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「オミクロン株は制御不能ではない」 8割おじさんが「鍵を握る」と話すクラスターの場所と若者の協力

新型コロナの感染拡大が続き、新たに13都県にまん延防止等重点措置が出されるところです。西浦博さんは、「素早く効果的な対策を打てば、オミクロンも制御できる可能性が十分にある」と希望を持ちます。

新型コロナウイルスの感染拡大が続き、まん延防止等重点措置が新たに13都県にも出されそうになっている。

一方、実効再生産数(※)が下がり、一足先に流行が始まった沖縄の新規感染者数も右肩上がりの曲線が緩んできて、早くも「ピークアウトしたのではないか」という楽観的な声も聞かれる。

※感染者1人当たりが生み出す2次感染者数の平均値。

実際には今、どんな流行状況なのか。そして今後の見通しはどうか。

BuzzFeed Japan Medicalは、京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんに聞いた。

※インタビューは1月18日に行い、その時点の情報に基づいている。

感染は下火になったわけではない

——沖縄も一時の増加の勢いが緩み、全国の実効再生産数も落ちていることから、「ピークアウト(ピークを超えた)したのではないか」という楽観的な発言をする人が目立っています。現在の流行状況をどう見ていますか?

確かに沖縄県で流行曲線が寝てきた、つまり増加がストップしているように見える、という話が出ています。

ピークアウトをどう捉えるかにもよりますが、南アフリカやイギリスのロンドンのように、「集団免疫(※)」一過性に人口内でできあがることによって減ってきたかというとそういう状況ではありません。それが一番重要です。

※集団の中で免疫を持つ人が増え、免疫を持たない人も含めて人口レベルで守られる状態。

相当の規模の流行にならないと集団免疫はできませんが、沖縄はまだ流行が始まったばかりです。今、感染者の増加が一度止まったかのように見えているのは、一過性にクラスターが急増したのが止まったのか、あるいは検査が追いついていないのか、など様々な要因が考えられます。

今の時点で、沖縄ではまん延防止等重点措置が出ていますが、20代の感染が止まっているかといえば、そんな状況ではないと聞いています。

沖縄では検査が追いついていない状況もありそうです。今後、これ以上に軽症の新規感染者数が増えるとなると、いつかは自分で検査をする方法に踏み込まざるを得ない可能性も高い。ここから先、新規感染者数を正確に捉えることができるのか、という心配もしています。

——20代より上の感染者が増えてくれば、また違う様相になってきますか?

20代の感染者数より年上の感染者が、一時的でこそあれ相対的に増えるのは、伝播の「尾ひれ」を見ているようなものと考えると良いと思います。

20代の若者が会社に行って職場で上司に伝播したり、医療従事者や福祉関係の人に伝播したりして施設内でクラスターが起きる。でも、そこから先に伝播は持続しにくいです。それはオミクロン株でも変わらないようです。

核となって伝播が起きるのは20代、30代です。今、その一過性の伝播の減少が起きたように見えますが、これが感染者全体の減少に結びつくかどうかはわからないです。

——米軍基地内では減っているのは確かなんですね。

最初にクラスターがみられた米軍基地内の規模で言うと、集団免疫ができるぐらいの伝播が起こりました。基地内では行動が以前よりも厳しく制限され、流行が下降状況にある可能性が高そうです。

9日が突出して多いのは正月休みの感染を反映

——日本全国の実効再生産数も落ちてきていますね。これはどう見たらいいですか?

これは報告日ベースの実効再生産数の推移ですが、1月9日をピークに確かに下がっています。

ものすごく少なかったのに、一気に突出し、そこから下がっている。

これを解釈するには、このデータが報告日ベースであることを十分に認識することが必要です。1人ひとりの患者は、感染から発病までの期間を意味する潜伏期間を過ごし、その後に受診して検査を受け、診断されて、報告されます。

これまでは感染から報告まで平均11日かかっていたのですが、今は潜伏期間が平均で約2日間程度短縮したので、ざっくり言えば平均9日遅れのデータになっています。

だから1月9日に実効再生産数がピークを迎えているのは、その9日前であるお正月休みの頃の伝播を反映していることになります。

ゴールデンウイークや1年前のお正月にも同じような実効再生産数の一過性の急上昇が起きました。人が移動して感染機会を作り、普段会わない人と会い、一緒にお酒を飲んで歓談する長期休暇は特別に感染リスクの高い期間です。

その一過性の上昇が、終わった。ただそれだけのことのように見受けられます。

——実効再生産数が1より上をキープしているということは、感染増加の傾向に歯止めがかかっているわけではないですね。お正月の一時的な増加が終わったこともあるでしょうけれど、検査が頭打ちになったから減ったのではないかという推測はどうでしょう?

