浅草神社の御朱印は全て手作業。参拝客から御朱印帳を預かり、順番に揮毫、押印し、授与している。
同神社では三社祭のほか、正月や「上巳の節句(桃の節句)」「端午の節句」など折々の行事に合わせて、通常とは異なるデザインの「特別御朱印」を頒布している。
ゴールデンウィークには、「平成」から「令和」への代替わりを記念した御朱印を用意。これが人気となり、予想を大幅に上回る希望者が訪問。連日、早い段階で限定数に達したという。
そのため、浅草神社は「多くの方が御朱印をお受けになれない事態」になったとして、「長時間お並び頂き、お待たせする結果となり、大変なご負担とご不便をお掛け致しました」と謝罪している。
一方で神社側は、混雑緩和のため整理券を配布したり、後日に御朱印を授けられる「参拝証明書」を発行するなど、限られた職員の中で「その時にできる全力」を尽くしてきたと説明する。
8時間並ばれてたった1枚の通常御朱印を有り難くお受けくださる方もいれば、6時間・1時間掛かったり10分でも待たされれば文句を言葉にされる方もいらっしゃいます。
当方もその日に何人の方が見えられるか、それが想定以上なのか否か、当日になってみないと分かりません。
当日配置している職員の数にも限りがあります。
それぞれの”長時間”を要する事はご理解頂き、各々の判断で並んで頂くしかありません。
これまでも三社祭など希望者の集中が想定される期間には、プレハブで臨時の御朱印所を設置。熱中症を防ぐために、日除けのテントなども設けてきた。
職員、巫女に「暴言・恫喝、暴力に近い行為」
こうした中、御朱印を希望する参拝客の一部に、神社職員や巫女に対して、「暴言・恫喝また暴力に近い行為」「1人の職員を取り囲み罵声を浴びせる」など、迷惑行為に及ぶ人もいたとしている。浅草神社によると、以下はその一例だという。
・暴言、恫喝また暴力に近い行為に及ばれる方
・1人の職員を取り囲み罵声を浴びせられる方々
・説明をしている最中に大声を出し遮られる方
・遠方よりお越し頂いている事を理由に特殊な対応を求められる方、
・整理券をひったくるように受け取られる方
・神社をサービス業と捉えられ、受付時間の変更を提案される方
・「こっちはお客さんだぞ」と仰る方
・神社が税金で維持管理されていると思っている方
・神社に対し、全ての方に合わせた対応・改善を現場やSNS等で求められる方
神社側は「祈りと感謝を捧げる信仰の場である神社に対し、個人の価値観による利便性を求められる風潮となり、大変残念に思います」と失望感を露わにしている。
ネット転売は「看過できない」
加えて、浅草神社が問題視したのが、御朱印や参拝証明書のネット上での転売だ。モラルの観点から「断じて看過することはできません」と、強い言葉で不快感を表明している。
以上のような背景から「祭礼期間中の混乱を避ける為にも、今年の三社祭特別御朱印の頒布は残念ながら見送らせて頂きます」と発表した。
相次ぐ転売、明治神宮は「7万6000円」も
確かに、フリマアプリ「メルカリ」やネットオークションサイト「ヤフオク!」などでは、出雲大社や伊勢神宮など複数の寺社の御朱印が出品されていた。
メルカリでは、浅草神社が改元時に頒布した特別御朱印も確認できた。神社で授与される場合の頒布価格(初穂料)500円に対し、転売価格は8999円で既に売約済。参拝証明書も数千円で複数出品され、いずれも売約済となっていた。
明治神宮(東京・渋谷区)が改元前後に頒布した御朱印は、メルカリには5万円で出品されていた。ヤフオク!では、平成最終日と令和初日のセットで7万6000円まで入札価格が高騰していた(5月14日現在)。
メルカリ、ヤフーの見解は
BuzzFeed Newsでは、メルカリとヤフオク!を運営するヤフーに話を聞いた。
両社とも、これまで複数の寺社から御朱印の転売を問題視する意見が出ていることは把握しているという。
メルカリの広報担当者は「ご意見があることについては把握しております」とした上で、「御朱印は現在、出品禁止物とは定めておりません」と回答。
その上で「メルカリではお客さまに自由に売ったり買ったりを楽しんでいただくことをコンセプトとしており、法令違反や危険物・詐欺被害等の"お客さまに被害が及ぶ可能性のある一部の出品禁止物"以外については、原則出品可能としております」と答えた。
ヤフーの広報担当者も、「本件に限らず、出品物については、さまざまな価値観に根ざした多様なご意見があるものと認識しています」と説明。
その上で「公平中立な立場で、ユーザーのみなさまに、多様性のある自由な取引の場を提供しています」「法令のみならずユーザー保護の観点からガイドラインを策定、随時アップデートしておりますが、現在のガイドラインにおいて御朱印は出品禁止物にはあたりません」と回答した。
どちらも「自由」な商品取引を原則とし、これを重んじている。現時点では御朱印の転売は違法とは言えず、「出品禁止物にはあたらない」という姿勢も共通している。
御朱印めぐる問題、どう考える?
御朱印をめぐる議論は希望者のマナー、転売サイト利用者のモラルといった観点だけでなく、御朱印そのものが“巡礼の証”として宗教性を帯びていることから、様々な視点から意見がでている。
浅草神社の発表に対し、SNS上では、
「御朱印がコレクションの対象になっている事が悲しい」
「残念ですが仕方がない」
「廃止するお寺や神社のお気持ちはよく理解します」
「英断」
など、神社側の姿勢を支持する声や、御朱印希望者のマナーを指摘する声が多い。
一方で御朱印をめぐるトラブルについて、
「神社も御朱印を頂くものも、その意味を考え直さないといけなくなっていると思います」
「限定の御朱印やお守りなど、喜んでいただきたいという気持ちはありがたいですが、本来、神様は限定などなく、皆さんに平等だと思います」
「御朱印を派手にした神社にも責任があると思う」
「ブームを煽ったマスコミにも責任がある」
「(オークションサイトやフリマアプリ側にも)監督責任があるのでは」
「確かに需要と供給だけど、線引きって必要」
といった声もあった。
そもそも「御朱印」とは
御朱印の起源は諸説あるとされ、神社本庁によると奈良〜平安期にさかのぼるという。神社・仏閣に写経(書き写した経典)を奉納した人に授けられた証明書「納経受取の書付」。これが起源ではないかという説だ。
時を経て、街道など交通網の整備が進むにつれ、庶民にも遠方の寺社への参拝が広まった。こうした中、参拝の証として御朱印が頒布されるようになったという。
御朱印は寺社によって図案が異なり、その頒布のスタイルも様々だ。
参拝客から御朱印帳を預かり、寺社名や祀られている神、本尊の名を墨書きしたり、印章を押すのが通例。特徴的なデザインで人気となった寺社もある。
同じ寺社でも、手書きの場合は必ずしも統一された文字になるとは限らない。実際にしたためる神職によって個性があるという。
到津八幡(いとうづはちまん)神社(福岡・北九州市)の石崎信考宮司は、過去にBuzzFeed Newsの取材に対し、「近くの神社では、書かれた御朱印を見て“インターネットに載っていたものと違う”といった苦情も聞く」と証言している。
人員の都合や参拝客が多いところなどでは、墨書きではなくスタンプ形式の場合もある。
あらかじめ書き置きした御朱印を頒布する寺社もある。この場合、参拝客は、自分で御朱印帳に貼付する。
近年では祭礼や年中行事など、折々で頒布される限定の御朱印が人気となっている。「令和」初日となった5月1日の明治神宮では、一時「8時間待ち」だったという。
いずれの場合も、御朱印は“参拝の証”として授与されており、各寺社では「御朱印を受ける際は、必ずお参りを」と呼びかけている。