、その分、感染対策はよりしっかりやる必要があります。高齢者は余計そうですし、接種していない40代、50代も重症化リスクが高くなります。

デルタの流行の時には高齢者が優先してワクチン接種をしていたので、接種が間に合わなかった40〜50代で感染者、中等症者が増えましたね。

それと同じ構図になってはいけないので、中年層はやはり3回のワクチンを接種しておいた方がいいと思います。

病院のベッドが埋まり始めているのは? 増えるスピードも重要

——徐々に病院のベッドも埋まり始めているという声が聞こえてきます。

入院者数が減少し、コロナ病床を縮小しているわけですからね。

ただしその分、一般医療が通常通りに行われるようにはなってきていました。

もう1回コロナ患者用病床を増やそうという動きは当然あります。

しかし、単純に数だけを増やすのではなく、一般病床を確保しておくことが重要です。そうであれば、やはり軽症者は他の病気と同様、入院することなく家と外来で経過を見ていただく、あるいはコロナで動かすことができた宿泊療養なども上手に利用していくのが良いのではないかと思います。

また、たとえば同じ1000例から2000例に増えるのであったとしても、1週間かけて増えるのと、2日で増えるのとでは大違いです。この増える速さが今、心配なところです。

毎日倍々になっていくような増え方は、これまでと同様医療にとっては負担が重い増え方です。医療機関の対応が間に合わなくなりますし、社会の中でも不安が不安を呼ぶ形になっていきます。

数は少ないに越したことはないし、増え方もゆっくりの方がいい。

ただ、確かに今、感染者数は増えてきてはいるのですが、重症の割合が高くなり、ワクチンを受けた人も全滅、などということにはならないと思います。

ワクチンは今うてるものを早めに

——今の段階ではどのように手を打っておいた方がいいと思いますか?

一般の人とプロである医療側や行政担当の捉え方は違って当然です。医療側や行政者側は、この動きを敏感にとらえています。

一般の人は急速に不安になるような段階ではないと思います。

しかし感染症としての注意がやはり必要で、このところ緩め過ぎかなと思われるところは少し締め、忘れていたことは思い出す必要があるでしょう。

一方、メリハリも必要で、あまり効果がないようになってきたこと、あるいはさらにリスクの高いことを回避することを優先にすべきです。つまり暑い戸外で人がそんなに人がいないようなところで、マスクをつけて汗だくになる必要はやはりないと思います。

また、家の中に閉じこもってた方が良いという状況ではなく、リスクの低いところ、あるいはリスクの低い行動であれば、出かけることも可能だと思います。でも、それが油断になってはいけません。

リモートワークをしている会社は最近、元に戻す動きがあるようですが、リモートワークで済むところはそのまま続けた方がいいと思います。

感染症に対する基本的な対策はどんな時も必要です。このように増え始めた時は、ふんどしを締めなおさなければいけない。もう一度、基本的な対策をあらためて確認していただきたい。

また、お花見の時と同じで、お花見を楽しむことができるけれど、みんなが集まっているところに同じ時間にいくというようなことは避けたほうが良いと思います。夏休みがとれないのではなく、皆一斉に短期間に休んで一斉に移動、というのも避けてもらいたいところです。

そして一般の人ができる積極的な予防策は、やはり免疫をあらかじめつけておくこと、つまり重要な基本対策はやはりワクチンです。我々はワクチンという武器を手にしているわけですから、それを有効活用してほしい。

ワクチンもいろいろ種類が増えてくるという話が聞こえてくると、少しでも良いもの、少しでも効果が高いもの、少しでも副反応が少ないものを選ぼうとするのはよく理解できます。

しかし、すぐに潤沢にすべてが揃うわけではなく、スーパーで商品を選ぶように自分の好きなものが選べるわけではありません。待っている間に感染症にかかってしまっては元も子もないので、できるだけ早く免疫をつける、免疫を強化する、という考え方でワクチン接種を受けられた方が有利であると思います。

mRNAではなく、遺伝子組み換え型のワクチンもでき始めています。作り方の違うワクチンをブースター接種すれば、経験的にも効果が高くなることがわかっていますし、副反応も少ない可能性がある。

