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「性教育、大事なのはわかるけど…何からすればいい?」迷える大人たちに、産婦人科医が知ってほしいこと

「性教育」ってなんだか難しい…。いつ、何を伝えるべき?そもそも、なぜ必要なの?産婦人科の高橋先生にお話を聞きました。

産婦人科医として働きながら、性教育に力を入れる高橋幸子先生。

学校現場では、子どもたちはもちろん、先生や保護者に向けにも講演を重ね、その数年間120回以上。書籍やWebコンテンツ、ドラマなどの監修にも精力的に協力しています。

性教育が大切なのはわかる、我が子にもきちんと伝えたい。でも、いつ、何から、どうやって話せばいいの?

そもそも自分も習ってないから“正解”がわからない!

そんな大人のみなさんに伝えたいアドバイスはありますか? 高橋先生に聞きました。

コンドームを教えるのは何歳?

――性に関することは親子でもまだ語りにくいと思います。どの年齢でどんなことを伝えるべきなんでしょうか?

参考にしてほしいのはユネスコなどがまとめた「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」です。2009年に初版、2018年に改定された国際的な性教育の指針です。

何歳の時にこんなことを教えるといいですよ、というのがこと細かに書いてあって、大人でも勉強になりますよ。

簡単にお話しすると、年齢別に、レベル1(5〜8歳)、レベル2(9〜12歳)、レベル3(12〜15歳)、レベル4(15〜18歳以上)の4つにわけられ、発達段階に応じたそれぞれの学習目標がまとめられています。

例えば避妊を例にとると、レベル1では「妊娠は計画できるものである」と知り、レベル2ではコンドームについて学び、レベル3ではコンドーム以外の避妊方法の利点と欠点を言える事が目指されます。

レベル4になると、予期しない妊娠をした時、自分が何をどう考えてどう行動するべきか、どこがサポートをしてくれるのか、というところまで踏み込みます。

――小学校高学年の段階で、もうコンドームの存在について知っておこうということですね。

9歳から、というとかなり早く感じますよね。日本の性教育が、世界の指標にはまったくたどりついていないというのが明らかだと思います。

国際セクシュアリティ教育ガイダンスの考え方の素晴らしいところは、生殖や成長のことだけでなく、人間関係や人権についても一緒に学ぶ「包括的性教育」なんです。

だからこそ、日本でももっと進めていく必要があるなと思います。

ネットで読める「正しい」性知識

――ネット上でこれだけ丁寧な資料があると、中学生や高校生もアクセスしやすくていいですね。

ネットで読めるもう少しやさしいもので言うと、コロナ禍における妊娠不安相談のアンサーブックとして、高校生向けに作られた「つながるブック」があります。

この本の特徴は、22ページしかないのに10ページまでいってもまだセックスに至らないこと(笑)

セックスありきで避妊の話、性感染症の話、と進めていくこれまでの性教育の概念をひっくり返すことを意識しました。

妊娠の仕組みとは、市販の妊娠検査薬とは、という解説から、子供を産む選択も産まない選択も女性の権利ですよ、という考え方まで。10代のみなさんに向けて、丁寧に伝えるようにしています。

さらに低年齢向けには、小学生向けのマンガ雑誌「りぼん」の付録として去年制作された「生理カンペキBOOK」が2022年6月に無料公開されました。

学校や家庭での教育にも活用してほしいですし、男の子も大人も一緒に学べるように内容も工夫しています。ぜひ男女一緒に学んで理解してほしいです。

いずれも私が監修に関わっていますが、こうやって手に取りやすい情報発信ができていることがとてもうれしいですし、社会の性教育への意識の変化を感じます。

子供から大人まで、今伝えたいこと

――先生が活動の中で一番伝えたいことはなんでしょうか?

子どもたちに対しては、何より「皆さんの人生には選択肢がありますよ」ということですよね。選択肢がたくさんある中で、自分で選び取ってつかみ取っていける力を持ってほしいなあということ。

あとは「もっと学びたいな」という感想をもらうと、とても嬉しいです。知ることは豊かなことだ、って知ってほしい。

――大人たちにはどうですか?

前編でも触れましたが、まずは「SOSを受け取る準備をしておきましょう」というところですね。

教育現場の先生たちには、インターネットからゆがんだ情報がどんどん入ってきてしまう前に、あらかじめ科学的に正しい知識を伝えておいてあげることが必要な時代だとお伝えしたいです。

事前にインプットしておくことで、誤った情報が入ってきたときに「これは違うな」と気付けるようにしてほしいです。

家庭では、まず「あなたは大事な存在だよ」ということを子どもに繰り返し伝えてほしいと思います。

「あなたは大事な存在だから、自分で自分を大切にすることができるよ」「あなたが大事な存在なのと同じくらい、ほかの人も大事なんだよ」と。

「だから、自分と同じぐらい他の人も大切にしないといけないよ」。これが包括的性教育のうえで前提となる考え方ですし、ここをしっかり育ててほしいですね。

――学校では科学的に知識を教えて、家庭では心の教育に重点を置くということですね。

大事なことは、全ての家庭が均一な教育ができるわけではないということです。

だからこそ、学校という場で最低限の知識を教える必要があるんです。

性教育は生きるための選択肢

――最後に、ズバリ性教育はなぜ必要なのか。先生はどう思いますか?

性教育は生きるための選択肢です。

選択肢を知って、それをつかみ取る。ひとつでも多く知ることが自分で自分の人生を決めていくことなのかなというふうに思います。

――やはり、知ることが何より大切なんですね。

そうですね。ただ、自分だけが知っていてもダメですよね。親に言わないと病院に行けないという状況、選択肢を知っていてもそれを選びにくい、手に入れにくい状況が、日本にはまだまだあるので……。

性に関わる決定や判断をすることへの垣根を下げてあげるのも、性教育と同時進行でやっていく必要があると思います。

――大人も含め、みんなが正しい知識を身につけて、自分を大切にできるといいですね。

本当にそうだと思います。性についての知識だけというよりは、人間関係を学ぶのが包括的な性教育で人権教育だなと思うので。

科学的な知識がつくのは当たり前、個人が幸せになるのは当たり前です。そうやって多くの人が正しい知識を持ち、少しずつでも意識が変化していけば、社会全体も変わっていく。いつかきっと、さまざまな社会問題を解決する力になる。

性教育には、そんな力さえあると思っています。

高橋幸子(たかはし さちこ)

埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター/産婦人科医。日本家族計画協会クリニック非常勤医師。彩の国思春期研究会西部支部会長。

BuzzFeedでは、成長期に誰もが経験するからだとこころの変化について学ぶ特集「からここの森」シリーズに「サッコ先生」として出演している。

年間120回以上、全国の小学校・中学校・高等学校にて性教育の講演を行い、性教育の普及・啓発に尽力している。ドラマ、Webコンテンツ、書籍などの監修も多数。

著書に『サッコ先生と!からだこころ研究所~小学生と考える「性ってなに?」』(リトルモア)、『マンガでわかる!28歳からのオトメのからだ大全』(KADOKAWA)。