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新型コロナ「ワクチン」記事の削除相次ぐ。その理由は?

新型コロナウイルスワクチンをめぐり、週刊新潮やNEWSポストセブン、AERAやオリコンニュース、毎日新聞などが伝えた記事に対して批判が殺到し、削除や修正に追われる事態が相次いでいる。

新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、不安を煽ったり、副反応ばかりを強調したり、その有効性について誤った情報を伝えたりしている一部メディアの報道に批判が殺到し、削除や修正に追われるケースが相次いでいる。

日本ではHPVワクチンをめぐるセンセーショナルな報道が長期にわたる接種率の激減につながった。こうした教訓をもとにより正しい情報の発信が求められているなか、「反ワクチン報道」に厳しい目が注がれている。

前提として、日本でも接種が予定されている新型コロナウイルスのワクチンの効果と安全性は臨床研究で認められており、高いものでは発症予防効果が95%程度とされている。感染予防効果があると考えられ、重症化を防ぐ役割もある。

一方で、どのようなワクチンにも副反応がある。コロナワクチンの場合、多くは「接種部位の痛みや、頭痛・倦怠感・筋肉痛」など。

ごくまれに接種直後に重いアレルギー反応を示す「アナフィラキシー 」も起きているが、適切な治療を受け、回復している。死亡例は確認されていない。

こうした副反応の頻度や症状の重大性と比較し、ワクチンによって得られる効果が大きい場合、接種は推奨されることになる。

実際に、アメリカやイギリスをはじめ、各国で接種が始まっており、世界ではすでに計6700万回接種されている。

日本では早ければ2月末から医療従事者への接種が開始される予定だ。外国人を含め、全住民が無料で受けられるという。

このワクチンに関連し、不安を煽ったり、副反応ばかりを強調したりする記事の配信、そして批判を受けた結果の削除などが相次いだ。

「感染予防効果はなし」は誤り

新潮社の「デイリー新潮」では1月21日までに、【コロナワクチンを『絶対に打ちたくない』と医師が言うワケ 感染予防効果はなし】という記事が削除された。

20日17時に公開されたもので、記事はYahoo!ニュースでも配信され、1500件以上のコメントを集めていたが、誤った情報を伝えたことに医療者を中心に批判が殺到していた。

記事ではワクチンについて「感染予防効果はなし」「mRNAが体内に半永久的に残るかもしれない」など記していたが、いずれも誤りだ。

新潮社で著作を持つ医師で小説家の知念実希人さんも直接抗議し、その後記事は削除された。

同社はBuzzFeed Newsの取材に対し、「読者の皆様の誤解を招くおそれがあると判断し、取り下げることに致しました」とコメント。なお、雑誌の週刊新潮(1月28日号)には同じ記事が掲載されているが、それについての回答はなかった。

一方、小学館の「NEWSポストセブン」でも1月25日までに【新型コロナワクチン 注意すべき「副反応」の3つのタイミング】という記事が削除された。

23日に配信された記事ではワクチンの効果や有効性、安全性に触れることなく、重篤な副反応にのみフォーカスしており、批判が集まった。これもやはり、知念さんが直接抗議をしていたものだった。

記事では、現時点で副反応として因果関係が認められていないものを「注意すべき」と紹介しているケースもあった。

BuzzFeed Newsが削除理由を聞いたところ、「NEWSポストセブン」編集部は「特に理由はお答えしていない」とだけ回答。

なお、同じ記事は同社の雑誌「女性セブン」(2月4日号)にも【本当に怖いワクチン後遺症】という見出しで掲載されているが、女性セブン編集部は「削除はNEWSポストセブン編集部の判断」とだけコメントした。

「チェック体制の不備」も

また、朝日新聞出版の「AERA dot.」でも、【医師1726人の本音「いますぐ接種」3割】とする見出しが批判を浴び、その後変更された。

21日の記事では自社で実施した医師へのアンケートを紹介。「接種する」「種類により接種する」が58.7%という結果になっていながら、接種を選ぶ人が少ないかのような見出しになっていることから、ミスリードであると批判が殺到。

編集部はその後、見出しを【ワクチン「接種」「種類により接種」は6割】と変更した。なお、雑誌「AERA」(1月25日号)の表紙には「ワクチンすぐ接種3割」という見出しが掲載されている。