もっと長い目で見れば、mRNAワクチンもウイルスの変異に合わせてmRNAを入れ替えることも考えられるわけです。時間がたてばよい良いものができるのは当然の進歩です。でもいつになるかわからないものを、ひたすら待つのは良い手ではありません。

急いで免疫をつけた方がいい人は、これまで出ているワクチンと著しい差があるわけではないので、すぐに受けられるものを受けたほうが、私は良いと思います。

対策は、「感染者数」だけでなく「重症度」を見ることが大事

——この2ヶ月間、ウイルス対策から完全フリーの状態をみんな謳歌してしまいました。またふんどしを締めることは難しそうです。

でも居酒屋で飲むのを我慢している、あるいは前みたいな飲み方や宴会は控えている人も結構いますよね。

本当は、「大丈夫、今まで通り、コロナは普通のかぜ」と居直っている人に注意したいのですが、その注意が真っ当に不安になって既に気をつけている人に向かってしまうと、その人はさらに注意を強めて身動きが取れなくなってしまいます。

通常の90%ぐらいまで行動を戻している人にその2~3割は落としてほしいという思いなのですが、なかなか難しいところですね。

——専門家分科会は、ゴールデンウイーク前に再び増え始めた時にどういう対応を取るか、対策の4つの考え方を示しました。行動制限による感染者減と社会活動維持のバランスをどう取るか、そろそろ考えた方がいい時期なのでは?

  • 社会経済活動を制限し、感染者を減らすことに重点を置く考え方
  • なるべく社会経済活動に制限を加えず、社会活動の維持に重点を置く考え方
  • 可能な限り医療機関や宿泊療養施設での隔離を行う考え方
  • 入院が必要でない限り、地域の医療機関や在宅での診療を優先する考え方


僕がその背景として必要な考えとして常に言っているのは、「感染者の数だけではなく、重症度を考えなければいけない」ということです。

確かにどんなに軽い病気でも感染者があまりにも増えれば、一定数の重症な人と社会不安が出てきます。そこが広がらないように感染者数も抑えた方がいいのは間違いないのですが、店の時短や休校措置などを考えるならば、重症度を十分考慮しなければなりません。

それを考える時期は早晩やってきますよね。

残念ながら病気は、現実の状態を見なければわかりません。想像だけでは対策を動かすことはできない。経験を踏まえた想像で動かなければいけない時もありますが、病気の実態はやはり病気がある程度増えないとわからない。これが現実です。

全面解除しているヨーロッパを参考にできるのか?

日本が有利なのは、ヨーロッパでの流行が先行しているわけですから、そこの様子を見ることはできます。ただ文化的背景、医療的背景はまったく違うので、「だから日本も同じように」とはなりません

——そういう意味では、ヨーロッパはコロナ対策をほぼ解除してしまっていますよね。日本はそれを参考にできるでしょうか?

先週、WHOのポリオ根絶会議に出席するためにジュネーブに行ったのですが、見たところ彼らの暮らしはまったくと言っていいほど普通でした。

——ヨーロッパでは日本に先行してこれまでよりも感染力の高いオミクロンの亜系統、BA.4BA.5が広がっています。それでも対策は緩めたままです。

あちらの社会では、「重症者が少なければいいだろう」という考え方なのですね。

以前、僕は、法による束縛された不自由さを全面解除してリスクも受け止めて自由を取るイギリス的な考え方に賛同していると話したことがありますね。今でもそう思います。

しかし、日本であの割り切り方を一気にするには早すぎると思います。日本は日本スタイルで、段階を踏んで対策を変えていくことが必要で「そろりそろりと参ろう」でいいのではないでしょうか。

——日本でも「ウィズコロナ」のように社会や経済をあまり止めなくてもいいのではないかという空気が広がりつつあるように見えます。前のようにまん延防止等重点措置措置や、緊急事態宣言が打てるでしょうか?