その両方の可能性があり得ると考えています。

まず大事なことは検査が逼迫しているといっても、実効再生産数が1をかなり超える状態で推移していることです。

だから依然として増加傾向は続いていると捉えるのが自然だと思います。全国的に、お正月に伴う急激な増加からはいったん落ち着いただけ、というのが適切な解釈だと考えています。

診断が追いつかないことも問題です。これまで開店休業状態だったところに一気に検査を受ける人が怒涛の如くやってきているので、対応しきれなくなっています。

診断が報告されてからデータとして登録され、公表されるまでの日数に関しても異常に伸びることがないか、心配しつつ検討を続けています。

——保健所に余裕がなくなっているということですね。

そうです。入力に追われている状況が如実に影響すると思います。

減少を示す検査陽性率は右肩上がり

増加傾向について、特に注意して見ていただきたいのは検査の陽性率の推移です。

東京都の検査陽性者の割合(青点線)を見ると、ずっと増え続けて今18%です。陽性者数は休日や休日明けに一過性に減ったりもするけれど、陽性率が上昇を続けている場合、水面下での伝播は起こっていて減少していないということです。

これまでの波でも新規感染者数が目に見えて減少する前に、検査陽性率は下がっていました。検査陽性率の数値は、ピークアウトしたかどうかを見る上でも貴重な資料になります。ただ、今後、もし感染者数が増えすぎると陽性率さえ使えなくなることは危惧していますが。

いずれにしても、陽性率の傾向を見ると、今のところ減少に転じる兆しは一切見られません。

——今後、このデータがどうなるかが一番関心の高いところです。

オミクロン株の国内流行の開始後、ここまでの期間は、増加しているのか減少しているのか、流行が抑えられるのか、判断するのがすごく難しい時期でした。

というのも、年末年始の影響がありますし、オミクロン株は20代の接触が増えると感染者が増えることがわかっていますが、オミクロン株の流行下で成人式が実施されたところも少なくありませんでした。

東京オリンピック開始直後の夏休み突入の影響についても、当時、相当に悩みましたが、とても似ています。お休みによって一過性に伝播が増えてしまうわけですが、その影響を取り除いた上でウイルスそのものの伝播性だけをその時期のデータのみを基に検討することは難しいのです。

「お休み効果」が見られていたのが、これまでです。大事なのは、その影響がなくなった今から先です。

20歳代を中心に今週、来週、同じか少し遅いぐらいのスピードで増え続けるのかどうか。その状況が、今後、オミクロン株がどれぐらいの深刻さで流行するかを占うことになると思います。

アルコールを提供する飲食店やスポーツ関係でクラスター 重点措置は効く?

——20代の伝播を止める方策を今すぐ打ったほうがいいということですね。

例えばロンドンでは20代の伝播が指数関数的に増加することが止められなくて、その数週後に他の年齢群でも指数関数的に増え始め、人口全体の大規模な流行になりました。

そんな風になるかどうかの分かれ目に、今、日本は立たされています。いまは運命の分かれ道で、極めて重要な週であると言えます。

この伝播を止める方策を考えるには、しっかり基礎に立ち返って観察データを検討すると良いと思います。これまで日本で蓄積したノウハウに基づくデータが役立ちます。

例えば、こちらの図は日本における週別のクラスター発生件数ですが、これはニュースメディアから東北大学の押谷仁先生の研究室チームのメンバーが手作業でデータを抽出して作り上げているものです。献身的な努力に基づいて収集されたデータをみると、クラスター発生施設の推移が見て取れるようになっています。

予防接種が広くうたれるようになる前は、赤の医療機関、オレンジの高齢者施設が多かったのです。流行規模が大きくなると黄色の職場に広がっています。

2020年の第1〜2波で流行の初めの頃は、接待を伴う飲食店など青系の色が多いですね。1年前の年末年始である2020年の終わり頃も医療機関や高齢者施設が多かったのです。

しかし、昨年末の終わりから今年にかけて、再び目に見えるレベルで、接待を伴う飲食店やアルコールを提供する飲食店、スポーツ関連が増えています。

接待を伴う飲食店がここまで目立つのは久々ですが、ハイリスクの接触がある中で、オミクロン株に対して予防接種が発病を止めるのに効いていないことを反映しているかもしれません。

スポーツ関連のクラスターはスポーツ大会やスポーツ団体の活動などが多いです。その時に感染しなくても、帰りにご飯を食べる時などに感染しているのかもしれません。プロを含め選手の間で感染者が出ています。

それらを足すと半分以上を占めるような状況です。

——まん延防止等重点措置は対策として効きそうですか?

クラスターの半分ぐらいがアルコールの入る飲食で起きているとすると、今、重点措置によって飲食店対策をする考え方は合理的だと思います。

当然ながら、飲食そのものが悪いわけではないですし、対策を実施されているところは多数あります。

しかし、それが台無しになるような飲み方もあるのです。例えば、アルコールをたくさん飲んで、2軒目、3軒目となるごとに感染予防に細かに気を払うことが難しくなり伝播が起こってしまう、というようなリスクの濃淡がありそうです。

——今は重点措置を打つのに適切なタイミングなのですね。

欲を言えばもっと早くやったほうが良かったですが、それより前にオミクロン株の評価データがそろっていたわけでもありません。ともあれ、重点措置を打つ判断は、まだ伝播の中心が20歳代である中で、データから極端にそれた話ではないと言えると思います。

オミクロンで増した「世代間ギャップ」

——オミクロンだからといって感染しやすい場所が変わるわけではないのですね。

オミクロンだからこそ、20代のアルコールを伴う飲食で感染する機会がもしかしたら増えているのかもしれません。

海外で伝播をしているところでも同じようにナイトクラブでクラスターが起きています。海外ではオミクロン株について「Night vampire(夜の吸血鬼)」という表現がなされていますが、これまでの流行にも増してその傾向があると言われています。

——重点措置でもしそこでの伝播を抑えられたら、流行を食い止められる可能性も出てくるのでしょうか?

