英バーミンガムのヒップホップ界を引っ張るソマリア系19歳女性

    「この町を代表するプロジェクトが必要だったんです。それなら私がやろうと思って」

    自分はラップも演技もできない。ムナ・ルーミはそう公言する。もともと初めからプロデューサーとして活動を始めたわけではなかった。

    だが19歳のルーミは今、バーミンガムの音楽シーンを牽引する存在だ。そうなったのには、彼女の人並みはずれた力によるところが大きい。言葉にして発信し、言葉を行動に移す強い意志がルーミにはある。

    そんな彼女のエネルギーを受け、音楽業界の若手実力者で音楽プラットフォームSBTVの創設者ジャマル・エドワーズも、今注目すべき若手としてルーミの名を挙げる

    バーミンガムの音楽シーンを支える強い基盤をつくりたい。そんな思いに突き動かされ、ルーミは音楽マネジメント会社BHX MVMNTを立ち上げた。グライムとヒップホップに特化した音楽レーベルでもある。また、ラッパーであるヤング・スモークのマネジメントも手がける。

    Laura Gallant / BuzzFeed

    現在、ブルー・ルーム・マフィア(Blue Room Mafia)をはじめ、バーミンガムの旬なアーティストが参加するコンピレーションアルバムのリリースに向け準備中だ。

    ルーミは取材に対し、バーミンガムを拠点にしたレーベルの設立についてはしばらく前から考えていた、と語る。「バーミンガム出身の大勢のアーティストと組んで、いろんな活動をしています。じゃあ、これを自分のビジネスとして本格的に立ち上げてみよう、と思ったんです」

    音楽の世界へ足を踏み入れたのは16歳のときだった。地元のコミュニティラジオ局Newstyleで自分の番組を持ち、才能あふれる多くの有望なアーティストを紹介した。「周りはみんなだいぶ年上で、私はグライムとラップをたくさんかけていました」とルーミ。

    「私がいいなと思った人の音楽や、友達の音楽を積極的にラジオで紹介するようにしました。インタビューもしましたね。これが(音楽業界への)第一歩でした。そうしてたくさんのつながりができました。みんな私より名前も知られて活躍している人ばかりで、それも恵まれていましたね」

    大学では英語、メディア論、歴史を学んでいたが、BBCのラジオ局Radio 1xtraへ行くため授業を休むようになった。

    以来、ジェイケイ(Jaykae)やロット・ボーイズ、ダプス・オン・ザ・マップをはじめ、バーミンガムが生んだ数々の注目アーティストと組んできた。

    ルーミの仕事は、各アーティストをそれぞれ合った会社につなげ、その音楽を広く人々に届けることだ。

    昨年と今年は、市内の百貨店セルフリッジズを会場に、ラジオとTVを融合させた音楽イベント「0121」をSBTVと共同で企画、開催した。ラッパーのザ・ストリーツことマイク・スキナーなど、アーティストを呼んでステージを披露してもらったほか、インタビューを行った。

    ヒット曲「Moscow」で知られるジェイケイの国内ツアーにホスト役で帯同したのは、最高にすばらしい経験だったという。「私は18歳だったんですが、一緒に国内を移動して3、4公演をやりました。彼と最初に出会ったときの話も面白いんです」

    ある日、町の中心部を歩いていてジェイケイの姿を見つけたルーミは、駆け寄って「あなたの音楽の大ファンです」と話しかけた。

    「向こうは笑っていて、ふざけてるのかなと思ったみたい。というのも多分、その辺のソマリアの女子が何だかわからないけど近づいてきて、誰だこれ?と思ったんでしょうね。で、こっちはこっちで、私のこと覚えといた方がいいですよ、そのうちすぐ名前を聞くようになるんで、って感じで。それで今に至ります」

    ルーミにとって、ツアーへの参加はきわめて大きな意味を持つ体験になった。地元バーミンガムの音楽が他の土地でも評価されることを、身をもって知ったからだ。

    「目の前がぱっと開ける思いでした。別にバーミンガムだけにとどまっていなくてもいい、他の町にもチャンスはたくさんあるんだ、とわかったし、バーミンガムの音楽がどこへ行っても結構評価されるのもわかったし」

    「マンチェスター、ブリストル、ロンドンと回るんだからほんとにすごいことです。で、行ってみると400人とか600人が入ってて、始まりはバーミンガムのスモールヒース地区(イスラム教徒が多く暮らす地区)の一角だったのに、と信じられない気持ちでした。それに、バーミンガムの中だけの有名人だと思っているラッパーが他の場所でも大人気だったりして」

