• medicaljp badge

大麻の「使用罪」導入の方向で議論 厚労省の新たな小委員会がスタート

厚生労働省の「大麻規制検討小委員会」が新たに始まり、大麻の「使用罪」導入の方向で議論することになりました。また前回の検討会と違い、「発言者の特定を行わないこと」とする傍聴要件がなくなりました。

大麻の「使用罪」を新たに設けるかなどを検討する厚生労働省の「大麻規制検討小委員会」(座長=合田幸広・国立医薬品食品衛生研究所所長)が5月25日、初会合を開いた。

昨年開かれた厚労省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」では、使用罪が必要という意見が多かったものの、実際に患者を診る医師や当事者団体からは、「回復支援に力点を置く国際的な流れに逆行する」「使用罪が抑制に効果があるという論拠は乏しい」などと反対の声が上がっていた。

検討会の報告書も両論併記の形を取っていたが、これを受けて議論するはずの小委員会では、事務局から使用罪導入の方向で論点が示され、反対する委員もいなかった。

小委員会で議論された内容は、上部にある厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会に報告された上で、法改正手続きに進む。

また、今回と同様、厚労省の監視指導・麻薬対策課が事務局を務めた前段の検討会では「発言者の特定を行わないこと」という傍聴要件が設けられていたが、今回の小委員会ではこの要件は外された。

BuzzFeed Japan Medicalは「国民の知る権利と報道の自由を阻害する」として、この傍聴要件に抗議していた。

検討会では両論併記だったが...論点の一つとして「使用罪創設」も 

冒頭、厚労省事務局が検討会での取りまとめを紹介したが、検討会の取りまとめは両論併記だったにもかかわらず、「大麻の『使用』に対する罰則の導入について基本的な方向性が示された」と、罰則導入を前提とする説明がなされた。

そして、小委員会で議論する内容として、以下の4つの論点を事務局から示した。

  1. 医療ニーズへの対応(難治性てんかんに対して大麻由来の医薬品を使えるようにするため、大麻から製造された医薬品の施用を禁止している大麻取締法の関係条項を改正)
  2. 薬物乱用への対応(使用罪創設、再乱用防止や薬物依存者の社会復帰等への支援、麻薬中毒者制度の廃止)
  3. 規制対象ではない成分CBDを利用した製品の利用、有害物質であるTHC含有量の濃度基準を作成
  4. 適切な栽培及び管理の徹底


依存症診療の精神科医も異なる意見

前回の検討会に委員として参加し、使用罪創設に反対を唱えた国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さんは、今回、参考人として出席し、大麻関連の患者の特徴と国内における治療・支援体制の現状について話した。

松本さんは、まず国内の精神科の医療機関に対して2年に1回行っている調査によると、薬物で健康に問題を抱えて病院にかかる人は覚せい剤が最も多く、それに続くのは処方薬や市販薬で、むしろ大麻は少ないことを示した。

また、覚せい剤と比べて、大麻使用者は比較的高学歴で働いている人も多く、依存症の割合や生活上で困る人が少なく、治療や回復支援を求めることも乏しい特徴があると説明した。

大麻規制で考慮すべきこととしては、逮捕して未来ある若者が「前科者」になることの社会的損失を考えるべきだと訴えた。逮捕によって治療につなげるという主張については、エビデンスの確立した大麻依存症の治療法がなく、生活上問題がない「愛好家」に対して強制的に依存症治療を課すことは人権上問題があると、疑問を投げかけた。

そして、依存症治療の専門家として希望するのは「SOSを出しやすい社会づくり」だと述べ、「犯罪化したり、『ダメ・ゼッタイ。』のような差別的、排除的な啓発プロパガンダがもたらすスティグマ化で、困っている人がアクセスしづらい状況になってないか」と、犯罪化することによって困難を抱えている人が助けを求めにくくなる弊害を訴えた。

一方、今回、薬物依存症の患者を診療する精神科医として委員になった小林桜児・ 神奈川県立精神医療センター副院長は、「大麻を使用していると他の薬物に移行しやすい傾向はある」として、何らかの法的な規制が必要だと発言。

「違法であることによって何かしら生活に困り感が生じて、それが止め続ける動機づけの一つになっていると患者からの話に出てくることがある。一方で、刑事罰化に伴うスティグマはまさにあり、日本の場合は『前科者』が社会的に排除されてしまう要素がある」とした上で、こう述べた。

「できるだけ早く患者さんに困り感を感じてもらって、早く生活のトラブルを感じ、薬物を使いながらの生活は無理なんじゃないかと感じてもらう一つの要素として、何らかの司法の強制力があってもいいんじゃないか。逮捕されたことがきっかけで考えが変わる患者さんもいる。刑事罰とは違った形で、患者さんの生活に何かしらの困難感が生じるような、法的な対応を日本で考えてもいいのではないか」

「使用罪」導入の論点については他の委員からも特に反対意見はなく、導入の方向で議論が進むことになる。

「発言者の特定を行わないこと」が傍聴要件から削除

また、今回の小委員会では、前回の検討会で設けられていた「発言者の特定を行わないこと」という傍聴要件が無くなった。

昨年行われた検討会では「発言者の特定を行わないこと」という傍聴要件を設け、その理由を、以下のようにBuzzFeedに答えていた。

「発言者氏名を公にすることで、発言者等に対し外部からの圧力、干渉、危害が及ぶおそれが生じることから、発言者氏名を除いた議事録を公開することとしており、同趣旨から報道機関の方にも発言者の特定をしないようお願いしている」

「薬物の関係はセンシティブな問題で、発言者に圧力がかかることも実際に起こっている」

これに対し、BuzzFeed Japan Medicalは、国民の知る権利や報道の自由の観点から納得できるものではないとして抵抗した。

そして取りまとめをした最終回は委員の氏名入りで報じたところ、監視指導・麻薬対策課の課長補佐から「発言者を特定するような内容が掲載されたことは、当課としては許容し難いものなので、今後、御社の検討会や審議会の入場に関しましては検討させていただきたい」と電話で通告があった。

BuzzFeedはこの対応についても国民の知る権利や報道の自由に行政が不当に制限を加えるものだとして抗議し、委員に危害を加えるようなことが確認されていない以上、法案の中身を詰める今後の審議会では、国民に議論をオープンに伝えるためにも、過剰な傍聴制限のルールを設けないよう要望していた

なお、この傍聴申込書について他に問題視する報道機関はなかったという。

厚労省「局長の私的調査会の検討会は公開規定はない」

そして、今回の小委員会は前回と同じく、傍聴は報道関係者に限られていたが、傍聴申し込み用紙は所属や氏名、連絡先を書く欄のみだった。

その後、5月23日、傍聴の案内と共に、傍聴者が遵守すべき事項として厚労省がメールで送ってきたのは以下の同意書だ。

「発言者の特定を行わないこと」が削除されている。大麻の規制の内容を話し合う会議であり、前回と条件が変わったわけではない。

これについて、BuzzFeedに「傍聴禁止」の可能性を通告していた監視指導・麻薬対策課の山根正司課長補佐は「今回は厚生科学審議会であり、審議会の規定では全面公開となっているため」と理由を示した。

前回の検討会では発言者の氏名を非公開とした理由については「局長の私的調査会のため、審議会の公開規定は適用されない」と説明。

局長の私的調査会と言っても、公費で運営され、逮捕要件を広げる内容が検討された公的な検討会だ。国民の知る権利や報道の自由を制限してまで、一部非公開を決めた根拠は何なのか。

これについては、同課の酒井一雄課長補佐は「私的調査会に公開規定はない」と回答。「委員に危害が加えられる可能性を考えて、事務局が発言者の特定を行わないというルールを決めた」と答えた。

厚労省は前回の検討会全てを通じて、委員に危害が加えられることはなかったとBuzzFeedの取材に答えている。

今回の小委員会に適用される厚生科学審議会の運営規定では、以下のように公開の原則が書かれているが、委員への危害の恐れを理由に非公開とする要件は書かれていないように見える。もし厚労省が「危害の恐れ」を感じても、公開は貫かれるのか?

第5条 審議会の会議は公開とする。ただし、公開することにより、個人情報の保護に支障を及ぼすおそれがある場合又は知的財産権その他個人若しくは団体の権利利益が不当に侵害されるおそれがある場合には、会長は、会議を非公開
とすることができる。

酒井課長補佐は、「『個人若しくは団体の権利利益が不当に侵害されるおそれがある場合』という条文は、審議される個人や団体と捉えられそうだが、広く取れば委員も対象になると考えている。もし今後も委員に危害が加えられる可能性があると判断すれば、座長と相談しながら非公開とする対応も考えたい」とする。

「厚労省の考える『可能性』を引き合いに、国民の知る権利や報道の自由を恣意的に規制するのは権力の濫用ではないか」と質問したところ、酒井補佐は「あくまでも公開を原則としつつどうするかという目で判断し、まずは公開ありきで考える。その中でどうしても、ということがもしあれば、非公開にせざるを得ないことが出てくる可能性もゼロではない」と答えた。

傍聴要件をめぐっては、BuzzFeed Japan Medicalが「国民の知る権利を阻害する」として抗議を続け、最終回で委員名と共に発言を書いたところ、「今後の審議会や検討会の入場に関しては検討する」と、今後のBuzzFeedの記者の傍聴を拒絶する可能性を示していた。