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「これまでの波と明らかに違う」 オミクロン感染者が急増する沖縄で医師が見る光景

全国に先駆けて新型コロナの第6波に突入した沖縄。新たな変異ウイルス「オミクロン」の置き換わりも進み、爆発的な広がりに危機感を募らせる医師、高山義浩さんが今、どんな光景を見ているのか聞きました。

新型コロナウイルスの新規感染者数が1月6日に981人を記録し、新たな変異ウイルス「オミクロン」の置き換わりが急速に進む沖縄。

全国に先駆けて第6波に突入したと見られるこの地で今、何が起きているのか。これまでの波と何が違うのか。

BuzzFeed Japan Medicalは沖縄県立中部病院感染症内科の医師で沖縄県の政策参与として感染対策の指揮をとる高山義浩さんに聞いた。

※インタビューは1月5日夜に行い、その時点の情報に基づいている。

急増、オミクロンのせいだけではない

——沖縄県の新規感染者数は急激な勢いで増えています。第6波が始まったと考えてよろしいですか?

始まっています。間もなく1000も超えるでしょう。検査が無料化したことで若者たちが受けやすくなったこと、正月連休が終わって検査所や診療所が開いた影響もありますが、それにしても多いです。

——今までの波の勢いとは違いますか?

これまでの波とは明らかに違いますね。確かにお正月にかつてないほど人が接触したのでしょうから、ウイルスだけのせいにはしたくない。代行運転の出動件数を見ているのですが、前年同期に比べて2倍近くです。12月に入ってから飲み会が活発に行われたのだろうと思います。

——第5波の行動制限の期間が長かったので、その反動でしょうか?

そうでしょうね。ずっと溜まっていたものはあると思います。

——新たな変異ウイルス「オミクロン」の性質もこの急速な感染の広がりに影響していますか?

これだけ人の交流や人の移動が活発化する中で、単純にウイルスの特性だけと片づけたくないのが正直なところです。

例えばアメリカで感染が急拡大しているのは、流行の初期はマスクをつけていた人も今はつけなくなったことも影響しているでしょう。マスクを外したのに、「オミクロンの感染力が強いから感染した」というのは理屈に合いません。

沖縄県民も含めて、みんながコロナとの付き合い方を変えてきている影響を踏まえる必要があります。とはいえ、こんなに急速に感染が広がると、ウイルスのせいにもしたくはなりますね。

——勢いはやはりデルタよりも増していますか?

デルタの流行時に起きた時とは違うことが起きています。伝播のスピードが違います。数日で600人を超えることはこれまでありませんでした。

——倍加速度(累積の新規感染者数が2倍になるまでの時間)が2.8日と出ていました。デルタの時よりも速いですね。

そうですね。ただ、倍加時間は沖縄県民の感染者数だけで見ているものです。米軍内での流行が先行して起きているので、それを足し合わせると、それほど短くならないかもしれません。

県民だけの感染者数を抽出しているから「なぜ沖縄でこんなに急速に広がったの?」と思われているかもしれませんが、その前に米軍基地内で大流行しているのです。

——オミクロンの占める割合は26日に15%だったのが30日に97%になっていると報道されています。沖縄ではほとんどオミクロン に置き換わったと考えてよろしいですか?

そうです。市中感染の9割以上がオミクロンですし、これからデルタが見つかるとすれば県外からの渡航者、または渡航者と接点のある人になります。

米軍基地の影響 連携は取れているのか?

——オミクロンの感染拡大は基地から始まったと言われています。感染対策をするのに、米軍との連携は取れているのでしょうか?

今回のオミクロンの流行が基地からの波及であることはほぼ間違いないと思います。本土でオミクロンが流行していない時から沖縄では広がっていました。

当初は基地従業員で感染者が多発しましたし、かつ、その時、基地内で流行は始まっていたので、基地から漏れ出たということで理屈は合っていると思います。

一昨年、2020年の7月に独立記念日(7月4日)のパーティーの後に、米軍は流行を起こしています。その時点では米軍からの情報は断片的で不安を増幅させました。そこで県庁の担当者や医療コーディネーターの私たちが一緒に、米軍の公衆衛生当局者や海軍病院の医師たちと話し合いをもったのです。

その時、毎日の新規陽性者数、海軍病院へ入院を要する患者が何人出ているのか、疫学調査で基地の外で日本人との接触があった場合の情報、の3点を共有してほしいとお願いし、いずれも了承してもらいました。

海軍病院で治療しきれなくなった人は中部病院に運ばれることがあるので、入院数も必要な情報なのです。

その時こちらから要求したことは3つとも基本的に守られています。変異株の情報提供は求めていませんでしたから、それが公表されないからといって、情報共有が十分でないと言うことはできません。

——その後、オミクロンかどうかを共有するように要求したのですか?