流行規模が小さいごく早期に、実効性が高い対策をうつという2つの条件を満たす場合に意義が大きくなるのだと思います。

今回の対策に関しては、社会の反対も多くなると思って動向を見守っています。それは、予防接種が2回終わった状態で起きた流行だからであり、皆さんの間で「もう十分に我慢した」という想いが強いからです。

流行規模が小さい早期のハイリスクな場所もピンポイントでわかっているのですが、そういった場での感染をどの程度まで抑えられるかが、今後の流行を左右します。

もし十分にコントロールできたら、流行を抑えられる可能性は高いと考えています。しかし、単純な話ですが、対策内容が過度に社会に遠慮した中身であったり、あまり社会に聞いてもらえなかったりすると相当に厳しい。

流行を抑えることが少しでもできて、流行時期の後ろ倒しができるなら、その間に後期高齢者と基礎疾患がある人だけでも3回接種を済ませたい。それによって重症化を抑えられることができたら、流行が一定規模になっても医療の逼迫や死亡を避けられるかもしれません。

しかし、「もう我慢できない」と思っている人たちがどれくらい多いかは分からないので、重点措置が効くか、また緊急事態宣言をうつ事態になるかどうかはやってみないとわかりません。少なくとも、みんなが納得できる対策にしないと難しい。大きなチャレンジになると思います。

20代中心に流行していますが、20代の皆さんは「自分たちは軽症だし死なないぞ。感染してもすぐに治るのに、なぜ自分たちがここまで我慢しなければいけないのか」という意識が強いと思います。これは分断の火種になり得ます。

自分が感染するとコミュニティで感染が拡大することにつながることを理解してもらい、利他的に行動してもらうのはすごく難しいことです。オミクロンではこの「世代間ギャップ」がこれまでに増して、さらに強く出ています。

——協力してもらうには何が必要だと思いますか?

どうしてこういう対策を取るのか、もう一度丁寧に説明して呼びかけることが大事です。尾身茂先生は、みんながわかりやすい言葉で根気よく語りかけ、優しく伝わるのが本当にすごいと思っています。専門家だけでは全くもって不十分です。政治にも今回こそ、そういう働きかけを必死にやってほしいです。

緊急事態宣言を避けられる可能性は十分ある

——もしここで抑えられたら、緊急事態宣言を出さずに済む可能性はありますか?

これまで述べたように、早期に効果的な対策が打たれ、みんながそれを受け入れてくれる場合に限られますが、十分に避けられる可能性があると思います。

今回のクラスターのデータは明るい視点で見てほしいのです。緊急事態宣言と比べると、もちろん重点措置の方が対策全体としての効果は低いです。予防する範囲や対策の程度が違うからです。

でも、今回は流行早期に伝播が起こりやすいクラスターの場所の半分以上が説明できて、そういった機会をしっかり抑えれば、核となる20代の伝播を止められる可能性もあります。重点措置でこの可能性を追求する努力を最大限にやっていただきたいところです。

「緊急事態宣言でなくていいのですか?」と聞かれることがありますが、僕も同じ心配をしています。でも、社会全体で合意を取った上で今回の流行に合わせた対策を徹底し、緊急事態宣言を避けることができたなら、それは相当な自信につながると思います。

オミクロンは「感染力が高いからもうダメだ」と思いがちなのですが、過去の他の株と比べてものすごく高いわけではありません。制御可能なレベルであることがわかりつつあるのです。

オランダは年末年始をロックダウン状態で過ごしましたが、ここまでに流行を一定程度、抑えることに成功しており、英国やフランスなどとの移動もあるのに、未だに医療提供体制は逼迫していません。ちゃんと対策をすればオミクロン株でも感染者数が減ることを実証しました。

これまでは感染者が増えたら病床が逼迫したところでエイっとハンマーを下ろす政策でした。オミクロンでは感染性が高いだろうから、もうそれは無理なのではないかと思われていましたが、必ずしもそうではないことを示すデータが出始めています。

むしろ弱めの抑制戦略を行いながら、後期高齢者の予防接種までの時間稼ぎを短期集中型でやるような選択肢もあるでしょう。オミクロンの流行では我々の選択肢は過去の流行よりもむしろ増えているのです。

オミクロンの感染性はたかだかそれぐらいのものです。これまで何度も波を乗り越え、生きのびてきた皆さんと一緒に駆け抜けられたらと思います。

(続く)

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。