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西浦博さんが断言「間違いなくこれまでで一番厳しい状態」 デルタ株の強い感染性で加速化する感染拡大

東京で新規感染者数が過去最多を記録しましたが、理論疫学者の西浦博さんは「さらに感染拡大は加速する可能性がある」と厳しい予測に頭を抱えます。最新のデータ分析を伝えます。

五輪開催中の東京は新規感染者数が過去最多の2848人となり、感染拡大が止まらない。

首都圏の感染者の増加も著しく、神奈川、埼玉、千葉は近く緊急事態宣言を政府に要請する見込みだ。

なぜこれほど増えているのか。どうしたら止められるのか。

BuzzFeed Japan Medicalは、京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんに再び独占インタビューをし、最新のデータ分析を教えてもらった。

※インタビューは7月28日にZoomで行い、その時の情報に基づいている。

「間違いなく過去一番厳しい状態」

ーー東京の新規感染者数も過去最多を記録し、感染拡大に歯止めがかかりません。現状をどう分析していますか?

この1年半の新型コロナの流行の中で、間違いなく一番厳しい状態だと思っています。

そのメインの理由がデルタ株です。感染性が高いことが確実なのはわかっていたのですが、それが目に見えて影響し始めているのが今の状況です。

東京の実効再生産数(※)は直近1週間で平均をとっても、1.41になっています。今までじわじわ増えているときは、1.1や1.2でしたが、1.4や1.5を超えるあたりからは急激な流行曲線になっています。

※1人当たりの二次感染者数。1を超えると感染者は増加に転じる。

そして、実効再生産数は時が経つにつれ上がっています。

東京都だけでなく、埼玉でも同じ傾向が見られます。直近1週間の平均をとると、実効再生産数は1.55です。

病院が悲鳴をあげ始めています。2週間ぐらい緊急事態宣言下にありますが、効果も芳しくなく、なかなか収まらない数値です。

今の逼迫状態は早く対応しないと、5日ごとに1.5をかけていくぐらいのスピードで悪化しています。

これまで首都圏ではこんなことはなかったのですが、それが起きています。これが起きるだろうと予測はしていたのですが、残念ながら起こってほしくないことが起きているのが現状です。

感染拡大のスピードは加速している

他のデータも見てみましょう。

今週と先週の同曜日における報告日別の新規感染者数を比べた数値の推移を見たグラフです。

ニュース番組だと、1.5を150%と表したりしていますが、これを見ていただいても、東京や埼玉は1を超えているだけでなく、先週今週比が時刻とともに直線的に上がっていっています。

単に1を超えて流行が起ころうとしているだけでなく、感染拡大が加速化している状況です。

加速化している要因は、通常は目に見えることがほとんどです。

年末年始に急増した時もほんの一時だけ加速したのですが、みなさんが帰省などで移動して、呼びかけの声も届かずに年末年始の飲み会も開かれたことなどが要因として説明できました。

ところが今回は、加速化しているのに、これを説明する人為的な要因は見当たりません。人の流れもそれほど変わっていないし、移動に関しても4連休は最近なのでお見せしたデータにはまだ反映されていません。

そこから考えると、置き換えが次第に完了しつつあるデルタ株の感染性の強さによって今の状態が起きていると考えられます。

アルファ株の置き換えの完了時にも「今までと疫学的な状況が明確に変わったな」と肌で感じました。あの時以降、緊急事態宣言のような強い措置を打たないと、感染者数が落ちなくなりましたね。

それがさらにもう一段レベルアップしたのがデルタ株です。感染性が約1.5倍アルファ株から上がって、より制御が難しくなったのだなと、データを見ながら肌で感じているところです。

デルタ株の分だけ感染性が上がることを加味した予測モデル

ーーそうなると人の努力でこの状況を変えられるのだろうかと心配になります。ただ、人と人とが接触しなければ感染は起こらないですね。

接触しなければ感染しないというレベルまで減らせるかどうか、今それをとても心配しているところです。

この図を見ていただきたいのですが、これは緊急事態宣言が今の状況で継続されたとして、この先に感染者を減らせるかどうかを判断する分析となります。

夜間の繁華街の人出である滞留人口のデータと、1日の平均気温の2つの因子だけを利用して、実効再生産数を予測した分析です。

その2つのデータを入れると、実効再生産数を意外にきれいに捉えることができることが知られています。

左側のグラフは、青い線が患者数から推定した実効再生産数の観察データで、黄色の線が滞留人口と気温を用いた予測データです。グラフの白い部分では予測データが観察データとほとんど一致しています。

2月から3月にかけては予測データのほうが過大評価しています。まだアルファ株が行き渡っていなかったからです。アルファ株に置き換わってから、予測データとほぼ一致するようになりました。

