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自分も新型コロナに感染し、コロナの患者を診ているからこそ僕は接種した

日本でも接種が始まった新型コロナウイルスのワクチン。一時、感染爆発とも言われたニューヨークでコロナ患者を診療し、自身も感染した経験のある医師は迷わず接種しました。感染を経験しても接種は必要なのでしょうか?

いよいよ日本でも接種が始まる新型コロナウイルスのワクチン。感染を収束させる最終手段として期待がかけられ、一足先に接種が始まったアメリカでは、日本人医師もうった人が増えている。

一時、感染爆発とも言うべき危機に陥ったニューヨークで自身も感染し、新型コロナの患者を診ている医師の小畑礼一郎さん(36)も、ワクチンをうった。

感染した経験があってもワクチンをうつべきなのだろうか? BuzzFeed Japan Medicalは小畑さんに体験談を聞いた。

コロナ患者を診ているが......決め手となる治療法はなし

ーーどのような仕事をしているのですか?

現在、ニューヨーク市のクイーンズ地区にあるエルムハースト病院というところで働いています。一般市民が通うような病院で、全体は500床、従来はICU(集中治療室)は8床という規模の小さな病院です。

昨年末に始まった第3波で増えてきたコロナ患者に対応するために、現在は16床に倍増したICUと心臓の重症患者を診るユニットの一部をコロナ対応にし、20床ぐらいに拡張しています。

私自身は呼吸器の集中治療を担当するので、コロナの重症患者の対応もしますし、ぜんそくやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺がんの患者さんも診ています。

ーー新型コロナの患者さんを診ていて、他の感染症治療と違うなと感じるところは何ですか?

治療法がないということですね。僕らがやっていることは患者さんの力をサポートするような治療だけです。生存や回復に少し効果のある抗ウイルス薬や ステロイド系抗炎症薬は使いますが、残念ながら手応えを感じるほどの治療ではありません。

昨年の3月、4月にニューヨークは大変な数の患者を経験していますが、私は少し落ち着いた7月から今の病院で働き始めました。コロナの患者は1人いるかどうかという状況で数ヶ月が過ぎました。

その後、全米にコロナが拡大し、他州で感染してニューヨークに戻った後に発症する人が増えてきました。ある高齢の女性患者さんは、他の州の家族を訪問後にこちらに戻って発症し、重症になってしまいました。「もし他州を訪れていなかったら、入院するようなことにはなかっただろうに」と悲しくなったことを覚えています。

ーー他の呼吸器感染症と違うなと思う特徴は何ですか?

一般的な肺炎はECMO(体外式膜型人工肺)を使うまで重症化することは稀です。しかし、新型コロナの肺炎は毎日、1人、2人重症者が増え、かつなかなか治らない。治療者も不安なのですが、次の重症者も来ているのである程度病状が落ち着いた段階でICUから出さざるを得ません。

するとまた悪化してその患者が戻ってくるということの繰り返しです。

どんどんそういう重症者が溜まっていき、患者の一部は他の臓器も悪くなり、命を落とす。そうしないと病床が空かないことがほとんどです。

春菊の味がわからない? 感染して自宅隔離へ

ーーご自身も感染されたのですね。いつ頃、どのように気づいたのですか?

感染ルートはわからないのですが、ニューヨークが第1波の流行で患者が爆発的に増えた3月末から、4月にかけての時でした。当時は前に勤めていた病院で、内科の研修医をしていました。2週間の病棟管理研修が終わった頃です。病棟にも新型コロナウイルスの患者かもしれない人が1人、2人出始めた頃です。

外来の研修が始まって数日後、突然、味覚を感じなくなったのです。

ーー何を食べて気づいたのですか?

春菊です。

ーー春菊がアメリカにもあるのですか?

ニューヨークなので日系のスーパーで春菊のおひたしを買ったと思います。春菊は味も香りも強いからその心構えで食べますね。それなのに味がしない。自分としては「あれ?」と大ショックです。

ーーおかしいと思って、どうしたのですか?

翌日からは筋肉痛のような体の痛みも出始めて、だるさも加わり、これはほぼ間違いないだろうと思いました。まず休まなければいけないと思い、上司に電話をして、「こういう症状があって、おそらくコロナで間違いないと思う」と伝えました。

既にそういう人に対しては2週間の隔離が決まっていたので、すぐ休むように指示されました。

ーーその後、どんな症状が?

幸い重症化はしなかったのですが、数日後には、深呼吸をすると拡がった肺の周りの部分が張るような感覚がありました。「ああ、これが息苦しいという症状だな」と思いました。背中の痛みも出てきました。

前年にインフルエンザにかかった時も、寝ていると背中が痛くて起きてしまうような状態になったのですが、それに似た筋肉が張るような痛みを感じました。「新型コロナの症状はこういうことなんだな」と自分で自分を観察していました。

検査は受けない 症状で判断

上司からは電話での診療を受けるように言われていました。勤めている病院の医療スタッフ向けの保健室のようなものがあり、そこから電話を受けました。そこで状態はどうかチェックが入ったのが発症から10日目ぐらいだったと思います。

まだすっきりしない感触を正直に伝えたところ、もう少し様子をみなさいと言われ、結局、ちょうど2週間休みました。その後、仕事に復帰しました。

ーーPCR検査を受けなかったのですか?

インフルエンザと同じで、症状が典型的な時にわざわざPCR検査はしません。職場に検査結果を提出する義務があるなら別ですが、症状が明らかな場合には検査をせずに、自宅で療養待機、というのが当時の一般的なスタンスでした。

ーーニューヨークはいつでもどこでも誰でも検査が受けられるようになっているということが日本で盛んに報じられていましたが、そうではなかったのですか?

その後にそうなりました。まだそこまでいっていない時期でした。当時は検査も限られていて、入院が必要な人に絞られていました。

ーー先生と濃厚接触した人の調査などはしなかったのですか?

今もそれはやっていないと思います。

ーー病院内で先生が接した患者や医療者を調べることはあったのですか?

そんな状況ではなかったです。どんどん患者が増え、病床も増やしていく時期でした。毎日、翌日はどういう勤務体系にするか、感染防御用のマスク、N95は足りているか、目の前の課題に対処するのに精一杯の時です。

「とにかく症状が出た時点で早く報告して自宅に待機してください」というのがベストな対策ということでした。

ーー体温を測ったり、パルスオキシメーター(血中に十分酸素が行き渡っているか測る医療機器。新型コロナでは大幅に数値が下がる)で測ったりはしていたのですか?

体温計は持っていないので測っていないし、パルスオキシメーターは買ったのですが、届いたのが2週間後でした(笑)。

結局、自分で症状を確認していただけですね。重症化の兆候となりますから、特に息苦しさがどう変わるかを気をつけてみていました。

ーー薬を飲んだり対症療法的なことはしたのですか?

結局、ウイルス感染なので、軽症であればインフルエンザと対処法は変わりません。水分をしっかりとって、できるだけ食べて栄養をとるという一般的な風邪の対応をしていました。

もちろん同年代でも重症化する人がいるのはわかっていたので、そういう不安はつきまとっていました。当時は一人暮らしだったのですが、コロナで間違いないとわかった時に日本の家族に「もしものことがあるかもしれない」と電話しました。

ーー院内では感染対策を気をつけていたと思うのですが、外で感染したのですかね?

診察の時はN95をしていましたし、フェイスシールドもしていましたが、誰が感染しているかわからない状態でしたからどこからうつったのかはわかりません。同僚もその時は2〜3人感染していました。

ーー後遺症はありませんでしたか?

