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オミクロン流行、子どものワクチン急ぐべき? 「日本の子どもにとって、コロナは風邪レベルだが…」

新型コロナの流行が急速に広がり、オミクロンへの置き換わりも進む中、子どものワクチンを前倒しすべきか議論が起きています。18歳以上への3回目接種も始まる今、子どもはどうすべきなのでしょう? 小児感染症の専門家に聞きました。

新型コロナウイルスの新規感染者数は全国で2万人に近づき、感染拡大が止まらない。

感染力の強い新たな変異ウイルス「オミクロン」への置き換わりも進み、心配なのはワクチン接種の対象になってこなかった子どもたちだ。

5〜11歳の接種は3月にも始まるとされ、岸田首相も「希望者に対して、できるだけ早くワクチン接種を開始する」と表明したが、時期を前倒しすべきなのか。また、全員うつべきなのか。

BuzzFeed Japan Medicalは、小児感染症が専門で予防接種にも詳しい長崎大学小児科学教室主任教授、森内浩幸さんに子どものワクチンについて聞いた。

※インタビューは1月12日夜に行い、その時点の情報に基づいている。

感染者も入院者も子どもが特に増えているわけではない

——子どもの感染者も増えてきています。アメリカでも子どもの入院や死亡が増えていますが、今回の波の子どもの感染についてはどう分析していますか?

感染者という分母がすごく増えているので、分子である入院者の数が増えているということでしょう。感染者の数も入院になる率も人口の割合からすればこれぐらいになるだろうというレベルで、子どもだけ特に増えているということではありません。

昨年の夏に関東で大流行したRSウイルスではあっという間にPICU(小児集中治療室)が埋まりました。その勢いに比べると、「親も入院するし、この子も入れておこうか」ぐらいの入院が子どもでは今でも圧倒的に多いです。

ウイルスの性質が変わったために重症化して入院治療が必要な子どもが増えている、ということではないと思います。

——アメリカの評価についてもそうですか?

アメリカもそうです。オミクロン株になって決して致死率が上がっているというわけではありません。

オミクロンになって変わったワクチンの位置付け

——日本ではワクチンの接種率が8割になり、接種していない人は感染が広がる中で無防備な状態に置かれています。デルタもオミクロンも増えている状況ですが、未接種の人の無防備さについてはどう対応すべきだと思いますか?

なかなか難しいところです。今の流行状況でワクチンはだんだん意味合いが変わってきています。

アルファ株の頃までは、重症化を防いだり、発症を防いだりする効果だけではなく、感染予防効果もかなり高いワクチンでした。集団免疫(※)を確立する観点からも接種を勧められるものでした。

※集団の中で免疫を持つ人を増やすことで、ワクチンをうてない、うたない人にもワクチンの防御効果が広がること。

デルタ株になって、感染予防効果が時間が経つにつれて怪しくなってきました。それでも3回のワクチン接種をすることで、感染予防効果を回復させることができました。

ところが、オミクロン株になるとかなり感染予防効果は下がりました。少なくとも、感染予防効果を前面に押し出せるようなワクチンではなくなっています。

今はあくまでも重症化を防ぐためのワクチンという位置付けだと思います。

健康な10代の1、2回目より、高齢者や持病のある人の3回目を

例えば、12歳以上は大人と同じ量を使う同じワクチンですが、12〜15歳の子どもに1回目、2回目を接種するワクチンがあるなら、重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患(持病)を持っている人たちへの3回接種に回した方がいいと思います。

健康な10代の未接種の子どもよりは、2回ワクチンを接種して半年以上経っている高齢者や病気を持っている大人の方が重症化のリスクは高い。そちらの方にワクチンは回すべきです。

5〜11歳はコロナに対して一番重症化しない年代

——3月にも接種が始まる5〜11歳のワクチンについてはどう考えたらいいですか?