色のついた部分は、5月の後半からデルタ株の置き換わりが始まった時期です。今度は黄色の線が青よりも下になっています。これは、夜間の滞留人口や気温だけでは予測できない実効再生産数の上昇要因があったことを示しています。デルタ株の感染性の高さが影響しています。

右のグラフはデルタ株が少しずつ他を置き換えた影響を、左のグラフに反映したものです。すると、ほとんど観察データと予測データは一致します。

つまりデルタ株分だけウイルスの感染性が上がったことを加味して、この後、どうなるかを予測するモデルを作ったわけです。それを使って検討してみましょう。

第4波並みに夜間の人の流れを抑えられない場合、上昇傾向は止まらない

ーーこの予測モデルを使って、デルタ株に置き換わりつつある今、どのような未来が予測できますか?

次に見ていただきたいのですが、夜間の滞留人口が今後どうなるかというデータに相当する、予測シナリオです。

1番下の黒い線が、第4波の時にこれぐらい夜間の繁華街の人口が減ったことを示す曲線です。午後10時〜午前0時の都内の繁華街の滞留人口です。

今回、東京五輪が開催されていて、要請の声がなかなか届いていない課題があります。特に20歳代に声が届いていないことを一部データから把握しています。

それらの要因もあって、夜間の繁華街の人口の相対的な減少は、第4波の時よりもかなり少なくなると考えられます。

それぞれの曲線は、第4波と比べて滞留人口の減少が80%だったら、60%だったら、といういくつかのシナリオを表しています。

赤の点は、現時点までに観察された実際のデータです。

東京都医学総合研究所の西田淳志先生の分析では、夜間の繁華街の人口は、相対的に15〜20%ぐらい、第4波と比べると30~40%くらいしか減ってないのではないかと推定されています。

それら滞留人口のシナリオデータを、先ほど示したデルタ株の感染性の高さを加味して作った予測モデルに当てはめたのが以下のグラフです。

実効再生産数が1より大きいと感染者数の上昇が止まりませんが、先ほどの夜間人口の減少を予測するシナリオのデータを入れたら、第4波相当まで減ったシナリオだけ、一瞬だけ1を下回ります。

しかし、それより減少率が少ないシナリオでは1を下回ることはありません。これはかなり大きな問題です。緊急事態宣言下にもかかわらず、1を上回る状態がほとんどのシナリオで続いてしまうのです。

現状を放置すれば、上昇は止まらない

これをさらに、報告日別の感染者数のモデルに戻すと、感染者の上昇が続くことがわかります。

ここで考えなければならない極めて重要な議論は、緊急事態宣言は「最後の一手」だということです。今、最後の一手を既に打っている状態で、このまま放置すれば新規感染者数は減らない可能性が高い。

このまま様子を見ていると、デルタ株によって上がった感染性と、要請の声が届かずに夜間の繁華街の人口が減らない要因が重なった結果、感染者はずっと上昇を続ける可能性がある。

これが今、私たちが直面している問題です。

ーー菅首相が昨日(27日)にも「人流が減っている」ことを理由に、オリンピック中止の選択肢は「ない」と明言しました。これについてはどう評価していますか?

人の流れは微減しています。どれだけ減れば十分なのかという評価ができないといけませんが、それに対する情報はお持ちでないものと思います。

第4波と比べて30~40%程度の減少しか見られていないということは、デルタ株の流行からすると致命的な状態です。

この程度の減少で「人流が減っているから大丈夫」と考えているのだとしたら、その科学的な判断を疑わなければいけません。

さらに感染拡大が加速化する恐れも

ーー最後の一手を打っても感染拡大が止められないとは絶望的ですね。

さらに言えば、感染拡大がまだもう少しだけ加速化する可能性もあります。今の時点で加速化が終わるかと言えばそういうわけではない。

これは北海道大学の伊藤公人先生と一緒に続けている変異株の推移の予測です。

これは東京都が発表しているスクリーニングデータを分析しています。デルタ株がいつ置き換わるかを見ているのですが、8月の中盤以降にほとんど置き換わりが完成します。

全面的にデルタ株に置き換わる過程で、疫学的には何が起きるでしょうか?