幸い、今のところ感じていないです。

感染した経験があっても接種を決めた

ーー感染を経験したわけですが、ワクチンをうつかどうかはどう判断されましたか? 抗体が体内にできているかもしれないですよね。

抗体があったとしても、それがウイルスを防ぐのにどれぐらい有効かはわかっていません。同期の医師で昨年、抗体があるとわかった人が、その後再検査をしたら数値がゼロになっていることもありました。

抗体のあるなしはあてにならないと思っていました。再感染した時に再び上がるのかもわかっていません。今は様々な変異株が出てきていることもわかっています。ワクチンで防げるウイルスと自分の抗体で防げるウイルスが違う可能性もあると考えていました。

もちろん、抗体を持っているとしたら、うつことによって強い副反応が出る可能性もなきにしもあらずだと考えました。それでもうった方がいいだろうなという思いに傾いていました。

ーーCDC(米国疾病管理予防センター)は推奨しているのでしょうか?

抗体があるからうたなくていいとは推奨していないです。感染経験のある人がワクチンをうっても、特に問題は起きていないことも聞いていました。

何より、予防接種でこの現状をなんとか変えたいという強い気持ちがありました。

ーーどういう意味ですか?

最近ニューヨークでは、25%のレストランの室内飲食が再開したのですが、街に人がいるというのはすごいことだなと改めて感じました。街が温かくなるんですよ。

ずーーっとお店が閉まっていて、ずーーっと患者さんが止まらなくて、ずーーっといた人が亡くなってという状況が続くと、「何もいいことがない」とどんどん暗くなっていきます。

そこにワクチンが登場しました。

歴史的に考えても麻疹などがワクチンによって押さえ込まれてきたし、先人たちによってウイルスや細菌に対抗するものとして効果をあげてきました。これが現状、最高の解決策なのだろうと思います。

ワクチン接種 最初は拍手をもらう

ーーワクチンはいつ頃、接種したのですか?

12月17日が最初の接種でした。院内でうつのですが、第1陣が救急外来と集中治療室で働く65歳以上の濃厚接触のリスクと重症化のリスクの高い人です。私は救急外来や集中治療室で働く65歳未満として第2陣でした。

ファイザーが最初に手に入り、17日から接種できるらしいという情報がありましたので、じゃあ予約しておこうと12月16日の夜に予約をしたのです。

スケジュールを見たら、朝一が空いていました。みんな朝が弱いのですね。じゃあ、朝一にうとうと思って予約して行ったら、まだスタッフが慣れていなくて準備ができていなかった(笑)。

ずいぶん待ってから部屋に通された後も、ワクチンは超低温で保存されていますから、「解凍に時間がかかります」とまた20分ぐらい待たされました。その後、ようやく接種されました。

接種後に15分間、経過観察をしたのですが、当時はうった人に対して拍手をしてくれるような手厚い対応でした。すごくいい椅子に座らせてもらって、3分おきぐらいに看護師さんが「変わったことはありませんか?」と尋ねてくれる。問題なく終わりました。

2回目は1月8日でしたが、予防接種のスタッフも残念ながら慣れてきて、普通の対応になりました。1回目は何も感じなかったのですが、2回目は朝うって、夕方に腕がすごく痛くなりましたね。2回とも利き腕ではない左にうちました。

手元にあった痛み止めを飲んだら効いて、翌朝には痛みも消えていました。

ーー周りの医療従事者の中で、接種に抵抗を示している人はいますか?

妊娠している人でいったん接種を見送った人はいます。その人も最近うちました。

日米の違いは?

ーー日本ではまだ不安を煽る報道が多いのですが、接種を全面的に推しているアメリカ社会やアメリカの報道と比べ、どう見ていますか?