再び持ち出すのはなかなか難しいだろうという意見が多いようです。もう動いてしまったからとか、従ってくれないだろうという意見ですね。

しかし、僕は打つ手としては持っているべきだと思います。

もし病気の重症度が高くなり、拡大も強ければそのような対策を打たざるを得ないことも考えておかなくてはいけない。いったん鞘に収めた伝家の宝刀は、そうそう持ち出すことはしないけれど、やはり伝家の宝刀として取っておく必要はあると思います。

ただ、そこまでの状況ではないならば、感染者の数だけで右往左往するのではなく、病気の重症度や医療機関の逼迫具合を見て、考えるべきだと思います

重点措置、緊急事態宣言も捨てているわけではない

——次の流行が来た時にどうするのか日本はまだ合意が取れていない気がします。また同じ対策を打つのか、それとも今度は違う対処の仕方を模索し始めるのか。

本当に医療が逼迫するのが予測できるのであれば、その場合は、強い対策を打たざるを得ません。重点措置でも緊急事態宣言でも「やらない」と決めてかかることはできません。

ただ打つにしても、過去と同じレベルで打つのではないと思います。その選択肢を捨てるのではなく、その手は取っておくけれども、あくまでも伝家の宝刀です。

今は治療法もワクチンもあります。子供に増えたらどうなるという人もいますが、アメリカなどのデータとは違う考え方をする必要があります。

3連休、夏の旅行は?

——選挙後には3連休も控えています。夏休みも始まります。何を気をつけるべきですか?

前とは違って、全国的に感染者が増えていますから、「危険地域」と「安全地域」を分けることはできなくなっていますね。

基本的には、先ほども述べたように、コロナの最初の頃のお花見と同じ考えです。

お花見を楽しむことができるけれど、みんなが集まっているところに同じ時間にいくというようなことは避けたほうが良いと思います。夏休みに旅行をしてはいけないわけではなく、皆一斉に短期間に休んで一斉に移動、というのは避けてもらいたいところですね。

——子供が祖父母のところに行くときはマスクをした方がいいですか?

マスクをつけ続けるのは無理じゃないですかね。むしろおじいちゃん、おばあちゃんの方が4回目のワクチンをうって備えておいた方がいい。

最初の数日間は頑張ってマスクを着けておくのもよいと思いますが、一定期間、そのまま症状なく過ぎれば感染してない可能性が高まりますから、そこで外すぐらいのことはあってもいいように思います

もちろん症状があるなら最初から行かないことです。これはどの病気でもそうです。

——最初は「移動すること自体がリスクなんだから移動するな」と言っていました。みんなワクチンもうっていて状況は変わっています。

今ぐらいの感染状況でわざわざ混んでいるところに行くわけではなければ、動くこと自体を妨げるわけではありません。ご飯もご飯を食べること自体が悪いわけではないです。ご飯食べながら大声で長々とおしゃべりするのが良くないだけです。

——このあたりの感染リスクの高い行動はみなさんもう、ある程度わかっているのではないかと思うのですが。

わかっているのですが、反発心もあるでしょうし、かかっていない人の方が多いわけですから「自分は大丈夫」という過信があるかもしれません。それでも病気は思い込みだけでは防げません。ある程度の防御や、ワクチンは大事な道具になります。

——これがもう少し感染者が増えてきても状況は同じですか?

繰り返しますが、数ではなくて、重症度を見ることになります。

重症度から言えば、オミクロン以降、それほど重症な病気ではありません。

BA.4、BA.5についてはもう少し情報を得て様子を見る必要がありますが、現時点では今の行動様式に大きな変化は必要ないと思います。しかし、くり返しになりますが、感染対策をやらなくてもいいということではなく、基本的なしかし過度にならない対策は必要です。

旅行も止めませんが、火に油を注ぐようなことはやめてほしい。大丈夫だとなったとたん、駅には旅行のポスターがどんどん貼られ、テレビでも特集を組み、CMがあふれてきます。

「取り返したい」という気持ちはわかりますが、一気に取り戻すことには慎重になるべきです。段階を経てです。

気の毒なのは病気療養中の人やワクチンをうてない人です。この人たちのことを考えるなら、周りの人は何をやってもいいですよとはなりません。実際日本の人は欧米に比べたら、慎重です。それが弱い人を守ることにつながっています。

一方「大丈夫だ」と大々的にアナウンスされると一気にその慎重さが解除されるところもあります。だから旅行に限らず何事においても火に油を注ぐような策はやめてほしいですね。

人間は楽しむ時間をとっておかなければいけません。なんでもかんでも元通りではないですが、夏休みは夏休みとして楽しんでほしいです。

(続く)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。