• animaljp badge
  • 311 Japan badge

「ナナ、生きてるのかな」震災で離れ離れに…愛犬と家族が歩んだ10年

「生きてるのかな」「死んじゃったかもしれねーな」。原発事故の影響で、家族と離れ離れになった犬のナナ。数年後、奇跡の再会を果たし…。飼い主さんとナナの10年を聞きました。

こちらのワンちゃん、名前を「ナナ」と言います。10年前、福島第一原子力発電所からほど近い場所で被災しました。

原発事故の影響を受け、住民たちが一斉避難する中で、一匹で残される過酷な状況に追い込まれたナナ。

生き延びているのか、どうなのか……家族が心配な日々を過ごす中、ナナは幸運にも新しい家族と巡り合っていました。そして震災から10年を迎える今年、安らかに亡くなりました。

あの日、別れざるをえなかった家族とナナにとって、この10年はどんな時間だったのか? 石井洋さんと、父・洋一さんに話を聞きました。

なお、洋さんはBuzzFeed Japanのスタッフの一員で、故郷・福島県の葛尾(かつらお)村を取材した記事も書いています。今回は、同僚としてではなく、ナナと暮らしてきた家族の一員として聞きました。

震災から10年経ちますが、あの日からうちの家族と当時の飼い犬ナナは全く別の10年を過ごしました。 実家は20キロ圏内。避難指示が出た3/13、避難施設では犬を保護できないからと鎖を外し、必ず迎えに来ると言って家族は避難施設に向かったといいます。ちなみに屋外犬です。

Twitter: @hirosuful

「必ず迎えに来る」そう言って別れた

石井家は、福島第一原発から約25キロ北西にある、葛尾村という小さな村にありました。

20年前、洋さんが18歳の頃にやってきたナナ。進学で地元を離れた洋さんに代わる“娘”として石井家で愛されてきました。

父・洋一さんいわく、とても利口な犬で、庭で野球の素振りをしていると「その棒を貸せ!」みたいな雰囲気を出してきたそう。

バットの代わりに1メートルくらいに切った水道パイプを渡すと、口でくわえて、お父さんのまねをするようにぶるんぶるん振っていたといいます。

2011年3月11日、そんな家族の生活を震災が襲います。葛尾村も近隣の地域と同じく、原発事故の影響を大きく受けました。

事故発生の数日後には、村内全域が警戒区域または計画的避難区域に指定され、すべての住民が村外に避難することになりました。

しかし、避難先ではナナを受け入れることはできません。洋一さんと家族は「必ず迎えに来る」と言って、自宅を離れることになりました。

少しでも長い時間えさに困らないよう、50キロ分のドッグフードの袋を開けて。

当時、ナナと同じように苦渋の決断の末に避難区域に残されたペットがたくさんいました。国道114号線沿いには、捨て犬や捨て猫の姿が多く見られたと言います。

「死んじゃったかもしれねーな」

「必ず迎えに来る」。そう言ったものの、その後数年間は、住民たちが自宅に戻ることはかないませんでした。

「ナナ、生きてるのかな」「死んじゃったかもしれねーな」

なんて話をしていたある日、親戚が保護犬の里親募集のサイトを見ていてたまたまナナを発見。「これ、ナナじゃない?」「ナナだ!」

早速、そのNPO団体に連絡してみると、そこに至るまでにも紆余曲折があったことがわかりました。まず、団体の職員によってナナが保護されたのが2011年の6月中旬頃。

「家族と別れて数ヶ月経っていたにも関わらず、家の周りをウロウロしながら一匹で過ごしていたそうです。律儀な犬ですよね」(洋さん)

その後、新潟、そして兵庫と遠方の保護施設に送られ、何の因果か、2011年9月に同じ福島県の保原町の女性の家に引き取られたナナ。

石井家では屋外で育てられていたそうですが、新しいおうちでは室内飼い。ごはんも十分に与えられ、とても大事に育てられていました。

「大変な状況の中で、サバイブしたうちの犬は本当にラッキーでしたよね。保護してくださったNPOの方にも、引き取ってくださった方にも感謝です」(洋さん)

新しい家族と幸せに

ナナが生きていた! 洋一さんは新たな飼い主さんと連絡を取り、交流がスタートしました。

実際にナナに会いに行ったのは、2015年頃。見た目はほとんど変わりない様子で、石井さん家族にもすり寄ってきて、一緒に帰りたいような雰囲気を出していたと言います。

実際に引き取る話も出たそうですが、石井家はまだ安心して犬を飼える状況ではなかったこと、「新しい家族とこのまま過ごすのが幸せだろう」と信じられる環境だったことから、引き続き先方の家族にお世話になることになりました。

「帰り際、うちの家族が車に乗ると、ナナはなんとも言えない表情を浮かべたそうです。迎えにきたと思ったんだろうな」(洋さん)

飼い主さんの後を追うように

そして、2021年の年明け。震災から10年を迎える年が始まってすぐに、女性は亡くなり、後を追うようにナナも2月に亡くなりました。

「晩年は口の周りの病気でかたいものが食べられなかったそうで、懸命に看病してくださったそうです」

「写真だけで伝わってきますよね、大事にされていたことが……。とてもかわいがってもらって、よくしてもらって、本当に幸せだったでしょうね」(洋さん)

20年の人生のちょうど半分ずつを、2つの家庭で過ごしたナナ。激動の10年間は彼女にとってどんな日々だったのでしょう? 今安らかに天国で過ごしていることを祈ります。


BuzzFeed Japanでは、あの日から10年を迎える東日本大震災に関する記事を掲載しています。

あの日と今を生きる人々を、さまざまな角度から伝えます。関連記事には「3.11」のマークが付いています。

東日本大震災の関連記事は、こちらをご覧下さい。

ご意見を募集しています

📣BuzzFeed Newsでは、LINE公式アカウント「バズおぴ」(@buzzopi)で、読者の皆さんのご意見を募集しています。

日々の暮らしで気になる問題やテーマについて、皆さんの声をもとに記者がニュースを発信します。

情報や質問も気軽にお寄せください🙌LINEの友達登録でBuzzFeed News編集部と直接やりとりもできます。様々なご意見、お待ちしています。

友だち追加