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Updated on 2019年3月16日. Posted on 2019年3月13日

「回復を応援できる社会を」 薬物依存症の専門家 松本俊彦さんのメッセージ

ピエール瀧容疑者がコカインを使った疑いで逮捕され、ショックが広がっています。どのような薬で、私たちはどんな風に受け止めることが必要なのか、専門家に緊急インタビューをしました。

俳優でミュージシャンのピエール瀧容疑者がコカインを使用した疑いで、厚生労働省の麻薬取締部に逮捕され、多くの人にショックを与えています。

時事通信

2010年にイベントに登壇したピエール瀧さん

著名人が薬物で逮捕される度に、大きく報道され、仕事への影響や薬物を使った背景が話題になります。しかし、違法薬物の常用は、犯罪であると同時に、薬物依存症という治療が必要な病気の可能性があります。

専門医の立場から依存症の治療に当たってきた国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さんに、私たちはどう受け止めたらいいのか、緊急インタビューをしました。

お金持ちの薬 創作活動への影響は?

――まずコカインとはどういう薬物なのでしょうか?

薬理作用での分類で言うと、興奮薬です。同じような仲間では、覚醒剤があります。何が違うのかというと、コカインは自然のコカという植物から抽出された成分で、覚醒剤は人工的に作られたものです。

それから覚醒剤に比べると、コカインは作用時間が短いです。パッと効いてすぐ切れてしまう。ただ、それだけに効き目が持続するように追いかけて使わなくちゃならないので、使用頻度は上がりやすい。依存性は結構強いとも言われています。

乱用層の違いもありますね。精製されたコカインは高いのです。だからお金持ちが使用します。アメリカでは安いタイプのコカイン(通称クラック)による様々な層の健康被害がありましたが、日本で流通しているのはお金持ちしか使えないものが多いと思います。

日本では使える人は限られているので、我々の病院でもコカイン依存症の人はそんなに多くありません。

ーー過去に報道されているのは俳優やミュージシャンが多いようですが、創作活動に影響するものなのですか?

我々の病院に来る人がみんな才能豊かなわけではないですね。使ったからといって、才能が増したり、創作にプラスになるということではなくて、クリエイティブな活動をしている人のコミュニティでは流通しやすいことがあるのでしょう。

ーーコカインをやったからと言って、新たな発想が浮かぶとかそういう類のものではないのですね。

1回や2回はまぐれのような成功体験があるのかもしれません。しかし、それは使っているうちにすぐに感じられなくなりますし、切れた後のツケの大きさがあります。そうなると創作活動を長期にわたって安定してこなしにくくなっていきます。

私が知っているアーティスト系の方たちは、薬を始めたから作品が生まれなくなるのか、才能が枯渇した頃にああいう薬物に手を出したのか、どちらとも言えないところがあります。どちらかというと創作意欲が低迷するようになった頃に使っていることが多い印象ですね。

疲れの解消? プレッシャー? なぜ薬を使ってしまうのか

ーーそういう意味ではピエール瀧さんは、今を時めく活躍ぶりです。興奮作用があるわけですが、疲れの解消とかそういうものに使われることもあるのですか?

一時的には疲れが取れるのですけれども、切れた後のリバウンドがひどいんですよ。「クラッシュ」と言って、気分が落ち込んでドッと疲れた感じになってしまいます。

現時点の報道では、そもそも彼が常用者なのか、依存症なのかも正直わからないです。セレブのパーティーなどで出てくる薬物なので、パッと出されて、周りの状況でしょうがなくちょっとだけ使った、ということもあるかもしれません。

逆に、日頃から使っている人は慎重に使っているんです。たまに使った人の方が警戒心に乏しく、隙の多い使い方をして、すぐに捕まっちゃうところがあります。ドラッグカルチャーに疎い人の場合ですね。現時点では彼がどの程度の使い方だったのかは判断しにくいですね。

ーー依存症とは決めつけられないということを前提にお聞きしますが、一般的に依存している人はどのような特徴があるのですか?

