「選挙カーって必要ですか?」
「名前を連呼されてもうるさいだけ…有権者をバカにしてない?」

7月10日投開票の参院選を前に、BuzzFeed Newsが選挙に関する質問を募集したところ、読者からこんな声が寄せられました。
なんで選挙カー、やめないの? 本当に効果あるの?
地方選挙から国政選挙まで全国各地で幅広く関わる選挙コンサルタント、大濱崎卓真さんに疑問をぶつけました。

選挙カーって効果あるの?
――早速ですが、選挙カーってうるさくないですか?
目の前を通ると、うるさいですよね。寝ているお子さんが起きちゃう!なんて気持ちもよくわかります。
でも、「うるせえな!」って思うってことは、裏を返せばちゃんと聞こえているってことですよね。
最近の住宅は防音効果がきちんとしているのにそれでも届くんですから、やっぱりアナウンスする側としては「意味がある」「届いている」ということになります。
――むむ……。そもそも、本当に効果あるんですか?
効果はあります、確実に。現場にいても感じますし、研究結果も出ています。
選挙カーの目的としては、まずは「単純接触効果」。
人や物、サービスに何度も接触することで、親近感がわくというのは、実証されていることでもあります。
単純接触効果は、長期間でおこなうよりも短期で集中的におこなった方がより効果を発揮すると言われています。
典型的な例がテレビコマーシャル。同じ時間帯で毎日放送することで、商品名や企業名を記憶してもらうのが狙いですよね。
2017年には、関西学院大学の三浦麻子教授らによって「選挙カーは立候補者の好感度を上げる効果はないものの、得票そのものには効果がある」とした論文が発表されました。選挙カーの走行ルートを記録し、沿道に住んでいる有権者にアンケート調査をしたものです。
――CMも「ウザいなぁ」と思いますが、何度も見ていればなんとなく商品名を覚えますもんね。

選挙カーは「移動手段」でもある
加えて、実務的な面で言うと、選挙カーは移動手段でもあるんです。
参議院の場合、選挙区は県単位ですから、公共交通機関や自転車で回るのは極めて難しいです。
なので、もちろん車を使うことになるわけですが、その時間も有効活用したくないですか?
――なるほど、移動中も無駄にしないと考えると……。
そう、呼びかけた方がいいですよね。車の移動に合わせて広範囲にリーチできるわけですし。
選挙は明確に「誰かが受かって誰かが落ちる世界」ですから、自分以外の候補者がやっているのに自分だけやめるというのは、心理的にも難しいのが現状です。

なんで名前ばっかり連呼するの?
――名前だけ連呼しているのも「意味あるの?」という気持ちになるのですが。
それは公職選挙法(140条の2)の規定によるものです。
要約すると、選挙カーは午前8時から午後8時までの間は連呼行為ができる。ただし、学校及び病院、診療所などの療養施設の周辺では静穏を保持する努力義務がある、とされています。
でも、「連呼行為」って結構あいまいでもあるんです。本当に名前だけだと何がなんだかわからないですよね?
長い演説をまとまった時間を使って聞いてもらう場とは違いますから、聞き取れる範囲で名前とキャッチコピーを言っている人が多いと思います。
候補者の押し出したいポイントでも内容は変わってきます。
新人で名前がまだ全く知られてない人だったら名前のウェイトを増やすとか、候補者の中での女性が一人だけだったら「唯一の女性候補」を強調するとか。政党名を強く打ち出すパターンもありますね。
――「選挙カーから流れてくる音」としか認識してませんでしたが、意外に比べてみると違うんですね。実際、車に乗って呼びかけていると反応はあるんでしょうか?
人が出てきて手を振ってくれる熱心な地域もありますよ。
地方選挙でも国政選挙でも、候補者が育った場所や住んでいる町の「地元」に行くと、知っている人たちがが「がんばれ〜」と声をかけてくれます。郊外や地方に行けば行くほど、その傾向は強いですね。

ちなみに、選挙カーうるさい!という方たちには意外かもしれませんが、「おたくの選挙カー、来てないんだけど!」とクレームはよくあります。
「うちの地域に来る予定はないのか?どうなっている?」と。これは選挙事務所あるあるです。
――ちなみに、そう言われたらどうするんですか?
選挙戦の期間内でかなり緻密にスケジュールを組んでいるので、後から変更するのは正直かなり難しいです。選挙カーが通った時間にたまたまその方がご在宅でなかっただけ、ということもありますし。
なので、事前に遊説のスケジュールをSNSなどでしっかり伝えておくのも大事なことです。「この日に近くに来るらしいぞ」と気にしてもらうことですね。
音量に規定ってあるの?
――選挙カーによって音量が違う気がするんですが、規定はあるんでしょうか?
いえ、法律上はありません。
学校や病院、療養施設の周辺では「静穏を保持するように努めなければ」とありますが、厳密には決まっていないんです。
音量ゼロにしなければならないのか、他の地域より小さければいいのか。
――そこはさじ加減なんですね。
法律上は気にしなくてよくても、個別に対応することもあります。
例えば、TOEICや一部の国家試験は、選挙期間中に試験がある時は、試験会場と時間を事前にまとめて候補者陣営に連絡してくれます。「この近くでは選挙カーを控えてください」と通達があるのです。
選挙カーを使わない時もある
――選挙カーをあまり使わないケースもあるんですか?
例えば、真冬の北海道の選挙では、使えないこともありますね。何しろ猛吹雪なので……。

――車を走らせてる場合じゃない!
そうです。一生懸命呼びかけて手を振ったところで、誰も外を歩いてないですからね。
でも逆に、自宅にみんないますよね。大雪なんですから。
だったら電話をかけた方がいい。こういう場合は、候補者やボランティアのみなさんとせっせと電話をかけます。普段だったら「効率が悪い」やり方が「最善手」になる時もあります。
あとは、「選挙カー」ではなく「選挙船」を使うこともありますよ。
――せ、選挙船?
選挙カーのようにスピーカーを積んだ船です。公選法ではこれも認められているんです。
――「選挙運動のために使用される自動車又は船舶の上においてする場合は」……ほんとだ!船舶!
瀬戸内海地域など、島嶼部が多い地域でよく使われています。いちいち車を島から島へ運ぶのは大変ですからね。
「うるさいな」と思う人がいれば「熱心だな」と思う人もいる
――「いつも同じでうるさいだけじゃん!」と思ってた選挙カーですが、楽しみにしている人もいるし、そもそも車でもなく「船」のこともあるんですね。
選挙カーの連呼行為が効果をもたらすかどうかは、受け取り方の問題で、私たちも必ずしも全員に意味があるとは思っていません。
「うるさいな」と感じる人もいる一方で、「熱心な候補者だな」と響く人もいる。
最近はSNSに熱心な候補者も増えてきましたが、「この人はSNSでもよく発信して熱心だな」と感じる人もいるし、「何やってんだかわからん」と興味を持ちようがない人もいるでしょう。
若い世代の方はSNSやネットで情報収集するのが当然でしょうが、全員がそうなわけではありません。
どの陣営も、得られるベネフィットとデメリットを天秤にかけ、選挙カーの利用も含めて、より多くの有権者に届くように試行錯誤しながら模索していると思います。