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じわじわ増える感染者、埋まり始めた病床、施設クラスター 新型コロナ第7波の現状を分析する

新型コロナウイルスの新規感染者数が全国的に増えています。今後の見通しはどうなのでしょうか? 西浦博さんに現状を分析してもらいました。

新型コロナウイルスの新規感染者数が全国的に増えています。

なぜこれほど増え始めたのか。今後の見通しはどうか。そして今、打つべき手は?

BuzzFeed Japan Medicalは、京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんに聞きました。

※インタビューは7月8日夕方に行い、その時点の情報に基づいている。

オミクロンの亜系統「BA.5」が水際対策の緩和で急増

——急激に増えてきましたが、なぜなのでしょう?

最近までは、オミクロンの亜系統「BA.2」の流行が下火になり、免疫を持った人が増えていたので、個人ができる感染対策を行う中でゆっくり下がっていました。

しかし、海外でオミクロンの派生型が出てくると、最終的に侵入を防ぐことはできません。

特に6月1日以降は、水際対策が大幅に緩和されました。

新しい水際対策の区分で、一番規制が緩い青区分に分類される国と地域が98あるのですが、総数で1日2万人ぐらいの入国を許容し、基本的に青区分からの渡航者は素通りで入れるようになりました。多くの外国から来た人が感染した状態でも入れるようになったのです。

こちらの図は北海道大学の伊藤公人先生と東京都の公表データを分析したグラフですが、「BA.2.12.1」というニューヨークで盛んに流行を起こした亜系統が東京では先に現れていました。

ところが6月に入ってから、急に「BA.5」が増えました。人の移動の影響があると考えられます。BA.5はこれまで流行していたBA.2の1.27倍の実効再生産数(※)です。その分BA.2.12.1よりも速く増えています。

1人あたりの二次感染者数の平均値。1以上だと感染が拡大した状態を反映している。

また、BA.2に対する免疫はある程度できていたのですが、BA.5はこれまで出回ってきたBA.1やBA.2というオミクロン株に感染して得られた免疫が部分的にしか効かない傾向にあるので、流行の様相が一気に変わりました。

——日本ではBA.4はあまり目立ちませんね。

BA.5と一緒に増えています。でも顕著に増えたのがBA.5なのでBA.4が目立たないということです。

——伝播性の強い方が広がっていきそうなのに、BA.4の方が広がりが遅いのですね。

そうなんですよね。南アフリカでもBA.4とBA.5は一緒に増えていて、おそらく2者の伝播性は近いのだと思われます。遺伝子変異のあるところが似ているので、BA.4とBA.5はグループ化して扱う研究者もいます。

流行は急拡大しているわけですが、こういう時こそ落ち着いて、データ分析を行って科学的な事実を十分に理解することが求められます。

次は直近までに私が自身による分析を含めて理解したリスク評価と見通しについてご紹介しますね。

重症度はまだわからない データが足りない

——重症度はそれほどこれまでと変わらないのですよね。

これからBA.5が増えることはほぼ確実視されているのですが、どれぐらい重症度がBA.1やBA.2と違うかというデータはすごく限られています。定石的には派生型の一部ですから、「大きくは異ならない」のだと思いますが、その確証に至るデータがまだありません。

だから、これから感染者数が増える中でどれだけ死亡するのか、入院の負荷がどれぐらいになるのかを推し量るのがすごく難しいのです。

これまではオミクロン株の流行があっても、厳しめの水際対策をやっている中でしたので、入ってくるまでの時間稼ぎができました。すると、海外で先にオミクロン株の流行が起こり、少なくとも他の国の流行情報を横目で見ながら、時間差を得たうえで準備することができていたのです。

特に、英国の疫学研究はすごく精密なので、デルタ株が流行したらデルタの特性を、オミクロン株が流行したらオミクロンの特性を詳細に発表してくれました。日本はその情報を読み込んで、何をしなければいけないのかをある程度流行よりも前に把握し、論理的に整理しつつ対応できていました。

しかし、今回は日本より先行して流行しているのは、主に南アフリカとポルトガルだけです。重症度では二つの国は違う様相を見せています。

南アフリカでは感染者数はもとより、入院数や死亡者数について、痛くも痒くもなかったぐらいの報告です。他方、ポルトガルはBA.5の被害規模はBA.1の流行を超えるのではないかと言われています。

関係する世界中の疫学研究者がその二つの国の違いを悩みながら見ています。

——ポルトガル以外でも、ヨーロッパの国々で先行して流行していると思っていました。そのデータはないのですか?

欧州の国々では今、対策を緩和しています。そうすることによって感染者数も増えるわけですから、結果的にはきめ細やかなデータ収集ができなくなることに繋がりました。

一人ひとりの感染者を丁寧に見て、分析することができなくなってきたのです。BA.5に関する英国専門家組織の報告スピードや情報の細かさもこれまでと比べると結構、緩かったり雑だったりします。

——そうすると今までのように海外の国のデータを参考に戦うことができづらくなっているのですね。

そうです。今回の流行で言うと、海外の情報が十分になく、悪く言うならば行き当たりばったりの状態に近い形で暗中を手探りしながら進まざるを得ません。

海外だけではありません。

今回のこの変異株の割合に関するグラフも東京都のモニタリング会議がやっとデータを公表してくれたので分析できました。デルタ株の流行の頃までは国が主導して一定割合のウイルスに関する変異株の調査を行なって発生状況を調べていたのですが、オミクロン株の流行後半からはそれがなくなりました。

