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右も左も「フェイクニュース」 知っておくと便利な6つの分類

レッテル貼りに使われ、対立を深刻化する恐れもある。使い方には気をつけたほうがいい。

BuzzFeed / Via buzzfeed.com

BuzzFeed Japanのファクトチェック(事実検証)特集ページ

「フェイクニュースは複雑だ」

フェイクやヘイトを拡散させないために、何が求められるのか。まず必要なのは「フェイクニュースとは何か」という定義ではないだろうか。

トランプ大統領は、自分に批判的なメディアに「フェイクニュース」とレッテルを貼る。筆者が所属するBuzzFeedもそう呼ばれたことがある。自分と意見が合わないニュースをフェイクと決めつけ、端から信用しない。これでは対立を煽り立てるだけだ。フェイクがヘイトを生み出す構図と変わらない。

フェイクニュース対策に取り組む「ファーストドラフト」の戦略リサーチディレクター、クレア・ウォードル氏は「Fake News. It’s Complicated. (フェイクニュースは複雑だ)」と題した記事で、こう指摘している。

フェイクニュースという用語が役立たずだということは、すでに皆が同意している。しかし、他に代用する言葉がなければ、嫌な気持ちになりながらも、「いわゆる」という括弧つきでフェイクニュースという用語を使わざるをえない。代わりとなる言葉を見つけるのが難しいのはなぜか。それは、フェイクニュースが単にニュースに限らず、情報の生態系全体にかかわるものだからだ。(引用者訳)

フェイクニュースという用語の問題は、レッテル貼りで対立を煽り立てるというだけではない。「ニュース」という言葉だ。ウォードル氏が指摘するように、フェイクニュースは単に「ニュース」の問題ではない。

フェイクはしばしば、ニュースでもなんでもないネット上の匿名の書き込みから始まる。ネットだけの話でもない。時にはそれが、新聞のような主要メディアに取り上げられることで拡散されることもあるし、逆に新聞記事の誤読がデマを誘発することもある。冗談や作り話で読者を楽しませるパロディ記事を、本物のニュースと間違えて誰かがツイートすることで「デマ」として広がる例もある。

悪意から始まるだけでなく、単に知識がなく、善意で拡散してしまうデマも存在する。すべてのフェイクニュースがヘイトから生まれたり、拡散したりするわけではないことには注意が必要だ。そうでなければ、自分自身が善意から、フェイクとヘイトを拡散しかねない。

「事実ではない情報」の六分類

BuzzFeed Japanは2017年の総選挙の際に、政治家の発言やメディアの報道、ネット上の書き込みなどを検証する「ファクトチェック」を実施した。その際、最初に掲げたのが「事実ではない情報」の6分類だ。

なぜ「フェイクニュース」ではなく「事実ではない情報」という回りくどい言い方をするのかは後述する。

  1. 誤情報……取り上げられた事実や事象に誤りのある情報
  2. 偽情報……取り上げられた事実や事象がそもそも存在しない情報
  3. 不正確な情報……取り上げられた事実や事象に誤りがあるとまでは言えないが、正確ではない情報
  4. ミスリーディングな情報……取り上げられた事実や事象に誤りがあるとまでは言えないが、見出しや表現の仕方で誤解を生じさせかねない情報
  5. 根拠のない情報……取り上げられた事実や事象に誤りがあるとは言えないが、それが事実であると証明する根拠がない情報
  6. 風刺や冗談……取り上げられた事実や事象はそもそも存在しないか、大幅に脚色されているが、風刺や冗談であり、人を騙す意図はない情報

実際には1と3や、3と4の間で厳密な区別をするのは難しい。しかし、このような分類をしておくことで、何がどのように誤っているのかを、よりわかりやすく説明することが可能になる。


ある情報を「フェイク」「誤報」と指摘する場合、どこがどのように間違っているか、客観的に根拠を示しながらわかりやすく説明する必要がある。それが不十分では検証への信頼を欠く。

故意に嘘をつくのは完全なフェイクニュースだ。だが、実際には「事実ではない情報」はそれだけではない。新聞社やテレビ局が誤報を流すこともあれば、政治家が正確とは言いがたい発言をし、それを新聞やテレビがそのままニュースとして報じることもある。

それらをすべて「フェイクニュース」と言うのは無理がある。トランプ大統領がCNNを「フェイクニュース」と呼ぶように。だから、フェイクニュースではなく「事実ではない情報」の六分類としている。

アメリカでさかんに実施され、日本でも徐々に広がるファクトチェック(事実の検証)は、もともとフェイクニュースが対象というよりは、政治家などの発言を検証するものだ。

しかし、世間には不正確な政治家の発言だけでなく、政治家の発言の不正確な引用や、恣意的な編集や捏造をした記事やツイートが溢れている。まさに「フェイクニュースは複雑だ」と言うしかない状況にあり、あらゆるものがファクトチェックの対象となる。以下、2017年の総選挙でBuzzFeed Japanが取り組んだファクトチェックの実例を見ていく。

安倍首相の発言は「ミスリーディング」だった

【検証】安倍首相『ほとんどの教科書に自衛隊が違憲と記述』は本当か」は、安倍首相の発言を検証したものだ。BuzzFeedでは、この発言は「ミスリーディング」だと結論づけた。以下、記事から検証過程を紹介する。

