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「ワクチンによる死者は増えていない」専門家が根深い“誤情報”に断言、大規模データから見えたもの

根拠となるのは、アメリカとイギリスの「ワクチンを接種した人と接種していない人」について、コロナ以外の原因における死亡率を比較したデータ。ワクチンの副作用による死亡がもし多いのならば、この「コロナ以外の原因における死亡率」に反映されると考えられるが、実際はどうなっているのか。

​​新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、接種後の死亡に関する言説が拡散し続けている。

「数千人が異常死している」「ワクチン死が急増している」などというもので、大規模接種が始まる前から今に至るまで、繰り返し拡がっているものだ。

専門家はこうした言説について、アメリカやイギリスの大規模なデータをもとに、「誤情報」だと明言する。

ネット上でいまも広がる「ワクチン接種後の死者が増加している」などの情報について、誤情報であると断言するのは、日米の専門家でつくるプロジェクト「こびナビ」の木下喬弘さんだ。

その根拠となるのが、アメリカとイギリスの「ワクチンを接種した人と接種していない人」について、コロナ以外の原因における死亡率を比較した大規模データ。

ワクチンの副作用による死亡がもし多いのならば、この「コロナ以外の原因における死亡率」に反映されると考えられるからだ。木下さんはBuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「ワクチンを接種した人と、していない人で比べると、コロナ以外の原因による死亡はワクチン接種した人の方が圧倒的に少ないということが明らかになったんです。つまり、ワクチンの副反応による死亡が多いとは考えられません」

まず、アメリカのデータはどのようなものか。

同国では「Vaccine Safety Datalink」(VSD)というシステムが1990年代から存在する。9つの病院群と連携し、予防接種のデータと患者の疾患や病院受診、薬の服用などに関する情報を匿名化した上で蓄積したものだ。

CDC(アメリカ疾病予防管理センター)では、2020年12月14日から翌年7月末にかけ、「VSD」に登録された12歳以上、約1100万人分の情報を分析し、「コロナ以外の死亡率」を比較している。

それによると、ワクチンを接種した人(ファイザー、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)としていない人では、接種した人のほうが「コロナ以外」で死亡する確率が少ないことが明らかになった。

日本でも大規模に接種されたファイザーとモデルナの1回接種者のリスク比はそれぞれ「0.42」「0.35」。2回接種者のリスク比は「0.37」「0.34」だった(上)。

この研究結果では、「死亡リスクの増加はありません」と結論づけている。木下さんはこう語る。

「ワクチン接種者の死亡率は半分以下になっています。また、VSDの分析からはアジア人でも、ほかの人種でも、かかわりなく同様の結果が出ていることが明らかになっており、日本人だけ特別なことが起きているとは考えにくい」

死亡率、なぜ接種者のほうが低い?

一方、イギリスのデータは国家統計局「ONS」が公表しているワクチン接種に関するデータだ。

2021年1月から2022年1月の1年分で、同様にコロナ以外の要因における死亡率の比較ができる。対象者と年数をかけた「観察人年」が数千万という大規模なものだ。

コロナに関連のない死亡率は未接種者で1507.3(10万人年)で、1回以上接種したことがある人は878(同)と大きな差が出た。木下さんはこのデータについて、こう述べる。

「イギリスのデータでは接種から21日以内の人の死亡率も見ることができますが、いずれも未接種者の半分以下になっています。ワクチンを接種した直後に死亡するリスクが高まるという因果関係がないことが、こうしたデータからも明らかだといえます」

これら、2つのデータからは、「ワクチン接種によって死亡リスクがあがるという因果関係は示されなかった」ことがはっきりと示されていることがわかる。

しかしなぜ、いずれも接種者のほうが、コロナ以外の要因においても、死亡率が低くなるのか。木下さんの見立てはこうだ。

「接種者のほうが死亡率が低くなっている背景には、接種できる状況の人がもともと、健康な人が多いということがあるのではないかと推測できます。コロナワクチンを接種することで、ほかの病気になりにくくなるわけではありません」

「なお、イギリスのデータでは、2回目接種から6ヶ月経過した人は接種者の方が死亡が多くなっています。これは高齢者に対して接種が先行していたため、6ヶ月経過した人には高齢者が多く含まれていたのが原因です。実際、年齢別の解析では、ワクチン接種による死亡率の増加はどの年齢層でも認められていません」

これら以外にも、アメリカでは「コロナワクチンを接種した後の死亡率は一般集団の死亡率よりも低い」と結論づけられプレプリント(査読前の論文)が5月5日に公表されたばかり。

このプレプリント(写真上)は、CDCとFDA(アメリカ食品医薬品局)の専門家が、ワクチンをめぐる有害事象(*)を集めた「VEARS」(予防接種安全性監視システム)のデータを分析したものだ。

*薬物を投与された後に患者に生じたあらゆる好ましくない症状のこと。接種とそうした事象の因果関係が証明されている「副反応」も含まれるが、因果関係の明らかでないもの、不明なもの、別の原因によるものすべてが対象となる。

日本のデータの「弱点」とは

「どういうデータを持ってきても同じ結果が出ていますよね。頑健性が高い、つまり信頼性が高い結論であるということ。イギリスのデータをみると、追加接種などについても同様の傾向があると言えるでしょう」

こうしたデータが揃っている状況にもかかわらず、ネット上では、接種後の死亡者情報がたびたび広がっている。

特に日本では、国の「副反応疑い報告」に掲載されている、因果関係のはっきりしないデータが単体で拡散、憶測を呼ぶことは少なくない。木下さんはどう見ているのか。

「切り取られた副反応疑いのデータだけを見ていると、ワクチンを接種した人がこれだけ亡くなったというように不安を覚えてしまうかもしれませんが、実際は接種していない人とデータを比較しないと意味がないんです。しかし、日本の制度ではそもそもアメリカのVSDのような比較ができないという最大の弱点があります」

「HPVワクチンの問題が起きたあとから、ワクチンの安全性を速やかに評価できる仕組みの必要性が訴えられていました。それから8年経っても国による整備はされていませんが、今回のコロナワクチンでもその認識はより強くなったと思います。次のパンデミックがいつ来るかもわかりません。また、今後のさまざまなワクチン開発のためにも必要な仕組みだと思っています」

そのうえで、「SNSで流れてきた誤った解釈や恣意的なデータの切り取りを鵜呑みにして信じるのではなく、国や専門家が分析し、調べた結果を頼ってもらうことが重要だと思います」と強調した。


BuzzFeedは新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とも連携し、新型コロナ感染症とワクチンに関する誤った情報、不正確な情報についてファクトチェックしています。関連記事は特集ページから。