東京・渋谷の東急田園都市線渋谷駅構内に3月9日、8枚セットの巨大な広告が登場した。目を凝らすと、うっすらと別の広告が透けて見える。
<廃材をリサイクルして、資源を無駄にしない。例えばこの広告のように>
これは、他社の広告を再利用した広告だ。「チラシの裏」ならぬ「広告の表」のリサイクルという画期的な取り組みは、どのようにして生まれたのか。
異例の「広告から広告に」
この広告を展開するのは、3月13日に東京・渋谷に日本1号店をオープンするスペインのファッションブランド「ECOALF(エコアルフ)」。
海から回収した大量のペットボトルや使い古した漁網、廃タイヤなどのゴミをリサイクルした素材や、環境に負荷の低い素材を使った衣服や雑貨を製造・販売する。
サステナブルなファッションブランドの店舗オープンを告知するにあたって「普通に新たに広告を印刷して出していいんだっけ?」と立ち止まったのが、広告を制作する「The Breakthrough Company GO」のメンバーだった。
クリエイティブディレクターの砥川直大さんは、こう話す。
「ゴミを回収して服をつくるブランドだから、同じように広告も廃材からつくるのはどうだろうかと考えました。何の廃材を使うかというと『広告から広告』という再利用ができないかと。広告に他企業の広告を再利用するというのは、おそらく世界初の試みです」
無名ブランドに大企業が協力する理由
通常、広告は一定の掲出期間が終了すると、役目を終えて廃材になる。または余ってしまい、掲出されないまま廃棄されるものもある。
そうした不要な広告を回収し、その上から「ECOALF」の広告を塗ることで、ゴミを減らすと同時に新たな資源を使わなくて済む、というのが広告の再利用の構想だ。
だが、広告の再利用は業界では異例だ。広告主の理解が必要だからだ。
GOのメンバーらは、日ごろから関係のある広告主に声をかけ、「ECOALF」のブランド理念や、地球環境への負荷を減らしたいという広告再利用のねらいを説明。廃棄予定のポスターの提供を呼びかけた。
そもそも掲出済みのポスターを保管していなかったり、タレントとの契約の関係で再掲が難しかったりする企業もあったものの、賛同してくれる企業は「予想していたよりも多かった」(砥川さん)という。
日本ではまだ無名なブランドに、有名企業が次々と協力を申し出て、「捨てるはずだったんだけど」と広告やポスターを提供した。再利用する際には、もともとの広告を塗りつぶすという説明をしたにも関わらず、だ。
「『自分たちの大事な商品を塗りつぶすとは何事だ』という反対意見があっても当然だと思っていましたが、それよりも、資源を無駄にしないというメッセージのほうに重きを置いてもらえたんです」
「こうした企業の姿勢をこの広告で示すことによって、サステナビリティこそ、これからの社会にとって重要なテーマであることを強く印象付けられるのではないかと考えています」
実際に掲出することになったのは、吉野家、メルカリ、みんな電力、朝日新聞社、KDDIの5社と、ロックバンドの「I Don't Like Mondays.」。
吉野家CMOの田中安人さんは、こうコメントしている。
「ECOALFさんの『資源を無駄にしない広告』というサステナブルなブランドコンセプトに共感したため、今回ご一緒させていただきました。弊社も店舗で使用するメニューに“石の紙”を使用しており、環境影響への観点から石灰石を原料とした素材に切り替えるなど活動を行っております」
回収した広告は、まずシルクスクリーンで白く下地をつくる。その上からカラーシルクで「ECOALF」の広告を載せているため、元の広告も透けて見える仕掛けだ。
右下には「Thank you 吉野家!」などと感謝のメッセージの形で、提供社のクレジットが掲載されている。
「インクの濃度や塗り方を工夫して、広告を提供した企業のこともちゃんと伝わるようにしました」と砥川さん。
「この広告がきっかけで、サステナブルな取り組みに賛同する企業はかっこいいと思ってもらえたり、そういう企業が増えていったりするよう願っています」
さらに、「広告のメッセージを目にした人たちが、レジ袋やプラスチックゴミなど日常生活での資源の節約にも目を向けてもらえたら」とGOのメンバーは話している。
再利用された広告は3月15日まで掲出される予定。