安倍首相は憲法改正、とくに9条の改正を訴える際に「ほとんどの教科書に自衛隊が違憲であるという記述がある」と説明をしていた。たとえば、選挙戦が始まる直前の2017年10月8日には、ネットTV「Abema TV」でこう語っている。

「君たちは違憲かもしれないけれど、命を懸けろ」ってこれは通りませんよ。かつ、先ほどおっしゃったように憲法学者が朝日新聞の調査で自衛隊が合憲だと言い切ったのは二割です。違憲の疑いがある、合憲とは言い切れないという人たちが七割くらいいるんですね。だから、ほとんどの教科書に自衛隊が違憲であるという記述があります。東北なんかで採用されている教科書はほとんどそうですね。あれだけ東日本大震災で命懸けで頑張った自衛官の子どもたちは、この教科書で勉強するんですよ。

BuzzFeedはまず、文部科学省に問い合わせた。担当者は「事実関係として、自衛隊が違憲であると断定的に書いた教科書はありません」と断言した。学校教育法に基づいた検定に合格した、小学校から高校までの教科書に「自衛隊が違憲」と断定的に書いた教科書はないという。

ただし「憲法違反ではないかという一部の意見は、政府の見解と合わせて『一方で』や『主張もあります』という書き方がされています」と担当者は説明した。つまり、憲法9条から考えると自衛隊は違憲ではないかという見解が一部にある事実を紹介している、ということだ。

担当者は、政府の見解とは異なる意見を掲載していることについて「文部科学省が載せるよう指示しているわけではありません。教科書会社がそれぞれ、きちんと問題に対してアプローチしているからこそ載せてあるんです」と説明した。

文科省によると、自衛隊と憲法について記述があるのは中高の3教科。中学校3年生の「公民」、高校の「政治・経済」「現代社会」だ。BuzzFeedは2017年度に使用されるすべての教科書を読んだ。

結果、文科省の担当者が説明した通り、すべての教科書において「自衛隊は違憲」と断定的に書いてあるものはなかった。「憲法違反という意見もある」などと付属的に書かれているだけだ。これでは首相の発言と随分と印象が違う。具体的に見てみる。

憲法の下で自衛のための実力が持てるのかという議論がなされてきました。政府は、自衛のための必要最小限度の実力を持つことは憲法上許されると解釈し、憲法九条に違反しないものと考えています。(育鵬社『中学 公民』)

歴代の政府は、「自衛のための必要最小限度の実力」を保持することは、「戦力」ではない、という見解にたっています。一方で、国民の中には、自衛隊は憲法に違反するという主張もあります。(教育出版『中学 公民』)

自衛隊は「戦力」であり憲法に違反するとの主張がある一方で、政府は、専守防衛を基本方針とする自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」であって、第九条で禁じている「戦力」にあたらないという見解をとっている。最高裁判所は自衛隊の合憲・違憲については判断を下していない。(山川出版社『高校 現代社会』)

現在の政府は、戦力とは、自衛のための必要最小限度をこえる実力をさすものであり、自衛隊は戦力にはあたらないという見解をとっている。これに対して、戦力とは社会の安全を守るための警察力をこえるものであり、自衛隊は戦力にあたるという意見もある。(第一学習社『高校 新現代社会』)

自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」という政府解釈を説明した上で、違憲という主張もあると書いている。この記述をもって「違憲と書いている」と断定的に発言すれば、「教科書には合憲ではなく違憲と書かれている」と誤解しかねない。実際に誤解している人もいた。これらの取材からBuzzFeedは、安倍首相の発言は誤情報だとまでは言えなくとも、ミスリーディングと判断した。

「安倍首相が選挙監視団を拒否した」という嘘

次に、ブログから拡散した例を「【検証】「安倍首相が国連の選挙監視団を拒否した」という記事にした。これは完全な偽情報だった。そもそも国連の選挙監視団とは、紛争地域などで、関係国政府の要請を受けて派遣されるものだ。要請するから来るのであって、拒否はありえない。

国連広報センターにBuzzFeedが問い合わせたところ、「治安が悪く、秩序がない国などで民主的な選挙のプロセスを支援しています。日本のように、法の支配と秩序が確立された先進国に監視団を出すことは、国連の立ち位置としてありえない話です」と返答があった。

このブログには「20万票の無効票を、ムサシでつくりだして総理になったのは安倍晋三です」「プラスティック用紙にエンピツで書かせる。それを原発再稼働目的なムサシで消して無効にして、総理になったのが安倍晋三」(原文ママ)とも書かれており、首相に批判的なことがわかる。

「ムサシ」とは、投票用紙の自動分類装置や投票箱、投票用紙などを製造・販売する会社だ。選挙のたびに「不正選挙の温床となっている」という怪情報が飛び交う。事実であれば由々しき事態だが、投票所・開票所ともに、自民党だけでなく各政党の関係者や報道陣、有権者が目を光らせている。大規模な不正が立証されたことは、いまだかつてない。


「フェイクと憎悪」(大月書店)より、筆者が担当した「『フェイク』と『ヘイト』に抗するには」を再編集し、3回に渡って転載。第2回の今回は「そもそもフェイクニュースとは」。

バズフィード・ジャパン シニアフェロー

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