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田口淳之介容疑者の移送を上空から撮影…「過剰な薬物報道」はいつまで続くのか

薬物依存には、人間関係や環境など、当事者が抱える様々な背景や課題がある。そうした点に目を向けず、一面的なバッシングや“見せしめ”のような報道を続けては、解決には至らないのでは。

「KAT-TUN」元メンバーの田口淳之介容疑者(33)と女優の小嶺麗奈容疑者(38)が5月22日、大麻取締法違反容疑で逮捕された。一報はテレビ・新聞・ネットで取り上げられたが、一部報道では報道の仕方に疑問符がつくケースもあった。

時事通信

大麻取締法違反(所持)容疑で、逮捕されたアイドルグループKAT―TUN(カトゥーン)の元メンバー田口淳之介容疑者を乗せた車両=22日、東京都千代田区

両容疑者の逮捕が報じられたのは22日夕。テレビの速報テロップなどでも流れ、麻薬取締部(千代田区)には報道陣が詰めかけた。容疑者を東京湾岸警察署(江東区)へと移送する車の様子を上空から撮影し、ネット中継するメディアもあった。

「回復しようと頑張る人の足を、報道が引っ張っているのでは」

2017年、当事者や専門家が中心となって「薬物報道ガイドライン」が作られた。

背景にあったのは、タレントや元スポーツ選手など著名人が逮捕されると相次いだ、偏見や誤解を前提とした報道だった。

策定に参加したのは「国立精神・神経医療研究センター」の松本俊彦さん(精神科医)、依存症患者の支援に関わる「日本ダルク」代表の近藤恒夫さん、「ダルク女性ハウス」代表の上岡陽江さん、評論家の荻上チキさんらだ。

きっかけは、荻上さんがパーソナリティーを務めるTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」だ。2017年1月17日、松本さんは番組の中で、薬物報道の問題を指摘した。

「どうしても、糾弾する、あるいは晒し者にする、というイメージが非常に強い気がします。薬物依存症というのはれっきとした精神疾患というか、医学的な疾患なんですが、報道のたびに白い粉とか注射器とかのイメージ映像が出る。実は依存症の人はそれを目にすると、すごく欲求を思い出してしまうんですね」

「著名人が逮捕されてそのような報道が激化するたびに、自分が見ている患者さんたちが、再び薬物を使用してしまうなんてことが続発していて。回復しようと思って頑張っている人の足を、報道が引っ張ってるんじゃないか?そんな印象をずっと持っています」

松本さんは、過去にBuzzFeedの取材にこう語っている。

「僕らが注意しなければいけないのは、著名人が捕まる度に、ついつい我々にしてもメディアにしても憶測でものを語りがちになってしまうことです。一般論としては語れるけれども、憶測でものを言うのは慎重になった方がいいです」

「もしも彼がある程度常用していたとしたら、年々、芸能人の薬物使用に対しての世間の風当たりは強くなってきていますから、捕まった時に失うものの大きさはいやというほど知っているはずです」

「薬物報道ガイドライン」の内容は

以下に、依存症の治療・回復にあたる関係団体と松本さんら専門家で作った「薬物報道ガイドライン」を紹介する。

【望ましいこと】

  • 薬物依存症の当事者、治療中の患者、支援者およびその家族や子供などが、報道から強い影響を受けることを意識すること
  • 依存症については、逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること
  • 相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること
  • 友人・知人・家族がまず専門機関に相談することが重要であることを強調すること
  • 「犯罪からの更生」という文脈だけでなく、「病気からの回復」という文脈で取り扱うこと
  • 薬物依存症に詳しい専門家の意見を取り上げること
  • 依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること
  • 依存症の背景には、貧困や虐待など、社会的な問題が根深く関わっていることを伝えること

【避けるべきこと】

  • 「白い粉」や「注射器」といったイメージカットを用いないこと
  • 薬物への興味を煽る結果になるような報道を行わないこと
  • 「人間やめますか」のように、依存症患者の人格を否定するような表現は用いないこと
  • 薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと
  • 逮捕された著名人が薬物依存に陥った理由を憶測し、転落や堕落の結果薬物を使用したという取り上げ方をしないこと
  • 「がっかりした」「反省してほしい」といった街録・関係者談話などを使わないこと
  • ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと
  • 「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと
  • 家族の支えで回復するかのような、美談に仕立て上げないこと

このガイドラインでは「ヘリを飛ばして車を追う」は過剰報道がと指摘している。

旧態依然とした薬物報道が見られる一方で、変化もあった。

たとえば、田口容疑者と小峰容疑者の逮捕を報じた毎日新聞のネット記事では、薬物問題に関する相談窓口を記事内で紹介している。同紙は2019年3月、ミュージシャンが麻薬取締法違反容疑で逮捕された際の報道でも相談窓口を紹介していた。

ガイドラインでは「相談窓口を紹介し、警察や病院以外の『出口』が複数あることを伝えること」を、望ましい報道のあり方の一つとして提案している。

薬物依存には、人間関係や環境など、当事者が抱える様々な背景や課題がある。そうした点に目を向けず、一面的なバッシングや“見せしめ”のような報道を続けることに、果たして有益な意味があるのだろうか。

当事者の回復を応援できる、そんな社会にできるような報道が求められている。


Contact Kei Yoshikawa at kei.yoshikawa@buzzfeed.com.

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