変異ウイルスは流行状況や対策を大きく左右しつつ増えるのですが、それなのに、その前兆どころか、今足元がどうなっているかも、なかなか自治体が公表してくれない状況になってしまいました。

国立感染症研究所が検査会社からもらった情報を分析して厚労省のアドバイザリーボードに変異株の分析結果を出してくれていますが、従来からモニタリングの優等生であった東京都でさえ、今回やっと公表してくれたというのが実態です。

そのようなモニタリング体制の一番悪いところは、足元で増え始めたところで調べてみて、そこで「あ」と驚いて対応が始まるというところです。

内部の方はわかっていたかも知れませんが、対策・対応に追われるだろう周囲も、過渡期になってやっと気づいている。これでは観察している意味が半減どころではありません。

全国的に増加し、加速傾向

——全国の流行状況ですが、ほぼ全ての都道府県で実効再生産数が1を超えていて、全国的に増えているということですね。

ここまで統一して1を上回るのは久しぶりです。オミクロンが侵入してきた時以来だと思います。

このグラフでは東京は1.4となっていますが、6月25日時点で既にこの状態です。7月に入った今はもう少し増えている可能性が高いです。加速化しています。

沖縄のように流行がいったん下火になったところも、また上がり始めています。島根県のように、かつては流行規模が必ずしも大きくなかったところで極めてスピード速く流行が拡大していることは心配ですね。

こちらは大阪ですが、東京より少し遅い増え方です。しかし1週後に同じデータを見ると、東京相当に増加が加速化しているだろうと思われます。

色々な自治体がありますが、これから全国的に増えるのは間違いないと思います。

——7波は始まっていると考えていいのですか?

もちろんです。これは新しい波と考えて対策を考えなければいけません。

医療施設、介護施設での集団感染も

——医療施設や介護施設でのクラスター(集団感染)も報告されるようになっているそうですね。確かにSNSでもそのような声がちらほら聞こえてきています。

一気に来ています。しかも、今まで頑張っていたコロナ受け入れ病院でクラスターが発生していて、かなり大規模なものになって困っています、との声が届いています。

京都大学に赴任して以降、次第に近隣自治体から相談を受けることも増えたのですが、直接聞く情報を検討しても、医療と介護の領域で大規模な施設クラスターが出始めています。

そして、ICD(感染管理医師)とかICN(感染管理看護師)と言われるような、院内の感染対策の専門家がとうとう感染したという事例が出てきました。

この人たちはプロですので、普段から感染予防策はかなり適切に実施しているのですが、それでも感染が起こるのは、免疫の低下やエアロゾル感染の頻度、生活の中でのウイルスへの暴露機会の増大が影響しているのかと疑っています。

30〜60代で増えている

また、年齢層別に見てみると、黄緑が30代、黄色が40〜60代です。ここが中心となって増えているのがわかります。

それに引き続いて直近では20代の増加が顕著になってきました。さらに飛び火して、高齢者がじわじわついてきています。

——高齢者はワクチンで守られているのですか?それとも行動が活発ではないと言うことですか?

高齢者はこれまでも流行が始まった前半部での感染は比較的に少なくて、後から増えていくパターンでした。

社会活動の活発な人から感染は起こり、社会の中で他の年代を含めて全体に波及しはじめた上で社会全体のリスクが高まっていくと、流行中盤以降に多数の高齢者に及びはじめる、というパターンですね。少しのタイムラグがあるのです。

——20代よりも中年層が多いのはなぜでしょう?

おそらく中年層の中で免疫がない人が感染しているのだと思います。特に、3回目接種率が低いのがこの年齢群であり、「2回目接種による免疫だけだとBA.5に対する発病抑制効果はかなり厳しい」ことがわかってきました。

もちろん若年層でもこれから増えると思いますし、小中高校でもクラスターが出はじめていると聞いています。

全年齢に広がりつつあるのですが、特定の年齢群で増えているのは、社会活動プラス免疫の影響があるのではないかなと思います。

2回目接種の免疫だけで発病阻止ができないという対象者が20〜50歳台にかなりいるため、オミクロン株BA.1の時よりも感染者数が大規模になるリスクが十分にあります。

そこで心配されるのは社会機能の維持ですね。医療機関でクラスターが連発して受け入れるところがなくなることはもとより、交通や小売などの社会インフラが一部機能不全に陥ることもあり得ることを視野にいれて対応を考える必要があります。

重症度を見る病床使用率が今後の決め手

もう一つ大事なのは、病床の埋まり具合です。

こちらは東京都のコロナ用の確保病床の使用率を、東京都の基準と国の基準で見たグラフです。国の基準の方がより軽症者も含む数値なのですが、やはり6月の後半で大きく跳ね上がっています。

しかし、重症病床での治療が必要になりそうな高齢者がまだそれほど感染していないので、より重症者だけを捉える東京都の基準で厳しく見ると、今は上がり始めたところ、という状態です。

今後、流行規模があまりにも大きくなると、この数値も厳しくなります。そうなるかどうかが、これからの焦点です。

現状ではBA.5感染による重症度は予防接種歴別ではよく分かっていないというのが実情で、はっきりと予測することができなくて、極めて不気味な状態にあります。

予防接種をした人たちの中でどれぐらいが感染するかによって、流行の大きさが決まってきます。そのトータルのサイズによって重症病床の使用度合いが決まっていきます。

(続く)

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。