• covid19jp badge
  • medicaljp badge

学校でフェイスシールドは必要なのか? 「明らかに過剰」「障害ある子どもに配慮を」

緊急事態宣言が解除され、登校が再開し始めています。感染予防策として、顔の全面を透明な膜で覆うフェイスシールドを導入する学校が増えていますが、これは意味がある対策なのか。追加取材をすると、様々な意見があることがわかり、一筋縄ではいかないことがわかりました。

緊急事態宣言が解除されて、登校が再開し始めた。

そんな中、感染予防策として、透明なフィルムで顔全体を覆ってつばなどの飛沫が飛ぶのを防ぐフェイスシールドを児童・生徒につけさせる学校が増えている

福岡県粕屋町の小中学校では全ての児童・生徒にマスクとフェイスシールドを着用させ、大阪市の松井一郎市長は、市立小中学校の全児童・生徒と教員に、フェイスシールドを着用させる考えを明らかにしている

感染対策の最前線にいる医療者たちからは、「過剰だ」などと批判の声も相次いでいる。

その一方で、耳が聞こえづらかったり発達障害がある子どもは、口元や表情を覆ってしまうマスクではコミュニケーションを取るのが難しくなってしまう。

学校でのフェイスシールドは必要なのか、過剰なのか。何をどこまで配慮して、どう話し合うべきなのか?

BuzzFeed Japan Medicalは、医療者や障害者差別解消法に詳しい弁護士など、様々な角度から、学校のフェイスシールド問題を考えてみた。

SNSでフェイスシールド着用に批判的な声

福岡県粕屋町や大阪市で全児童・生徒にフェイスシールドを着用させるというニュースが流れると、SNSでは医師たちから、批判の声が上がった。

「明らかに過剰です」

大阪市に続き福岡県でも学校生徒のフェイスシールド使用のニュースが報道されています。 学校再開に備えて万全の体制で臨みたいのでしょうが、フェイスシールドは患者からの飛沫が眼部、鼻腔、口腔粘膜に達するのを防護するものであり明らかに過剰です。

@tak53381102

「エビデンスに基づかない過剰な取り組み」

これはひどい。文科省の作成したマニュアル(2020年5月22日ver)にはフェイスシールドなんぞ推奨されていない。各学校ごとのエビデンスに基づかない過剰な取り組みによって子どもたちへの負担が増えていく事を強く懸念します。 https://t.co/WVhWETwDy5

@yukichildpsy

「こどもたちに要らぬ負担を強いる」

これは過剰だと思います。かえってこどもたちに要らぬ負担を強いることになると思います。 https://t.co/Dvz07k7ByE

@Ikuya_Ueta

埼玉県立小児医療センター救急診療科長の植田育也さんは、「これは過剰だと思います。かえってこどもたちに要らぬ負担を強いることになると思います」とツイートした後、こう見解を述べた。

フェイスシールドは、私たちみたいな、目の前でコロナ陽性の患者さんがゴンゴン咳をする様な状況で必要になるものです。学校では、登校前の検温・症状チェック、手洗い、密な学習を避ける、+飛沫飛散防止の(予防でない)マスク着用、くらいで十分ではないでしょうか?

植田さんは産科で新生児にもフェイスシールドを導入する動きが広がっているという報道を見て、それにも疑問を投げかける。

「産婦さんの不安、産科の先生の気持ちはわかるのですが、予防効果はないと思います。むしろ、外れてしまってシールドが顔にかかって窒息したり、紐で首が締まったりしないか。学校と同様、実害が出ないか心配です」

感染管理の専門家は?

こうした対応について、感染管理の専門家はどう考えるのだろうか?