麻疹についても日本はワクチン接種で一応、撲滅が宣言されていますが、海外からの持ち込みで小規模な発生は続いています。日本では海外から留学生や労働者が入ってくる時に、どんなワクチンをうってきたか全く問いません。

アメリカに留学する時、働く時はこれまでどのワクチンをうってきたか提出する必要があり、要件に掲げられている予防接種を追加で受けることもあります。

アメリカは元々移民国家ですから、国外からきた人が居住する時は、入り口でそういう確認をして、必要なワクチンを受けてもらう。医療や介護に関わる仕事をしている人も、結核や肝炎に感染する可能性のある人はワクチンを接種する。検査も定期的に受ける。それが要件になっています。

社会防衛としてアメリカは入り口でワクチン接種歴について確認し、予防接種することが徹底されています。

その延長で、アメリカは今回の新型コロナワクチンについても、社会としてワクチンを接種しましょうと熱心に推奨しているのですね。

日本は元々そういうことをしていませんし、今回のワクチンについて厚労省はどういう態度で臨むのか見ていると、CDCほどの働きかけはまだしていないのではないでしょうか。

日米の違いを比較するのはワクチンに対する考え方のベースが違うので難しいのですね。

ーー日米ともワクチン接種は努力義務と言いつつ、アメリカは反強制的なところがありますね。

そうですね。

ーー報道の違いについてはどう見ていますか?

日本はうたないことに対するネガティブな報道があってもいいのになとは思いますね。なぜそれはあまりないのでしょう。メディアは客観的な情報を伝えるというよりは、ある程度、方向性を意識した報道をしますね。

報道の方向性は、メディアごとにワクチンに対してどういう意識を持っているのかによるのでしょう。アメリカはCDCがこのワクチンをうつという方針を示せば、自分たちの方針としても推奨するメディアがほとんどです。

先に接種した僕らのような医療従事者に対して、CDCはできれば接種を推奨してほしいとして、SNSのような媒体で接種の感想を伝えてくれませんかと呼びかけているのです。面白い呼びかけだなと思いました。

日本の人へのメッセージ

ーー患者さんの中でもワクチンに抵抗感を持つ人はいますか?

確かにいますが、それと同時に「自分は持病があって重症化するリスクが高いから、早くワクチンをうちたい」という相談の方が多いです。

昨年7月からアメリカに来た友人の医師がいるのですが、「日本は新型コロナを身近に感じる機会が少なかった」と言っていました。アメリカでは感染を身近なこととして感じる人が多いです。その意識の違いはあると思います。

ーー接種が日本でも始まります。一般の人へのメッセージをお願いします。

普段、かかりつけのお医者さんを持ちましょうと言われていると思いますが、その先生と、1年に1度でもいいからワクチンはどういう役割を果たしているのかを話す機会を作っていただきたいです。

そうしたら、ワクチンで防げる病気があるという方向に気持ちが向かっていくのではないかと思います。

アメリカでの診療を経験していて、自分の患者さんにも必ず話しているのがワクチンの役割なんです。そういう機会を作ることで、患者さんがワクチンに対する考え方が変えることも経験しています。

例えば、最近家族が酷い肺炎になった人が、肺炎球菌のワクチンをうつ気になって、「今日うちたいのだけど」と相談してくれることもあります。

人それぞれで自分の考え方が変わるタイミングは違いますし、違っていていいと思います。そのタイミングのために、かかりつけ医は普段からワクチンについて話す機会を設けて、少しでも自分の身近な問題として捉えてもらうことが必要だと思います。

その中で、少しずつ皆さんの健康管理の中にワクチンが含まれていけばと願います。

僕はうつ選択をしましたが、うたない考えもご自身の選択として尊重したいです。ただそのことで自分に訪れるリスクは知っておいた方がいい。自分で判断する前にかかりつけの先生と相談していただきたいなと思います。

※小畑さんは医師らが新型コロナウイルスや新型コロナワクチンに関する正確な情報を届けるプロジェクト「こびナビ」のサイトでも体験談を紹介している。

【小畑礼一郎(おばた・れいいちろう)】エルムハースト病院呼吸器集中治療内科フェロー

2011年、慶應義塾大学医学部卒業。都立多摩総合医療センターで初期研修、在沖縄米国海軍病院日本人インターン、東京医科大学救命救急センター後期研修をそれぞれ修了後、渡米。マウントサイナイベスイスラエル内科研修を修了し、現在エルムハースト病院で呼吸器集中治療の研修中。

日本救急医学会救急科専門医。米国内科専門医。