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新型コロナ検査キット「中共ウイルス付着」情報の誤り「中国より発送」と拡散

「ジョンソン首相の怒り=輸入検査キット、中共ウイルスが付着 故意か」との見出しの記事が、FacebookとTwitterで合わせて5万回以上拡散されている。しかし、新型コロナウイルスに汚染された検査キットが「細綿棒にウイルスが付着」との情報は、誤りだ。

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、ネット上で「ジョンソン首相の怒り=輸入検査キット、中共ウイルスが付着 故意か」との見出しの記事が拡散している。

記事は「中国より発送された検査キット」の「検査体を採取する細綿棒にウイルスが付着していることが判明」と書き、イギリスのジョンソン首相が強い怒りを示していると伝えている。

この「細綿棒にウイルスが付着」との情報は、誤りだ。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

記事は、「看中国」というネットサイトが4月15日に配信した。

情報の根拠を「英メディアのCD Media」としたうえで、中国から発送された検査キットが、新型コロナウイルスに汚染されていたと記し、こう伝えた。

「ユーロフィン(Eurofins)社がルクセンブルクで組み立てた同ロットの検査キットは、鼻と口より検査体を採取する細綿棒にウイルスが付着していることが判明。これにより、被検者は直接感染させられる可能性がある」

「この件について、ユーロフィン社は、検査キットのパーツは『他国より提供されている』と述べた」

TwitterとFacebookで5万回以上拡散

この記事を計測ツール「BuzzSumo」で調べたところ、FacebookとTwitterで合わせて5万回以上拡散されている。

Twitterでは「検査キットの綿棒にウイルスが付着? これが事実なら、生物兵器そのものですよね。 これ、戦争ですよ」とのツイートが7400リツイートを超えた。

また、高須克弥医師が記事のタイトルとURLのみを載せてシェアした投稿は、6000リツイート以上、動物行動学研究家でエッセイストの竹内久美子氏の「英、ジョンソン首相を見習い、日本も怒ろうぜ!中共を許さない」とのコメント付きの投稿は、4000リツイート以上となった。

「誤り」の理由

先述の通り、検査キットが「細綿棒にウイルスが付着」との情報は誤りだ

「看中国」が引用した「CD Media」は、題字の下に「誠実に、深く、本質を伝える...そして中国に操られない」とうたう。

その記事では、「検査キットはユーロフィン社がルクセンブルクで組み立てた。『プローブとプライマー』と呼ばれる、鼻や喉から検体を採取する細長い綿棒が汚染されていた。ユーロフィンは、それは『他国から供給されたもの』だと主張している」と伝えている。

CD Mediaが情報源として示しているのは、インドのサイトだ。

このインドのサイトは「ルクセンブルクを拠点とするメーカーが3月30日、一部の部品がCOVID-19で汚染されていることが判明したため、納入が遅れる可能性があると英国の研究所に伝えた、と報じられている」と、英国での報道を引用するかたちで報じている。

汚染したのは綿棒ではない

この問題について、大きく報じたのは「英テレグラフ(The Telegraph)」だった。

テレグラフは、検査キットが新型コロナウイルスに汚染されていた問題を記事でこのように報じている。

「ルクセンブルグに拠点を置くユーロフィン社は月曜朝、プローブとプライマーと呼ばれる重要な部品が新型コロナウイルスに汚染されており、出荷が遅れていると警告するメールを英国の政府検査機関に送った」

この記事を見る限り、ユーロフィン社は検査キットの納入を準備していたが、英国に送る前に「プローブとプライマーの汚染」が分かり、延期したとわかる。

このように、テレグラフが「プローブ」と「プライマー」について、「細綿棒」と報じていないように、そもそもこれらは綿棒ではない

米国国立研究機関博士研究員として免疫学やウイルス学を専門とする峰宗太郎医師によると、いずれも検査のために必要な「DNAでできた部品」だ。

プローブとプライマーがそれぞれウイルスに汚染されていると、「必ずウイルスが検出されてしまう」という誤った検査結果が出てしまう。

一方で、峰医師によれば、プローブとプライマーは世界中で製造されており、「中国製のものもたくさんある」という。

ただし、先述の記事に書いてある「中国より発送された検査キット」というのは、根拠不明だ。

CD Mediaが情報源として示したインドのサイトには、「ユーロフィン社が汚染されたものは『他国から供給された』と主張している」という記述は、存在しない。

テレグラフの記事にも、同様に検査キットやその部品が「中国より発送された」との記載は一切ない。

また、看中国の記事は、綿棒にウイルスが付着し「これにより、被検者は直接感染させられる可能性がある」としているが、ルクセンブルクから送られる予定だった検査キットは、そもそも英国に届けられていない。

ユーロフィン日本支社の広報担当者によると、どの検査キットが、どの程度汚染されていたのかといった点を本社に確認中だが、「(問題のキットを)実際に使った人はいない」とBuzzFeed Newsの取材に述べた。

また、検査キットをどこで製造したのかは公表していないといい、「中国から発送されたというのは、根拠不明です」という。なお同社は、日本ではこのキットの取り扱いをしていない。

"不適切"な呼称

また、看中国の記事は、新型コロナウイルスを「中共ウイルス」と呼んでいる。

先述の拡散したツイートには「やることなすこと、もはや人類の敵」「検査キットが生物兵器ですか。さすが中国、やることえげつないやつらですね」などと、中国に対する敵対心を煽るようなコメントがついている。

一方で、WHOは2015年に出したガイドラインで、新たな感染症に名前をつける際には、以下のような項目を含んだ呼称を使うべきではないと定めている。

  • 町や国、地域、大陸
  • 人名
  • 動物や食べ物
  • 文化、集団、産業または職業
  • 過度な恐怖をあおる用語

それは、「貿易、旅行、観光、動物、福祉に及ぼす不必要な悪影響を最小限に抑え、文化的、社会的、国家的、地域的、職業的、民族的グループへの攻撃」を避ける必要があるからだ。

新型コロナウイルスを「中共ウイルス」や「武漢肺炎」「中国ウイルス」など呼ぶのは、不適切だ。

ウイルスの発生源がどこであろうと、呼称によって特定の地域や人々に差別や憎悪の気持ちを抱かせるべきではない。問題はウイルスであって、感染した人や、流行が起きた地域ではない。

こうした情報の拡散には、注意が必要だ。


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