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コロナワクチンが「不妊症」や「流産」の原因に? 誤情報が世界で拡散。“ファイザー元副社長”が発端に

コロナワクチンをめぐり、まったく根拠のない情報が世界中に広がっている。ファイザーの“元副社長”の「提言」が発端だが、不妊や流産などに直接の影響がないということは、臨床試験や10万人を超える妊婦への接種後の追跡調査から明らかになっている。

新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、「不妊症を起こす危険性がある」などという情報が、ネット上に拡散している。

しかし、これは「誤り」だ。ファイザーの元副社長の話として拡散しているが、まったく根拠のない情報だ。

ワクチンと妊娠をめぐっては、流産につながるという言説も同様に広がっているが、これも誤った情報だ。

不妊や流産などに直接の影響がないということは、臨床試験や10万人を超える妊婦への接種後の追跡調査から明らかになっている。

BuzzFeed Newsは、日米の専門家などによって運営されている新型コロナウイルス感染症やワクチンに関して正確な情報を発信するためのプロジェクト「こびナビ」監修のもと、ファクトチェックをした。

BonaFidr

コロナワクチンが不妊を引き起こす可能性があるという言説は、ファイザー社の元「Vice president」(日本では“元副社長”の訳で拡散)であるマイケル・イードン氏の発言として、日本のみならず世界中で広がっている。

イードン氏はコロナワクチンそのものに反対しており、2020年末に欧州医薬品庁(EMA)に請願書を提出。これがドイツのネットメディアに報じられ、ネット上で拡散した。

「不妊を起こす危険性がある」という誤情報は、この請願書のなかで触れられていたイードン氏の「主張」だ。主に拡散しているのは、以下のような内容だ。

「ワクチンはコロナのスパイクタンパク質に対する抗体を生成することが期待されているが、スパイクタンパク質は、『シンシチン・ホモログ・タンパク質』を含んでおり、ヒトなど哺乳動物の胎盤形成に必須であるため、無期限に不妊症を起こす危険性がある」

海外ではすでにファクトチェックされているこの言説。日本において震源となっているのは、「BonaFidr」という正体不明のニュースサイトの記事だった。

タイトルは「新型コロナ・ワクチンは「無期限の不妊症」を引き起こす懸念がある——ファイザー社の元副社長がEUにワクチン試験を即刻停止するよう要請 -」というもので、計測ツール「BuzzSumo」によると、TwitterやFacebookで4000以上シェアされている。

このサイトは「日本のオールドメディアが伝えない海外のニュース」をうたっているが、運営者に関する情報は明かされておらず、アメリカ大統領選の際には、いわゆる陰謀論を拡散していたこともある。

また、SNSやブログなどを通じても、この言説は一人歩きしているようだ。

たとえば、「ワクチン 不妊」でGoogle検索をしてみると、この言説を含む「それでもあなたはコロナワクチンを接種しますか?」というブログが表示される。

この記事はある整形外科医のものであり、検索ランキングの上位1〜2番目に表示されていることから、信頼度が高いように見えてしまう。しかし「不妊」に限らず、誤った情報に基づいたワクチン不安を煽る言説を多く書き記しているのだ。

さらに、別の開業医も「note」で不妊に関する言説を取り上げており、「そもそも妊娠できる体ではなくなる」などと記している。この記事は1400以上「スキ」されており、一定の読者がいることがわかる。

このほか、大学教授がYouTube上の「ネットTV局」やPodcastで発信している内容にも、「1〜2年後に不妊になっている可能性が高い」という同様の言説があることも確認できた。

「全く根拠のない誤情報」

Googleより

しかし、これらの言説はまったくの「誤り」だ。

そもそも拡散しているイードン氏の主張について、「こびナビ」は、BuzzFeed Newsの取材に文書で以下の通りに回答した。

「正しくありません。根拠のない誤情報です。ワクチンによってできるスパイクタンパク質に対する抗体は、これらのタンパク質と全く似ていないため、ワクチンによってできる抗体が胎盤を攻撃することはないと考えられています」

日本でもすでに接種が始まっていたり、予定されたりしているファイザー・ビオンテック社やモデルナ社、アストラゼネカ社のワクチンの大規模臨床試験でも、以下のように「妊娠に影響しないことを示すデータ」が出ているという。

「大規模臨床試験で、妊娠していることがわかっている方は試験対象から除外されていましたが、治験参加後に妊娠が判明した方たちがいます。

この妊娠の比率はワクチンを接種した人たちと、プラセボ(比較対象として生理食塩水)を接種した人たちの間で差がないこともわかっており、妊娠に影響しないことを示すデータです」

さらに「こびナビ」は回答で、このイードン氏自身も前述の請願書において、「SARSウイルス(の仲間)のスパイクタンパク質に対する抗体が、シンシチン-1に対する交差反応性(間違って反応してしまうこと)を有するという証拠はない」と記していることに言及。

イードン氏はあくまで「もしこれが事実なのであれば……」と仮定の話をしていることに触れ、「以上のことから、全く根拠のない誤情報であることがわかるでしょう」と指摘した。

なお、イードン氏のこの主張は海外でもすでに複数ファクトチェックされ、いずれも否定されている。

しかし、この言説が世界に及ぼした影響は深刻で、例えばアメリカのカイザーファミリー財団による調査(2021年1月27日発表)では、ワクチン未接種者の13%が「コロナワクチンが不妊症を引き起こすと確認されている」と答えていたという。