AERA編集部はBuzzFeed Newsの取材に対し、「記事や見出しの制作過程についての質問には、お答えしておりません」とだけコメントした。

このほか、オリコンニュースの【新型コロナワクチン、6割超「受けたくない」 女子高生100人にアンケート】という1月20日の記事も批判を浴び、21日に削除された。

ワクチンの有効性などには触れず、調査会社を通じてアンケートを取った女子高生に限定し、その「不安」を強調するだけの記事になっていたことから、批判が集まっていた。

記事は毎日新聞や朝日新聞、中日新聞など他社サイトにも転載され、なかでも毎日新聞のTwitterで拡散したことから、同社も釈明に追い込まれた。

オリコンニュースは「チェック体制の不備で掲載されてしまったため、編集部内で記事が不適切と判断し、削除しました」と、毎日新聞は「掲載・ツイートにあたり内容の確認が不十分でした。今後は十分なチェックに努めます」とそれぞれBuzzFeed Newsの取材にコメントしている。

WHO「報道ガイドライン」に書かれていること

相次いで削除されたような一部メディアと同様の報道は、テレビのワイドショーやニュース番組など、そのほかの報道にも見られている。

不安ばかりが煽られ、正しい情報が伝わらなくなってしまうーー。このような事態に対する懸念は、専門家からも示されている。

政府の分科会の尾身茂会長も、昨年12月11日の会見で、リスクコミュニケーションの重要性を指摘していた。

「仮に副反応があった場合に、どう社会が反応するか。副反応は一定程度あるわけですから、それをどう正しく知ってもらうかは新たな課題です。うつ人とうたない人と出てくる。あるいは反対派と賛成派が分断してしまうリスクもある」

日本では、HPVワクチン接種後の体調不良がセンセーショナルに報じられたことで、接種が7年以上も事実上ストップしている。尾身会長はこの問題に触れながら、同じようなことが起きないようにと、懸念を示したのだ。

また、WHOは昨年12月7日、「Tips for professional reporting on COVID-19 vaccines(新型コロナワクチンに関する報じ方)」と題したガイドラインを発表している。

ここでは、「正確な科学的レポートがこれまで以上に重要」として、ジャーナリストが「ワクチンについて一般の人々に知らせるうえで重要な役割」を果たすと指摘。そのうえで以下のようなポイントが明示されている。

  • 論文や報告書をしっかりと読み、断片的な情報だけをもとにして報じない
  • 信頼できる情報源を頼り、ソースを明かす
  • 明確な言葉を使う、数字を伝える
  • 副反応についても伝える
  • 写真を使う際には適切なイメージを使う
  • 統計学的な全体像についても伝える
  • ワクチンの効果についても、事実と数字を伝える


こうしたガイドラインに添わず、「不安」や「副反応」ばかりを強調したり、根拠に基づかない内容を発信したりするような報道は、尾身会長の懸念するような「リスク」になり得る。

また、メディアが一定の編集を経て配信した記事について、有識者や読者からの批判を受けてから削除や修正対応を繰り返すという状況も、健全であるとは言えないだろう。

ワクチンの「安全性」は?

前述の通り、新型コロナワクチンは発症予防効果があることが研究で示されている。ファイザー社、モデルナ社製のものでは95%程度、アストラゼネカ社製のものでも70〜90%程度と確認されている。

動物実験の結果などを踏まえると感染予防効果があると考えられており、また、感染した場合に重症化を防ぐ役割もある。

副反応についてはどうか。そもそも、身体に異物を入れる以上、副反応がないワクチンは存在しない。日本に供給予定のワクチンについても、厚生労働省は「接種部位の痛みや、頭痛・倦怠感・筋肉痛等」が報告されている、としている。

また、重篤なアレルギー反応「アナフィラキシー」についても、やはり起こりうる。しかしその確率は極めて低く、適切な治療を受け回復している。

米疾病対策予防センター(CDC)によると、ファイザー社製ワクチン189万3360回の接種でアナフィラキシーがあったのは21例。10万回に1回、確率にすると、0.0011%だ。多くがアレルギー反応などの既往歴があった。その後の経過が追跡できた20人は、全員が回復した。

また、同じくCDCによると、モデルナ社製のワクチンでも、404万1396回の接種でアナフィラキシーがあったのは10例。100万回で2.5回、確率は0.0002%とさらに低くなる。9例にアレルギー反応などの既往歴があり、死亡例はやはり、確認されていない。

米国国立研究機関博士研究員でウイルス学、免疫学を専門とし、1月23日にモデルナのワクチンを接種した峰宗太郎医師はBuzzFeed Newsの取材にこう語っている。

「今回の新型コロナウイルスのワクチンにおいて、先行する2つのmRNAワクチン(ファイザー社、モデルナ社製)では、発症予防効果は明確に確認されています。重症化予防効果も臨床試験結果踏まえると『ある』といえるでしょう」

「どこからどこまでの範囲に収まれば『安全』と評価できるのか、その線引きは難しいところですが、ここまでに明らかになっていることを踏まえれば、このワクチンは安全であると言って問題ないと考えています」


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