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「ワクチン接種による医療関係者の労災28735件」は誤り。「全接種を中止すべき」と拡散、実際は…

国会質疑のツイートは削除・訂正されているなど、すでにSNS上での指摘の広がりによって修正されているものもあるが、「ワクチン労災」などの言葉が一人歩きしている事例もみられる。拡散には注意が必要だ。

国会での質疑をめぐり、「医療関係者だけでワクチン接種による労災決定件数が28,735件」などとする情報が拡散している。

しかし、これは「新型コロナウイルスに関する医療業の労災給付の決定件数」であり、いずれも医療現場などで新型コロナに感染し、労災と認定されたもの。「ワクチン接種」とは無関係だ。

すでに訂正などがされている投稿もあるが、「ワクチン労災」などという言葉とともに広がっているものもある。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

拡散しているのは上記のような11月3日のツイート。4500以上いいねされるなど、広がっている。

「国会質疑に注目。医療関係者だけで接種による労災決定件数が28,735件。正しく驚愕の事態。厚労省資料によると医師歯科医師看護師の合計が約220万人パラメディックを入れるとざっと300万人。接種率90%とすると、なんと医療関係者の1%が労災レベルの接種傷害。しかもこれは短期的な影響だけ」

ツイートでは、さらに「全国民が接種すると120万人が労災レベルの接種傷害という計算になります」「今は大人を含めて全接種を中止すべき段階」などともしているが、前述の通り誤った指摘だ。

そもそもこれは、11月2日の衆議院厚生労働委員会におけるやりとりの一部を切り取った動画を引用したもの。そのやりとりの中では、拡散しているツイートにあるように「医療関係者だけで接種による労災決定件数が28,735件」という答弁は一切なされていない。

当該質疑のやりとりでは、立憲民主党の阿部知子議員が、「コロナ感染が多い医療現場の労災給付が長期にわたった例や、副反応による長期療養のケースはどれくらいあるか」を聞いており、厚労省の担当者が「医療業のコロナに関わる労災給付は28,735件だが、長期療養は把握していない」と述べている。


阿部議員「医療現場も(コロナワクチン接種の)努力義務が課されております。労働災害が、(コロナ)感染を受けることで多い現場であります。この方達は労災保険で療養給付ならびに療養給付を受けていると思いますが、それが長期に渡った例がどれだけあるのか。現場でうちなさいと言われてうって、副反応が長期化して、1年半以上そういう状態にある長期の療養のケースがどのぐらいあるのでしょうか」

厚労省担当者「新型コロナに関わります労災給付の請求件数等でございますけれど、今年の9月30日までの数字でございまして、医療業については決定件数が28,735件でございますが、その中の長期の療養のケースは把握しておりません」


実際は「すべてコロナ感染」

「医療業のコロナに関する労災給付決定件数28,735件」については、厚労省のサイトにも同じデータが掲載されている。

同省労働基準局補償課の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「公表しているものは、すべてコロナウイルスに罹患したケースです」と回答した。

なお、新型コロナに関わる労災給付の対象については厚労省サイトで、「感染経路が業務によることが明らかな場合」「感染経路が不明の場合でも、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感染した蓋然性が強い場合」があげられている。

また、医療や介護業務の従事者の場合は、「業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として対象」ともされている。

なお、ワクチンの健康被害については通常は「自由意志」のために労災給付の対象とはならないが、医療・介護従事者については労災給付の対象となる。ただ、前出の担当者によると、「コロナウイルスに関しては特別な集計を行っていますが、ワクチンに関わる件数は把握していません」という。

情報の「一人歩き」に注意

こうした取材結果からも、そもそもがワクチンではなくコロナ感染に関わる労災件数である以上、拡散しているツイートにあるように「なんと医療関係者の1%が労災レベルの接種傷害」「全国民が接種すると120万人が労災レベルの接種傷害」などと解釈するのはまったくの誤りだといえる。

大元となった国会質疑のツイートは削除・訂正されているなど、すでにSNS上での指摘の広がりによって修正されているものもあるが、「ワクチン労災」などの言葉が一人歩きしている事例もみられる。拡散には注意が必要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

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