    Laura Gallant / BuzzFeed

    今回立ち上げた会社は、昨年9月に始めて盛況だった一連のイベントにヒントを得たという。「ちょっと注目を集めている、バーミンガムで成功している地元のアーティストを集めたイベントだったのですが、そこからアイデアが生まれました」

    「それから、私のイベントに出てくれたアーティストがこれだけいるのだから、私が呼びかけてプロジェクトに参加してもらって、一緒にコンピレーションアルバムを作ったらどうだろう、という案が出てきたんです」

    コンピレーションアルバムのプロデュースはBHX MVMNTが手がける。「この町を代表するプロジェクト、この町の才能を集めたプロジェクトが必要だったと思うんです。私の町を代表する作品ですね」

    「バーミンガムでは今、音楽シーンに結束が生まれていると思います。2、3年前は、たくさんのミュージシャンが協力して何かするのはなかなか難しかったけれど、今はこのプロジェクトを通じて溝を埋めることができている気がします」

    イギリスの音楽事情を見れば、グライムとラップの中心はロンドンだと言っていい。ストームジー、スケプタ、デイヴ、J Hus、クレプト&コナン、ヘディー・ワン、AJトレーシー等々、多くのスターを育てたのはロンドンだ。ストームジーはグライムシーンに貢献したバーミンガムを「陰の功労者」と呼び、称えている。

    注目された結果、バーミンガムなまりのラップは時にからかわれてもきた。バーミンガムっ子ならみんな心当たりがあるだろう。ルーミは動じない。「気にしてません。ほんと、全然気にしてないです。全然かまわない。いずれにしても波に乗ってるし、音楽としてすごくいいってこと。そう思ってます」

    「地元言葉のアクセントについては言いたい人は言えばいいけど、そういう人はこの町のことだって正しく理解していません。外の人がバーミンガムといえばアクセントと思うのもそうです」

    ルーミはミスト、ジェイケイ、ロット・ボーイズ、レディ・レイーシャといったアーティストに謝意を表し、「カルチャーに変化の風を起こしてくれた」と賛辞を贈る。「たくさんの人にバーミンガムについて知ってもらい、バーミンガムとは何かを考えてもらうという点で、大きな力になってくれました」

    Laura Gallant / BuzzFeed

    現在バーミンガムが発信する音楽の人気が高まっている背景には、インターネットの力もあるが、バーミンガム市民の姿勢も後押ししているとルーミは言う。「バーミンガムの人たちはいちいち気にしないんです。そういう気質なんだと思います。相手に受け入れられなくても気にしない、自分たちのやることをやる、という感じで」

    音楽を仕事にするという選択については、両親、とりわけ母親の理解を得るために、少し説得しなくてはいけなかったという。今は二人とも応援してくれている。「母親には最近、こういう道もあるんだよ、というのを見せました。私はこういうことがしたくて、こういう仕事が入ってきてるんだよ、こういうことをしてお金をもらってるんだよ、と」

    ルーミは続けた。「最初、母親は私にちゃんと大学へ行って、とかそういうことを望んでました。でも私は、結局は自分の人生だし、と思って、ソマリア人の母親を説得するなんて無理だろうと思ってたんですが、最終的にはうまく落ち着きました。今はすごく応援してくれています。間違ったことさえしなければいい、若いときを無駄にしないように、とだけ言われます」

    2017年12月、ルーミはTEDxに登壇した。仕事のことや、周囲でただ一人ヒジャブをつけたイスラム教徒であり、トレードマークのサングラスもあって目立ったことなど、自身について語った。状況は今もあまり変わらないが、うまく対処できるようになってきた、と言う。「以前は不安で、“あー、あの人も私がヒジャブをかぶったイスラム教徒だからって先入観で見るんだろうな”とか、“私が頭にスカーフを巻いてるってだけでそれ以上知ろうとしないんだろうな”と思っていました。でも、いや、そんなのどうでもいい、どっちにしても相手は私を評価するんだから、と思うようになりました」

    まだ若いから、と見くびる大人もはねのける。「まだ19歳だからと、私のすることを下に見る人は多いです。でもそれもいいことだと思うんです。他の人の言動は気に留めません」

    「まあ、今は耐えて、いずれそういう人たちが間違ってたってことを証明すればいいかな」

    Laura Gallant / BuzzFeed

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan