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日本の女性、「嫌なものは嫌」と言えないのはなぜ? 幼い頃から培われた女性観の罠

なぜ日本の女性は性の場面やお産で自分の苦痛を正直に訴えられないのでしょうか? 日本を内と外から見てきたアメリカ在住の精神科医、内田舞さんは幼いころから培われた「女性観」が男女の考えや行動を縛っていると分析します。

コロナワクチンの情報発信で気づく日本の女性の生きづらさ」で、多くの女性と男性の共感を呼んだハーバード大学精神科医の内田舞さん。

先進国の中でジェンダーギャップ指数最下位の日本における「女性観」が、女性の性の認識のゆがみや、女性への医療の遅れを引き起こすことを指摘します。

アメリカ人の少年が見抜いた日本アニメの「同意」の欠如

先日、日本のアニメをこよなく愛するアメリカ人の12歳の男の子を診察した際、「日本の漫画の女の子は、どうしてストーリーに関係なく制服の短いスカートの斜め下から下着が見えそうな角度で描かれるの?」と聞かれました。

「どうしてだと思う?」と聞き返してみたら、12歳の少年はこう答えました。

「日本では制服を着るような幼い少女を性的にみてもいいと思われてるんじゃないかな?こんなシーンが頻繁に漫画に出てくるのは、女の人の同意を得るとか、女の人を尊敬するとかいう気持ちがない男の人が多いんだと思うよ。僕は、アニメでも、自立した強い女の人が描かれてないとおかしいと思う」

私が住んでいるボストンは、アメリカの中でも最もリベラルな地域です。ここで育った男の子はこんなことに気付き、それを言語化できるのか、と私はアニメ好きの少年の洞察力に感動してしまいました。

確かに、漫画のキャラクターや描かれ方というのは、読む人、見る人の希望や認識が反映されるものです。

ドラえもんのしずかちゃんはどうしてこんなにもお風呂を覗かれるのでしょうか。四次元ポケットから出される他の道具の性能を考えると、性犯罪防止セキュリティ機能の技術は付けられそうなのに、「どこでもドア」は高頻度で入浴中のしずかちゃんの前に現れます。

「えっちー!」と桶を投げるしずかちゃんと「ごめんごめん」と笑いながらお風呂を後にする男の子達の図が、国民的漫画で笑うシーンになっているーー。

どこか「少女のお風呂を覗くのは悪戯のうち」「女の子が嫌がっても行動を変える必要はない」という認識が日本社会の中で共有されているからなのではないかと思います。

恥じらいの押し付け

日本女性には、主体的に性に向き合うことは恥ずかしいことだ、と恥じらいが押し付けられていると感じます。

聞いたところでは、アダルトビデオや成人誌の漫画でも、女性は最初は「嫌だ」と言ったり、何が起こっているのかわからないような状況下で男性が強引に迫るうちに、女性が恥ずかしいと思いながら性行為を楽しみ出すというシナリオが多数を占めるそうです。

グラマラスな女性が実は処女だという設定や、自分が男性に性的な感情を抱かせてしまったことに顔を赤らめているシーンなども読者や視聴者に響くもので、頻繁に採用されるシナリオだそうです。

私は、男性でも女性でも「恥ずかしい」と思う気持ちを正直に表現することは大切だと思います。しかし、主体性を示すことを悪とされ、恥じらうことが求められる場面で、性的なアプローチに対してはっきりYES・NOと意思表明をするのは非常に難しいです。

また、女性がNOと言った場合、相手には本気のNOなのか、このまま押していくべき恥じらいのNOなのか、という判別はできるのでしょうか?

女性が主体的に性に関わることがタブー視されることが、愛し合う仲であっても同意がはっきり伝えにくいカルチャーを生んでしまっているのではないかと私は懸念します。

経口避妊ピルの承認には40年、バイアグラの承認は6か月

女性が性に関して主体的な選択をすることがタブー視されるカルチャーの弊害は性行為だけに留まらず、女性の身体にまつわる医療にまでも繋がっています。

例えば、日本で使われる避妊方法は大方男性の判断に任せるコンドームです。

一方、アメリカでは経口避妊ピルは総合内科や小児科の外来で頻繁に処方されますし、IUD (Intrauterine Device子宮内避妊器具)などのLARC (Long Acting Reversible Contraception長期作用型可逆的避妊法))といった、女性が自分自身で望まぬ妊娠を避けるために主体的に選択する方法も広く使われています。

日本では以前は女性が主体の避妊法を提示するのは、女性に淫らな性を奨めているかのような捉えられ方もありましたし、ピルを飲んでいる女性はセックス好きで恥じるべきだという偏見もありました。

アメリカより40年遅れてピルが日本で承認された1999年、私は高校生でしたが、ニュースを見ながら、同年に6か月の審議を経て承認を受けたバイアグラとは、どうしてこんなにも報道のトーンが違うのだろうと感じたのを覚えています。

