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在日コリアン“虐殺”宣言で広がった「自作自演」の声。差別を「さらに煽った」と批判も

被告は2019年12月、在日コリアンが多く暮らす川崎市の桜本地区にある「川崎市ふれあい館」宛てに「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう」などと記した年賀状を送った。差別に起因した「ヘイトクライム」と言われていたが、ネット上では「自作自演」などと誹謗中傷する書き込みが多く見られていた。

在日コリアンの殺害を予告する年賀状を市内の交流施設に送付するなどしたとして、威力業務妨害の罪に問われた元川崎市職員、荻原誠一被告(70)に対し、横浜地裁川崎支部(江見健一裁判長)は懲役1年(求刑・懲役2年)の実刑判決を言い渡した。

事件は国会でも取り上げられるなど、差別を動機とした「ヘイトクライム」として社会的にも注目されていたが、一方でネット上では「自作自演」などと誹謗中傷する書き込みが多く見られていた。その背景には、何があるのか。

(*この記事にはヘイトクライムの文言が直接含まれます。閲覧にご注意ください)

判決などによると、被告は2019年12月、在日コリアンが多く暮らす川崎市の桜本地区にある「川崎市ふれあい館」宛てに「謹賀新年 在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう」などと記した年賀状を送った。

さらに、19年11月と20年2月に、市内の計9校の学校に、在日コリアンの元同僚の名前を騙り、生徒の殺害や強姦、校舎などの爆破を予告する葉書を送ったほか、同年1月には、川崎市の別の施設の元同僚宛にも、在日コリアンの「抹殺」やふれあい館の爆破を予告する葉書を送った。

被告は約10年前まで川崎市役所に勤めていた。神奈川新聞によると、職場で在日2世の元同僚に差別的な発言をしたとして、謝罪させられたことがあった。

また、被害者側の弁護人によると、裁判では犯行の動機について、その恨みを晴らすことともに、在日コリアンに対する差別や、それに基づいて恐怖をもたらしたり、嫌がらせをしたりする目的もあったと述べていた。

この事件は、社会的にも多くの注目を集めていた。直後から署名サイト「Change.org」では、国と川崎市に早急な対応を求めるネット署名も開催され、モデルの水原希子さんが「悪質な人種差別、在日コリアンに対してのヘイトに心が痛みます」と賛同を示すなど広がりを見せ、2万5千筆が集まった。

また、1月23日には福田紀彦川崎市長が会見で「こういった脅迫は決して許されるものではない。人権条例(ヘイト禁止条例)の趣旨に反する行為だと思っています」と言及した。

2月の国会でも取り上げられ、森雅子法相(当時)が一般論として「不当な差別的言動は許されないものと考えている」と明言していた。

広がった「自作自演」の疑い

一方で、被害を受けた側にネット上の「誹謗中傷」が多く集まったのも、この事件の特徴だ。

特に多かったのが「自作自演」を疑う書き込みだ。例えば以下のような内容が、Twitterに投稿されている。

自作自演に思えてしょうがない。不安を煽る前に警察に犯人を見つけてもらおう。

このツイートには年賀状の画像も添付されており、1300近くの「いいね」を集めている。コメントには漢字の書き方がおかしいとの指摘などが多々並んでおり、「在日は強制送還で国に返してあげるべき」などというヘイトスピーチや誹謗中傷が並ぶ。

一方、モデルの水原希子さんがこの事件に触れ、「悪質な人種差別、在日コリアンに対してのヘイトに心が痛みます」というツイートを引用して批判するものもあった。

現状犯人が日本人かどうか分からない状況で、政府や川崎市に要望を叫ぶ事は、犯人が日本人である事が前提となり、日本人に濡れ衣を被せている卑劣なミスリード。こういう事実や背景のない意図的な扇動を犯罪化すべきでは?

このツイートもやはり、1300以上の「いいね」を集めている。この人物は「こんな馬鹿みたいな誘導に同調する人間は、日本人の敵といって差し支えない」と、被害者や賛同者を社会から排除するよう呼びかけていた。

「自作自演」を疑うような同様書き込みはネット掲示板「5ちゃんねる」にも多くあり、一部のまとめサイトが「川崎のいつもの施設にまた脅迫文」(えら呼吸速報、すでに削除)や「一体誰が?」(ツイッター速報)などというタイトルで記事化している。

「卑怯な人たちは匿名で…」

事件直後には犯人がはっきりしなかったとはいえ、「自作自演」という説は完全な誤りであり、被害者に対する二次被害を生んでいる。

その書き込みの多くは、日本社会の多数派である日本国籍保有者による、社会に存在する「差別」や「ヘイト 」の存在そのものを否定するような狙いがあるように見えることも、特筆すべき点だ。

書き込みは、被告が逮捕された後も続いた。なかには被告が元川崎市職員であったことを理由に「自作自演」と疑うような書き込みも存在するが、これも、誤りだ。

横浜地裁川崎支部の判決は、被告が在日コリアンの元同僚への「約25年にわたる恨み」を晴らすため、「職場内での評価を下げる目的」で犯行に臨んだ、と認定している。

また、被害側弁護人の師岡康子弁護士は、今回の事件は「被告人自身が日本人で差別的動機があったとはっきり言っている。自作自演ということはありえない」と指摘。

「発信者情報開示ということは考えていない」としながら、「卑怯な人たちは直後から、匿名でそうした書き込みを続けてきた。差別的な犯罪に対し意図を持ってねじ曲げ、さらに差別を重ねて煽っている人たちは責任を問われるべきであると思います」と述べた。

一方、被害に遭ったふれあい館館長の崔江以子さんは「自作自演という指摘に対し、同じ土俵に乗るのではなく、正しく被害を発信し、その回復に務めてきた。今後同様のことがあった場合も、条例、行政、社会正義によって守られていくはずだと思っています」と語った。