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「コンドームは単語だけ、使い方は教えない」おかしな日本の性教育。産婦人科医が見てきた“現実”

まだまだ十分ではない日本の「性教育」。数年前までは学校で性の話をすることに強いタブー感があり、激しい「性教育バッシング」があったと言います。専門家から見た現状や問題点は?産婦人科医の高橋幸子先生に、詳しくお話を聞きました。

「性教育がしたくて、産婦人科医になりました」

そう話すのは、「サッコ先生」の愛称で知られる産婦人科医の高橋幸子先生です。

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病院内の診療にとどまらず、性教育に関する講演、メディア向けの情報提供、専門家としての監修・アドバイスなどに積極的に取り組んでいます。

しかし、今に至るまでの道のりは簡単なものではありませんでした。

「数年前までは『性教育バッシング』が本当に激しかったんですよ」

「顔と名前を出して性教育のことを話すと、叩かれるのを恐れて……」

「性に関することを公の場で、特に子どもたちの前で口にするなんて!というタブー感はあったと思います」

状況は少しずつ変わりつつあり、テレビや雑誌、Webサイトで性教育関連のコンテンツを目にする機会は着実に増えてきています。

「今は一人でも性教育の大切さを理解してくれる大人を増やしたい、味方を増やしたいというフェーズ」と話すサッコ先生。

学校教育における性教育の現状や課題、発信を通して先生が伝えたいことを聞きました。

「学校でセックスの話はするな」

――先生からみた、性教育業界の現状を教えてください。

注目度はかなり高まっていると思います。私自身、講演に行く回数も、メディアからの取材も増えています。

出版も盛況です。性教育に関する本は例年10冊程度しか出ていなかったのが、2022年は8月の時点で40冊!今まさに「性教育ブーム」と言っていいくらい、ニーズも増えていると思います。

――個人の関心は高まっている一方、まだまだ日本では学校での性教育は遅れている印象があります。何が問題なのでしょうか?

学習指導要領による「歯止め規定」問題です。聞いたことありますか?

―― 初めて聞きました…。

学校で人の誕生について学ぶ際に「受精に至る過程は取り扱わないものとする」というのが歯止め規定です。つまり、簡単にいうと、「性教育でセックスの話はするな」って意味なんですよ。

※歯止め規定:性に関する内容では「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」(小5、理科)、「妊娠の経過は取り扱わないものとする」(中1、保健体育)の2つがあり、1998年に初めて記載された。この規定により、性交について授業内で詳しく伝えると「学習指導要領を逸脱しており不適切」と厳しい批判を浴びることになり、性教育が萎縮する要因になった。

例えば、中3の保健体育では性感染症を学ぶんですけど、コンドームという単語自体は教科書に出てくるんですね。でも、写真もなければ付け方の説明もない。もちろんセックスの話はしないんです。

高校生になってやっと避妊について具体的なことを学ぶようになるんですけど……明らかに遅いですよね。

日本性教育協会が6年おきに調査している「若者の性行動調査」によると、1987年には中学生の性行為経験率は1.8%だったのが、2017年には4.5%まで増加しているんです。

大学生や高校生は2005年をピークに下がっているのに、中学生だけ増えている。現実に中学生の5%に性行為の経験があるのに、避妊は高校生になってから学ぶのが今の現状です。

避妊を学んでいない状態で性行為に及んでいるというのは、やっぱり教育的に抜けてるよね、ということで、現実に即して、そして発達年齢段階に応じて性教育をしていかなきゃいけないんじゃないか、というのが最近の流れです。

でも、先ほども話したように「学習指導要領」には含まれていないんですよね。それを越えた内容をすると、学校側に保護者からバッシングが来てしまう可能性があります。

そうなると困るので、先生たちは突っ込んだ授業をするのをためらい、その間に先輩教師から後輩への伝承も途切れたといいます。

だから日本の性教育って、教科書の内容をただ棒読みするだけで終わってしまうんですよね。

――そうすると、なかなか自分ごとに思えないですよね…。

そうなんです。今は性教育への理解者を一生懸命増やそうとしている状況です。

少しずつ、主に保護者の方たちのあいだで「今の性教育はおかしい」「きちんと教えるべきだ」という意識は強まっていると思います。体感的にはここ3年ぐらいの話ですね。

@buzzfeednewsjp

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性教育が必要なのは子どもだけじゃない

でも、まだまだなところも感じます。例えば、小学校で講演会をすると、7割程度の保護者が来てくれるんですが、中学校になると、7%ぐらいの参加率なんです。

性感染症や避妊についてや、「生理痛がひどかったら産婦人科に行きましょう」なんて話も、子どもたちだけが知っていてもなかなか対処できないことで。

その年代だと、保護者の同意や理解を得られないと病院に行くことはなかなか難しいですよね。

保護者のみなさんにも一緒に話を聞いてもらうことで、相談するハードルをさげることができるので、親御さんの世代にも積極的に伝えていきたいと思っています。

――なるほど。性教育が必要なのは子どもたちだけではないんですね。

そうです。むしろ、このままでは大人たちが子どものSOSに気づかないんじゃないか、という不安もあります。

――それはどういう意味ですか?

これから性教育の内容が変化していくと、自分の身に起こっていることに対してSOSを出してくる子どもが増えるかもしれないですよね。そのSOSを受け取る準備が、大人たちにできてますか?という心配です。

そう感じるのは、私自身の経験も大きいです。昔、中学3年生に講演をした後に、ある女の子が保健室の先生に相談に来てくれたんです。

「先生の話を聞いて、家で毎日お父さんとしていることが赤ちゃんができることだって初めてわかった」と。

彼女自身のヘルプをきっかけに児童相談所に保護され、私が病院で診察をしました。

性について知るということは、そういうことです。正しい知識を得ることで、自分の身に迫る危険を避けたり、認知したりできます。

このような子供たちのSOSを、果たして大人たちはきちんと受け止められるのか。今のままでは不安です。

「新しくて難しくて…そして厄介」

――保護者の関心も高まり、実際の教育現場では、以前と比べると随分よくなった、という感じなんでしょうか?先生方の意識はどうですか?

全然、全然です。今は養護教育の先生を中心に関心を持ってくれて、ほかの先生たちにも聞かせたい!協力してもらいたい!という段階です。本格的に変わっていくのはもう少し時間がかかるでしょうね。

学校としては、正直、性教育は家庭でやってほしい気持ちがあると思うんですよね……。同時に、全ての家庭が均一ではないこと、学校で広く伝えることに意義があることにも、気がついてはくれています。

でも、性をどう教えるか、伝えるかをこれまで勉強してない先生たちにとってはなかなかハードルが高いですよね。自分たちが学生の時には教育を受けていないし、先輩の先生たちから受け継がれたものもないし。

新しくて難しくて……そして厄介なものという感覚はやっぱりあると思います。現場もまだまだ探り途中なのが実態です。

(後編に続く)

高橋幸子(たかはし さちこ)

埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センター/産婦人科医。日本家族計画協会クリニック非常勤医師。彩の国思春期研究会西部支部会長。BuzzFeedでは、成長期に誰もが経験するからだとこころの変化について学ぶ特集「からここの森」シリーズに「サッコ先生」として出演している。

年間120回以上、全国の小学校・中学校・高等学校にて性教育の講演を行い、性教育の普及・啓発に尽力している。ドラマ、Webコンテンツ、書籍などの監修も多数。

著書に『サッコ先生と!からだこころ研究所~小学生と考える「性ってなに?」』(リトルモア)、『マンガでわかる!28歳からのオトメのからだ大全』(KADOKAWA)。