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みんなに無視されてるけど…?駅で見かける「やたら目立つジャンパーであいさつしてる人」は何が目的なの?

選挙前でもないのに、駅や交差点に立っている「候補者っぽい」人。みんなに無視されてるけど意味あるのかな?選挙に必要?選挙コンサルタントに聞きました。

「選挙前でもないのに、駅に立っている人がいるけどなんのため?」

「演説するわけでもなく、あいさつだけしてるのって意味あるの?」

7月10日投開票の参院選を前に、BuzzFeed Newsが選挙に関する質問を募集したところ、読者からこんな声が寄せられました。

駅や交差点などでのぼりを立てて有権者にあいさつをする「辻立ち」。

見かけたことはあっても「これが投票に結びつくのか?」と疑問に思う人も多いのではないでしょうか。

地方選挙から国政選挙まで全国各地で幅広く関わる選挙コンサルタントの大濱崎卓真さんと、選挙コンサルティング会社「ジャッグジャパン」取締役の宇田川藍さんにぶつけました。

何かを伝えたいわけじゃない?「そこにいること」が大

――選挙期間のずっと前から、毎週のように駅で立っている候補者がいますが、あれは何のためなんでしょう? 効果はあるんですか?

宇田川:確かに知らないと不思議ですよね、何してるんだろうって。答えは「そこにいること」、それ自体が目的なんです。

――ん? 何かを伝えようとしているわけでもない?

宇田川「選挙カー、意味あるの?」の質問でもご説明したのですが、政治家が票を得る――その前の段階として認知を高めるために、「単純接触効果」は重要です。

人や物、サービスに何度も接触することで、親近感がわくというのは、実証されていることでもあります。

みなさん、毎日のように使う駅のホームから見える広告って、なんとなく覚えていませんか?

――「なんとか歯科」とか「なんとか病院」とか。

宇田川:そうです、そうです。デザインによっては妙に記憶に残ったり。

候補者が「そこにいる」意味もビルボード(屋外広告)と似ています。

習慣的に同じ場所、同じ時間に立っていることで「赤い服の人、今日もいるな」と思ってもらうことが大事なんです。

――「あの人何やってるんだろう?」と思われれば、まずそれで目的達成なんですね。

宇田川:「辻立ち」の「辻」という言葉は、交差点のことです。都会だと駅、郊外だと幹線道路沿いの交差点などでおこなうことが多いです。駅の場合は「駅立ち」と言います。

駅も交差点も日々たくさんの人が行き交いますし、みんな忙しい。長い演説をしっかり聞いてもらうことは最初から目的ではありません。

まずは自分の存在、あわよくば顔と名前を覚えてもらうために「そこにいる」んです。

はたから見ていれば「おはようございます!」と1時間ずっと言い続けているのはシュールかもしれないですが。

「この名前、聞いたことあるような…」くらいでいい

――うーん、でもさっと通り過ぎちゃうだけだし、立ち止まって話しかけるほどの興味もないし……。ちゃんと認知してるかっていうと微妙な気がします。選挙前じゃなければ、名前がわかるものもないし。

(編注:公職選挙法の規定により、選挙期間以外は名前の入ったタスキやのぼりは使えない。キャッチコピーを書いたのぼりや目立つ色のジャンパーなどを用いることが多い)

大濱崎:例えば、コンビニのアルバイトのレジの人って、10回くらい行けばなんとなく「あの人だ」ってなりません?

名前までわからなくても「今日もこの人だ」程度の“顔見知り”になるケースはままあると思うんです。

いざ投票という時、たくさんの人の中から選んでもらうには、「この顔見たことあるな」「名前聞いたことあるな」は、かなり大きな差になってきます。

なので、無意識でも意味はあるんですよ。

――確かにまったく知らない人より「近所の駅にいたような」くらいの方が親近感はあるかも。

宇田川:それも大事なことです。縄張り意識、と言うと強く聞こえるかもしれませんが、「私はこの地域で活動していますよ」と伝える意味ももちろんあります。

政治は、地域の問題に直結している仕事。「うちの地元の政治家」と思ってもらうのは信頼感にもつながります。

大濱崎:たくさんの人に一度にご挨拶できるというのも辻立ちの価値ですね。

例えば、公選法に触れないかたちであいさつして回るとします。丸一日かけて歩き回っても、会える人数はせいぜい200〜300人程度が限界です。

でも、東京近郊の駅であれば、1時間立っていれば1000人程度には接触できます。

無視されてるけど大丈夫?

――でも、反応がないのにあいさつし続けるのも正直しんどくないですか? だんだん変化していくもの?

大濱崎:もちろん最初の頃は反応もないです、はっきり言って。無視されて当たり前です。

選挙が近づいて初めて「あの人選挙のために立ってたのか」とわかってもらえて、チラシを受け取ってくれる人が増える……くらいですね。

辻立ちは選挙期間以外もできる活動なので、1年間や2年間コツコツ続ける人も多いですよ。「毎週何曜日はこの駅でゴミ拾いをしながらごあいさつしてます」とか。

――1年間! 毎朝は大変だ……。

大濱崎:選挙コンサルタントとしてこれまでたくさんの候補者をお手伝いしてきましたが、「お金がないんです」という方には必ず「じゃあ駅立ちをコツコツやってください」と伝えます。

すぐに結果は出ないですが、継続してやることが何より重要です。身一つでできてお金もかからないですしね。

スーパーの特売日を狙う人も

――候補者同士で場所がかぶったりしないんですか?

大濱崎:全然ありますよ。その場で調整することもありますし、できないときはどちらかが離脱することになりますね。

先ほどもあった「地元」に近いところを抑えるのはもちろん、支持層や候補者のイメージに合わせてさまざまな場所で実施します。

例えば、通勤時間帯の駅で会えるのは、いわゆるサラリーマンが多いですよね。世代も性別も、実は結構偏りがあります。

東京はともかく、地方ではそれはさらに顕著です。じゃあそれ以外の人とはどこで接点を持つか? と考えなくてはいけないですよね。

――田舎のおばあちゃん、確かに駅は使ってなさそう。病院に行くにもバスだな〜。

大濱崎:女性の有権者に多く会いたい場合は、駅じゃなくてスーパーマーケットの前を選ぶとか。

お客さんが多い特売日を狙っていくこともありますよ。生活者に近いことをうたっている党や候補者が多いんじゃないでしょうか。

あとは偶数月15日、午前9時前後の銀行前もよく使われます。

――偶数月15日…。なぜこの日なんですか?

年金の支給日です。

銀行が開く9時前から並んでいる方も多いので、ごあいさつしやすいですしね。

――なるほど。有権者の中でも特に訴求したい層によって接触ポイントを変えていくんですね。

年金支給日に金融機関に並ばれている方というのは、当座で現金を必要としている方であって、「生活の資金繰り」や「物価」に関心が高い人が多いだろうと推測がつきます。

訴える政策が響く人が、いつ・どこに・どのようにいるのかを考えてスポットを変えることも大事です。


7月10日に投開票日を迎える参議院議員選挙。

なんで選挙カーってあんなにうるさいの? ネット投票まだ? 投票方法から選挙の仕組み、選挙運動の謎までーー。

BuzzFeed NewsのLINE公式アカウントやInstagramに読者のみなさんから寄せられた「#選挙のなんでなん?」を、記者が取材しました。