「フィンセン文書」で暴かれたメガバンクの資金洗浄。8つの重要なポイント

    BuzzFeed Newsは、100以上の報道機関と共同で、世界各国の銀行が提出した2100件以上の機密文書を分析し、そこに記されていた秘密を解明した。この記事では、その分析からわかった8つの主要なポイントをお伝えする。

    この記事は、「フィンセン文書」によって暴かれた金融機関の不正に関して、BuzzFeed Newsが独自に実施した調査のパート3である。パート1はこちら、パート2はこちらから。

    BuzzFeed Newsは9月20日、全世界に向けてフィンセン文書に関する報道を開始した。これは、数千件の政府文書をもとに、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と共同で行った調査報道だ。

    調査は複数の大陸にまたがって行われ、88の国と地域にわたる100以上の報道機関が携わった。フィンセン文書に関する記事が続々と発表されると、無数の読者がその内容を熟読し、選挙で選ばれた議員や政治家は変革を呼びかけ始めた。

    以下では、この文書の調査から明らかになった8つの主要なポイントについてまとめている。

    1. 黙認された数々の不審取引と、そこから利益を得る者たち

    世界中のメガバンクは、「犯罪行為に関連しているおそれがある」とする社内からの警告を無視し、数兆ドル規模の疑わしい取引を黙認してきた。

    テロリストのネットワーク、違法薬物カルテル、組織的犯罪集団、国の財産を食い物にする悪徳政治家たち…。

    これらの人々は、アメリカの金融システムを用いて、自らが違法に得た資金を洗浄し、銀行の姿勢から恩恵を受けてきた。

    悪名高い犯罪者が世界中に不幸の種をまく一方で、メガバンクとその株主は、こうした金融活動から利益を得ている。

    2. 報告書の致命的な抜け穴

    アメリカ政府は疑わしい金融取引について、銀行が提出する「不審行為報告書(SAR)」を通じて情報を得ていた。

    SAR自体は犯罪の証拠とはならないが、捜査や情報収集を支える資料になるケースがある。

    これらの報告書は、本来であれば資金洗浄(マネーロンダリング)との戦いの一助となるもののはずだが、この仕組みには致命的な抜け穴がある、と複数の専門家は指摘する。

    各銀行は、アメリカ財務省の金融犯罪取締ネットワーク局(英語の頭文字を取って、FinCEN=フィンセンと呼ばれる)に警告を提出することが義務づけられている。

    だが、不審な行為をやめさせたり、怪しい顧客との取引を中止したりする義務は負っていない。

    BuzzFeed Newsの取材に応えたある情報筋は、こうした報告書の大半は読まれることすらなく、調査の対象になることはさらにまれだと述べた。

    3. 取締りの緩さ

    銀行は、金融犯罪を根絶するためのごく基本的な対策さえ実施していない場合もあった。例えば、自分たちが誰のカネを動かしているのかを確認するといった対策だ。

    ところが、アメリカ司法省は、こうした業務怠慢を厳しく取り締まるどころか、一連のなれ合い的な合意を銀行と結んでいた。

    各銀行の年間利益からみれば微々たるものでしかない罰金を科すだけで済ませたり、銀行が問題行動を是正するための猶予期間を与えたりしていたのだ。

    こうした起訴猶予合意(DPA)は厳しい文言を伴うことが多いものの、実際には有効性がなかったという事実を、今回の報道は示している。

    多くのケースで、銀行は与えられた猶予期間内に問題を是正することができていなかったが、司法省が脅し文句として合意に加えていた「重大な措置」が科されることは決してなかった。

    4. 監督下に置かれてもなお続けられた不審取引

    ヨーロッパ最大の銀行「HSBC」は、違法薬物密売人や資金洗浄に手を染めた犯罪者がカネをやりとりする主要ルートとして使われたが、その後、是正の機会を与えられた。

    しかし、連邦の監視機関と判事、さらには検察当局が監督にあたったにもかかわらず、HSBCはその後も、自らが疑わしいと判断した顧客との取引から利益を得続けていた

    5. 警告後も不審取引は取り締まられず

    ドイツ銀行では、2011年から2015年の間に「ミラートレード」と呼ばれる手法が使われ、記録の中でも史上最大クラスの資金洗浄が行われたという国際的なスキャンダルが生じた。

    そして今回、BuzzFeed Newsの調査により、あることが明らかになった。ドイツ銀行の経営幹部は、この事件が国際的なスキャンダルとなったはるか前から、犯罪者たちに悪用されるリスクがあると警告されていたのだ。

    またスタンダード・チャータード銀行では、内部告発者が問題を指摘し、アメリカ政府に警告を伝える文書が提出されたにもかかわらず、不審な顧客はその後も同行を利用し続けた。

    その後の司法当局の捜査で、イラン人顧客が違法な送金を行うのを同行が許していたことが明らかになった。

    6. 世界規模で行われている資金洗浄

    資金洗浄にまつわる問題は、1つの銀行や国に限った話ではない。

    フィンセン文書に関する調査では、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン、HSBC、スタンダード・チャータード、ドイツ銀行の各行が、違法行為が指摘されたのちも、不審な顧客のカネを動かし続けていたことが判明した。

    7. 見えない所で流れ動く不審なカネ

    不審なカネの流れは世界をめぐり、あらゆる国や地域、無数の産業に浸透している。スポーツから不動産、日常的に使われる消費財など、よく知られた製品や企業も、この流れと無縁ではない。

    こうしたカネが及ぶ範囲は非常に広範で、規制はないも同然という状況にある。いわゆる闇の経済と、「合法的」と思われている経済とを切り離すのは困難なほどだ。

    8. これらの問題を解決するために

    フィンセン文書に関する一連の報道で明るみに出た問題は、数十年にわたって放置されてきた。

    これを是正するのは容易ではないうえに、現状を維持しようと結束した既存勢力の抵抗も根強い。

    多くの専門家は、銀行の幹部を訴追することが正しい方向への大きなステップになると指摘する。つい最近までは、これがアメリカの基本方針だった。

    また、フィンセン文書をきっかけに、さまざまな動きも起き始めている。アメリカイギリスでは、議員や活動家、専門家が、変革を促すこの機会を捉え、さまざまな改革案を検討している。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:長谷 睦/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan