科学者たちの発見した洞窟壁画。素晴らしい象徴表現で描かれたその壁画のアーティストは、ネアンデルタール人だった!

    「この研究がかつてなく重要なのは、ネアンデルタール人は私たちとは大きく異なる種であるという見方を覆した点です」と、研究者の一人は語った。

    2月22日、有名なスペインの洞窟壁画が描かれたのは、少なくとも6万5千年前になると科学者たちは発表した。それは人類の進化の過程で絶滅した、私たちのいとこであるネアンデルタール人が、世界最古のアートを作っていたことを意味している。

    芸術は象徴的な思考と言語の存在の有無を示す指針とされ、長い間、現生人類に特有のものだと考えられてきた。しかし、壁画よりももっと古い、彩色された飾り穴のある貝の宝飾品も見つかっており、それが11万5千年以上前であることを考えると、この洞窟壁画は、ネアンデルタール人が現生人類のように言葉を話し、思考していたという可能性を示唆している。

    「この研究がかつてなく重要なのは、ネアンデルタール人は私たちとは大きく異なる種であるという見方を覆した点です」と、調査論文を共同執筆したサウサンプトン大学のアリステア・パイクは語る。

    原始人類のネアンデルタール人は、40万年前、現生人類の系統とは別に分化した。彼らの特徴は、厚い眉に丸い体形、太くて短い太ももの骨で、脳みその大きさは私たちと変わらない。不格好で野蛮であったと言われている。4万年前にヨーロッパ、アジアからその姿を消したが、その原因はまだ謎に包まれたままである。彼らの絶滅と時を同じくして登場したのが、ホモサピエンスだった。

    現生人類の中には、ネアンデルタール人の遺伝子を少量有する人間がおり、これは過去にホモサピエンスとネアンデルタール人の間で混血があったことの証である。知能の高い現生人類がネアンデルタール人を絶滅に追いやったか否かについては、多くの論議がされてきた。

    米国の科学雑誌「サイエンス」と「サイエンスアドバンス」で発表された新しい研究によれば、マックス・プランク進化人類学研究所のダーク・ホフマン率いる研究チームが、スペインの三つの洞窟壁画、ラ・パシエガ洞窟、マルトラビエソ洞窟、アルダレス洞窟の壁に使用された顔料を使い、年代を測定したという。

    3つの洞窟は元々、先史時代の動物の絵や、手形のステンシル、象徴的表現(線、棒、点の模様)で知られており、そのすべての壁画は赤と黒の顔料で描かれていた。研究チームは新しい測定方法を使って、その顔料の下の岩と表面の流華石(フローストーン)の年代を測定し、これらの壁画がいつ描かれたのかをより正確に割り出した。

    研究者たちは、この壁画アートが少なくとも6万4800年前のものであると特定。スペインに現生人類が登場するのは、その2万年後である。それを踏まえると、壁画を描いたのはネアンデルタール人しかいない。ヨーロッパの他の洞窟の壁画アートの描き手も、ネアンデルタール人である可能性があると、研究チームは言及している。

    スペインの海の洞窟、ロス・アビオネスで発掘された、彩色が施され飾り穴のある貝も、11万5000年前のものであると測定された。アフリカで発見された、初期の現生人類による類似の宝飾品は、約8万年前のものだと言われている。

    他の研究者たちは、この年代測定チームの仕事は高く評価されるべきものだと認めながらも、その他の証拠が見つかっていないことから慎重を期すべきだと語る。

    「もしそれが本当であれば、これはネアンデルタール人の歴史や能力に対する私たちのこれまでの見方を刷新する発見です」と、年代測定の専門家であるオックスフォード大学のトーマス・ハイアムは言う。「今すべきことは、他の洞窟アートを幅広く分析することでしょう」

    スペインの人類進化国立研究センター(CENIEH)の古人類学者ホセバ・リオス・ガライサールは、他の洞窟の似たような外見の壁画が、現生人類の手によってもっと新しい時代に作られているという確固たる事実を指摘し、懐疑的である。

    ただ、彼が正しければ、今回の研究結果は単なる特異なケースになってしまう。「ネアンデルタール人が岩でアートを作ったというならまだ分かります。ただあれだけの壁画が彼らの手によるものだったとは少し考え難いですね、残念ながら」とリオスはBuzzFeedNews へのEメールで語った。

    とはいえ、と彼は続ける。「2016年に洞窟の奥で発見された岩の模様に見受けられるように、学者たちはすでにネアンデルタール人が象徴的な思考をしていたことを裏付ける証拠を持っています」

    調査論文の共同執筆者であるパイクは、赤い顔料を使った洞窟壁画と装飾的な貝が複数の場所から見つかっていることから、人類の祖先によるもっと古いアートが存在することも可能であると指摘する。

    「人間がどれだけ古くから象徴的表現を使っていたかをはっきり示すものはまだ見つかっていません」と、彼は語る。「ですから、現代人とネアンデルタール人、両方の祖先がどんな人類だったかを、50万年くらい遡って調べてみるべきでしょう」


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:岡嵜郁奈 / 編集:BuzzFeed Japan