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身体を傷つける儀式を9割の少女が受ける国で。撮影したジャーナリストの思い

およそ90%の女性がFGM(女性器切除)を受けるシエラレオネ。女性が「一人前」になるうえで大切な通過儀礼とされている。その国でFGMに立ち向かう2人の少女の活動を、伊藤詩織さんがカメラを通して見つめている。

西アフリカ・シエラレオネ。およそ90%の女性が、少女から女性への通過儀礼としてFGM(女性器切除)を受けるこの国で、カメラを回した日本人女性がいる。

ジャーナリストの伊藤詩織さんだ。

意識を失った状態で性行為を強要され、重大な肉体的・精神的苦痛を被ったとして、元TBS記者と民事裁判で争っている伊藤さんは、2017年にロンドンに拠点を移し、ドキュメンタリー制作会社「Hanashi Films」を共同設立。主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信している。

レイプ被害者は3歳だった

伊藤さんが最初にシエラレオネを訪れたのは、2018年6月。エボラ出血熱の流行で学校が閉鎖されている間に、少女たちがレイプ被害に遭っていたこと、妊娠して学校に行かせてもらえない子が増えていることを取材した。

病院に併設されたレイプクライシスセンターにいた女の子は、8割以上が18歳以下。話を聞いたサバイバーの5人は、上は14歳、下は3歳だった。

「幼い少女がターゲットにされることに衝撃を受けて話を聞くうちに、5歳から15歳くらいの間に、ほとんどの女の子たちがFGM(女性器切除)を受ける慣習のことを知り、取材を始めました」

19歳と17歳の少女が立ち向かう

伊藤さんがカメラで追ったのは、当時19歳のファタマタと、17歳のアジャイ。

ファタマタは5歳のときに「夜中に連れて行かれ」てFGMの儀式を受けた。13歳で妊娠、14歳で出産。母親に家を追い出され、幼い娘をひとりで育てている。

アジャイはFGMの儀式を拒否したが、そのために「ボンド」と呼ばれる女性だけのコミュニティから疎外されている。

2人は、FGMをなくすために声をあげた。

「性器を切ることだけがFGMの儀式ではありません。切ってから数週間から数カ月間、ボンドと呼ばれる女性だけのコミュニティで、最も有力な女性から、良き妻や良き母になるための教えを受けるのです」

伊藤さんは、シエラレオネのFGMの現状についてこのように語る。

「儀式を受けないとお嫁に出せないという共通認識があり、政府系の仕事にも就けないと聞きました。農村部では、95%の女性がボンドに所属しています。つまり、FGMを経験しなければ、将来に大きく影響するということ」

「FGMは喜ばしい通過儀礼とされています。おいしい食事が出て、きれいなドレスを着てダンスを踊る。一方で、通過儀礼を拒否したら、ボンドには入れず、村八分にされてしまいます」

「FGMは何もいいことなんてない」

しかし、切除の施術は医療機関ではなく、ボンドブッシュと呼ばれる隔離された森の中でされる。使い回されたカミソリによる非衛生的な執刀で、大量出血や感染症を引き起こし、命を失うケースもある。

伊藤さんは、2018年12月にFGMの儀式で亡くなった10歳の少女の両親にも取材した。

「FGMに連れて行かれるまで、娘は元気に遊びまわっていた。他の友達も一緒にFGMに行ったけど、娘だけが帰ってこなかった」

また、FGMの執行リーダーをつとめる女性のインタビューにも成功した。

「"完全な女"になりたいのなら、切って仲間に入らないといけない。FGMは何もいいことなんてない。でも伝統なんだから」

「彼女が『FGMは何もいいことなんてない』と言っていたのが印象的でした」

「FGMを決めるのは主に母親ですが、1日の生活費の100倍を超える、200〜300ドルを執刀人に渡しています。そのため、娘を学校には入れられないけどFGMを選ぶという家庭もあります」

FGMは村で生き延びるための慣習であり、女性の貞操を守るため、女性が性的快感を得られないようにするため、といった性差別的な価値観に基づいていることへの認識は、当事者の女性たちにもほとんどない。

それを日本で伝えたいと思った理由を、伊藤さんはこう語る。

「日本ではFGMは聞き慣れないでしょうが、アジアでも起きていることです。根底にあるのは、女だったらこうあるべきという固定観念の枠にはまらなければ、社会で生きづらいということ。体の一部を切り落とす行為でなくても、日本にも存在する価値観だと思います。身近なことについても、考えるきっかけになればと思います」

少女たちが変わる、少女たちが変える

「FGMを拒否しよう」。ファタマタとアジャイは、学校やコミュニティで少女たちや大人たちに訴える。シエラレオネでは特に女子の識字率が低いため、ラジオを通して訴えられないかと模索する。

2人の活動の様子はYahoo! JAPANクリエイターズのサイトで10分程度のショートフィルムとして2本が公開されているが、伊藤さんは今後も活動を追い、ドキュメンタリー映画を制作する考えだ。

伊藤さんが初めてファタマタと会ったとき、13歳で妊娠して学校に行けていない彼女は、言葉がなかなか出てこなかった。

活動を通して、どんどん積極的、自発的に行動するようになったファタマタは、動画の中での表情にも変化がみられる。

閉ざされたコミュニティの慣習に反対する2人は、女性の中でも、若く、立場が弱く、圧倒的なマイノリティだ。

声をあげる女性がどんな目に遭うか、身をもって知っている伊藤さんは、「2人が実際にどんな脅しを受けているのかと考えると、すごく怖い」と話す。

「彼女たちは周りから世間知らず呼ばわりされます。新しい世代なので、いい意味で前例を知らないから、恐れもない。彼女たちだから発信できることがたくさんある、と感じています。ただ、リスクはできる限り減らせるようにと考えています」

この世の誰もが『社会人』

伊藤さんは9月、スウェーデンに滞在していた。気候変動の緊急対策を求めてたった一人で行動してきた、16歳のグレタ・トゥーンベリさんの姿に「何歳であっても社会に対して発言していいんだ」と改めて感じたという。

「日本で学生からインタビューを受けたとき、『社会人になってから学んだことは何ですか』と質問されて、『社会人』という言葉に違和感を覚えたんです。人はみんな社会の一員だから社会人なのではないかなと。『社会人』とくくって『一人前』とみなすような言葉には疑問を感じました」

「一個人として、この世に生を受けた時点から、主張する権利があるし、それを誰にも止められないし、子ども扱いして意見を小さくしてはいけない。彼ら彼女らだからこそ知っていることがあるし、その可能性を誰もつぶしてはいけないですよね」

ショートフィルムのタイトルは「COMPLETE WOMEN」。

FGMを経験していないアジャイが、自分は「不完全な女」なのだと話していたところからタイトルにとった。

あなたは、あなたであることで、すでにコンプリート(完全)なのだから。

そんな意味をこめている。

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昨日も、きょうも、これからも。ずっと付き合う「からだ」のことだから、みんなで悩みを分け合えたら、毎日がもっと楽しくなるかもしれない。

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10月1日から10月11日の国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)まで、こちらのページで特集を実施します。