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大麻検討会とりまとめ「使用罪」創設については反対意見も明記 大麻医薬品使用にも道を開く提言

厚労省の大麻検討会で、焦点の一つとなっていた大麻「使用罪」の創設については、「罰則を科すことが必要であるという意見が多かった」と書かれる一方、反対意見も明記する形で最終報告が取りまとめられました。また、大麻医薬品の利用にも道を開くよう提言されました。

厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」は6月11日、第8回目の会合を開き、最終報告書を取りまとめた。

焦点の一つである大麻「使用罪」創設については、「罰則を科すことが必要であるという意見が多かった」と書かれる一方、反対意見も詳細に明記された。

また、大麻取締法の大麻草の部位による規制は成分に基づく規制に変えることや、大麻から作られた医薬品の使用にも道を開くことも提言された。

これを受けて、今後、審議会や自民党内などで法律の改正案について協議され、来年3月の国会に大麻取締法改正案が提案される見込み。

「使用罪」については「必要意見が多い」としつつ反対意見も明記

これまで大麻取締法に使用罪が設けられてこなかったのは、伝統的な麻農家が収穫の時に大麻成分を吸い込み、「麻酔い」を起こし、罰せられる可能性を考慮したためとされている。

今回、焦点の一つとなっていた大麻「使用罪」の創設については、大麻草農家の尿中から大麻成分が確認されなかったことを理由に、

「不正な使用の取締りの観点や他の薬物法規との整合性の観点からは、大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見い出し難い」と書かれた。

また、大麻の単純所持で検挙された人の調査で、「使用罪」がないことが使用する要因となったと答えた人が2割いることを根拠に、

「他の薬物法規と同様、大麻の使用に対し罰則を科すことが必要であるという意見が多かった」とも書かれた。

一方、「3名の委員より反対意見があった」として、以下の反対内容も詳細に書き込まれた。

  • 国際的には薬物乱用者に対する回復支援に力点が置かれている中で、その流れに逆行する
  • 使用罪の導入が大麻使用の抑制につながるという論拠が乏しい
  • 大麻事犯の検挙者数の増加に伴い、国内において、暴力事件や交通事故、大麻使用関連の精神障害者が増加しているという事実は確認されておらず、大麻の使用が社会的な弊害を生じさせているとはいえないことから、使用罪を制定する立法事実がない
  • 大麻を使用した者を刑罰により罰することは、大麻を使用した者が一層周囲の者に相談しづらくなり、孤立を深め、スティグマ(偏見)を助長するおそれがある

反対意見を表明したのは、以下の3人だ。

  • 「川崎ダルク支援会」理事長 岡﨑重人氏
  • 国立精神・神経医療研究センター
    精神保健研究所薬物依存研究部 心理社会研究室室長 嶋根卓也氏
  • 国立精神・神経医療研究センター
    精神保健研究所 薬物依存研究部部長 松本俊彦氏


そして、いずれにしても、「薬物依存症の治療等を含めた再乱用防止や社会復帰支援策も併せて充実させるべきである」と治療や回復支援に力を入れることを求めた。

大麻医薬品に道を開く

また、検討会の目的の一つは、難治性てんかんの薬「エピディオレックス」など、大麻の成分を含む医薬品を国内でも使えるように法律を整理することだった。

これについては、まず従来、大麻草の部位によって規制していた大麻取締法を改正し、精神作用を引き起こすTHC(テトラヒドロカンナビノール)に着目した成分規制に見直すことが提言された。

そして、免許制度などで流通を管理することを前提として、大麻成分を使った医薬品の製造や利用を可能とすべきと提言された。

これで日本でも大麻由来の医薬品の利用に道が開かれることになる。

委員からは改めて使用罪反対の意見も

とりまとめ案は合意されたが、使用罪創設に反対意見を述べていた岡﨑重人・川崎ダルク支援会理事長や、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦・薬物依存研究部部長から、当事者をよく知る依存症の回復支援に関わる人の声を聞くべきだったと意見が出された。