感染対策のプロである聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんは、「学校でのフェイスシールドが必要となる場面はほぼ無いと言ってよいと思います」と見解を述べる。

そして、学校では近い距離で話しをするときに、互いにマスクをつけることで十分感染予防はできるという。この場合のマスクとは、布マスクやサージカルマスクなど、一般的なマスクだ。

坂本さんは、新型コロナウイルスの感染予防策の一つとして、「ユニバーサルマスキング(universal masking)」と呼ばれる対策があることを示す。

「現在、新型コロナウイルスを感染させるピーク(咽頭のウイルス量が最大となるタイミング)は発症2日前頃にあると考えられています。このとき、まだ無症状の感染者が発声することで、口から出てくる飛沫が真正面にいる人の顔にかかり、ウイルスの伝播がおこるリスクが指摘されています」

これを防ぐために、「他人と近距離で会話するときにはマスクを着けましょう」というのがユニバーサルマスキングの考え方だ。

「押さえておきたいのは、ユニバーサルマスキングの目的が飛沫を出さないことにあるのであって、吸い込まないことにあるのではない、という点です。もちろん、ユニバーサルマスキングは万能ではないので、手洗いなどのその他の対策と組みあわせて実施することが勧められています」

「よくマスクから飛沫が漏れ出てくることを心配する方がいますが、普通の大きさの声で話をする場合に、飛沫がマスクの隙間やマスク自体を通過して出てくることは考えにくいです」

坂本さんは、権威ある医学雑誌「The New England Journal of Medicine」で公開された、マスクをした時と、マスクをしていない時で、どのぐらい飛沫が飛ぶのかを目に見える形にして実験した動画を見せ、こう述べる。

「この動画ではマスクのある状態と無い状態で男性がStay Healthyと3回声量を変えて発声していますが、マスクを着けている場合、ほぼ飛沫が出ていないことが分かります」

「以上からマスクを着けた近距離での会話で飛沫感染が起こるとは考えにくいです。そのため、医療現場でもマスク対マスクの場面ではフェイスシールドの着用を求めていません」

「当然食事の際にはマスクを取り外しますが、対面で会話をしながら食事するのでなければ問題ないと考えます。学校でのフェイスシールドが必要となる場面はほぼ無いと言ってよいと思います」

一方で、フェイスシールドを着用することによるデメリットも指摘する。

「学校で使用すると医療現場ではありえないほど装着時間が長期化し、呼気で視界を妨げ、暑さがこもるなどのデメリットの方が大きいでしょう」

難聴の子どもはどうする?

一方、口元が見えるフェイスシールドでないと困る、という子どもたちがいることを指摘する専門家もいる。

難聴の子どもは、聞こえづらいところを、口元の動きを読むことで補い、相手の語っていることを理解しようとしている。

大阪大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学助教の前田陽平さんは、こう指摘する。

「難聴の方で、音声のみでのコミュニケーションが難しい方の場合、口元や表情を見て会話します。実際の患者さんに聞いてみても、皆がマスクをしている状況はつらいと聞きます。お子さんについても本質的な問題は同じということになると思います」

そして、相手がフェイスシールドであれば、難聴の子どもについてはコミュニケーションしやすくなると言う。

「少なくとも難聴の子どものいるクラスの先生はフェイスシールドで授業をして頂けると難聴の子どもは助かるのではないかと思います。クラスの他の子どもたちをどうするかというのはなかなか難しい問題で、コミュニケーションという点のみでいえばフェイスシールドあり、マスクなし、になるのでしょうけれども、現実的には難しそうです」

感染症対策コンサルタントの堀成美さんは、医療通訳のオンライン講座を開いているが、聴覚障害の人たちにも参加してもらっている。その時に気づいたことから、透明なマスクを購入した。

「オンラインコースを設けていたので、口の動きを見て得る情報も必要な聴覚障害の人たちは、講師の顔がアップになり口の動きが見えるのが学習上よいのだと言われたのです。この気づきから、透明マスクを使ったりとコミュニケーションの選択肢を増やしました」

透明マスクでも飛沫は飛ばず、音声はききとりやすく、口の動きもわかる。ただ、フェイスシールドの方が手に入れやすいため、広い目的に対応できることを考えれば、フェイスシールドが適するとも堀さんは考える。

「熱中症リスク、楽器の練習など、状況が環境によって選べるようにしておいてもいいのではないでしょうか? 着眼点も関心も、使おうとする場面も異なります。どのような状況で使おうとしているのかを聞くと、なるほどと思うこともよくあります」

