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在日コリアン殺害ほのめかすヘイト脅迫文書、また川崎の施設に 「虐殺」年賀状で被害

文書は、「日本人ヘイトを許さない会」を名乗るもの。館長宛であったことから、同日付で刑事告訴し、受理された。この施設には2020年にも、在日コリアンの「虐殺を宣言」する年賀状が送りつけられており、弁護団は「ヘイトクライム」であると強く批判している。

川崎市にある多文化交流施設に在日コリアンの殺害をほのめかす脅迫文書が届いていたことが分かった。3月26日、施設関係者と弁護団が会見で明らかにした。

文書は、「日本人ヘイトを許さない会」を名乗るもの。館長宛であったことから、同日付で神奈川県警川崎臨港署に脅迫罪で刑事告訴し、受理されたという。弁護団は「ヘイトクライム」であると強く批判している。

この施設には2020年にも、在日コリアンの「虐殺を宣言」する年賀状が送りつけられ、送り主だった川崎市の元職員の男(70)が威力業務妨害の罪で懲役1年の実刑判決を受け、確定している。

(*この記事には差別的な文言が直接、含まれます。閲覧にはご注意ください)

「川崎市ふれあい館」に、封筒が送付されていたのは3月18日のこと。

同館の館長に宛てたもので、消印は3月15日付、東京都足立区内のものだった。文書が印字された、四つ折りのA4用紙が入っていた。

実在しないとみられる「日本人ヘイトを許さない会」を名乗り、同じ姓の男女とみられる2人の名前が記されていた。内容は、以下のようなものだ。

朝鮮人豚ども根絶やし最大の天罰が下るのを願ってるコロナ入り残りカスでも食ってろ自ら死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺ろ」

「死ね」という単語は14回にわたり記され、最後には殺意をほのめかす「殺ろ」という言葉がある。

そのほか、「祖国に帰れ」「日本から出ていけ」などというヘイトスピーチや、在日コリアンに対する複数の差別・侮蔑表現が多く羅列されていた。

また、開封済みの菓子の空き袋(「鉄+コラーゲン」と記されたもの)が同封されていた。

手紙には「コロナ入り残りカス」と記されていたことから、実際にウイルスが付着しているか、警察側が調べるという。

「明らかなヘイトクライム 」

同館の館長は、在日コリアン3世の崔江以子さんだ。

弁護団の師岡康子弁護士は「崔さんが何かをしているわけではなく、その属性だけを理由にして手紙を書いている。全体として非常に強い蔑視感を持っており、偏見に基づく明らかなヘイトクライムだと言える」と指摘した。

崔さんは、警察に提出した陳述書で「自分は一生このように攻撃され、いつ誰にどこで刺されるかわからない、もう嫌だ、と絶望的な気持ちになりました」と記した。現在、防刃ベストを着用し、生活するようになっているという。

会見では、「またか、という気持ちです。また、辛い、痛い、苦しいと言い続けなければいけない、また戦わなければいけないなんだなと思いました」と述べ、こうも続けた。

「正直にいえば、封筒が届いたことがなかったことになればいいと思いました。しかし、これで黙ってしまえば、『朝鮮人は死ね』という人たちの成功体験になってしまう」

「だからこそ、被害があったことを訴え、このようなあまりにもひどいヘイトクライムが2度と起きないような、許されない社会になってもらいたいと感じています」

たびたび受けてきたヘイト被害

1988年に桜本地区に設置された「ふれあい館」は、同区に多く暮らす在日コリアンの人たちと日本人を中心とした「市民として相互にふれあいをすすめること」を目的としている。

一方で、桜本地区はこれまでもたびたび、差別的言動を振りまくヘイトデモなどの被害を受けてきた。主に地域の子どもたちが利用する同館も、例外ではない。

「朝鮮へ帰れ」といった脅迫電話がかかることもあったほか、同館に長年勤めてきた崔さん自身も、匿名アカウントによる誹謗中傷、攻撃を受けてきた(うちひとりには、県迷惑防止条例違反の罪で罰金30万円の略式命令が出されている)。

また、2020年1月には、「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら残酷に殺して行こう」など脅迫文を記したはがきが送られた。

モデルの水原希子さんが事件に触れて「ヘイトが一刻も早くなくなりますように」と発言したり、国会でも取り上げられたりしたことから、注目を集めた。

ネット上では「自作自演」を疑う誹謗中傷書き込みも散見されたが、元川崎市職員の男が、威力業務妨害容疑で逮捕された。

弁護人などによると、男は約10年前まで川崎市役所に勤めており、職場で在日2世の元同僚に差別的な発言をしたとして、謝罪させられたことがあった。

裁判でも、犯行の動機について、その恨みを晴らすことともに、在日コリアンに対する差別や、それに基づいて恐怖をもたらしたり、嫌がらせをしたりする目的もあったと述べていた。

横浜地裁川崎支部は2020年12月、男に対し、懲役1年の実刑判決を言い渡した。執行猶予なしという厳しい判決だ。

「銃がないだけで…」

桜本地区におけるヘイトデモは、川崎市で2019年に成立した差別的言動に刑事罰を科す「ヘイト禁止条例」の立法事実(法律や条例が必要とされることを示す事例)にもなっている。

しかし、条例には「実効性が低い」との批判もつきまとう。

川崎駅前では、条例に反対するという建前で、差別的、排外的な言動をさけぶ街宣活動も定期的に実施されるようになっている。ふれあい館周辺の警備も、以前より強化した状態が続く。

もちろんこれは、川崎に限ったことではなく、東京などでも同様の街宣は繰り返されている。さらに、ネット空間におけるヘイトスピーチも、いまだに広がり続けている。

師岡弁護士は会見でこうした事例に触れながら、「当事者からすれば、在日コリアンであるというだけでここまで攻撃され、ターゲットにされ続けていかないのかという、救いがない、絶望的な状況がある」と述べ、国に対する早期の対策を求めた。

「銃が使われないだけで、日本にもひどいヘイトクライムがあふれている。しかし国は沈黙したままで、調査も、対策もしていない。本来であれば、国が法整備などを進めるべきではないでしょうか」