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関東大震災の朝鮮人虐殺、追悼の場で起きたこと。歴史修正、そしてヘイトをめぐって

追悼式典は、都立横網町公園に立つ朝鮮人犠牲者追悼碑前で1974年から毎年、震災のあった9月1日に開かれている。式をめぐっては、2017年から保守系団体「そよ風」などが真横で同時刻に「真実の関東震災追悼祭」を開催。朝鮮人虐殺を否定するような主張をしており、昨年の集会における参加者の発言は東京都に「ヘイトスピーチ」と認定されていた。

関東大震災から97年となった9月1日、東京都墨田区の都立横網町公園で、震災後の混乱のさなか流されたデマなどによって虐殺された朝鮮人らを追悼する式典が開かれた。

式をめぐっては、2017年から保守系団体「そよ風」などが真横で同時刻に「真実の関東震災追悼祭」を開催。「人数に根拠がない」などとして虐殺そのものを否定するともとれる主張をしており、昨年の集会における参加者の発言は東京都に「ヘイトスピーチ」と認定されていた。

そのため公園外の路上では保守系団体側への抗議の人たちが声をあげ、式典終了後には両国駅前までの道中でも抗議が行われた。

(*この記事にはヘイトスピーチの文言が直接含まれます。閲覧にご注意ください)

まず、経緯を振り返る

追悼式典は、都立横網町公園に立つ朝鮮人犠牲者追悼碑前で1974年から毎年、震災のあった9月1日に開かれている。日朝協会などでつくる実行委員会が主催している。

しかし2017年からは、保守系団体が集会を間近で同時刻に開催するようになった。なお、この年は小池百合子都知事が、それまで毎年追悼式典に出していた都知事による追悼文を撤回した時期にも重なっている。

保守系団体側は公園の追悼碑にある死者数「6000人あまり」が無根拠であるなどと主張。碑の撤去を訴えるとともに、関係者はブログで「両方の慰霊祭が許可され」ないことが目標だとしている。

なお、政府の中央防災会議報告書(2008年)などによると、虐殺の犠牲者は、震災による死者10万人の1~数%、1千~数千人とみられている。正確な人数は別として、根拠のないデマから各地で朝鮮人の殺害が相次いだことは否定できない事実であり、次の災害時の犯罪抑止にも活かすべき教訓だと、この報告書は位置づけている。

そのうえで、追悼式典側は、保守系団体側が虐殺を否定するような内容を拡声器で流したり、ヘイトスピーチを行ったりしたとして、「式典が妨害を受けている」と指摘した。

保守系団体による「ヘイト」とは

そうしたなか、都は8月3日、保守系団体の名前などを伏せたうえで、集会参加者による「犯人は不逞朝鮮人」「不逞在日朝鮮人達によって身内を殺され、家を焼かれ、財物を奪われ、女子供を強姦された多くの日本人たち」などの発言を都人権尊重条例に基づきヘイトスピーチに認定し、公表した。

都の審査会はこれらの発言を「本邦外出身者を著しく侮蔑し、地域社会から排除することを煽動する目的を持っていたものと考えられる」と指摘。

審査会はさらに、一連の発言は追悼式典に対する「挑発的意図をもって発せられたものであり」「適切な措置を取るべき」という意見を付けた。

こうしたなか、公園管理者である都は2020年の集会について、会場となる都立横網町公園の使用許可を巡り、都が双方の団体に対し、トラブルを防止することを名目に「誓約書」の提出を求めた。

2019年には、保守系団体側と、それに抗議をする人たちとの間でトラブルが起き、逮捕者も出ていた。

誓約書の要求に対し、追悼式典の主催者側は「トラブルを惹起している」保守系団体側に対して「個別に問題行動について注意する」べきだとして反発。批判が高まった。

最終的に、都は8月3日までに、誓約書を求めることを撤回した。その理由について都は、当日の集会が平穏に行われることなどに関する「注意事項」を双方に渡し、確認したため、としていた。