5〜11歳のワクチンは、ワクチンそのものが成人用と別の製品です。mRNAに関しては30μgが10μgに減っただけですが、厳密に言うと安定化剤も含めて成分がほんのわずか違うようです。そのわずかな違いが悪影響を与える可能性は極めて低いですが、多くの子どもに接種して初めてわかることです。

それについてはアメリカで何百万人分ものデータが出てきています。治験のデータに比べると厳密さはないですが、その結果を見る限り、何か深刻な副反応があるとしても非常に稀なものと考えられます。

また一方で、5〜11歳は、一番コロナが重症化しない年齢層なのです。

2歳未満は風邪など、どんな呼吸器感染症でも一定数、肺炎や気管支炎を起こして重症化し、入院する子どもが増えるのが常識です。新型コロナでも2歳未満であれば、一定数は重症化します。だからその年代の入院患者が増えるのは当たり前だと思います。

それより少し上の5〜11歳は一番安全な年代なのです。

——小学校に上がる頃から風邪をあまりひかなくなるように、免疫がついてくるという意味ですか?

それとは違います。インフルエンザでもRSウイルスでも小さい子どもほど致死率は高い。

でも新型コロナは逆転現象が起きています。10代の方が10歳未満よりも致死率は高い。大人と同じような合併症を起こすこともあるし、海外であれば小児多系統炎症性症候群も含めて厄介な合併症は、年少児よりも年長児で起こっています。

また、日本の子どもはアメリカの子どもと比べると重症化のリスクが低いです。

例えば、今回新たにワクチン対象になる5〜11歳の少し前の米国のデータでは、この年代で190万人ぐらい感染していました。

日本では10歳未満で9万数千人感染し、10代でも17万人ぐらいの感染だったことに比べると、アメリカはかなりの数です。感染しているだけではなく、190万人の中の94人が死亡しています。つまり2万人に1人が亡くなったことになります。

日本の子どもにとってはコロナの致死率は風邪レベル

2万人に1人とは、子どもたちのインフルエンザの死亡率とほぼ同じです。アメリカではコロナは子どもにとってインフルエンザ並みに怖い病気です。

日本ではインフルエンザは1歳から4歳、5歳から9歳の死因の5位です。毎年何十人もの子どもが亡くなります。多い年では百数十人もの子どもが亡くなる。亡くならずともインフルエンザ脳症や重症の肺炎で重い後遺症を残す子どもも結構います。

そういう深刻な病気に比べると、日本は15歳未満で十数万人の子どもがかかっているのに、誰1人として亡くなっていません。

ただの風邪のウイルスでも十数万人かかれば、1人か2人亡くなってもおかしくない。ただの風邪が命取りになる病弱の子もいるし、どんな風邪でも心筋炎や脳炎のような稀ながら深刻な合併症を起こします。

日本ではコロナは子どもに対して今のところ、風邪の域を出ていないことになります。

もちろん後遺症がどうであるかはまだ明らかになっていないので、それ如何では「ただの風邪レベル」とは言ってはいけないかもしれません。

でも少なくとも致死率は、風邪レベルなのです。

重症化リスクの高い持病がある子や肥満児には強く接種を勧める

ただし、ただの風邪が命取りになるような重症化リスクの高い子どもたちに対しては、5歳まで接種年齢が下げられるのは朗報です。

慢性呼吸器不全や重い神経学的な後遺症、先天性の心臓病、ダウン症のような染色体の異常など何らかの病気や、小児がん等の病気やその治療のために免疫の力が落ちている子どもと肥満児です。

そういう子どもはリスクが高いので、私もワクチンを積極的に勧めます。5〜11歳でもこの条件に当てはまる子どもたちには、強く勧めるべきだと思います。

アメリカの子どもが日本より重症化する理由の一つはやはり肥満です。肥満児の重症化率は圧倒的に高く、アメリカでは日本と比べて肥満児が非常に多いです。アメリカの子どもの死亡が増えている理由の一つです。

また、合併症である小児多系統炎症性症候群はアフリカ系やヒスパニック系の子どもに多く、アメリカでは6000人を超えています。しかしアジア系の子どもには少ないので、日本では十数例程度です。

これにかかると1%ぐらいの致死率なので、何千人、何万人と患者さんがいると、一定数の死亡者が出ます。日本でももっと増えると中には死亡する子どもも出るかもしれませんが、幸い今のところは大きな問題になっていません。

——オミクロンで子どもの重症化の傾向に変化は見られませんか?