要求したところ、数日後にオミクロンがほぼ半分だったと情報をくれました。そして、「いずれは置き換わるはずなので、今後の陽性者は全てオミクロンとして対応したい」と回答してきました。この点については、米軍は迅速かつ合理的な対応をとってくれたと思います。

米軍と連携しきれない2つの課題

そういう意味で確かに連携は取れているのです。こちらから要求すれば、基本的には応えてくれています。ただし、課題と感じることが2つあります。

1つは検疫体制を通告なしに変更していたことです。一昨年7月に米軍内で流行した時にアメリカから着いた人を停留させていたのですが、その人たちを同じ屋根の下で普通に過ごさせていたため、感染が広がってしまいました。

そこで、今後同じことが起きないように、きちんと管理してPCR検査をするように求めて了承されました。それをずっとやってくれているものだと思っていたら、ワクチン接種が進んだ後、やめたようなのです。

やめたならやめたとこちらに言うべきでした。オミクロン株に対してワクチンの有効性は減弱していることがわかってきたわけですし、接種から時間もたっていますから、検疫体制を再開すべきじゃないかと意見交換できたはずです。

2つめは疫学調査が不十分なことです。米軍は疫学調査で日本人との接触を確認したときは、情報を共有すると約束しています。ただ、実際には、ほとんど連絡はありません。

ただ中部病院で診療していると、「私の彼氏が米兵だけどコロナと診断されて隔離されている」と言って、検査を求めて受診してくる人がいます。ところがそうした情報が米軍から事前に共有されることはありません。

おそらく米軍は知らないのです。実効性が薄い疫学調査しかできていない。一昨年の7月の流行時に会議を開いた時、米軍側に「門限を破って彼女の家に泊まったと正直に疫学調査で言ったらどうなるのか?」と聞いたら、「罰則がある」と言われました。

罰則つきの疫学調査は、隠すからうまくいかない。感染症に関して沖縄県民を守るという観点から、日本人との接触があったと正直に話す兵士には罰則を与えないでほしいと求めました。海軍病院の医師たちも同調してくれました。

それでも、基地の外の活動に対して、米軍当局は大目に見ているところがあるようです。だから疫学調査でも深追いしないし、正直に語れば罰則がある。そういう体制でいる限り、いつまでたっても本当の連携はできません。

——市中感染がこれほど県内全体に広がった後も、水際対策的な米軍との連携はやはり必要ですか?

これは実は水際対策ではないのです。沖縄県の小さな島で一緒に暮らしていて、レストランやショッピングモールも共有している間柄です。この島の感染を抑え込んでいくために、一緒に暮らしている者同士として力を合わせていくという感覚です。

若者中心の感染、なぜ?

——沖縄全体のデータの話に戻ります、5日のデータの年齢内訳を見ると、20代の新規感染者数は332人で全体(623人)の半数以上です。会食で感染しているのでしょうか?

会食だけでなく職場も結構多いです。職場と分類されていても、同僚と一緒にご飯を食べていた可能性はあります。

いずれにしても職場と会食が多いようです。感染経路が不明のケースが半分ぐらいあるのですが、とはいえ、空気感染でどんどん広がっている感じではありません。

——20代はワクチン接種の順番が後の方でしたから、それなりに効果は残っているのではないかと思っていました。オミクロンには効かなくなっているということでしょうか?

若者のワクチン接種率は高くないです。沖縄だと20代で66%、30代が70%ぐらい。しかもうっているような人は注意深く生活しているので、ワクチン効果だけでなく感染しにくいと思います。

——今感染している人たちはどれぐらいの接種率なのですか?

世代ごとに違いがありますが、全年齢でみてブレイクスルー感染が陽性者全体に占める割合は37%ぐらいです。

もう1つ、若者たちの免疫を考えるうえでは、自然感染によって守られている人たちもいるということが大事です。先月、米兵らが飲みに行く歓楽街の方々などに呼び掛けて、約300人に検査を受けていただきました。その結果、全員が陰性でした。

米軍で大規模なオミクロン流行が始まっているのに、感染者が出ていないことには驚きました。感染対策をしっかりとっていただいてる方もいるでしょうし、ワクチン接種から時間がたってない方もいたと思います。ただ、第5波までに感染して免疫をつけていた方もいたのだろうと思います。

そこから考えると、ワクチン未接種だけが感染の原因ではなく、今、感染する人たちは、これまでワクチンもうっていないし、まだ感染もしていない人たちなのかもしれません。

デルタ株の収束も、ワクチンや自粛の効果だけでなく、アクティブな若者層が感染し終えていたこともあったのではないかと思います。

(続く)

【高山義浩(たかやま・よしひろ)】沖縄県立中部病院感染症内科医師

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、幅広く活動。行政では、厚生労働省においてパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事。臨床では、感染症を一応の専門としており、地域では、在宅医として地域包括ケアの連携推進にも取り組んでいる。

著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。