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「セクハラが日常茶飯事」のハリウッド。渦中の人の元で働いていた私の体験談

私たちは皆、声を上げる権利を持っている。

ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏からセクシャル・ハラスメントを受けたセレブたちが、次々と被害を告発している。かつてワインスタイン氏と共に働き、性的ハラスメントを受けたBuzzFeedの記者による体験談です。


お抱え運転手付きの車を降りたハーヴェイ・ワインスタインが、マンハッタンのトライベッカにある映画会社ミラマックスのオフィスのロビーに入るまで、あるいは、ロビーを出て車に乗るまで、その所要時間はおよそ15秒。2000年代はじめにミラマックスでインターンをしていた私にとって、その15秒間は、昔から崇拝してきた男性と直接交流できる唯一の機会だった。そしてその15秒間は、頻繁にやってきた。

当時の私は映画を学ぶ学生で、喫煙はほとんど義務だった――2001年のニューヨークでは、喫煙はコネづくりに役立ったのだ。グリニッジ・ストリート375番にあるミラマックスのオフィスビルの正面でタバコを吸いながら長い時間を過ごすことが多かった私は、そのうちに、ワインスタインのお抱え運転手とファーストネームで呼び合う仲になった。

ワインスタインは私の前を通りすぎるたびに、きまって私の体や服について何か言った。車で家まで送ってあげようか、と言われたことも2回ほどあった(断わったが)。私が同僚と一緒にいるときもあったが、ワインスタインが何かしらコメントしてくるので、同僚との会話が中断するのが常だった。そして、そうしたやりとりのたびに、私の自意識は膨らんだ。心の勝敗表に勝ち星をひとつ書きとめるのだ――なにしろ、あのハーヴェイ・ワインスタインその人が、私に話しかけてくれたのだから。


イースト・ヴィレッジからトライベッカまでの徒歩通勤中には、同じ類の言葉が建設現場から大声で飛んでくるのを耳にした。公園を突っ切るときに小声で囁かれたり、タクシーの窓から叫ばれたりすることもあった。運悪く私に目をつけたストリート・ハラスメント野郎たちを、私はいつも、こてんぱんにやりこめていた。

それなのに、ワインスタインからのハラスメントは受け入れた。なぜなら、私は20歳だったから。ニューヨーク大学映画学科の学生だったから。母が私を自慢に思っていたから。ミラマックスだったから。そこが、当時の私がいたいと願う唯一の場所だったから。

おかしな話だが、ハーヴェイ・ワインスタインは、私のお気に入りのストリート・ハラスメント男になったのだ。

いまは、私が受けていた扱いはセクシャルハラスメントだったと理解できるのだが、ミラマックスの全体的な雰囲気は、とりたてて女性を虐げるようなものではなかった。とはいえ全体的に、おおやけの場での侮辱や身体的な暴行、幹部の怒鳴り声はよくあることだった。こうした振る舞いが横行するハリウッドの現状こそが、性的虐待やセクシャルハラスメントを許容する土壌になっているのだ。

私は女優ではなく脚本家志望だったが、ワインスタインが見せた振る舞いを通じて、早い段階でキャスティング・カウチ(性行為と引き換えに役を与えること)カルチャーに触れたことで、ハリウッドの男性たちと接する際にどんな言動を予期しておくべきかを知った。

1年後、ニューヨーク大学を卒業してミラマックスを去った私は、ロサンゼルスへ引っ越し、ハリウッドで助手の仕事を見つけた。さりげないハラスメントを数かぎりなく経験し――そして、疑問も持たずにそれを受け入れた。

上司に友人の電話番号を教え、友人を売るような真似をしたこともある。激怒したセックスワーカーからの、役か金のどちらかをよこせと求める電話を何本も処理した――役も金も約束されていたのに、どちらも与えられなかったのだ。クライアントや同僚の男性との仕事を誰かに紹介したあとで、不適切に関係を進めようとする男性からその人を守らなければならないこともあった。

2003年のプレミア試写会で、アカデミー賞受賞俳優が私の両胸をわしづかみにし、トレードマークの気どった笑いを浮かべて私の目をまっすぐに見ながら「おっと(oops)」と言ったとき、私は急いでバーへ駆けこみ、のどにつかえたかたまりをウォッカクランベリーで洗い流した。

あるプロデューサーが、私のオフィスの近くに来たときには必ず、挨拶するためだけに立ち寄るようになったときには、気づまりに思う気持ちを隠した。受付の担当者に、私は不在だというふりをしてほしい、その人が別のミーティングで来るときには姿を隠すから、前もって教えてほしい、と頼んだだけだ。

2005年の取材イベントで世話をしたハリウッド随一のならず者が、私とメイクアップアーティストの女性を相手に、アナルセックスの喜びをこと細かに話しはじめたときには、ぐるりと目を回してヘッドフォンをつけた。

私はずっと前から、ミラマックスで一緒にインターンをしていた古くからの友人と、こんな歪んだジョークを繰り返し言い合っていた。「ハーヴェイ・ワインスタインを訴えるか、キャリアを手に入れるか、どっちかだ」

しかも、私はフェミニストを自称していたのだ。

20代はじめのころの私は、レイプカルチャーを理解していなかった。

環境に「対応」できることに、奇妙なプライドのようなものを感じていた。動揺しなければ、男性たちの中に入れるはずだと思っていた。その信条を形づくったのはミラマックスで働いた経験だけではないが、その信条ゆえに口を閉ざしたのは、あの仕事が初めてだった。いまにして思えば、私もレイプカルチャーに加担していたことは否定しようがない。

不適切な言葉をかけられたり、不適切に触られたりしたときに、声を上げて訴えなかったせいで、そうした振る舞いをしてもいいのだと、あの人たちに思いこませることになってしまった。そうしたちょっとした出来事、私たちが抵抗しなかったひとつひとつの出来事が、もっと大きな出来事につながる。そして女性たちは、自分たちを黙らせる手段を持つ者によって刻まれた、癒しきれない心の傷を抱えることになるのだ。


先週、ミラマックス黄金時代の映画ポスターのコラージュを偶然見かけて、涙が流れた。

痛ましい犠牲を払った女性たちのために泣いた。

素晴らしい作品に全身全霊を注いだのに、いまとなってはその作品から必死で離れようとしている人たちのために泣いた。

仕事以外では1分たりともワインスタインと時間をともにしなかったのに、彼の行動のせいで非難されているミラマックスの善良な人たちのために泣いた。

自分のキャリアのために加担者の役を演じたアシスタントやイエスマンのために泣いた。

あまりにも大勢が、あまりにも深く崇拝したばかりに、多くの人が餌食にされたにも関わらず、長年のあいだ誰も耳を傾けてこなかった業界のために泣いた。

いまの私は、キャリアのあるおとなの女だ。それでも、「そうです、ハーヴェイ・ワインスタインは昔、私が外で煙草を吸っていたときに、私のお尻にあれこれ言及したり、厚かましくも車で送ろうと言ってきたりしました」と発言したら、厄介ごとに巻きこまれるのではないかと不安になる。いまでも、「あの女の子」というレッテルを貼られるのを心配している。

けれど現実には、私たちは皆、声を上げる権利を持っている。あの男性たちの業界における影響力は私よりも大きいが、私には真実がある。そして、私たちがその真実を伝えれば伝えるほど、私たちの口を塞いでいる業界の――そして社会の――カルチャーを変えることができるはずだ。

(BuzzFeed Newsでは現在、この記事の筆者にハラスメントをした俳優に関する申し立てを調査中です。)

この記事は英語から編集・翻訳しました。翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan