「地雷ではなく花をください」シリーズの新作。絵本作家の葉祥明さんが、ボランティアで描いている。
主人公はうさぎの「サニーちゃん」。シリアの内戦で苦しんでいる子どもたちの話を聞くため、現地を訪れるというお話だ。
空爆で父親がけがをし、働けなくなってしまった家族。地雷を踏んで、脚を失ってしまった男の子。何十日も歩き続け、ドイツにたどり着いた女の子……。
絵のタッチは優しいが、サニーちゃんが出会う子どもたちがする話からは、厳しい現実が伝わってくる。
ストーリーは、どれも実話をベースにしている。たとえば、地雷で足を失った「アリーくん」。サッカーが大好きだったとつぶやく彼にも、モデルが”たくさん”いる。
5歳の女の子のレザーンちゃんも、その一人だ。
レザーンちゃんは、2年前にシリアで砲撃に遭い、右足を失った。一緒にいた2歳の弟は、その1時間後に亡くなったという。
いまはトルコに暮らしている。同世代の子どもたちに、脚がないことをからかわれるのが、悩みだ。
「どうして私はほかの子たちとは違うの?」
そんな言葉を、泣きながら母親に投げかけるという。父親は路上でパンを売り、なんとか生計を立てているが、その日暮らしの生活が続いている。
物語の後半に出てくるのは、ギリシャと思われる浜辺だ。危険をおかして、海を渡る人たちはいまだに絶えない。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によると、今年9月までに地中海を渡ろうとした難民や移民のうち、3211人が船の遭難などで死亡、もしくは行方不明になった。
絵本の本文を書いたAAR Japan理事長の長有紀枝さんは、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。
「いま、内戦に苦しむシリアの子どもたちは、ヨレヨレの服を着ていたり、けがをしたりする悲惨な状況に置かれている。でももともとは、この絵本を読む日本の子どもたちと同じように、楽しい生活をしている子たちだったんです」
「数年前には平和なシリアがあった。私たちと変わらない暮らしをしていた人たちがいた。だからこそ線引きをせず、遠い国のことで終わらせないためにも、この絵本をつくりました」
日本の子どもたちに、難民の子どもたちのことを少しでも身近に感じてもらいたい。想像力を養ってもらいたいというのが、この絵本の目的だという。
シリアの内戦では、いまも多くの子どもたちが傷ついている。
8月には、シリア北部のアレッポで空爆を受け、けがをした5歳のダグニシュ君の写真が世界に衝撃を与えた。シリアの子どもたちは「空爆か、溺死」しか選択肢がないのか、と。
ボランティアで絵を描いた葉さんは、「あとがき」にこんな台詞を寄せている。
突然、住み慣れた家と町から
命からがら避難しなければならなくなったら、
私たちはどうしたらいいのでしょう?
荷物も食料も水も、手に持てるだけ。幼い子や年老いた人、
家族と散り散りばらばらになったり、爆撃や狙撃手から狙われたり。
陸路を歩いて、海路をゴムボートにつかまって……。
行くあては? 行った後は? 家もなく、言葉も違い、仕事もない。
内戦状態にあるシリアの人々が経験しているのが、
そんな辛さや苦しみや哀しみです。
長さんは「絵本を読む大人達も含めて、家族で一緒にシリアについて考えるきっかけになれば」とも言う。
シリアの内戦が終わる兆しは、いまだに見えていない。