医療者として感染対策に取り組んできた堀さんも、対策を決める時に、医療や医学だけの視点から決めていいのかと問いかける。

「フェイスシールドも常時つける必要もないし、マスクと併用する必要もありません。使おうとする人たちの考えや意見、単なる誤解での過剰対応なのか、他がやっていないことをあえてやるのはなぜかを確認しないと、科学や合理性だけで決めてしまうことになりますが、それでいいのでしょうか? 」

「使っても意味がない・ダメと選択肢そのものを奪わない方がいいのでは?」

発達障害がある子どももマスクは苦手

一方、発達障害に詳しい小児科医、平岩幹男さんは、発達障害がある子どもの中には、マスクの触感も苦手だという子が多いことを指摘する。

「マスクの苦手さは感覚過敏からでもありますし、これまで経験していない新奇恐怖の問題もあります。また口をふさぐことに違和感を覚える子もいます。認知能力によっても表現ができない問題もあるので、周りから見て理由が簡単にわかるわけではありませんが、苦手な子どもたちが多いのは事実だと思います」

さらに、そういう感覚が理解されないことによって、別の問題も起こる可能性がある。

「マスクをつけないことを非難する『自粛警察』によって保護者が辛い思いをすることも少なくありません」

フェイスシールドを着用するのは経験したことのない子どもがほとんどのため、それも苦手かもしれず、どちらがいいとも言えないのが現状だ。

「フェイスシールドはいろいろなタイプがありますし、一概には言えませんが、透明なサンバイザーの方がましかなと思うこともあります」

フェイスシールドを使う自治体、学校の考えは?

それでは、フェイスシールドを学校に導入している自治体は、なぜそういう選択をしたのだろう。

全児童・生徒に「マスク+フェイスシールド」を着用されている福岡県粕屋町の学校教育課の課長は、「飛沫対策のために、念には念を入れて細心の警戒をしたということです」と説明する。毎日、使用したフェイスシールドは担任が集めて消毒する手間をかける。

しかし、熱中症の懸念や、保護者から「曇って見づらい」「口元が見えるようにしてほしい」などの指摘が相次いでいると言い、「6月からはマスクかフェイスシールドか自由に選択させることにした」と方針を変更したことを明かす。

「難聴や発達障害がある子への配慮は当初は考えていなかったが、その必要性も指摘されている。対応できるようにしたい」とこの課長は話す。

やはり全児童・生徒、教職員にフェイスシールドを配布し、マスクの上から着用させる方針だという大阪市教育委員会指導部は、「可能な限り感染拡大のリスクを下げるために、二重に防御することを決めた」と話す。

やはり、熱中症対策や、難聴や発達障害がある子どもへの配慮は念頭にはなかったという。

また別のある私学では、職員分のフェイスシールドを用意する予定だ。主な目的は生徒たちへの視覚支援。 聴覚障害のある生徒だけでなく、発達障害がある生徒にむけても、マスクなしの状態で授業をするために導入する。

同校の教師は、発達障害がある子どもに口元を見せる必要性についてこう話す。

「表情が見えることが大事なようです。ただでさえ、人の表情を読み取ることに困難さを感じる子たちなのですが、マスクをつけられると人の判別がつかず、マスクをつけている教師の授業を受けることは、まるでのっぺらぼうを見続けるようなことを強いられるので、怖くて泣きそうとのことでした」

小学校低学年の児童の担任もマスクではなく、フェイスシールドが必要と訴えているという。

「小学校低学年の発達段階では言語以外の表情でのノンバーバルコミュニケーションも必要です。おそらく、幼稚園や保育園でも保育士や幼稚園教諭がマスク着用して子どもたちに接していくことは様々なことでマイナスがあると思います」

文部科学省のマニュアルにもフェイスシールドはなし

一方、文部科学省は5月22日に「学校における新型コロナウイルス感染症
に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~
」を発表している。

その中で、「基本的に常時マスクを着用することが望ましい」とマスクの着用や手洗い、換気、身体的距離を保つことの徹底などは書かれているものの、フェイスシールドについての言及はない。

文科省初等中等教育局健康教育・食育課の課長補佐は、「マスクは咳エチケットの考え方による飛沫防止のために必要なものだと考えていますが、フェイスシールドは一律に必要なものだとは考えていない」と基本的な考え方を述べる。

