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オミクロンによる第6波に突入 感染症専門医が勧めるのは高齢者と子どものワクチン接種

新たな変異ウイルス「オミクロン」の感染力の強さもあり、これまでにないスピードで感染が広がっています。健康被害や医療逼迫を防ぐために、私たちは今、何ができるのか。感染症専門医の忽那賢志さんに聞きました。

全国で新型コロナウイルスの感染者が3000人を超え、とうとう始まった第6波。

新たな変異ウイルス「オミクロン」の感染力の強さもあり、これまでにないスピードで感染が広がっている。

健康被害や医療逼迫を防ぐために、私たちは今、どんな備えができるのか。

BuzzFeed Japan Medicalは、大阪大学医学部感染制御医学講座教授の忽那賢志さんに聞いた。

※インタビューは1月6日に行い、その時の情報に基づいている。

重症者を減らすことはできるかもしれないが...もう防げない爆発的増加

ーー第6波に突入したと考えてもよろしいですか?

少なくとも入口ではありますよね。これから爆発的に増えるのかなと思います。

ーーここまで来たら、回避する術はなさそうですか?

規模を小さくすることはもちろんできると思いますし、重症者の数を減らすことはできると思います。

でも感染者の数そのものを抑え込むのは難しいかもしれません。重症化リスクの高い人を減らすことはブースター接種によって可能かもしれません。ただ、どんどん早いペースで接種していかないと間に合わないでしょう。

ーーここまで急速に増え始めたのは、年末から人の接触が増え始めたからでしょうか?オミクロンの感染力の強さの影響でしょうか?

両方なのだと思います。忘年会などの人の集まりも多かったでしょうし、去年はほとんど帰省した人はいなかったと思いますが、今年は年末年始に帰省した人が多かったですね。

帰省そのもので感染が増えるというより、帰省先で会食などリスクのある行動をとった人もいるでしょう。実家でマスクをつけて過ごすのもなかなか難しいと思いますから、その中で広がったということは多少なりともあると思います。

ーーオミクロンの影響は日々の診察で感じ始めていますか?

大阪大学では重症例しか診ていないので、オミクロンに感染した人をまだ診ていません。実はオミクロンが周りで増えている感触は実はあまりないのですが、大阪市内の病院では増えていると聞いています。

高齢者の重症化を防げ 年末年始に高齢者施設でブースター接種

ーー高齢者への波及を恐れて、年末年始の休み返上で高齢者施設に有志の医療者でブースター接種をしに回っていましたね。オミクロンでも高齢者は感染すると重症化する確率が高くなるからですか?

そうです。オミクロンは重症化しにくいといっても、若い人よりも高齢者の方が重症化しやすいのはこれまでと変わりないです。

また、高齢者は2回目の接種完了から時間が経っている人が多いので、感染予防効果はかなり下がっていますし、重症化予防効果も下がってきていることがデータで出ています。

今後、起こり得るのは高齢者クラスターです。その中で重症化してしまう人が出てくると思われるので、特に重症化リスクの高い高齢者施設でブースター接種をするのが今一番重要な対策だと考えます。

ーー何日間で何人ぐらい接種できたのですか?

12月29日から1月3日までの6日間で20施設回って、700人に接種しました。参加した医療者は48人です。

オミクロン拡大に備えるため、大阪府、その他自治体の多大なるご支援をいただき、年末年始に高齢者施設を訪問しブースター接種しまくれることになりました。 医師、看護師、薬剤師、事務職の方でご協力いただける方を大募集しております!(特に医師以外が足りていません!) https://t.co/JneFA0ydlU

Twitter: @kutsunasatoshi

年末年始の高齢者施設でのブースター接種への協力の呼びかけに、48人の医療従事者が応えてくれた

ーー年末年始の休みを返上してまで皆さんが参加したのは、重症化する人が増えるのは避けたいし、もし重症化する人が増えたら医療現場も大変になるという思いからでしょうか?

ある程度、今後起きることの予想がつくからです。

12月22日に大阪府内で初のオミクロンの市中感染が出て、「今後広がっていくことは間違いないだろう」とまず思いました。次に予想できることは高齢者でクラスターが起こって、重症者が出ることです。

それを防げるのはワクチンのブースター接種しかないですし、年末年始は医療も止まります。私の場合はオミクロンも発生して実家にも帰りにくいと思ったので、それならできることをやろうかなとみんなに声をかけたのです。

2回接種の効果の薄さ 高齢者、子どもに感染が広がる恐れも

ーー沖縄や東京のデータを見ると、20代の若者を中心に感染が広がっています。しかも2回接種済みの感染者が多い。若者は接種完了から時間が経っていませんが、2回接種はオミクロンにあまり効いていないことが見えますね。

そうだと思います。国内でも接種が2回完了した人が多く感染していて、ほとんどが軽症です。感染予防効果は2回目だけだと期待できませんが、重症化予防効果は保たれています。

第5波は高齢者にまで感染は広がりませんでした。これはワクチンの効果だと思います。第4波までは若者から流行が始まって、だんだんと高齢者に広がっていくパターンが多かったので、今回もこれから高齢者に広がっていく可能性は高いです。