ロイター通信は、この根拠のない誤情報に信頼性を与えたのは、イードン氏が「ただの科学者ではなかった」ためだと指摘。「反ワクチンのヒーローになった元ファイザーの科学者」という特集記事で、その変節を伝えている。

流産との関連も「誤り」

Kohei Hara / Getty Images

コロナワクチンと妊娠をめぐっては、流産との関連を指摘する言説もあわせて一部で広がっている。

これもやはり、イードン氏の主張にある「シンシチン」が胎盤に影響を及ぼすというものや、免疫反応に影響を及ぼすことで妊娠のプロセスを乱す、という言説だ。

しかし、これらについても「こびナビ」は明確に誤りであると指摘した。

「ワクチン接種後の妊婦さんの流産率は一般より高くなく、ワクチン接種は流産を起こすことはありません

「シンシチン-1とコロナウイルスのスパイクタンパク質はアミノ酸の配列が同じ個所がわずかにありますが、類似性はそれ以外はなく、十分に違う構造であり、ワクチンでできた抗体がシンシチン-1を認識して胎盤を攻撃することはないと言えます」

妊娠そのものに関するリスクがないことは、実際にワクチンをうった人たちの追跡調査からも明らかだ。

「残念ながらワクチンの接種と関係なく、流産は一定の確率で起こるものです。ワクチンを接種していない状況での妊娠と、ワクチン接種後の流産の発生率が変わらず、ワクチン接種後の流産の経過に特別に変わったところがないことから、ワクチンが流産を引き起こすとは言えません」

アメリカではすでに妊娠中の人が10万人近くワクチンを接種している。接種後の追跡調査に基づいた報告(医学誌 New England Journal of Medicine、2021年4月21日発表)によると、ワクチンが妊娠に悪影響を及ぼすという結果は出されなかった。

「論文によると、流産に関してワクチン接種後の妊婦さんの方が一般よりも確率が低いくらいでした。また、ワクチンを接種した妊婦さんで早産、低出生体重児出産、妊娠合併症などの発生率は、一般の発生率と同程度であり、ワクチンのせいでこのような妊娠への悪影響が起こったということはないと考えられます。また胎児の形態異常の報告はありませんでした」

謎の「スクショ」も拡散したが…

noteより

そのうえで、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のワレンスキー所長もこの報告を受けて、「妊娠中の方にも、新型コロナウイルスワクチン接種を受けることを推奨する」と発表したと指摘。

妊娠中に新型コロナに感染してしまった場合、妊娠していない場合に比べてリスクが高いとして、CDCの発表を改めて強調した。

「妊婦は新型コロナウイルスに感染してしまった場合、重症化リスクが高いことが知られています。集中治療や人工呼吸器が必要になるリスクが一般女性に比べて高く、早産になってしまうリスク、亡くなられてしまうリスクも同世代の非妊娠女性よりも高いのです。また、妊婦の発症者に関しては、妊娠合併症の頻度を上げ、胎児にも影響を及ぼすと報告されました」

ワクチン接種によって妊娠合併症や新生児異常の確率は上がりません。CDCのワレンスキー所長は、母子ともに悪影響があるコロナへの感染から妊婦さんを守るために、妊娠へ悪影響を及ぼさないmRNAワクチンを接種することの推奨を明言しました

なお、流産とコロナワクチンをめぐっては、アメリカで運用されている「VAERS」(ワクチン有害事象報告システム)における流産に関する報告をまとめたスクリーンショット(写真上)が一部で拡散している。

そもそも、「有害事象」とは薬物を投与された後に患者に生じたあらゆる好ましくない症状のこと。接種とそうした事象の因果関係が証明されている「副反応」も含まれるが、因果関係の明らかでないもの、不明なもの、別の原因によるものすべてが対象となる。

上述の通り、流産とコロナワクチンの因果関係が否定されているなかで、このように一部の有害事象のデータを扱う手法は不適切であり、なんら因果関係を示すものではないと言えるだろう。

可能であれば妊娠する前に

Pool / Getty Images

ワクチンと妊娠の関係については、日本産婦人科感染症学会が提言(4月20日更新)で「妊娠を希望される女性は、可能であれば妊娠する前に接種を受けるようにする」と述べている。

妊婦への接種については、アメリカにおける接種の結果で「重篤な副反応や胎児への影響は認められていません」と強調されているほか、新生児に抗体が移行していることに言及。

そのうえで、「特に中・長期的な副反応、胎児および出生児への安全性は確立していない」と留意しつつ、「流行拡大の現状を踏まえて、妊婦をワクチン接種対象から除外することはしない」としている。

また、「重症化リスクがある可能性がある肥満や糖尿病など基礎疾患を合併している方は、ワクチン接種を考慮する」とし、「患者さん一人一人の背景が違いますので、まずは産婦人科の主治医と十分にご相談ください」と呼びかけている。

コロナワクチンをめぐっては、不安を煽ったり、その有効性を否定したり、副反応ばかりを強調したりする報道や、ネット上の陰謀論などが相次いで拡散されている。情報の取り扱いには、注意が必要だ。


こびナビ監修者:ハーバード大学医学部助教授・マサチューセッツ総合病院小児精神科医 内田舞氏、ベイラー医科大学・テキサス小児病院 池田早希氏、こびナビ 岡田玲緒奈氏、峰宗太郎氏


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

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