注目された「使用制限」

今年の集会でもうひとつ注目されていたのが、都が認定された保守系団体の参加者によるヘイトスピーチに関するものだった。

都では人権尊重条例に基づき、「不当な差別的言動の解消を図る」ために「公の施設の利用制限」に関する以下の基準を2019年に設けている。

  1. ヘイトスピーチが行われる蓋然性が高いこと。
  2. ヘイトスピーチが行われることに起因して発生する紛争等により、 施設の安全な管理に支障が生じる事態が予測されること。


つまり、参加者がヘイトスピーチを行ったと都が認定した団体の集会は、この二つの基準に合致し、そもそも保守系団体側の集会に利用制限がかかる可能性もあるのではないか、という論点だ。

もちろん、憲法に明記される「集会の自由」や「言論の自由」の観点から、行政によるこうした制限は抑制的であるべきだと言える。とはいえ、こうした基準を都自身が設けていることから、都の行動が注目されていた。

先出の「注意事項」にもヘイトスピーチに関する記載はあったが、都はこれに「守る」ことが確認できたとして、保守系団体側に利用制限をかけることはなかった。

BuzzFeed Newsの取材に対し、公園緑地部の担当者は「ふたつの用件に関して該当するようなことは予測されないと判断した」と語った。なお、この点について審査会の意見照会の審議を経てはいないという。

双方の行き来はフェンスで遮断

結果として、今年の9月1日にも、双方による集会が開かれることになった。

鎮魂の場となった公園には双方の参加者が行き来できないようにフェンスが設けられ、多数の警察官や都職員が警備に当たった。

東京都慰霊協会が主催する、震災犠牲者全体の大法要が開かれていたこともあるとは言えるが、厳重な警戒だ。

なお、都側は設置しているフェンスを「日本庭園の植栽保全のため」としている。

また、ふたつの団体の人たちの行き来などを場内整理する必要があるとして、コーンバーだったものを「より明確」にするために今年からフェンスを設置をしたという。つまり、行き来が完全にできなくなったということだ。

集会で出された「主張」とは

保守系団体側の集会には「真実の関東不大震災慰霊祭会場はこちらです」というプラカードが掲げられた。

また、中には「東京都は朝鮮人6000人大虐殺の証拠を示せるのか」という横断幕のほか、「追悼に名を借りた政治集会」や「先祖へのヘイトスピーチ」をやめるよう訴える看板などが設置されていた。

なお、保守系団体側の集会では、マスメディアやBuzzFeed Newsの立ち入りは拒否された。ただ、ネット中継もされていた。

現場ではマイクの音量は大きくなく内容は完全には聞き取れなかったが、虐殺の人数が証明できない、などと主張する参加者もいた。

一方、すぐそばの路上では保守系団体に抗議をする人たちの姿もあり、それを塞ぐかのように、大量の警察官が並んでいた。

昨年の集会における参加者の発言がヘイトスピーチ認定されたこともあり、「ヘイトスピーチを許さない」などというプラカードも掲げられていた。

「きちんと目を向けることが大事だ」

追悼式典は、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、ネット配信で開催。参加者はイベント関係者と報道陣に限られた。

式典の実行委員長で、日朝協会東京都連合の宮川泰彦会長は挨拶で、関東大震災後の「不安と大混乱」のなか、「朝鮮人が井戸に毒を投げている」などという流言飛語が流れ、自警団らによって数千人の朝鮮人、さらに中国人や社会主義者らの日本人が虐殺されたとして、以下のように述べた。

「大震災という自然災害から生き残っても、人の手によって作り出された流言飛語と、それを信じてしまった人の手によって命を奪われたのです。追悼式典は、悲惨な歴史的事実から目を背けないことを誓いあう式典です」

「忘却は悪夢を産む。ところが、虐殺否定の流れ、歴史を修正する流れがある。私たちは好きとか嫌いではなく、過去の間違った事実から目を背くことはあってならない。いつか似たような悲劇を呼ぶ危険性がある。きちんと目を向けることが大事だ」

都知事に対する怒りの声も

この式典には、映画監督のオリバー・ストーン氏らもメッセージを寄せた。メッセージでは「歴史を歪曲しようとしている動き」について「驚きはしませんが、失望しています」と綴った。