あとは子どもです。今までは子どもは感染しにくいと言われてきましたが、ワクチンをうっていない年齢の子どもがほとんどだと考えると、今後、子どもの感染例が増えることが起こり得ます。

ーー子どもの感染者が増えると、重症化する子どもの数も増えると考えた方がいいですね。

アメリカのデータを見ると、子どもの入院例が増えています。これはやはり感染者の母数が増えているので、いかに子どもは重症化しにくいと言われていても、一定の割合で重症者が出ているということだと思います。

子どもで感染者が爆発的に増えてしまえば、特に持病のある子どもや肥満のある子どもは重症化する事例も出てくると思います。

ーーということは、ブースター接種と共に、子ども(5〜11歳)の接種も進めた方がいいということですか?

した方がいいと思います。ただ、難しいのは、子どもは重症化するリスクは成人より低いので、個人にうつメリットは成人に比べて低い。それでも、流行を少しでも減らす意味でも、自分自身を守る意味でも、接種についてご検討いただきたいと思います。

ーーしかし、5〜11歳のワクチン接種はまだ先で、今回の流行に間に合わなそうですが、前倒しした方がいいと思いますか?

早ければ3月ぐらいから始める予定で準備が進められていますよね。これも前倒しできるならば、そうした方がいいと思います。高齢者のブースター接種も最初は2回め接種完了から8ヶ月あけるという話でしたが、半年まで短縮したのは良い判断でした。

海外では緊急事態なのでもっと間隔を短くしているところもあります。ブースター接種は半年以上開けた接種でエビデンスがありますが、それより前にうつことによるデメリットより、うつメリットの方が大きいという判断です。

海外でこれだけオミクロンが広がる状況下では、そういう政治判断があってもいいのかなと思います。

ーーついでに伺いますが、1回目、2回目ともファイザーをうった人で、3回目もファイザー をうつよりは、モデルナをうった方が効果も高いし、効果も持続するというデータが出ていますね。どのように選びべきだと思いますか?

それはオプションのようなものです。私はファイザーを3回うちましたが、大事なのは早くブースター接種をすることで、どちらの種類がいいかというのは副次的な話です。

もしモデルナが選べるならばそれもいいでしょうけれど、半量にしてのブースター接種の場合、心筋炎などの副反応のリスクはどうなるかわかっていないところもあります。

日本で今、多く確保しているのはモデルナのようですから、そういう意味でモデルナをうつ選択肢もあると思います。年末年始に高齢者施設でうったときはモデルナでした。高齢者は若い人と比較して副反応も少ないですし、心筋炎のリスクも極めて低いのでむしろモデルナの方が良いのではないかと思います。

コロナ初の飲み薬の効果は?

ーーオミクロンは肺炎になりにくそうだという動物実験の結果が出ていると先生の記事でも触れていましたね。これは朗報ですか?

基本的にはそうだと思います。ただ人と動物では重症化のしやすさが違いますし、細胞や動物を使った実験しかないので、本当にそれが人で起こり得るのかは証明されていません。

ただ、人でもそういうことが起こっている可能性はある。今のように重症化する人がこれほど少ない状況で、基礎実験によってこういうデータがあるなら、人でも同じことが起きている可能性は十分あると思います。

ーー自宅にいながら重症化を防ぐ手段として、新型コロナでは初の飲み薬「モルヌピラビル」(メルク社)も承認されました。ファイザー社の飲み薬「パクスロビド」もおそらく近く承認される見込みで200万人分を確保したと報道されています。この効果についてどう評価されていますか?

経口の抗ウイルス薬が承認されたことは大きなニュースだと思います。効果については、対象が異なるので単純には比較できませんが、モルヌピラビルはモノクローナル抗体よりも劣るかもしれません。

特に重症化リスクの高い症例で、点滴という医療行為にハードルが高くないような場合は、まだソトロビマブというモノクローナル抗体が優先されるかもしれません。

ーー自宅で飲んで重症化を防げるなら、病床の逼迫も抑えられるのではないかと期待されていますが、この効果はどうでしょうか?

はい、診断してすぐに処方でき、患者さんも自宅で内服できるということになれば、これまで以上に治療薬にアクセスできる人が増えることが期待できます。そうすると、これまで以上に重症者は減り、医療の逼迫は回避できるかもしれません。

(続く)

【忽那賢志(くつな・さとし)】大阪大学医学部感染制御医学講座教授

Yahoo!ニュースでの連載でも新型コロナウイルス感染症について数多くの記事を書いている。

2004年3月、山口大学医学部卒業。同大学医学部附属病院先進救急医療センター、市立奈良病院感染症科医長などを経て、2012年4月から 国立国際医療研究センター 国際感染症センターで勤務し、2018年1月から同。センター国際感染症対策室医長。2021年7月から大阪大学医学部感染制御学講座教授。

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」編集委員。IDATEN 日本感染症教育研究会 世話人 Kansen Journal 編集長。著書に『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z ver2』(中外医学社)、『みるトレ感染症』(共著、医学書院)、専門医が教える 新型コロナ・感染症の本当の話 (幻冬舎新書)など。