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この女の子が、毎週金曜に「学校をサボる理由」を知っていますか?

9月20日、世界130カ国以上の学生たちが「気候危機」に対する対策を求めて、一斉に抗議活動「Global Climate Strike」を行う。日本でも東京、名古屋、大阪などの22都市で、マーチやイベントが開催される予定だ。

各国首脳が温暖化対策などを議論する「国連気候行動サミット」を3日後に控えた9月20日、日本を含む世界130カ国以上の学生たちが、一斉に抗議活動を実施する

100万人以上の若者を巻き込んだ一大ムーブメントの中心にいるのは、ストックホルム出身の16歳、グレタ・トゥーンベリ。

ノーベル平和賞にもノミネートされた彼女は、昨年8月からずっと、毎週金曜日に学校を「サボって」いる。彼女が生きる、未来のために。

「大人たちは私の未来を気にかけていない」

グレタが最初に学校をボイコットしたのは、スウェーデン総選挙を目前に控えた2018年8月のこと。

学校に行く代わりに、「気候のための学校ストライキ」と書かれたプラカードを手に、国会議事堂の前で座り込みを始めた。

行き交う大人たちに手渡したメッセージは、強烈だ。

私たち子どもは大抵、大人に「こうしろ」と言われたことはやりません。大人と同じ行動をするだけです。

そしてあなたたち大人は、私の未来のことをクソほども気にかけていません。だから、私もそうします。

私は、気候のために、投票日までストライキをします。

Vi barn gör ju oftast inte som ni säger åt oss att göra, vi gör som ni gör. Och eftersom ni vuxna skiter i min framtid, så gör jag det med. Jag skolstrejkar för klimatet fram till valdagen.

12歳になる頃には、気候変動の先にある未来に対して、強い危機感を抱いていたというグレタが目指したのは、問題から目を背け続ける“大人たち”の「目を覚ますこと」だ。

「誰も何もしないから私がやっただけです。私は政治家たちに気候変動の問題を『危機』だと認識し、優先課題として注力して取り組んでほしいんです」

「1.5℃特別報告書」が描く未来

グレタがストライキを始めた約2カ月後、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「1.5度特別報告書」を発表した。

そこで叫ばれていたのは、気候変動による「地球環境の急速な悪化」と、各国が掲げる温暖化対策を直ちに軌道修正する必要性だ。

報告書によると、世界の平均気温は産業革命前と比べて、すでに約1℃上昇。2030~2052年までに、1.5℃に到達すると予測されている。

1.5℃上昇までに温暖化を食い止めることができなければ、豪雨や寒波、干ばつなどの異常気象や、海面上昇などによる被害がさらに拡大し、危機的な状況を迎えると考えられている。

具体的には、気温上昇を1.5℃に抑えることができれば、2℃上昇した場合よりも、海面上昇のリスクに晒される人口を約1000万人減らせると試算されている。

2℃に到達してしまった場合には、サンゴはほぼ絶滅し、植物の16%、昆虫の18%が生息域の半分以上を失うと予測されている。

だが、気候変動による異常気象が、すでに遠い未来のものではなくなっていることは、日本を襲う酷暑や豪雨などの災害からも明らかだろう。

気象庁は「気候変動監視レポート2018」において、昨年7月に西日本を襲った猛烈な豪雨や、昨夏(6〜8月)の平均気温が統計開始以降でもっとも高くなった背景には、「地球温暖化の影響があった」という見解を公式発表している。

2015年に採択されたパリ協定は、気温上昇を「2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」と掲げている。

だが、このまま温暖化が進めば、パリ協定で各国が掲げた2030年までの温室効果ガス削減目標を全て達成できても、21世紀の終わりまでには3℃上昇する。

IPCCの共同議長を務めるジム・スキー教授は「本当にすぐに手を打つ必要がある。2030年に向けたパリ協定で決めた約束を各政府が果たすだけでは十分ではないと、報告書ははっきりと書いている。それでは、気温上昇を1.5℃に止めることは非常に難しくなる」と訴えている

「自分たちが生きる未来を」世界中の若者が共感

グレタは選挙後も毎週金曜日にストライキを続けた。その活動は「#FridaysForFuture(未来のための金曜日)」と呼ばれ、瞬く間に世界中へ広がった。

気候変動の影響をもろに受けるのは、まだ投票権も持っていないような自分たち若い世代。だからこそ、今声をあげて、政府や大人たちを動かしていく必要があるという考えが、多くの若者たちの共感を得た。

2019年3月15日の金曜日に実施された「未来のための世界気候ストライキ」には、世界125カ国で100万人以上の学生が参加。5月の第2回では、130カ国で2300件の抗議活動が一斉に行われた。

グレタも国連気候会議やEU議会でスピーチをし、イギリス首脳と会談。ノーベル平和賞の候補にもノミネートされ、TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。

9月23日に開催される「国連気候行動サミット」でもスピーチを予定しているため、8月末にはニューヨークへ渡った。

その際彼女は飛行機を使わずに、CO2排出量ゼロのヨットで15日間かけて大西洋を渡った。環境への負荷を抑えるために、グレタが飛行機に乗るのをやめたのは12歳のときだ。

