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匿名Twitterで在日コリアン女性を誹謗中傷、男に罰金30万円の略式命令

川崎に暮らす在日コリアン3世の崔江以子さんにTwitterを通じてヘイトスピーチなどの嫌がらせを繰り返していた匿名アカウント「極東のこだま」。検察側による略式請求では、うち4つのツイートについて、「嫌悪の感情等を充足する目的で投稿をした」としている。

「極東のこだま」を名乗るTwitterの匿名アカウントで在日コリアンの女性に誹謗中傷を繰り返していたとして、川崎簡易裁判所は12月27日、神奈川県藤沢市の男(51)に罰金30万円の略式命令を出した。

女性の弁護団が27日、明らかにした。横浜地方検察庁川崎支部が同日、男を神奈川県迷惑行為防止条例違反(つきまとい行為)の罪で略式起訴し、川崎簡裁が略式命令を出したという。

男は2016年から17年にかけて、1年半にわたりのべ数百件にも及ぶツイートをしていたという。女性は会見で「ネット上の匿名の書き込みによる差別は許されないという社会正義がやっと示されました」と語った。

まず、経緯を振り返る

被害にあったのは、川崎に暮らす崔江以子(チェ・カンイジャ)さん(46)。在日コリアン3世だ。

「極東のこだま」による嫌がらせがはじまったのは、2016年3月ごろ。崔さんの暮らす川崎・桜本でヘイトデモが相次いでいたことを受け、それに反対する動きをはじめたことがきっかけだった。

ツイートはいつも、週末だった。まるで、「余暇を楽しむかのように」(代理人弁護士)さまざまな脅し文句やヘイトスピーチが繰り広げられた。実際は違っていたが、すぐそばに住んでいて、いつも監視しているよう装っていた。

「一番憎いのは在日」「チョーセンを許さないよ、特にカンイジャな」「チョーセンはしね」「植木に使うナタを買ってくる予定。レイシストが刃物を使うから通報するように」「すれ違わないかな」「民族性モロ出しの小賢しさ」「桜本のチョン公」「川崎の泣き女」

警察からは、表札を外し、インターホンをオフにし、さらにカーテンを閉めておくように言われた。外に出る時にマスクをつけたり、メガネをかけたりして、できる限り他人と目を合わせないようにした。

家族が特定されるのを防ぐため、一緒に出かけることもできなくなった。崔さんはBuzzFeed Newsの以前の取材に対し、当時の心境をこう語っている。

「とりわけ辛かったのは、小学生の子どもと一緒にいられなかったことでした。家族とバスに乗っても離れて座る。手を繋いでコンビニにアイスを買いに行くこともできない。自分のせいで子どもにつらい思いをさせ、母親として、申し訳なかった。出口が見えない、そんな暮らしがずっと続いていました」

近所に住んでいるのではないか。どこかで、後をつけられているのではないかーー。心が磨耗する日々が続いた。恐怖と苦しみのあまりのストレス性の不眠症と突発性難聴は、いまも続いている。

3年半越しの略式命令

法的措置の大きなハードルになったのは、Twitter社が発信者情報の照会になかなか応じなかったことだ。その間もツイートは続き、内容は過激化していった。

ようやく発信者情報が開示されたのは、2017年の8月のこと。その4ヶ月後、崔さんの刑事告訴を受けて捜査をしていた神奈川県警は容疑者の男を特定。自宅に捜索に入り、事情聴取をしたことで、ツイートは止まった。

男は2018年5月、脅迫容疑で書類送検された。ネット上のヘイトスピーチ事案では、初めてのケースとなったが、横浜地検川崎支部は2019年2月、不起訴に。

「無罪放免にしてはならない」(代理人弁護士)と、ツイートの内容が「つきまとい」にあたるとして、神奈川県迷惑行為防止条例違反の疑いで、脅迫罪で不起訴になった当日、刑事告訴していた。

そして、12月27日。ツイートがはじまってから3年半ごしの略式命令に至った。検察側による略式請求では、うち4つのツイートについて、「嫌悪の感情等を充足する目的で投稿をした」としている。

略式命令とは、簡略化された刑事処分手続きだ。罰金が100万円以下の犯罪で、当事者に異議がない場合、正式な刑事裁判にかけずに処分するよう検察官が簡易裁判所に求めた場合、簡裁が書類審査の上で出す。

ただし、命令から14日以内に、被告や検察官が正式な裁判手続きを求めることもできる。

「差別は許されない犯罪」

崔さんは会見で、こう語った。

「犯罪として罰せられるのに、ここまで3年半かかりました。長い長い、3年半でした。ある意味において、私の受けた差別や誹謗中傷は在日コリアンみんなの被害だったと思っています。脅迫罪が不起訴処分になったときには、諦めようとも思いました」

「今回の結果を受けて、他の被害を受けている人たちに後に続いてということは非常に難しい。差別をされて、声をあげることへの二次被害はとても厳しいと、実感をしています。残念ですが、個人の力では限界があります。ネット上には差別発言が溢れています。この被害を一刻もはやく止めるために、被害に法が追いつくことを心から願います」

一方、師岡康子弁護士は会見で「差別が許されない犯罪なんだと明確にされたことは第一歩だと思います。非常に大きな被害を受けていた崔さんの3年半、苦痛と恐怖に耐えた日々が報われたことになるのではないでしょうか」と語った。

また、匿名のツイートに対する刑事罰が下されたことに対し、その抑止力にも期待した。

「(男は)全く面識がない崔さんに対し、在日コリアンへの差別感情だけで娯楽のように痛めつけるツイートをしていた。それは、犯罪として許されない。同じようなことをしている人に対する一定の抑止力にもなるはずです」

「日本には差別を罰する法制度がないため、現行法でなんとかここまできた。とはいえ、ヘイトスピーチを止めるには限界があり、法整備も非常に不十分で、限界があると感じています」

ネット上のヘイトをめぐる課題とは

ヘイトスピーチをめぐっては、2016年に「ヘイトスピーチ解消法」が施行されたが、理念法であるために罰則はない。

また、12月12日には戦前戦後を通じて「差別的言動に刑事罰を科す」初めての事例となる「ヘイト禁止条例」が川崎市で可決した。とはいえ、ネット上のヘイトは罰則の対象外だ。

ネット上の、とりわけ匿名のヘイトや誹謗中傷には、崔さんのように現行法を活用する方法しか、救済されうる途はない。

そのため、専門家らは「インターネット上の人権侵害情報対策法」のモデル案を策定。国会議員との連携しながら、法整備に向けた動きを進めている。国会内でも、超党派で同様の動きが広がりつつあるという。