また、経口避妊ピルの服用は避妊のためだけではありません。アメリカでは、重い生理痛や、生理前の抑うつなどのために小児科や総合診療内科から処方されることも多いです。

日本社会において女性の生理に関わることは「辛くても我慢するのが当然」と認識されているのではないかと感じます。実は「耐えなくてもいい」という選択肢があるにも関わらず、その選択肢が提示されないことも多いかもしれません。

女性が性に主体的に関わって、自分に合う選択をしてもいいんだよ、というメッセージが今以上に広がってほしいと願っています。

「子宮と女性は耐えればいい」

女性が生殖系のことに関して我慢を強いられるのは、生理から始まりますが、妊娠中の身体症状、陣痛や出産時のサポートに関しても同じ状況が訪れます。

私自身も「妊娠は辛いものだから仕方がない」という認識を持っており、1回目の妊娠時は必要以上に我慢を自分に強いてしまった部分がありました。

しかし、2回目以降、つわりを軽減する薬を処方され、強い吐き気や激しい嘔吐が弱まり、ずいぶん楽になりました。妊娠後期に腰が痛くて眠れなかったときには入眠剤も飲み、妊娠中でも安全に介入する方法はたくさんあると学びました。

もし「妊娠中は辛いのが当然だから仕方がない」と言った先入観に触れていなかったら、もっと早く解決策に出会えていたのではないかと思います。

また陣痛に関しても、「痛みを耐えてこそ」という考えが広く根付いています。しかし世界的には鎮痛分娩が一般化されています。

私自身も、アメリカの中で一般的である、「陣痛を途中まで耐え、子宮口がある程度開大した時点で脊椎麻酔を入れ、痛みを軽減する」という方法を取りました。

それでも、初産のときは、どのくらいの苦痛を耐えるべきかが、なかなか判断できず、我慢しすぎてしまいました。初産の経験は未だにトラウマとなっています。その経験を踏まえて、2回目以降は必要なことは遠慮せずにお願いしようと思い、積極的に産婦人科医や麻酔科医の先生方と話をしました。

酷い陣痛や長い時間に渡る出産での痛みは、「子どもへの愛を増す」と感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、分娩や産後に悪影響を与えることも、私のように精神的なトラウマになってしまうケースも多いです。

それにも関わらず、なんとなく「女性の生殖性には医療はタッチしてはならない」あるいは「死なないんだったら我慢させとけばいい」と当事者の気持ちが優先されない他人事として捉えられてしまうことが多い印象です。

Birth Partnerは「付き添い」や「立ち合い」じゃない

お産は心身共に消耗する大イベントなので、世界保健機関(WHO)はお産の際に妊婦さんを支えるBirth Partner(夫、妻、友人、親、ドゥーラなど)の同伴を強く推奨しています。酷い感染状況で病院に出入りする人数が制限されていたコロナ禍でも、アメリカではお産にはbirth partnerが同伴する選択肢が与えられました。

私が出産したボストンの病院では、出産クラスもパートナーがいる方はパートナーと一緒に受けるのが一般的でしたし、分娩室や産後の入院部屋にはパートナー用のベッドもあり、食事も二人分出ました。それだけ、お産はパートナーと経験するものとして捉えられているものでした。

特に長男のときは難産だったので、夫が手を握ってくれていなかったら耐えられない孤独だったのではないかと思います。私が疲弊したり悩んだりし、なかなか分娩スタッフにお願いできなかったことを代わりに夫がうまく伝えてくれたこともあり、いてくれて本当によかったと感じます。

また、難産を経た産後も回復が思うようにいかず、大変な時期が続きましたが、そんな様子を夫がじかに見ていたことで、産後に必要なサポートに関してもより深い理解を示してくれたのではないかと思います。

日本ではパートナーが同行する場合は「立ち合い」「付き添い」という特別な用語が使われる点、お産はお母さんだけが経験するものという認識なのだろうと思います。

こんなにも身体的にも精神的にも大変な人生の一大イベントを一人で耐えるしかなかったお母さんが日本中にいると考えると、「本当によく頑張ったね!」と賞賛の声を送らずにはいられません。

生理も妊娠も陣痛も出産も産後も、辛いことが多いですが、その辛さを軽減させられる医療手段は存在し、耐えるだけが選択肢ではありません。選択肢の提供をもっと広くしてほしい、またその選択のハードルを下げてほしいと、私も医師として女性として強く願っています。

#MeTooアメリカでの男児の育児 

アメリカでは#MeTooムーブメント(※)を通して、「同意」とは何かという議論が盛んに行われました。例えば、女性が仕事を失ってしまうことを恐れて上司の性的なアプローチにNOと言えなかった状況は「同意」ではないこと、結婚をしていても同意は必要だということなどを耳にする機会が増えました。

