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「もし時を巻き戻せるならば......」 第6波突入の沖縄で医師が感じる後悔

オミクロン株が猛威を振るう沖縄県で、感染対策の指揮をとる高山義浩さんが恐れているのは高齢者への感染拡大です。今週末には成人式も控える中、たった一つ後悔していることを教訓として明かします。

一足先に新型コロナウイルスの急激な感染拡大に直面している沖縄。

今週後半から、正月の感染の影響も表れるとみられる中、感染対策の指揮をとる医師が最も恐れているのは、高齢者への感染拡大だ。

食い止めるためにどんな手をうつのか。そして、「時を巻き戻せるなら…」と語る後悔とは何か。

BuzzFeed Japan Medicalは沖縄県立中部病院感染症内科の医師で沖縄県の政策参与を務める高山義浩さんに聞いた。

※インタビューは1月5日夜に行い、その時点の情報に基づいている。

沖縄のオミクロンの流行、重症度は?

ーー高齢者への感染拡大が心配ですが、ブースター接種は始まっているのでしょうか?

一部の市町村でブースター接種は始まっているところですが、既に高齢者施設に感染が波及し始めています。ただし、今は職員が中心で、職員の陽性者を次々に拾っています。そこからいくつかの施設で入所者に広がっているケースも散見されます。

ーー重症度はどうでしょうか?

今は感染したてなのでわかりません。

ーーオミクロンの重症化のリスクは、デルタと比べて2〜3 割なのではないかというデータも海外から出始めています。まだその感触はつかめない時期なのですね。

これは厚生労働省のアドバイザリーボードに出すグラフです。1月4日時点で675人が療養していますが、そのうちの92.3%が無症状か軽症です。酸素投与が必要な人は3.7%。重症者はいません。これが今の沖縄県における重症度になります。

全療養者数が650人を超えた時点を基準にして比較すると、従来株では2021年の4月にそうなりました。7月18日にはアルファ株で同じ状況が起きています。デルタ株はアルファ株とミックスしながら増えたので、このような切り口では比較できません。

今回は重症者ゼロですし、酸素投与が必要な「中等症2」も3.1%で、アルファ株の流行時の8.2%、従来株の流行時の4.1%に比べて少ない。やはり重症度が低いように見えます。

ただ、療養者の年齢分布が今回の流行では特に若いという違いがあります。そして今回は感染拡大の速度が速いので、いまは重症化する手前の人たちを見ている可能性があります。

今の時点では重症度は低く見えるのですが、これからもそうであるかはわかりません。

お正月での接触による高齢者の波が今週後半からやってくる

ーー沖縄としては、重症化するかもしれず、ブースター接種も一部に留まっている高齢者への拡大をここで食い止めたいのでしょうか。

食い止めたいし、食い止めなければならないと思っていますが、今確認している新規の陽性者は年末年始の前に感染している人たちです。むしろ「クリスマス・忘年会組」なのです。

そしてこれからの陽性者は「お正月組」です。30日、31日、1日、2日、3日で親族が集まって交流した「お正月組」の診断が、これから始まります。そこには高齢者がいるはずです。

忘年会やクリスマスには高齢者の感染者はそんなにいないでしょう。でも、親族で集まって一緒に過ごす時、そこには高齢者がいます。私たちはこれから高齢者の波を経験するのだと思います。

ーーもしかしたら入院が必要な重症者も増えそうですか?

わかりません。欧米のデータを見ると、高齢者でも重症者は少ないですね。

ただ、欧米と日本との違いは、欧米は高齢者に対するブースター接種が進んでいるのに対し、日本は全然できていないところです。欧米では高齢者が重症化していないから日本でもそうなる、とは言えないはずです。

先行する我々は日本のデータを作っていかなければいけません。

ーーそれと並行してブースター接種を急がなければなりませんね。

金武町や石垣市などいくつかの市町村では進んでいるけれど、進んでいない市町村もあります。急がなければ。

ーーその影響もこれから見ていくことになるということですね。

はい。そうです。

医療従事者の離脱で一般医療に影響も

ーー宮古島の県立病院などで、もう診療の制限をし始めたと報じられています。一般医療に影響が出始めているのでしょうか?

出ています。離島だけでなく本島においても診療への影響は出始めています。中部病院も救急を一部制限しています。

ただ、医療への影響が出始めているのは、入院患者が増えたからというよりは、医療従事者が休職していて足りないからです。休職しているのは医療従事者が感染している場合と感染者の「接触者」になっている場合とありますが、後者の方が多いです。


医療従事者は普段、感染しないように気をつけて暮らしているのです。ただ、沖縄でも小康状態が続いたこともあり、このお正月ばかりは親族と集まるなど、ようやく気分転換された方も多かったでしょう。


1年間かなり緊張感を持って暮らしてきたけれど、「このお正月ぐらいはおじいちゃんおばあちゃんに孫を会わせてやりたい」と思って、人が集まっての会食が多かった時期にオミクロンの拡大が重なってしまった。


多くの医療従事者がそこで接触者になり、休むことが起きています。

ーー入院患者が増えることによる医療逼迫の可能性は見えていますか?

入院患者数も急速に増えているのでストレスにはなっていますが、政府の方針として自宅療養が認められていなかったり、退院にあたって2回のPCR検査を求められるなど、制度によるところもあります。1月5日から入院基準が緩和されたので、その方面では余力が生まれます。

むしろ、今のところは医療従事者が働けなくなっていることによる制限の方が大きいです。

ーー医療従事者のブースター接種は終わりましたか?

ほとんど済んでいます。中部病院はもう終わりました。

成人式、どうする?