その上で、フェイスシールドを導入している自治体、学校についてはこう見解を示した。

「地域の感染状況によって対策が異なることもあるかもしれないので、それは市町村など学校設置者が判断いただくことになる」

マスクとフェイスシールドを併用している学校もあり、これから暑い季節になっていく中、熱中症への懸念も指摘されている

文科省のマニュアルでは「気候等の状況により、熱中症などの健康被害が発生すると可能性が高いと判断した場合は、マスクを外してください」とも書かれているが、フェイスシールドについては現場の判断に委ねるとした。

「熱がこもることによる熱中症の懸念はあると思いますので、その都度、色々な対応が必要になると思う。それも、それぞれの学校設置者や学校の判断となります」

トップダウンでなくていい 地域の必要性を反映して

自治体に判断が委ねられていることについて、感染症対策としてはフェイスシールドの必要性は感じていないという感染症専門医、神戸大学感染症内科教授の岩田健太郎さんは、は、「短期的には間違っているが、長期的には悪くない」と分かりづらい評価をしている。

医学的な観点で言えば、現状のように感染者が少ない時期には、フェイスシールドだけではなく、マスクの必要性もないと考えている。

「フェイスシールドは、端的にやり過ぎで、その目的も明確ではありません。子どもの目や鼻腔を守る必然性は乏しい。ただ、それを言うならば、感染者が激減し、感染の事前確率が非常に低い大阪の今の段階ではマスクの必然性も相対的に低下します」

「でも社会通念上、『マスクは必須』となるでしょうし、科学というよりは『常識』という名を借りた『好み』の問題、というのが本質だと思います」

それでも、今回、文科省の対策マニュアルにもない対策が、自治体単位で独自に判断されるようになったことは評価している。

「なんでもかんでも文科省に指示されないと動けない、というのは教育者として大きな問題です。従来のような、文科省→教育委員会→学校→親というコミュニケーション皆無な上下関係から、いろんな立場の人がどんどん議論をしていくのはよいことです」

「フェイスシールドは着けるべきかどうか、学校のホームワークで、根拠も含めて議論させる、など『考える機会』にするのがいいと僕は思います。役所や専門家が『これは正しい』『これは間違い』と決めつけないことも大事です」

「そういう一種のパターナリズム(父権主義)は、結局、市民の思考停止を招くので、長期的にはよくない」

「フェイスシールドは表面的には妥当性が低い判断で短期的な観点からは『間違い』ですが、こういう議論が地域から出てきたのは、社会の成熟や教育者や生徒の主体性を育むという観点からは好ましいとすら思います。間違いは、あとで直せばよいのですから」

「ちょっと話し合いなはれ」

障害がある人から社会のバリアへの対応を求められた時に、「合理的配慮」をすることを義務付けた「障害者差別解消法」に詳しい弁護士の青木志帆さんは、「学校でフェイスシールド」の判断についてこう整理する。

「重要なのは、合理的配慮とは、『障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合』、つまり、障害のある人から『こうしてほしい』という意思表明があった場合に提供される、ということです。その場にいるかどうかわからない難聴者のために、全員でフェイスシールドや透明マスクをつける必要はありません」

そして、マスクでは不具合がある場合、当事者や保護者が学校に働けかけたほうがいいと勧める。

「当事者から、『口元が見えないとコミュニケーションが取りづらいのだ』という申し出を受けて、そこからどうすべきか話しあえばそれで足ります」

「これまで、障害のための配慮を求めては面倒くさがられてきた障害当事者としては、自分から言い出すことはなかなかハードルがあると思います。しかし、申し出さえしてくれれば、あとは社会の側にそれに応じる義務が発生しますので、遠慮なく申し出てほしいと思います」

法律で義務がある以上、交渉は拒否できない。当事者側も学校側も身構えないで話し合ってほしいと青木さんは言う。

「平たく申し上げれば『まぁ、固いこと抜きにして、ちょっと話しあいなはれ』という気分です。子どもがうまく説明できない場合は、親が代わりにきちんと伝えること。それを担任は正確に受け止めることも大事かと思います」