そのうえで、「過去に正直に向き合うことは、どの国にとっても容易なことではないでしょう。それは私たちの国が今直面している課題でもあります」などとも記し、「憎悪に基づく犯罪を二度と起こさせないという決意」を示した。

また、作家の平野啓一郎さんも「この恥ずべき事件を直視し続けることなしに、日本社会は真の多様性と共生を実現することは出来ません」というメッセージをよせた。

小池知事が今年も追悼文を送らなかったことに対する抗議の声もあがった。

日中友好協会東京都連合会の中川大一理事長は閉式にあたり「何の反省も感じない。歴史的、人権的な認識が削がれており、正義のない態度」と話した。

「殺すぞ」「工作員」

結果として、双方の式典の開催中には大きな混乱は見られなかった。

しかし終了後、会場を後にしようとした保守団体側の参加者に対し、抗議者たちが「レイシストは帰れ」「恥を知れ」などと声をあげ、保守団体側の一部から半島へ帰れ」「虐殺者はてめえらだ」などと応酬する場面もあり、警察官が静止を呼びかけた。

保守団体側の参加者がJR両国駅の改札に入るまでの道中、大量の警察官が同伴し、双方の間を塞いでいた。


両国駅では警察官が、抗議者が駅構内に入ることを防ぐように並んだ。先頭を歩いていた保守団体側の参加者に話を聞いたところ、「記者ですよね。ノーコメント」との言葉が返ってきた。また、写真を撮影している記者に「殺すぞ」という言葉を投げかけた人物もいた。

休みを使って保守系団体への抗議に参加していた会社員の40代女性は「私は追悼します」というプラカードを掲げていた。

抗議の声をあげているさなか、「工作員」などという声も投げつけられたという。取材に対し、こう語った。

「(参加者の発言が)ヘイトスピーチを認定されても、開催が許可されてしまったのは、行政がお墨付きを与えるようなこと。公共がそういう姿勢を示しているなら、こうして抗議の声をあげていかないといけないと思いました」

「本当の解決は…」

2017年から毎年集会を見続けてきた『九月、東京の路上で――1923年関東大震災ジェノサイドの残響』の著者でもある著述家の加藤直樹さんは、集会後、BuzzFeed Newsの取材にこう語った

「今年の(そよ風)の集会は例年に比べ、静かだったように感じた。虐殺された人数に意義を唱えるという巧妙な形を取っているが、ヘイトスピーチ認定された発言のように、彼らの本当の主張は『犯人は朝鮮人』などと言った虚偽に基づいたもので、死者を冒涜している」

「都はトラブルを防止するためにフェンスで完全に行き来できなくしたが、本当の解決は、あのような集会が開催されなくなることではないでしょうか」

一方、追悼式典実行委員会の宮川委員長は式典終了後、報道陣に対し、保守団体側のイベントについて「彼らの集会は明らかにヘイトであり、歴史を否定するもの」と語り、こう述べた。

「端的に、彼らの運動は日本人として恥ずかしいから、我々の集会を潰すというもの。トラブルを起こし、両方の集会を中止させる目的は見えている。都の対応はそうした戦略戦術に手を貸すことになる」

「東京都の対応は表向きなもの。集会の自由とも言っているが、都の公の施設で実際にヘイトスピーチが行われているという観点からも、公園使用について問題提起する必要はあるのではないか」

歴史修正の波に飲まれて

3年後には関東大震災から100年となる。

この問題に限らず、歴史を修正しようとしたり、加害の事実を矮小化したりしようとする動きは、じわじわと広がっている。

そうした波に飲まれるかのようにして、本来は静かな祈りの場であるべき、9月1日の横網町公園の追悼の場では、大きな混乱が生まれるようになってしまった。

ただ、このような形で図らずも追悼式典は注目を集めるようになり、ここ数年は参加者が増えるという副次効果も生んでいるという。

宮川委員長は「このようなままでいいのかという危機感を持っている人が多いという裏返しではないか。当たり前のことを忘れずに、ちゃんと語り継いでいくということが大事だと思う」とも語った。