• covid19jp badge

子育て世代への新型コロナ支援金、なぜ夜の街で働く人には不支給?支援団体が方針見直しを要望

厚労省が設けた新たな支援金。その支援対象から接待を伴う飲食業や性風俗業で働く人々が外れている。

新型コロナウイルス対策で政府は、学校の臨時休校などのため子供の世話に追われ仕事ができなくなった子育て世代のための支援金を設けた。

その要項では、キャバクラなど客の接待を伴う飲食業や性風俗業で働く人々ら、夜の街で働く人々の多くが、暴力団員と並んで不支給となっている。風俗産業で働く人々で作る団体は4月2日、厚生労働省に見直しを求める要望書を出した。

【要項で不支給とされる主な対象者】

・接待飲食業=キャバクラ、ホストクラブなど客の接待を伴う飲食店の関係者

・性風俗業の関係者

・暴力団員

「困窮に陥りやすい人への支援、なぜ断ち切る?」

セックスワーカーの安全・健康のために活動する団体「SWASH」の代表・要友紀子さんは、支援金の対象から風俗業関係者が除外されたことについて、「みんなに理解されやすいクリーンな仕事だけでは食べていけないからインフォーマルな仕事をしているのに、そんな彼らを助けようともしないなんて政治の仕事放棄です」と憤る。

風俗業界で働いている人は全国に30万人いると言われている。全風俗店を対象とした調査が行われていないため、正確な数字の把握は難しい。

これまで長年調査を行ってきた要さんは、全体の3分の1弱の人たち、低く見積もっても6万人〜7万人には子どもがいるのではないかと推測する。

子どもの休校で保護者が仕事に行くことが難しくなり収入が減少すれば、子どもの生活環境が悪化することになる。

「感染症が広がる中で、子どもに影響が出るのはどんな仕事をしている家庭でも同じです。そして、こういった場面でより追い詰められやすいのは、社会的排除を受けやすい人たちです。差別されにくい職業に就いている人よりも、差別を受けやすい職業に就いている人の方が、困窮に陥りやすい」

要さんは風俗関連産業で働く人について「支援を一番必要としている人たちのはずなのに、支援が届かない」と語る。

胸の内にあるのは、社会的排除を受ける人たちが「一番先に死に向かう」という危機感だ。

だが、現状は「よりケアを必要とする人から支援を断ち切るような状態だ」と指摘。それは「順番が違うのでは」と強調した。

見て見ぬふりされてきた「死活問題」

「風俗業への不支給要件の根拠を暴力団との結びつきというなら、風俗以外の他の職種でも同様です。そうすると支給対象の職種はかなり絞られることになります」

「もとをただせば、再分配のしくみをうまく作れない経済政策の失敗があるからインフォーマルな市場が生まれる。それは政治の責任です」

「人は誰しもお金に困れば、どうしてもインフォーマルなところと関わらないで生きていくことが難しい面があります」

「性風俗業で働いている人たちには『高収入』というイメージがあります。しかし、実態は全く異なります」

SWASHが2013年に行った調査では、風俗業で働く人たちの平均月収は34.1万円。国税庁が発表した平成30年度の平均給与額が年間441万円であることを踏まえると、決して高い収入とは言えない。

人気が出れば収入が増える面はあるとはいえ、多くの人の稼ぎは「人並み」かそれ以下なのが実態だという。

なぜ風俗業関係者に不支給?

なぜ、今回の支援金の支給対象から風俗業関係者は除外されたのだろうか。

厚労省雇用環境・均等局の担当者は「性風俗関係の方を特別排除しようということではない」と語る。

「今回の支援金は新設されたものですが、支給要項にはこれまでの厚生労働省の他の支援金と同じ項目を盛り込んでいます」

あくまで、これまでの前例を踏襲する形で要項が定められたという。

風俗業や接待を伴う飲食業の関係者を排除するような要項に批判の声が上がっていることについては、「そうした声が上がっていることを上の者に伝えさせていただきます」と答えた。

不支給要件、見直しと撤回を

SWASHは4月2日、厚労省に要望書を提出した。

「性風俗従事者とその子どもたちを含む全ての親と子の生存権を保障してほしい。そのために、不支給要件の見直しと撤回をした上で、そのことを広く周知してほしい」

「今回の一件で支援が必要な人が、支援が本来は届くべき人たちが支援を求めにくくなっている事態が懸念されます」

「要望をすることで社会が一歩前進することを期待します。風俗業の人もちゃんと支給対象にしないといけないと、社会レベルで確認してほしいです」

「ウイルスは職業も属性も社会的立場も選びません」

新型コロナウイルス感染拡大で、夜の街で働く人々の生活はこれまでも脅かされてきた。

銀座でホステスとして働く女性は3月上旬、BuzzFeed Newsの取材に「出勤できなければ即収入減に直結してしまうので、死活問題。今月の収入がどのくらいになるのか、計算もできません。給与補償があるわけでもなく、先が見えません」と語っている。 

そんな中、3月30日に小池百合子東京都知事は会見でバーやナイトクラブをはじめとした「夜の街」に出入りすることの自粛を呼びかけた。

それ以降、新宿・歌舞伎町など繁華街に夜、足を運ぶ人はさらに減っている。

これはあくまで公衆衛生の観点から、クラスターを割り出した結果の施策だ。こうした業種の店舗では3つの「密」が生じやすい環境であるため、感染拡大が他の業種よりも懸念された。

だが、この自粛要請が結果としてより一層、風俗業で働く人への差別や偏見が助長した側面があるのではないかと要さんは疑問を呈す。

「わかりやすい『濃厚接触をする』職業として風俗業が見なされている部分があります。でも、感染予防のため大事なことは、どんな職業に就いていたとしても変わりません。手洗いうがいを徹底して、アルコール消毒を行い、飛沫が飛ばないよう気をつける。それなのに、偏ったイメージばかりが一人歩きしてしまっているように思えてなりません」

「ウイルスは職業も属性も社会的立場も選びません」

要さんは必要以上に、こうした形で特定の業種ばかりにフォーカスされることで、その他の業種で働く人たちに「安全神話が流されてしまうのでは」と指摘する。

「HIVのパニックと同じだと感じました。自分は風俗に行ってないから、特定の人としか性接触しないから自分は大丈夫という神話が当時も流れた。でも、検査はセックスをする人であれば誰もが受けるべきもの」

「変な安心感を持ってしまうことの方が危険だと思うんです。自分は大丈夫、そう思って気をつけなくなってしまうことによる感染リスクがあると思います」

UPDATE