今のところはよくわかっていません。アメリカでもまだよくわからないのですが、今のところ、日本はアメリカに比べ、重症化のリスクは高いわけではありません。

私がアメリカで小児科医をやっていたら、迷わず「どんどん接種しましょう」と勧めるでしょう。

でも、日本の場合、リスクのある子どもには強く勧めますが、健康な子どもには今のこのワクチンが重症化を防ぐことが主たる目的と考えると、接種義務を課すべきものか疑問に思います。

子どものワクチンの副反応は?接種のメリットとの兼ね合いは?

——ワクチンに対する子どもの副反応はどう評価されていますか?

亡くなったり重症化したりするのが稀である場合、副反応に関して相当稀なものであっても気になるのは当然だと思います。

何百万人もの子どもたちが2回の接種を終えたアメリカのデータを見る限り、ワクチンで深刻なことが起きる可能性は非常に低い。決して副反応を心配しているわけではありません。

新型コロナにかかっても熱が出ない子どもが圧倒的に多い一方、このワクチンは2回目の接種を終えた後、38度を超える熱が出る子どもが7%います。

日本人のように37度5分を越しただけでも騒ぐ国民性ならば、十数%は出てきます。

クラスターが起こって感染したことがわかっても、症状のない元気な子どもたちがたくさんいる状況です。その中で、ワクチンをうったら何人かに一人は37度5分以上の熱が出る。「どちらが良かったのか」と悩む親御さんが出てくるのは当然です。

ワクチンの副反応の熱は一時的なので大したことはないのですが、気にする方がいるのは当然でしょう。

——副反応の出方が人種で違う可能性はどうですか?

ワクチンに関して人種の差があるかどうかははっきりわかっていません。

「集団免疫を作るために子どもにうたせる」は間違い

だから、子どもに対する接種について「努力義務」という言葉を使うワクチンではなくなっています。義務になるワクチンは、集団免疫を獲得して免疫が持てない弱い人たちを守ることが主眼にあるワクチンです。

オミクロン株に対して感染予防効果がこれだけ落ちてしまった今では、「集団免疫を作るためにみんなでうつのだ」という言い方は間違っています。

「子どもたちの日常を戻そう」とも言われていましたが、オミクロン株が広がる中で、今のワクチンをうてばマスクなしで合唱コンクールや修学旅行も全てしていいのか、と問われれば、違います。

そうなると、そういう言い方で子どもたちに勧めたら、「騙された!」と思うことになるでしょう。

メリットとデメリットを理解した上で希望者だけに

だから、この年代の子どもに対しては、あくまでもワクチンは重症化を抑えるために接種するという説明になります。

「5歳から11歳は重症化しないんでしょ?」と言われたら、「稀でも重症化することはあるし、その可能性をさらに下げる意味では有用なんですよ」という説明しかできないでしょう。

また、「重症化しないまでも発症しなくて済むのなら、その方が良いですよね」ということでもあるかもしれません。

メリット、デメリットを理解してもらった上で、接種を希望する人には速やかにうつし、接種する時のトラブルが起きないようにするだけです。

5〜11歳と12歳以上では全然違うワクチンなので、同じ接種会場で2種類使えば絶対にトラブルが起こります。

それが起こらないように色々な準備をしなければいけませんし、親が納得しても子どもが納得していなかったら、血管迷走神経反射(※)や機能性身体症状(※)が起こるかもしれません。

※強い緊張やストレスなどで、血圧の低下、脈拍の減少が生じ、ふらつきや失神などを起こす反応。

※検査や診療では明らかな異常が見られないのに出る症状

それも広い意味ではワクチンの副反応です。コロナにかかっても大したことがないのに、ワクチンをうった後にそういうことが起きたら良くないでしょう。

私はワクチンを推進する立場ですが、このワクチンを今のオミクロン株が流行している状況で健康な5歳から11歳に努力義務の扱いで勧めることは賛成できません。

20代での死亡は2万分の1  宝くじで4等が当たるより高い

——成人の場合、重症化するリスクはそれなりにありますし、また別ですよね?