※ セクシュアルハラスメントや性暴力を経験した女性同士支え合い、性被害や性差別の撲滅を目指した人権運動

特に中絶に関する女性の権利に関しては、極端に分断した政治判断がみられますが、少なくともボストン界隈では、女性の身体や健康に関して議論しやすい雰囲気は広がったと感じます。

そんなアメリカのボストンで、私は3人の息子を育てています。息子達とは、ソーシャルジャスティス(社会的正義)に関する会話もよくします。ジェンダー、性的指向、人種に加えて、同意や女性特有のヘルストピックも日常的に出てきます。

私も生理中はできる限り子どもがわかってくれるような言葉を選んで、どんなことを経験しているかを説明するようにしていますし、妊娠中も嬉しいことも苦しいことも落ち着いて伝えるようにしていました。

2歳児への同意の教育

私の息子達が通う学校では、2歳の時点で「同意」について教えられていました。もちろんこの年齢では、性的な同意ではありませんが、相手の気持ちを考え、自分の意思を尊重することの大切さが、日常の学校生活の中で教えられていました。

例えば、2歳児の教室の中で、お茶を入れるアクティビティがありました。熱くないお茶をティーポットからコップに入れる練習でしたが、「一緒にお茶しない?」と、友達を誘ってもいいとされてました。

誘われた際は、一緒にお茶したいと思ったならYESと答えればいいけれど、今は他のことをしたいと思っているときだったらNOと答えてもいい。誘われたことを必ず一緒にやらなければならないことはない、と子ども達は教えられました。

そして、誘う側に関しても、YESの答えもNOの答えも尊重しなければならない、もしNOと言われたら、「仕方ないな」と気持ちを切り替えることも大事なレッスンと言われていました。

私の息子達とその友達たちの交流を見ていると、「同意」は契約でもなく、同意がなければ何かが禁止されるという「ルール」でもなく、「自分の身体や意思は自分のもの」という、自分を尊重する力を与えてくれるものだと感じます。

幼稚園児に対しても自分のYES・NO、相手のYES・NOの大切さを教える教育に、母親の私も学ぶことは多いです。学校外の生活でも、できる限り子ども達のYES・NOの意思を尊重するように心がけています。

また、親として「ダメなものはダメなの!」と叱ってしまうときももちろんありますが、できる限り子ども達にNOと言わなければならない時は、どうして今はできないか、どうしてやってはいけないことなのか、どうして私は気が向かないかなどを丁寧に説明するように意識しています。

「同意」「性教育」にとって重要なことは、お互いを理解し、意思を尊重することだと思えるようになり、私も少し親として前進できた気がします。

女性は自分の感覚を信じて

前回の「コロナワクチンの情報発信で気づく日本の女性の生きづらさ」は、予想を遥かに超える多くの女性と男性から共感の言葉をいただきました。

特に日常の中に潜む差別、「マイクロアグレッション」に関して、今までなんとなくムズムズ感じていた違和感が言語化されたという感想を送って下さった方がたくさんいらっしゃいました。

日常的に耳にする言葉やメディアで目にするイメージが我々に与える影響は予想以上に大きいです。その中で違和感を感じても、「自分が気にしすぎかもしれない」「私の捉え方が間違っているのかもしれない」と考えてしまうことが多いのではないでしょうか。

もしかしたら怒りや悲しみを感じないようにと、自分を説得している無意識下の自己防衛のための心理的な働きかもしれません。

しかし、違和感には必ず理由があります。その違和感への対応がされないことで、日本は先進国の中で、ジェンダーギャップ指数がダントツの最下位でありつづけています。だから、特に女性はできるだけ自分の感覚を信じてほしい。

12歳のアメリカ人の少年が指摘するように、日本のアニメなどにも表れている独特の「女性感」が、女性の性の認識のゆがみや女性への医療の遅れにも繋がっています。問題点を認識すること、そして言語化すること、また子どものときから始まる「同意の教育」がこの改善に役立つのではないかと私は信じています。

自分の身体と健康と主体的に関わっていい。意見を相手に伝えていい。自分に合う選択をしていい。そして、自分の感覚を信じていい。

男性も女性もそう思えるような未来であってほしいと願っています。

【内田舞(うちだ・まい)】小児精神科医、ハーバード大学医学部アシスタントプロフェッサー、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長

2007年、北海道大学医学部卒、2011年、Yale大学精神科研修修了、2013年、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に、米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。

3児の母。趣味は絵画、裁縫、料理、フィギュアスケート。子供の心や脳の科学、また一般の科学リテラシー向上に向けて、三男を妊娠中に新型コロナワクチンを接種した体験などを発信している。

Instagram: @maimaiuchida  Twitter: @mai_uchida

注釈

患者との会話部分は患者の同意を得た上で書いています。