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「ファイザー社、ワクチンが不妊を引き起こすと公式に認めた」は誤り。サイトの切り取りが拡散

新型コロナウイルスのワクチンが不妊や流産などに直接の影響がないということは、臨床試験や10万人を超える妊婦への接種後の追跡調査から明らかになっている。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、「ファイザー社の公式サイトに不妊症を引き起こす可能性があると記されている」などという情報が、拡散している。

しかし、これは「誤り」だ。公式サイト上では、ネット上に広がっている同様の情報を否定しているが、その記述のGoogle翻訳などが切り取られ、SNSで広がっている。

不妊や流産などに直接の影響がないということは、臨床試験や10万人を超える妊婦への接種後の追跡調査から明らかになっている。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

ネット上で拡散しているのは、ファイザー公式サイト上に掲載されている内容。

「THE FACTS ABOUT THE PFIZER-BIONTECH COVID-19 VACCINE」(ファイザー・ビオンテック製新型コロナワクチンに関する事実)というコンテンツで、副反応など、ワクチンに関する複数の疑問に公式見解を示している。

7. Does the Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine cause infertility?

It has been suggested that COVID-19 vaccines will cause infertility because of a shared amino acid sequence in the spike protein of SARS-CoV-2 and a placental protein. Although the SARS-CoV-2 spike protein shares an amino acid sequence with a placental protein, the two proteins are immunologically different and distinct.

In an animal study in which the Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine was administered prior to and during gestation, no vaccine-related adverse effects on female fertility, fetal development, or postnatal development were reported. If you are pregnant, or planning to become pregnant, discuss your options with your healthcare provider.

拡散しているのは、この冒頭の部分にある「It has been suggested that COVID-19 vaccines will cause infertility」という一文。

Google翻訳にかけると「COVID-19ワクチンは不妊症を引き起こすことが示唆されています」となる。

そのため、ワクチンに否定的な人や、不安に思っている人の間で「正式にワクチンが不妊症を引き起こす可能性があることを認めている」「ホームページに不妊になる可能性があると書いてある」などとSNS上でたびたび拡散しているのだ。

後半まで読んでみると…

これは前述の通り、「誤り」だ。文書の後半部分まで読めば、「不妊症を引き起こす」ことについて、ファイザーが明確に否定していることがわかる。

ネットなどで広がる誤情報について、ファイザーが否定するために公式見解を発表したものだ。

この場合、「suggested」も「示唆されています」ではなく、「と指摘されています」と訳すほうが適切だと言えるだろう。BuzzFeed Newsが翻訳した文書は以下の通り。

7. ファイザー・ビオンテックの新型コロナワクチンは不妊症を引き起こしますか?

SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のアミノ酸配列と胎盤タンパク質が共有されているため、新型コロナワクチンは不妊症を引き起こすと指摘されています。

たしかに、SARS-CoV-2スパイクタンパク質は胎盤タンパク質とアミノ酸配列を共有していますが、2つのタンパク質は免疫学的にまったく異なるものです。

ファイザー・ビオンテックのワクチンが妊娠前および妊娠中に投与された動物実験では、女性の出産、胎児の発育、または出生後の発育に関するワクチンの有害な影響は報告されていません。

もしあなたが妊娠をしているか、妊娠の予定がある場合は、あなたの選択肢について、医療者と話し合ってください。

不妊も流産も根拠のない「誤情報」

「コロナウイルスのスパイクタンパク質は胎盤形成に必須なタンパク質『シンシチン・ホモログ・タンパク質』を含んでいるため、ワクチンによってできた抗体が胎盤を攻撃する危険性がある」という誤情報は、世界中で広がっている。

今回注目されたファイザー社の見解も、これを意識したものとみられる。繰り返しになるが、これはファイザー社も否定している通り、根拠がないまったくの誤情報だ。

新型コロナやワクチンに関する正確な情報発信を推進する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」は、BuzzFeed Newsの以前のファクトチェックに対し、こう回答している。

「シンシチン-1とコロナウイルスのスパイクタンパク質はアミノ酸の配列が同じ個所がわずかにありますが、類似性はそれ以外はなく、十分に違う構造であり、ワクチンでできた抗体がシンシチン-1を認識して胎盤を攻撃することはないと言えます」

実際、ファイザー・ビオンテック社やモデルナ社、アストラゼネカ社のワクチンの大規模臨床試験でも、「妊娠に影響しないことを示すデータ」が出ているという。

「大規模臨床試験で、妊娠していることがわかっている方は試験対象から除外されていましたが、治験参加後に妊娠が判明した方たちがいます。

この妊娠の比率はワクチンを接種した人たちと、プラセボ(比較対象として生理食塩水)を接種した人たちの間で差がないこともわかっており、妊娠に影響しないことを示すデータです」

なお、追跡調査からは、ワクチン接種後の妊婦の流産率は一般より高くなく、接種が流産を起こすことはないということも明らかになっている。

アメリカではすでに妊娠中の人が10万人近くワクチンを接種している。接種後の追跡調査に基づいた報告(医学誌 New England Journal of Medicine、2021年4月21日発表)によると、ワクチンが妊娠に悪影響を及ぼすという結果は出されなかった。

「メリットがリスクを上回る」

ワクチンと妊娠の関係については、日本産婦人科感染症学会が「ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する⽅へ」という文書(5月12日更新)を出している。

文書では、「世界的な流行拡大と妊婦の一部で重症化することから積極的に接種をすべきという考え方が大勢を占めています」と各国の例を紹介。以下のように不妊についても言及している。

「COVID-19 mRNA ワクチンの生殖に関する研究はまだ完了していませんが、現時点で胎児や胎盤に毒性があるとかワクチン接種を受けた人が不妊になるといった報告はありません」

そのうえで、「中・長期的な副反応や胎児および出生児への安全性に関しては今後の情報収集が必要である」としつつ、「現時点では世界的に接種のメリットがリスクを上回る」「妊婦をワクチン接種対象から除外しない。特に人口当たりの感染者が多い地域では積極的な接種を考慮する」などとも指摘。

偶発的な異常と接種の関連性に関する混乱が起きることを防ぐために、「器官形成期(妊娠12週まで)は避ける」とし、「妊娠を希望される女性は、可能であれば妊娠する前に接種を受けるように」「患者さん一人一人の背景が違いますので、まずは産婦人科の主治医と十分にご相談ください」と呼びかけた。

また、「感染リスクが高い医療従事者、保健介護従事者、重症化リスクが高い肥満や糖尿病など基礎疾患を合併している場合は、ワクチン接種を積極的に考慮」ともしている。

コロナワクチンをめぐっては、不安を煽る、有効性を否定する、副反応ばかりを強調するーーといった報道、ネット上の陰謀論などが相次いで拡散されている。情報の取り扱いには、注意が必要だ。

BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説の一部は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知、参考にしました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。