「ティンダー」がセックスワーカーを締め出す理由とは

    出会い系アプリの「ティンダー」では、勧誘行為は禁止されている。しかしセックスワークに従事している人たちは、ティンダーを使う目的はデートする人と出会うためとはっきり書いているにもかかわらず、プロフィールが削除されてしまうと話す。

    性労働に就いているセックスワーカーたちは、出会い系アプリのティンダーに締め出され、差別されていると主張している。

    ヨーロッパでも北米でも、セックスワーカーたちは、アプリの利用規約を違反したという以外の説明はティンダーから何もなされないまま、自分のアカウントが削除されたと報告している。

    ティンダーは、プラットフォーム上での勧誘を禁じている。しかしBuzzFeed Newsが話を聞いた女性たちは、仕事ではなく純粋にデートするためにアカウントを使用していたと話している。

    女性たちは、自分のプロフィールにセックスワーカーだと書いたというが、その理由は単に、マッチングした相手に正直でいたいと思ったからだという。

    クレメンタインさん(30)はカナダのバンクーバーを拠点にしているセックスワーカーだ。先日、職業をエスコート嬢(高級娼婦)だと書いてプロフィールを更新した後、アカウントが削除されてしまったと話す。

    「4〜5年ほど前から、ティンダーをたまに使っていました」とクレメンタインさんはBuzzFeed Newsに話した。「本職として、つまり主な収入源として、8〜9カ月ほどエスコート嬢をしています。職業はエスコート嬢だとプロフに載せました。仕事のせいで私とはデートしたくないと思うような人を除外したかったから。精神的に不安定な人は、エスコート嬢とはデートできないと言う人が多いですから」

    クレメンタインさんはプロフィールにはっきりと、ティンダーでお客さんを探していない旨を書いていた。しかしそれでも、強制退会させられてしまったのだ。

    「ログインしようとしたら、数字が書かれたエラーメッセージが表示されました」と説明する。「インターネットで調べてみたら、利用規約に違反した時に出るエラーメッセージだと分かりました」

    利用規約を読むと、勧誘行為は禁止されていると書かれていた。しかしクレメンタインさんは話す。「明らかに、勧誘行為はしていませんでした」

    ティンダーに連絡したところ、メールの返信があった。そこには、ティンダーの利用規約に違反したと書かれていた。しかしもっと詳しく説明してもらおうと返信したところ、「ティンダーで新たなアカウントの開設はできない」と書かれた定型文が送られてくるだけだった。

    ティンダーがセックスワーカーのプロフィールを閉鎖している理由は、性的人身売買業者の活動阻止とオンラインの性的人身売買防止を目指し、トランプ大統領が署名したSESTA-FOSTA法への抵触を避けるためではないかとクレメンタインさんは話した。

    4月、トランプ大統領は性的人身売買業者の活動阻止に向けたSESTA法と、オンラインの性的人身売買防止に向けたFOSTA法を組み合わせた法案に署名した。人身売買業者が利用するインターネット・プラットフォームを捜査するために、警察当局に広範な権限を新たに与えるものだった。ユーザーが公開するコンテンツに対してプラットフォーム側の責任を問えるようにもなるため、セックスワーカーは壊滅的な影響を受けているという。

    「ティンダーはアメリカ企業のため、SESTA-FOSTA法が理由で起訴される可能性があるわけです。明らかに、私は人身売買されているわけじゃないのに。いい加減にしてほしい」とクレメンタインさんは話した。

    「もしかしたらティンダーはただ怖いのかもしれない。でも私の職業全体に適用されています。もし私がヨガの先生で、生徒を募集していると書いたとしても、ティンダーから強制退会処分にはならなかったはず」

    BuzzFeed Newsはティンダーに対し、こうしたユーザーのアカウントについて質問し、この人たちはこの法律のせいで退会処分になったのかと質問したが、同社は回答を控えるとのことだった。代わりに、コミュニティ・ガイドラインを見るようにと指示してきた。そこでは、「商業的な性的サービス、人身売買、その他合意に基づかない性行為の宣伝または奨励」を禁止するとしている。

    クレメンタインさんはBuzzFeed Newsに対し、自分は「非常に恵まれた」セックスワーカーだと話した。そのため、よく差別されるセックスワーカーたちや、退会処分に対抗して戦える気がしなかった人たちの代わりに、自分は声を上げたいと話した。

    「私は、自分の人生で欲しいものを手に入れることに慣れています。その人たちも慣れている。でも私のデモグラフィック(人口統計学的属性)からして、私にはもっと権利があります。怒りを訴えていこうと思います。私は闘います」