ーーさらに今度の3連休には成人式(10日)もあります。沖縄と言えば荒れる成人式で度々注目されますが、対策は考えているのでしょうか?

できるだけ感染を抑え込みたい立場からすれば、成人式は延期していただくのがいいと思いますし、成人式の後の宴会も控えていただくのがいいと思います。

でも僕らがそう願っても開かれるでしょうし、それなりに楽しむと思います。タテマエだけで延期を求めても感染対策にはなりません。

大事なのは、当事者が納得して延期するかどうかです。やはり開催したいと言うのなら、「すべての参加者が抗原検査で陰性を確認しましょう」と次善の策を呼びかけます。

ただ呼びかける主体は主催者である市町村です。検査に使う抗原検査キットについては市町村負担ではなく、県が支給しています。既に手挙げをした市町村には送付し始めています。

式の前でも後でもいいから検査して、陽性だったら式後の宴会には行かない。それだけでも、かなり感染予防になります。そういう対策を新成人に提案してはどうかと市町村に伝えています。

まん延防止等重点措置、どうする? 経済界への配慮が必要

ーーまん延防止等重点措置も政府に要請し、連休前の7日には出るのではないかと報道されています。成人式もにらんでのタイミングですね。

もちろん重点措置も出していただきたいし、その方向で政府とも調整は進んでいます。

一方で、置いてけぼりにしていけないのは経済界の思いです。

病院が逼迫して医療機能が維持できないことは僕らにとっては重要で、県民の生命を守ることこそが重要な使命です。いまの感染拡大の勢いは極めて強く、重点措置による抑制が必要だと思います。

でも経済界からすると、3連休やGo Toトラベルの沖縄県版もやる中、重点措置が始まれば、大きな経済的な損害を受けるでしょう。観光客も来なくなるでしょうし、喪失感は大きい。そうしたインパクトには十分配慮する必要があります。

医療現場もコロナだけでなく、地域医療を途絶させないために必死ですが、それぞれに生き残りをかけています。

重点措置による協力金は、飲食店だけであり、その影響を受ける様々な業種は被害しかありません。損失補填については私の守備範囲を超えますが、対策の実効性を担保するためにも必要なことだと思っています。

いまは加速度的に感染が拡大しているところなので、いったんは経済活動を抑制すべきです。ただ、ピークアウトしたら、あるいは重症者が少なく、医療負荷が軽いことが判明したら、ワクチン検査パッケージも含めて早期に再開していくべきです。その判断は迅速かつ合理的に行わなければなりません。

そのためにも、オミクロン株のエビデンスを早期に集めて、どこまで対策を緩められるか、許容できるかを確認することが求められています。いまさら「ゼロコロナ」でもありませんので、重症者が増大していかないのであれば、対策は早期に緩めていけるはずです。

そうして説明も伴わず、重点措置だけ主張していても、経済界の協力は得られないでしょう。

ーー我慢を続けてきた経済界も納得してもらった上での措置でないと、実効性が伴わないと見ているのですね。

その通りです。

時を巻き戻せるならば....流行の先をゆく沖縄の教訓

ーー年末年始の人の接触が増えた中には、県外から沖縄に来て過ごした人もいるでしょう。その人たちが全国に帰っていったはずです。沖縄で感染して、全国に散らばっていった可能性もあるでしょうか?

そういう人もいるでしょう。ただ、正月以降、沖縄県の新規感染者の中で、県外からの渡航者も増えてきました。県外に行って感染して帰ってきた県民もいるし、県外から訪れて沖縄で感染がわかって隔離している人もいます。


沖縄県が震源地というわけではなく、全国的に既に感染は広がっていると思います。

ーー沖縄は全国に先駆けて第6波が始まりましたが、東京でも大阪でも流行が始まっています。沖縄の経験を踏まえて、全国に向けて「こうした方がいいよ」というアドバイスはありますか?

僕らもまだ始まったばかりで、高齢者に感染が広がっているかどうかが強い関心事項です。

ただ、時を巻き戻せるとするならば、この正月三ヶ日にもっと検査を受けていただくべきでしたし、そういう仕掛けはあった方がよかったと思います。

実は、沖縄県内の繁華街に臨時の検査所を立ち上げる提案を県に繰り返していました。「テントでいいから、その場で結果の出る抗原検査をやりましょう」と。

残念ながら実現しませんでした。もし、やれていたら、もっと早く規模の大きな流行が始まっていることを県民に伝えられた可能性があります。あと数日でも、伝えるのが早ければ、感染せずに済む高齢者がいたはずです。

他の県の方々に、特に行政担当者の方にお勧めするのは、感染に不安のある人が検査にアクセスしやすい環境を作り、流行の端緒をもっと早めに気づき、県民に対する注意喚起をすることです。

ーー全国の成人式も沖縄と同じぐらいの警戒感でやった方がいいですね。

はい、やるかやらないか、それは新成人の最初の大人としての決断なのかもしれません。どちらの判断でも応援します。

それに、いまから本体行事の延期を決めても、予定している飛行機の予約はとれていて、多くの同級生が沖縄に帰ってくるでしょう。だから、本体行事はやりつつ、無料で抗原検査を受ける場を設ける方が、感染者が参加する宴会を防ぐことにつながると思います。

成人式に限らず、若者たちがやりたいことを実現できるよう、一緒に考えることが必要です。私たち専門家もそうした支援をしたい。おじさんたちが一方的に延期や中止を伝えることは、感染対策への協力が得られなくなるだけですから。

(終わり)

【高山義浩(たかやま・よしひろ)】沖縄県立中部病院感染症内科医師

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、幅広く活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。

著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。