• lgbtjapan badge
  • lgbtjpnews badge

13年を経て、ディズニーで同性結婚式を挙げたが…「2人の花嫁」が直面した新たな壁

女性カップルが子どもを持つには、第三者から精子提供を受ける不妊治療(生殖補助医療)が必要だ。同性婚が認められていない日本において、2人のようなカップルは、治療にたどり着くことすら、簡単にはできない。

ディズニーシーで2017年に同性どうしで結婚式をあげた「2人の花嫁」が、結婚生活を送るなかで、子どもをめぐる壁に直面している。

子をほしいと願う性的マイノリティの当事者は、いったい、どのような状況におかれているのか。抱える不安と、これからへの危機感を聞いた。

「結婚式を挙げることはできましたが、法律上は『結婚』できないために男女なら紙一枚で受けられる法的な保障が何もありませんでした」

そうBuzzFeed Newsの取材に吐露するのは、リョウさん。2017年にパートナーのハルさんとともにディズニーシーで結婚式を挙げ、ネット上で大きな祝福を集めた。

出会って13年で挙式した2人。いま、子どもを授かるため、不妊治療をおこなっているが、それが「中断」されるかもしれないという事態に直面しているという。

「私たちは同性で子どもをもつことに関して2人でたくさんの時間をかけて悩み、これまで何度も話し合いをつづけてきました。男女の夫婦よりも何倍もの時間とお金をかけないといけませんでした」

「治療」にたどり着くまでに…

前提として、女性カップルが子どもを持つには、第三者から精子提供を受ける不妊治療(生殖補助医療)が必要だ。

しかし、日本にはこうした治療に関して定めた法律がなく、多くの医療機関が、対象者を「法的に婚姻している夫婦」などに限定した日本産婦人科学会のガイドラインに準じている。

同性婚が認められていない日本において、2人のようなカップルは、治療にたどり着くことすら、簡単にはできない。

政府によるルールづくりがなされていないため、当事者がさまざまなリスクを背負っている現状もある。

「同性カップルへの治療をオープンにしている病院はありません。そのため病院を探すのはかなり大変でした。病院によっては高額な仲介手数料を上乗せで要求されることもありました」

精子ドナーを探すのにも時間がかかる。そうした隙をつくようにSNS上では「精子提供ボランティア」が横行。性交渉を求められるケースや、犯罪に巻き込まれたり、性感染症のリスクにさらされたりする危険性もあるという。

「違う未来もあったのかな」

「少ない選択肢の中で周り人の協力のもと、どうにか治療にまでたどり着けたのは運がよかった」とリョウさんは語る。

しかし、治療にたどりついても、さまざまな障壁があった。どれも、日本が「同性婚」を法的に認めてないから生じるものだ。

「不妊治療でも助成金が受け取れないので治療費が高額となって大変でした。不妊治療の自己負担額が多いことは問題視され、現在は保険適用となっていますが、同性カップルは婚姻関係が認められないため全額自己負担のままです」

「また、不妊治療は排卵日に合わせて受診日が決まるため事前に休みを申請することが難しく、独身のままと認識されている会社では急な休みの理由を話せず周囲に謝りながら休んでいました」

「そしてなにより、治療に至るまでかかった時間の代償として、子どもをもつことができるタイムリミットは残り少ないものとなりました。後悔はありませんが、あのときすぐに病院へ行けていたら、もっと治療を選択できていたら、違う未来もあったのかなとたまに想像してしまいます」

ある「法案」の存在が…

そのような状況下で新たに浮上したのが、2人のような選択肢が「違法」となってしまう可能性だ。

国会ではいま、超党派議連による生殖補助医療のルールを定める法案づくりが進んでいる。その「たたき台」では、治療の対象は婚姻関係にある夫婦だけとされ、同性カップルは含まれていないのだ。

公布後5年以内に対象者の範囲を検討するとされるが、罰則規定も設けられる方針で、今国会での提出に向け調整が進んでいるとも報じられている。こうした動きのなかで2人は「治療が続けられなくなってしまう」と危惧している。

「友人の子をあやす私を見て『そんなふうに子どもを育てているあなたが見てみたかった』と涙をこぼすパートナーが、頑張っていた治療を中断されることに向き合っていると思うと、とても胸が痛みます」

いまだ寄せられる誹謗中傷

子どもがほしい性的マイノリティなどを支援している団体「こどまっぷ」が昨年実施したアンケート調査(有効回答639人)によると、子育てをしていると答えたひとは全体の22%。子育てをしたいと考え、実際に行動している人は19%、いつかしたいと考えている人は37%にのぼった。

また、すでに出産・子育てをしている(妊娠中も含む)141人のうち、55%(77人)が第三者からの精子や卵子提供によって子どもを産んでいた。リョウさんはいう。

「同性カップルでの妊活や子育てというと、世間的にはまだ稀だという印象をもたれやすいですが、実際には妊活されている方やお子さんを産み・育てている方はたくさんいらっしゃいます」

「そういう方の存在が可視化されない背景として、病院での治療や精子・卵子提供を水面下でしかできない現在の体制があったり、同性間の妊活や子育ての話をすると、誹謗中傷がいまだに多く寄せられる現状があるのではないでしょうか」

性的マイノリティが子どもを持つことについて、「同性婚には賛成だけど子どもはつくってほしくない」「親のエゴだと思う」「子どもがかわいそう」……などの心ない言葉が寄せられることは、いまも少なくないという。

「NO」と言わない社会を求めて

いまだこのような社会で、不安定な選択肢を選ばざるを得ない性的マイノリティの当事者たち。本来であればそうした状況を改善するための法整備がされるべきはずが、今回の法律ではより一層追い詰められるおそれがある。

「同性カップルを視えないものとしている法案が施行されれば、国内病院で生殖補助医療を受けることは事実上できなくなります」

「病院で安心して治療を受けることもできない、ドナーを探すのにリスクが伴う、生まれた子どもの出自を世間に隠さなくてはならない、そんな状況を生む法が、本当に子の福祉を守るための法なのでしょうか」

この法案の内容には「こどまっぷ」やほかの当事者らも意義を唱えている。子どもをほしいと考えている当事者の言葉を聞かぬまま議論が進んでいることに、疑問符をなげかける声もある。リョウさんも、まったく同じ気持ちだ。

「子どもをもちたい、愛する人と子どもを育てたいという気持ちは異性・同性カップルともに変わりがありません。何より、誰かが子どもをもちたいという気持ちに他人が『NO』というのはあってはならないことだと思います。同性カップルと、その子どもたちの存在に向き合ってもらいたいです」


同性婚が制度として認められておらず、性的マイノリティに対する差別や偏見がまだ根強い日本。さまざまな葛藤や障害を乗り越えて、それぞれの「家族」と生きる人々の暮らしを取材しました。あなたにとって「家族」とは、何ですか?

連載の他の記事はこちらから。

🌈「“性”と“生”の多様性」を祝福する日本最大のLGBTQイベント「東京レインボープライド」の開催に合わせて、BuzzFeed Japanでは4月22〜26日にかけて、性的マイノリティに関する情報やインタビューを「LGBTQ特集」としてお届けします。