    「私は、変えられるんじゃないかって感じ始めています。それに伴う責任は取るつもりです」

    「セックスワーカーだって、他の人たちと同じように、普通のデートを楽しめるべき。お客さんとのセックスと、付き合っている人とのセックスが同じだなんて考え方は間違っています。これは私の仕事。ショーを演じているわけですが、それは私の仕事なんです」

    「軍や炭坑に従事している人は、自分の体を危険にさらすものです。なぜセックスとなると、汚名が伴うのでしょうか?人って、恋人の体は自分のものだと思うものですが、そんな考えは終わりにしなきゃいけません」

    他にも、ティンダーから強制退会させられたとツイッター上で不満を漏らしていたセックスワーカーが複数いた。

    英国で暮らすフェズ・エンダロイストさんは、学生でありセックスワーカーでもある。自分の職業を書いたらティンダーのプロフィールが削除された。

    「3年くらい使っていました。プロフにはほぼ最初から、学校の専攻とか年齢、趣味など他のことと一緒に『セックスワーカー』と書いていました」とエンダロイストさんはBuzzFeed Newsに話してくれた。

    「書かないで数カ月間いたこともあったけど、いちいち一人一人に伝えなきゃいけないのがとても大変だったし、相手の反応も、怒り出す人もいてひどかった。それからもしデートの段階になって、(話す前に)直接会ったとしたら、身の安全を危険にさらすことになるかもしれないと心配にもなりました」

    エンダロイストさんは、セックスワーカーであることを隠していないと話す。そのため、他の人たちは職業を隠しておきたいものかもしれないが、自分は最初から率直でいられたのだという。プロフィールにセックスワーカーだということを載せて2年ほど経っていたというが、アプリで客を探すことはなかったと話す。

    「(アプリで客を見つける)セックスワーカーなら、相手の条件として年齢制限を27歳なんかに設定しない」とエンダロイストさんはBuzzFeed Newsに話した。「プロフには自分が通っている本当の大学名を書いていたし、本名も書いていたし。私の名前ってそんなに一般的じゃないけど」

    エンダロイストさんは2017年7月、ティンダーにログインしようとしところ、アカウントが削除されていたことが分かったという。ティンダーに連絡してみたところ、諸条件に違反していたからだと説明された。

    「私だけじゃありません。同じことがあったというセックスワーカーの友達が英国に数人います。誰もアプリで客を探していたわけじゃなかったのに」

    「本当に嫌な気分になりました」とエンダロイストさんは話した。「Facebookにも悲しい投稿をしちゃいました。嫌な気分だった。明らかに、私たち(セックスワーカー)が直面する最大の問題というわけではないけれど、でもこれほど無害なもので、たくさんの人の人生では普通のものなのに、私たちはそこから締め出され、その無害なものを使うのも許されない。社会から無視されたコミュニティなんです」

    「そこに入れてもらえないわけです。とても微妙で分かりにくいものですが、でも明らかに私たちは、お前はこの世界の一部じゃない、人間じゃないって、ターゲットにされてしまっているんです」

    米ネバダ州レノのセックスワーカー、キキ・ラバーさんは、アプリのダイレクト・メッセージで自分の仕事について話した後、ティンダーのアカウントが停止処分になったと話した。彼女もやはり、マッチングされた男性に正直でいようと思い、セックスワーカーだと伝えただけだと話す。

    「デートする相手と出会うために、数週間前にティンダーを始めました」とBuzzFeed Newsに話した。「スワイプしていたら、ある男性とマッチしました。それでお互いにメッセージをやり取りし始めたんです。よくある、お互いを知るための質問の中で、彼が仕事は何をしているのかと聞いてきたので、セックスワーカーだと話しました。彼は、それは面白いと言って、仕事は楽しいかみたいな質問をいろいろ聞いてきました。しばらくそんな話をしてたけど、でもそれだけだった」。

    翌日、アカウントから締め出されていたと言う。「翌日アプリに行ってみたらログアウトされていて、ログインしようとしても、サインインできないと表示されました。その後、アカウントが停止処分になったとメールがきました」

    「アカウントが削除された理由は唯一、私の職業しかありません。私が正直だったこと、それから話を進める前に私の職業が大丈夫か、相手の男性に確認するために自分の職業を知ってもらいたいと素直に思ったことが理由で、ティンダーは私を差別しているんです」

    「セックスワーカーだって普通のお付き合いがしたい。でもティンダーはそういったことに閉鎖的だというのも本当に悲しかったし、がっかりしました。マッチング相手の男性に勧誘行為なんてしていなかった。彼がバーテンダーだと話したのと同じように、私も自分の職業を話しただけなのに。単なる仕事なのに」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。
    翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan