サッカーが好きなのに、地雷で足を失うシリアの子ども。絵本が伝える変わり果てた現実

    1万5千人の子どもたちが、命を落とした。

    停戦合意が破綻した、シリア。

    6年目に入ってしまった内戦は、混迷を極めている。

    シリア人権監視団のデータによると、死者は今年9月までに30万人。うち民間人は8万6千人以上。1万5千人の子どもたちも、命を落とした。

    国外に避難した人たちは480万人を超える。終結の見通しは立っていない。

    そうした現状を子どもたちに知ってもらおうと、トルコなどでシリア難民支援を続ける国際NGO「AAR Japan」が絵本を出した。

    「地雷ではなく花をください」シリーズの新作。絵本作家の葉祥明さんが、ボランティアで描いている。

    主人公はうさぎの「サニーちゃん」。シリアの内戦で苦しんでいる子どもたちの話を聞くため、現地を訪れるというお話だ。

    空爆で父親がけがをし、働けなくなってしまった家族。地雷を踏んで、脚を失ってしまった男の子。何十日も歩き続け、ドイツにたどり着いた女の子……。

    絵のタッチは優しいが、サニーちゃんが出会う子どもたちがする話からは、厳しい現実が伝わってくる。

    ストーリーは、どれも実話をベースにしている。たとえば、地雷で足を失った「アリーくん」。サッカーが大好きだったとつぶやく彼にも、モデルが”たくさん”いる。

    5歳の女の子のレザーンちゃんも、その一人だ。

    レザーンちゃんは、2年前にシリアで砲撃に遭い、右足を失った。一緒にいた2歳の弟は、その1時間後に亡くなったという。

    いまはトルコに暮らしている。同世代の子どもたちに、脚がないことをからかわれるのが、悩みだ。

    「どうして私はほかの子たちとは違うの?」

    そんな言葉を、泣きながら母親に投げかけるという。父親は路上でパンを売り、なんとか生計を立てているが、その日暮らしの生活が続いている。

    物語の後半に出てくるのは、ギリシャと思われる浜辺だ。危険をおかして、海を渡る人たちはいまだに絶えない。

    国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によると、今年9月までに地中海を渡ろうとした難民や移民のうち、3211人が船の遭難などで死亡、もしくは行方不明になった。

    絵本の本文を書いたAAR Japan理事長の長有紀枝さんは、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

    「いま、内戦に苦しむシリアの子どもたちは、ヨレヨレの服を着ていたり、けがをしたりする悲惨な状況に置かれている。でももともとは、この絵本を読む日本の子どもたちと同じように、楽しい生活をしている子たちだったんです」

    「数年前には平和なシリアがあった。私たちと変わらない暮らしをしていた人たちがいた。だからこそ線引きをせず、遠い国のことで終わらせないためにも、この絵本をつくりました」

    日本の子どもたちに、難民の子どもたちのことを少しでも身近に感じてもらいたい。想像力を養ってもらいたいというのが、この絵本の目的だという。

    シリアの内戦では、いまも多くの子どもたちが傷ついている。

    8月には、シリア北部のアレッポで空爆を受け、けがをした5歳のダグニシュ君の写真が世界に衝撃を与えた。シリアの子どもたちは「空爆か、溺死」しか選択肢がないのか、と。

    ボランティアで絵を描いた葉さんは、「あとがき」にこんな台詞を寄せている。

    突然、住み慣れた家と町から

    命からがら避難しなければならなくなったら、

    私たちはどうしたらいいのでしょう?

    荷物も食料も水も、手に持てるだけ。幼い子や年老いた人、

    家族と散り散りばらばらになったり、爆撃や狙撃手から狙われたり。

    陸路を歩いて、海路をゴムボートにつかまって……。

    行くあては? 行った後は? 家もなく、言葉も違い、仕事もない。

    内戦状態にあるシリアの人々が経験しているのが、

    そんな辛さや苦しみや哀しみです。

    長さんは「絵本を読む大人達も含めて、家族で一緒にシリアについて考えるきっかけになれば」とも言う。

    シリアの内戦が終わる兆しは、いまだに見えていない。