本当に深刻な依存症だったら仕事でも支障が出てきます。約束の時間に遅れたり、パフォーマンスのクオリティーが落ちてきたり。もちろん、仕事ではなんとかギリギリ体裁を保ちながらも、私生活は乱れているということも可能性としてはゼロではないと思いますが。

そんな時には治療が必要だと思うんですね。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「回復して、また戻ってこれるよう応援してあげて」と話す松本俊彦さん

僕らが注意しなければいけないのは、著名人が捕まる度に、ついつい我々にしてもメディアにしても憶測でものを語りがちになってしまうことです。一般論としては語れるけれども、憶測でものを言うのは慎重になった方がいいです。

もしも彼がある程度常用していたとしたら、年々、芸能人の薬物使用に対しての世間の風当たりは強くなってきていますから、捕まった時に失うものの大きさはいやというほど知っているはずです。

それでも使っていたのだとしたら、いったい何があったのかと考えてしまいますね。

例えば、彼自身、もともと楽器の弾けないアーティストとして出てきて、ある時期から役者としていい仕事をされていると思います。そこで評価が高まって、プレッシャーや緊張が強くなっていたんじゃないかとか、想像したりもしますね。

もちろん、これは僕の憶測に過ぎませんが、一般論としては、そういった背景が薬物の使用にはあるんだということは多くの人に知ってもらいたいなと思うのです。

仕事や作品への影響は?

ーー現在放送中のNHKの大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」への出演や映画「アナと雪の女王」での声出演などへの影響も懸念されています。こういう作品の放映中止や差し替えは必要なものだと思われますか?

どうなのでしょう。私個人は、人のものを盗んだり、人を傷つけたりという犯罪ではないので、それはそれ、これはこれとして作品とは切り分けてほしいなと思いますね。

ただ、手を打ちたいと思うのは止むを得ないと思いますし、もしかしてアナ雪などは、子どもたちが主に見るので、それに対するいろんな意見もあるだろうとは思います。

ただ、お願いしたいのは過去の作品の発売停止とか、彼のミュージシャンとしての業績を販売停止にするとかは、やめてほしいと思うのです。

ーーこれは治療などにも影響してくるのですか?

まず、経済的にシャレにならないほど影響を受けるんですよ。

1980年代、90年代、もっとその前に、今、偉そうなことをワイドショーで語っている大御所のタレントさんの中にも、実は薬物で捕まっている人が結構いるんです。

確かにその時もバッシングは受けたわけですけれども、その後はつつがなく、ミュージシャンやタレントとして活動し続けているじゃないですか。その結果、多くの人たちを感動させる仕事を続けられているんですよね。

でもある時期から、おそらく2009年の酒井法子さん逮捕あたりからだと思うのですが、すごく世間のバッシングが厳しくなったんです。少なくとも国内では復帰は無理、という空気になってしまいました。

そういう社会の空気は、僕は見直してもいいのではないかなと思います。

現在の法律がいいものだとは思っていませんが、やはりいけないことはいけないこととして、現状の法律で罰するのは仕方ない。しかし、罪を償って、社会的な責任を果たした後はまた活躍してほしいし、その才能を生かして多くの人たちを感動させてほしいなと思うんですよね。

ーーそれが回復できる、というメッセージにもなりますね。

そうです。社会へのメッセージになります。

どうか回復して、そして周りもそれを応援して

ーー専門家として、ピエール瀧さんに対して、そして社会に対してのメッセージをお願いします。

まず、どんな状況かわからないのですが、もし依存症に相当するような状態であれば、専門の医療機関や自助グループにつながって回復してほしい。

そして、回復した後にはぜひ、こういうことをして回復したんだというのをオープンにして、また、みんなの前に現れてほしいです。

この逮捕報道を見て、治療を考え始めた人やご家族の方は、お近くの「精神保健福祉センター」に行けば、専門病院や自助グループを紹介してくれます。

それ以外の一般の方たちは、このことを静かに見守ってほしいと思います。バッシングではなく。応援してほしいのです。

人は間違いを犯すことはいくらだってある。それでも再チャレンジできる社会をみんなで作っていきたいと思うんです。

今年度は、依存症の啓発イベントをずっとやってきて、最後の東京のイベントでは元プロ野球選手の清原和博さんも登壇して、回復した姿を見せてくれました。報道も概ね好意的な内容になっていたと思います。

Yuto Chiba / BuzzFeed

厚生労働省の依存症啓発イベントに登壇して元気な姿を見せた清原和博さん(右)と松本俊彦さん(左)(3月6日)

こういう風に良くなってきた流れをもう一度昔に戻してはいけません。啓発が進んできて、ここまで築いてきたのに、時計を逆回しにしないでほしい。メディアにも応援してもらいたいですね。

ーー依存症の治療・回復にあたる関係団体と松本さんら専門家で作った「薬物報道ガイドライン」も我々、報じる立場のメディアに浸透してほしいですね。

はい。ぜひ広まってほしいです。

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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