今後もまだまだデルタ株に置き換わることで感染性が上がることを、私たちは次のグラフで示してきました。

これは2020年12月1日の時点での従来株の感染性を1とした時に、相対的に今がどれぐらいかを示すグラフです。

7月28日現在は、まだ上がっている途中です。極端に上がるのはあと1〜2週間程度だと思いますが、今の加速化の程度はまだ少し悪化する可能性があるということです。

そういうこともあって、私たちがデルタ株の予測を出した4週前のアドバイザリーボードの時から「ここから急増が起こる」という話を予告してきました。残念ながら、その通りの過程を経てきました。

デルタ株が占める割合は、オリンピックの閉会式あたりで東京で8割ぐらいになると思われます。その頃までは感染性は上がり続ける可能性があるということです。

「急増」という表現がよく使われますが、予測モデルを考えている自分たちからすると、ある程度、今までのシナリオは捉えることができています。

一方で、鈍る「リスク回避行動」

これまでの流行では、皆さんが「コロナは怖い」「今、流行が危ないから飲みにいくのは控えよう」のようにリスクを認識することによる回避行動をとっていました。

おそらく今回のデルタ株の流行でもその回避行動はあると思いますが、それが全人口で十分取られるのか、また、その危険回避だけでここまで感染性が高くなったデルタ株の流行が止められるのか、という二つの不安があります。

本当に胃がえぐられるような思いです。

ーー前回の緊急事態宣言ほど皆が要請を聞いてくれていないことは、データでも現れていますか?

緊急事態宣言の効果は、今週までに本当は観察データで見て取れる予定でした。対策を打ってからその効果が出るまで2週近くかかります。7月12日に宣言が出て、ちょうど今ごろ患者数の実効再生産数が減っているかを見て判断する予定でした。

しかし今回は残念ながら、オリンピックで人為的に4連休があったり、台風も来たり、評価したい時に大きな変動がありました。

すぐに評価できなくなったので、夜間の滞留人口などを使って、先回りしてデルタ株の影響を加味した予測を試みています。その結果では、現在の緊急事態宣言のまま経過を見ているだけでは新規感染は減らない可能性が高いと考えられました。

また、PCR検査の陽性率などから、いくつか先回りして新規患者数を予測する指標がこれまで構築されてきたのですが、陽性率はぐんぐん上がるばかりです。東京では15.7%です(2021年7月26日 の数値)。

陽性率は、濃厚接触者が多いと検査を待つ人が自宅待機をして溜まっていくことで上がっていきます。まだまだこれから陽性者が出ることを反映しているので、今後も患者数はしばらく上がるのだろうと思います。

デルタ株の感染性「風しん程度」 屋内で一定時間、一緒に過ごすのがリスク

ーーデルタ株への置き換わりで、今まで以上に対策を強化しなければならないのに、むしろ緩んでいることでこの感染者増加があるのだと理解しました。デルタ株の感染性の強さをわかりやすく伝えるにはどう説明したらいいでしょうか?「すれ違っただけで感染する」とまで噂されていますが。

確かに従来株の1.9倍とかアルファ株の1.5倍、というだけでは伝わりにくいと思います。

まず大事なのは、「ちょっとすれ違っただけで」とか、「オープンエアーで伝播する」とかで頻繁に2次感染が起こるのかどうかは、まだ明言できないということです。

僕も証拠を集めていますが、感染者が急増している流行期はざわざわするものです。「ちょっとすれ違ったぐらいしか覚えがない」というような事例ほど報告されやすく、集められやすくなるのです。そういう情報は報告バイアスがかかったデータになりますから、慎重に見なければならないと思います。

基本的にはアルファ株もそうでしたが、伝播している場を見ていると、屋内が中心であることはまだ変わりません。飛沫の飛びやすいところで接触することがリスクであることもおそらく変わらない。でも、その程度が上がっています。

デルタ株の再生産数は従来株の少なくとも2倍で、一人当たりの感染者が生み出す2次感染者数の平均値は少なくとも5〜6ぐらいだろうと考えています。5~6というのは、他のウイルス感染症で言えば「風しん程度」です。

臨床現場の先生たちと会議で話していて、「風しんだとマイクロ飛沫の伝播が起こっていますよね」と言われたことがあります。

同じ部屋の中、近距離で向かい合っているだけではなく、同じ部屋の少し離れた場所にいて、換気があまりよくないところだと伝播が起こってしまうことがある、という印象ですね。これまでの株では、相当長時間でなければそんな伝播の仕方はしませんでした。

ーー空気感染とまでは言わないけれど、換気のよくない居酒屋などで少し離れたところにいても感染する可能性があるということですね。

十分にあるだろうと考えています。あくまで暫定的な見解ですので、今後、感染性が高くなることによって2次感染パターンがどう変わったのかが観察データに基づいてより明確にわかると思います。

クラスターのデータもその考えを裏付けています。医療機関や高齢者施設内のクラスター発生は予防接種によって減りましたが、最近までに多く報告されているのは職場のクラスターです。オフィスもそうですし、工場のような作業場でも起きています。

それから学校でも増えています。今は学校が夏休みに入りましたが、同じ屋内の空間を一定時間共有する場面での伝播がこれまでと比べると目立っています。

そういう環境で伝播が起きるデルタ株の感染メカニズムを今後より明らかにしていかなければなりません。

(続く)

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。

趣味はジョギング。主な関心事はダイエット。