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妊婦さんは救急車・タクシーを呼んでいいの? 消防庁・医師・タクシー会社の見解

事前にかかりつけの病院に相談し、救急車の必要がなければ基本的にはタクシーなどで移動。

妊婦さんの救急車利用が議論に

産婦人科医を名乗るTwitterユーザーが、陣痛妊婦が救急車を利用することを「不正利用」だと問題視したことをきっかけに、医療関係者などを中心に大きな議論が起きた。

妊婦さんが陣痛時に救急車を利用することは「不正」なのだろうか。そもそも、妊婦さんは陣痛時にどのように病院まで移動すればいいのだろうか。BuzzFeed Japan Medicalは総務省消防庁・産婦人科医師・タクシー会社に話を聞いた。

「出産のためだからダメということはない」

妊婦が出産のため、陣痛・破水時に救急車を利用することについて、所管官庁の総務省消防庁はどのような見解なのか。

総務省消防庁の広報担当者は、「要請理由のうち、“出産のため”“陣痛・破水時”といった属性で、救急搬送が適正であるか否かを判断することはありません」と回答する。

「救急車はあくまでも、本人や周囲が“緊急である”と判断して出動を要請するものです」

「もちろん“問題なく歩いて病院に行けるけれど、救急車の方がラクだから”など、明らかに故意である場合は適正利用とはいえませんが、専門家以外には緊急度の判断がつけられない以上、陣痛・出産のためだから呼んではいけない、ということはありません」

ただし、適正利用とはいえない救急車の出動要請が問題になっているのも事実だ。

広報担当者は「何が適正で、何が適正でないかの判断はなかなか難しい」とした上で、緊急度を判定する消防庁のアプリ『Q助』や、現在一部自治体(*)で実施されている救急安心センター事業「#7119」への電話相談をすすめる。

*実施自治体は宮城県・埼玉県・東京都・新潟県・大阪府・奈良県・福岡県。一部実施しているのが札幌市周辺・横浜市・神戸市・和歌山県田辺市周辺。

「あらかじめかかりつけ医に相談を」

産婦人科医の佐藤ナツ(タビトラ @tabitora1013 )さんは、妊婦の救急車利用についての議論の背景に「お母さん(妊婦さん)たちの不安」があることを指摘する。

「特に、初めてのお産ではお母さんの不安も強いものですし、パニックになってしまうこともあるでしょう」

その上で、「お産はお母さんの体の状態も、社会的な事情も、人によって千差万別なので、“お産だから”救急車を呼ぶべきとも呼ぶべきでないとも、一般化したことはいえない」と佐藤さん。

「たとえば、医療機関までの距離が遠い地域で、急に陣痛が来てしまった場合、タクシーでは間に合わないということが十分にあり得ます。そういった場合、救急車を要請してもらうことは不適切とはいえないでしょう」

「他にも、夫が夜勤や長期出張中とか、上の子を一人で家に置いておけないとか、お産ではそのお母さんに合わせた個別の対応が必要です」

そのため、佐藤さんはあらかじめ「かかりつけ医と相談しておくこと」が何よりも重要だとする。

「出産予定の病院の医師であれば、お母さんの状態や事情を踏まえて、陣痛が来たとき、破水が起きたときにどうするか、具体的なアドバイスができます。先ほどの例のように、医療機関までの距離が遠い場合であれば、出産予定日が近づいたら入院してもらう、などです」

通常、妊婦さんは妊婦健診や母親教室などで、陣痛が来たら、破水が起きたらどうするかについて学ぶ。

医療者とのコミュニケーションが成立していれば、通常は事前に、妊婦を対象としたタクシーの送迎サービスに登録しておいたり、身内に送迎を頼んだり、それぞれに応じた対策を講じられるはずだ。

そのため、「妊婦さんが不適切に救急車を利用する、といったことが問題になることはほとんどない」と佐藤さん。

「胎動がない、大量に出血しているなど、明らかな異変があれば、救急車を呼んでくださいというのは、私もお伝えすることです」

しかし、他の手段があり、救急車を呼ぶ必要がないのであれば「本当に必要な人のために、なるべく救急車を使わないようにするべきだというのも事実」と佐藤さんは強調する。

「お母さんたちの不安が前提にあり、対応は個別的にならざるを得ない。だからこそ、重要なのは医療者とのコミュニケーションです」

「陣痛でタクシー依頼は一般的」

病院への移動手段として、他に思い浮かぶのはタクシーだ。出産のためにタクシーを使うことについて、タクシー会社はどう考えているのか。

業界大手の日本交通株式会社の広報担当者は「一般論として、陣痛でタクシーを利用するのは一般的」と答える。

「私どもは2012年から『陣痛タクシー』として、陣痛時の妊婦さま対象のサービスを提供していますが、実はそれ以前から同様に妊婦さまの病院への移送はしておりますし、公式ホームページにも妊婦さまの利用に問題がないことを明記しておりました」

「しかし、“わかりにくい”といった声もいただいておりましたため、あらためてサービス化したのが『陣痛タクシー』ということになります。いずれにせよ、タクシー会社として特別なサービスというわけではありませんし、もちろん妊婦さまのご利用を拒否するようなことはありません」

2018年4月までに同サービスには累計16万7000人の妊婦さんが登録。乗車件数は累計5万台を超える。直近1年では1万5000人が利用した。

同社では所属ドライバーが入社時に妊婦さんが乗車したときのための講習を受けるために、約4500台の同社所属のすべてのタクシーは原則としてすべて、妊婦さんの移送に対応できる。

「『陣痛タクシー』利用者の妊婦さまにも、陣痛が来たときは、まずかかりつけの病院に連絡していただき、指示を仰いでいただいています。救急車の必要がない場合、弊社のタクシーがお迎えにあがる、という流れです」

気になる人もいるのが、万が一、シートを汚してしまったら賠償しなければならないのか、ということだろう。

「もちろん、(飲酒などで)悪質な形でシートを汚した場合、賠償ということもあり得ますが、出産に関しては、シートが汚れてしまっても、弊社ではクリーニング代を請求するようなことはございません」

「車内出産は過去にも例があります。そんなとき、妊婦さまのサポートをしたドライバーの衣服が汚れることはありますが、みな一様に貴重な経験をさせていただいた、というポジティブな感想でした」

すべてのタクシー会社、すべてのドライバーが妊婦さんに対して好意的とは限らない。だが、「弊社のような取り組みをするタクシー会社は、都内では私たちが初でしたが、今では複数あります」と同広報担当者。

「まずはお住まいの地域でこのような取り組みをしているタクシー会社があるか、お調べになってみてはいかがでしょうか」