18日にはオバマ前大統領と会談し、アメリカ下院議会の気候変動に関する作業部会に出席してこう訴えた。

「私は今日、用意されたスピーチをするためにここに来たのではありません。スピーチの代わりに、IPCCの『1.5度特別報告書』を提出したいと思います」

「報告書を提出するのは、皆さんに私の話を聞いてほしいわけではないからです。皆さんに科学者たちの話を聞いてほしいからです」

「皆さんには、科学に基づいて団結してほしいと思っています。そして、行動してください」

日本でも始まる「未来のための金曜日」

グレタが始めた若者たちによる「未来のため」の運動は、日本でもわずかに芽吹きつつある。だが、その勢いは他国に比べてはるかに弱い。

有志の学生によるネットワーク「Fridays For Future Tokyo」が発足したのは、今年2月。3月と5月のグローバル気候ストライキにも加わったものの、参加者は3月が120人、5月は250人だった。

FFFTokyoのメンバー、梶原拓朗さん(18、国際基督教大学1年)は、18日に外国特派員協会で開かれた会見でこう話した。

「世界は気候変動を始めとする環境問題にようやく気づき始めました。海外のFridaysムーブメントは100万人を超える参加者を抱え、社会的なムーブメントとなっています」

「しかし日本を見てみると、明らかにその流れから取り残されています。環境意識は低く、気候変動という言葉を知っている人も限られています」

「大人たちはおろか、同年代の友達に話しても理解してもらえない。声を上げ続けても社会は認めてくれない。この日本でやるということの難しさをひしひしと感じました」

この背景には、日本語でアクセスできる気候変動に関する情報が少ないことや、環境問題に限らず、政治や社会に対する若者の関心が低いことなどがあるのではないかと、梶原さんたちは考えている。

一方、FFFTokyo代表の井上寛人さん(19、明治大学2年)は、デモやイベントなどをきっかけに生まれる「人と人との繋がり」が、そうした現状も変えているのではないかと感じている。

「僕はFridaysに参加するまで、環境問題のことを話せる友達がいませんでした。友達に話しても僕には関係ない、温暖化は遠い未来の話だろう、と全く取り合ってもらえませんでした」

「でもこの活動に参加してからは、まるで世界が変わったかのように僕と同じ思いを持ったたくさんの学生と出会うことができました」

「このグローバルな問題を解決するために頑張っている心強い仲間が、世代や国を超えてたくさんいるという実感は、活動を続ける自信になっています」

これからを生きる若い人たちへ

Global Climate Strike 20-27th of September: 4638 events in 139 countries on all continents. And counting... Everyone is welcome. Everyone is needed. Find your closest strike or register your own at https://t.co/ikOafwrNSk Spread the word! #FridaysForFuture #ClimateStrike

今回、9月20日前後に予定されている一斉抗議では、世界130カ国を超える国々で、デモやイベントが開催される見込みだ。

日本でも、東京、名古屋、大阪、仙台などの計20都道府県22都市でマーチが実施される。

東京では午後5時に渋谷区の国連大学前広場を出発し、渋谷・表参道エリアを一周する。パタゴニアやLUSHなどの企業も賛同し、参加者1000人を目指している。

FFFTokyoの中心メンバーには、グレタと同じ16歳の女子高校生もいる。都立国際高校の岩野さおりさんだ。

岩野さんがこのムーブメントに加わったきっかけは、環境活動家のセヴァン・スズキさんが、12歳の時に国連でスピーチをした映像を学校で見たことだ。

その時、岩野さんは15歳。世界では自分と同年代の女の子が、政治家たちを動かし始めていた。

岩野さんは、世界が直面している現在の状況を語るには「気候変動」や「地球温暖化」という言葉では不十分だと考えている。

今すぐに各国の政府や市民一人ひとりが行動を起こさなければならない現状は、「気候危機」と呼ぶのが適切だと。

会見では「これからを生きる若い人たちへ」と切り出し、こう語った。

「あなたの未来はあなたの上にあります。それと同じように、あなたの子供や次の世代の未来もあなたの上にあるものです。ほとんどの中高生は選挙権を持っていません」

「しかし、そんな私達の前にも意思表示の場は用意されています。その一つが(9月20日に開催される)グローバル気候マーチです」

「今私たちに求められているものは、『自分の行動が大きな影響力を持たないから行動を変えない』という思考から、『自分の行動が間接的に影響を及ぼしているかもしれないから、行動を変える』という思考への移行です」

「ただ社会の変化を待っていては手遅れになってしまいます。私たちが行動することが社会全体のシステムを変えるファクターとなるのです」

「9月20日、これはあなたのための、あなたの子供のためのマーチです。気候危機から地球を、大切な人を守るためにマーチに参加してください」

各都市におけるグローバル気候マーチに関する情報は、こちらのサイト(https://ja.globalclimatestrike.net/)から。