依存症患者を診療している松本氏は改めてこう使用罪に反対意見を述べた。

「健康によろしくないものを国が全く使わないようにするために犯罪化することで少数の人を見せしめにしたり、生贄にしたりしてみんな使ってはだめだよというのも一つのやり方かもしれない。が、私としては問題を抱えた方が安心して、安全を感じながら助けを求め、相談して、治療できる社会になってほしい。出来るだけ薬物関連の犯罪は必要最小限にすべきだと思う」

田中徹監視指導・麻薬対策課長は国内での使用の可能性が開かれることになった大麻由来医薬品について、「国内での承認申請や審査があって科学的なエビデンスをもって有効性や安全性が認められて初めて認められる。過剰な期待を煽ることはやめてほしい」と幅広い用途への期待を書く報道に釘を刺した。

今後、審議会や与党で法改正の議論

この最終報告の取りまとめを受けて、今後、秋に開かれる審議会での議論を経て、法改正が国会で議論されることになる。

検討会後、報道陣の囲み取材に答えた田中徹監視指導・麻薬対策課長は、通常の流れなら、審議会で法改正の詳細を詰めた後に、来年3月の国会に大麻取締法改正案を提案し、5、6月に審議するという見込みを語った。

使用罪については、「検討会では(使用罪が必要という)意見が多かった。それを第1回の審議会の資料にして報告するのは当たり前だ。反対の意見も含めて審議会ではご紹介させていただいて、それをどう考えるかということだ」と話した。

また、課長としては使用罪を作るのは合理的だと考えていることを明かし、依存症支援団体などからの使用罪への反対意見が要望として出ていることについては、「反対意見もあるが声に出さずに賛成している人もいる。国会の皆さんの声もよく耳を傾け、数ヶ月かけて整理していきたい」と話した。

また使用罪によってスティグマが強化され、相談につながりにくくなるという意見に対しては「実際そうなのだろうと思う。配慮は必要。だからといって法律論は別の話」とした。

自民党は検討会と歩調を合わせ、3月19日に大麻事犯等撲滅プロジェクトチーム(PT)を設立している。

6月16日に同PTも取りまとめをする予定だが、検討会事務局である厚労省の監視指導・麻薬対策課の意向が議論に強く反映されており、大麻「使用」に対する法規制の必要性が盛り込まれる可能性が高いと関係者は話す。

自民党の政務調査会は、「厚労省の検討会での結論を受けて、厚生労働部会の薬事に関する小委員会で秋以降に議論が始まることになるだろう。その際にPTの取りまとめも参考にしていただく可能性はある」とBuzzFeed Japan Medicalの取材に答えている。

大麻取締法に「使用罪」創設については、国内の弁護士有志や関連学会薬物問題に取り組む人権擁護団体依存症支援団体から反対の意見書が厚労省に相次いで提出されている。

薬物依存症回復支援団体は「当事者の声を聞いて」と批判の声

検討会の取りまとめを受けて、薬物依存症当事者で、ダルク女性ハウスで当事者の回復支援をしている日本薬物政策アドボカシーネットワーク代表の上岡陽江さんは、オンラインの記者会見でこう批判の声をあげた。

「とりまとめの文章を読み、悲しく思いました。このやり方ではますます生き延びるのが困難になると思うからです。どうしたらこのことを政府や専門家に分かってもらえるかと嘆きたい思いです」

「大麻という薬物使用や薬物乱用について書かれていますが、人について書かれているとは感じることができなかった。この文章はいったい誰のためを思って考えられた文章なのかと思うのです。専門的な知識はあるけれど、当事者とつながりを持たない人たちが自分たちから見るとこうあるべきだと押し付けたい方法をとりまとめたもののように思えます」

検討会の中でほとんどの委員は使用罪に賛同したことに触れ、日常的に当事者とつながりがあると感じられる委員は数人でその人たちは反対したと語った。

その上で、「私たちの声を大切に受け止めていただけたら嬉しい」と訴えた。