例えば日本でも20代は2万人に1人亡くなっています。アメリカの子どもたちがコロナにかかって亡くなるのと同じぐらいの致死率です。

2万分の1なんて大したことがないと言う人もいるかもしれませんが、私は大したことだと思います。健康な子どもや健康な若者が2万人に1人亡くなるのです。

サマージャンボ宝くじの4等10万円の確率は、3万3333分の1なんです。それよりも高い確率です。「4等ぐらいは当たるかもね」と思って宝くじを買う人は「新型コロナにかかったら死ぬかも」と思った方がいい。

決して小さい確率ではありません。後遺症については最近の研究で嗅覚や味覚障害以外は機能性身体症状の可能性があると報告されています。それは別としても、若者でも半分以上に後遺症が残って、QOL(生活の質)を著しく低下させます。

そこまで考えると、若者が「年寄りのためになんで俺たちが熱が出たりだるくなったりするワクチンをうたなければならないんだ!」と思うなら、「君たちのためなんだよ」と伝えたいです。私の息子も20代ですが、ちゃんとうっています。

でも5歳から11歳の子どもの後遺症はまったくわかっていません。それを理由にうつには、今の時点では証拠が足りないと思います。

重症化するかどうかはそのウイルスの経験値で決まる

——ところで、なぜ5〜11歳はそれより下や上の世代よりコロナに強いのでしょう?

新型コロナウイルスは極論すれば子どもにとっては他の風邪のウイルスとそう変わりありません。だから風邪のような症状だけで治っていきます。

ではなぜ他の世代で重症化するかと言えば、ウイルスではなく、私たち側に問題があるのです。

ただの風邪のウイルスでも、初めてもたらされたところでは重症化するのは昔からよく知られている現象です。

チンパンジーに人の鼻風邪のウイルスが流行したところ、致死率が10%近くなったという報告があります。アフリカで毎年インフルエンザが流行る都会ではいつも通りだったのに、初めてもたらされた山奥では人口の3分の2がかかり2〜3%が亡くなったという報告もあります。

子どもの頃にかかったことがないまま大人になってかかると重症化する感染症は少なくありません。コロナに限らず麻疹も水ぼうそうもそうです。

スペイン風邪でも赤ちゃんや高齢者以外に死亡者が多かったのは、20代、30代の若者でした。その年になって初めて新しいタイプのインフルエンザにかかると、体が過剰反応するからです。

お年寄りが新型コロナで重症化するのは、免疫老化という現象が起きているからです。お年寄りの免疫記憶は物覚えと一緒で昔のことはよく覚えているけれど、新しいことは覚えきれない。

インフルエンザの大流行が起きる時、80〜90代では症状が軽くて、60〜70代が重症となることがあります。80〜90代の人が幼い頃にかかったウイルスとよく似たウイルスが時を経て再び流行した時にそういう現象が起こります。

子どもの頃の免疫が高齢になっても残っているのです。だから軽くて済む。ところが新しいウイルスに対しては効きません。うまくいかないで足掻いているうちに炎症反応だけが積み重なって、身体に害を与えてしまうのです。

若者は若者でなまじ免疫が元気なので、新しい病原体に出くわすと免疫が過剰に反応して、合併症を起こします。

いずれにしても新型コロナはエボラ出血熱のように誰もが重症化するウイルスではありません。私たちの免疫系が重症化リスクに関わっています。

子どもはある意味「風邪の子」なんです。風邪のウイルスに一番普通に反応できる。自然免疫でも反応して、重症化しないための獲得免疫も感染した時にちゃんと作り上げていく。

子どもたちにとっては、全てのコロナウイルスは新型なので、他の風邪のウイルスと同様、普通に対応できるのです。

(続く)

【森内浩幸(もりうち・ひろゆき)】長崎大学小児科学教室主任教授(感染症学)

1984年、長崎大学医学部卒業。1990年以降米国National Institute of Healthにおいてウイルス研究と感染症臨床に従事し、1999年から長崎大学小児科学教室主任教授。

日本小児科学会理事、日本小児感染症学会理事長、日本ウイルス学会理事、日本ワクチン学会理事、日本臨床ウイルス学会幹事、日本小児保健協会理事、日本感染症学会評議員。