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最前線で治療に当たる医師の願い 「医療が崩壊しないようにみんなで協力してほしい」

最前線で新型コロナウイルス感染症の患者の治療に当たる都立駒込病院感染症科部長の今村顕史さんは今、何を見据えているのか。お話を伺った。

全国に広がりつつある新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。

厚生労働省は「最悪の場合、発症者は人口の1割を超える」とする流行シナリオを公表し、自治体に医療提供体制を整えておくように求めました。WHO(世界保健機関)も「パンデミック(世界的な大流行)」との宣言を出したところです。

全国的な流行も想定して対策が進められる中、最前線で治療に当たる専門医は今、何を見据え、何を目指しているのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、都立駒込病院感染症科部長として新型コロナウイルス感染症の患者の治療の指揮をとり、政府の専門家会議構成員も務める今村顕史さんにお話を伺いました。

※インタビューは3月11日午後に行われ、その時点の情報に基づいている。

一病棟をまるごと新型コロナ対応に

ーーこれまで患者さんはどれぐらい受け入れてきたのですか?

すでに多くの陽性患者の入院対応を行っており、今も患者数は増えています。政府チャーター機の患者の受け入れから始まって、クルーズ船の患者もかなりここに送られてきました。

元々、新興感染症の診療経験が多いので、外国籍の方も多く受け入れて、一時外国の病院のようになっていましたね。その頃はかなり病床が埋まっていました。

駒込病院は「1類指定感染症(※)」を診る「第一種感染症指定医療機関」で、エボラ出血熱なども診る病院です。そのための訓練を日頃からやっています。

※特に感染力や症状の強い感染症。エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱が指定され、指定医療機関(1種は全国で55機関)が診る。新型コロナウイルスは一段低い、2類感染症として指定された。

新しい感染症が発生した場合に備え、感染症科以外でも40人ぐらいの看護スタッフを日頃から訓練しているチームがあります。いざとなったら集められるようになっています。

さらに、現場の医療者だけでなく、病院幹部、事務担当、その他の多くのスタッフなどの日頃からの理解と協力があるからこそ、この体制が維持されているのです。

1類感染症用の専用病床は離れたところに2床ありますが、今回は最初からチャーター機やクルーズ船があって、2床で収まるはずがないことはわかっていました。

新型インフルエンザやMERS(中東呼吸器症候群)などのような流行感染症で患者がたくさん入ってくることを想定して、病棟全体を陰圧(ウイルスが外に漏れない環境)にし、1病棟全てをその感染症のためにあてるという設定が元々の計画であるんです。

すぐにそちらに切り替えて、離れている2床は閉じて、28床の1病棟全体で対応するようにしました。チャーター機の時からその体制です。

ーーマスクや消毒用アルコールなどは足りていますか?

うちは指定医療機関なので十分備蓄がありました。ただ、今は今後の長期化も見据えて在庫の残りを気にするようにはなってきました。

「流行シナリオ」対応できるか?

ーー厚労省は、何も対策をうたない場合は国民の1割が感染するという流行シナリオを公表して、自治体に医療提供体制を整えるように求めました。思ったよりも悲観的な数字が出てきましたが、どのように受け止めましか?

あくまでも、流行対策を十分に行わなかったり、実施した対策が無効だったりした場合のシナリオです。しかし、最悪のシナリオも考えた上で、これからの医療体制の準備をすすめておくことも重要だと考えています。

それまでに至る過程を、あえて段階に分けてみてから、少ない数からの対応移行を考えていくべきでしょう。

今後、病床数の計画をたてなければいけないと言われていますが、病床数で考えているとうまくいかない。なぜなら、そこに人がいないと稼動できないからです。ベッドだけあってもだめです。

その中にどれほど負担のかかる患者が多いか。つまり、寝たきりの人や集中治療の対象になっている人がどれだけ入っているかによって、必要な人員や防護具の数もかなり変わってくる。

重症の人に集中治療をやっていると、病室に何回も入らなければならなくなるので、その度に感染防護具を脱ぎ着しなくてはならず、どんどん物品が減ります。スタッフも疲弊します。

そういう意味で、「有効病床数」がどれだけあるかを考えなくてはならなくて、有効病床数は患者さんの重症度などによって変わってくることになります。

ーー今は病床の埋まり具合はどうですか?

今はクルーズ船の人たちが退院して、東京での発生の人が送られてきています。まだいっぱいにはなっていませんが、先週あたりから増えていますから、あっという間に満床になることも考えられます。

さらにもう1病棟、この感染症のために開ける計画も視野に入れています。本当に増えてきた時には、この病院は最後の砦になる。ここが支えられなくなったら患者さんの行き場所がないですから。

治療は難しいのか?

ーー治療は難しいですか?

元々の病気の状況に左右されますね。確かに酸素の吸入も必要ない軽い人もいますし、その人たちは元気に過ごして、陰性の確認が取れれば帰ることができます。

ただ、新型コロナは肺炎になりやすいウイルスです。

新型インフルエンザだと、ウイルスが直接起こす肺炎は少ない。高齢者で肺炎が起きるのは、インフルエンザで気道や全身の免疫が落ちて、そこに細菌が感染して起きる、二次的な細菌性の肺炎なんです。

でも新型コロナは極めて肺炎になりやすく、ウイルスが直接肺炎を起こしてしまいます。肺炎によって症状が悪化してくるタイミングは発症から1週間当たりというのが重要なポイントです。

そして肺炎にも個人差があって、酸素がいらない程度でそのまま良くなる人もいるし、一度は悪化傾向となっても自分の免疫で戦えてそのまま良くなる人、あとはそのまま急速に悪くなる人がいます。

急速に悪くなる人がいわゆる重症と呼ばれる人です。その中でもさらに、酸素では間に合わず肺が悪くなる人がいて、人工呼吸器の対応が必要になる。重症になればなるほど、回復の可能性も低くなっていきます。

肺炎を起こして悪くなる人が意外と多いというのが今の印象です。全体の中では一部ですが、肺炎になった人の中で悪くなっている人がそれなりにいる。

8割が軽症と言いますが、その一方で肺炎などの深刻な病状が約15%、集中治療を要する命にかかわる病状が5%、という中国での報告は日本の診療現場でも当てはまります。

HIV治療薬などの薬も一通り、患者さんの同意を得ながら使っています。数例だと、効果があるかどうかは判断できない。自然に治ったかもしれないですし。今後の研究を待たなければなりません。

医療体制、維持できているのか?

ーー先ほど指摘されたように重症となると治療も大変でしょうし、人手も必要ですね。

重くなっていく人はなかなか退院できず、ベッドを埋めていきます。さらに、重症管理になって呼吸器をつけた人は高齢者が多いので、なかなか呼吸器から離脱できないのです。そうすると入院期間も相当長くなってくる。

肺炎を起こす人が積み重なり、なおかつ重症で呼吸器が外れない人が含まれてくると、厳しいです。感染者の分母が多くなれば、必ず重症者の実数も増えることになります。実数が膨らめば医療を圧迫していくのは間違いない。

重い人の割合が増えれば、人的資源も費やされるし、物品も不足する危なさも、今の時点で、臨床の肌感覚で想像がつく。その規模は分母の大きさ次第になってくる。

確かにこの病気は分母が増えれば医療を圧迫する。

よく「医療崩壊」という言葉が使われますが、その病気で圧迫されるだけでなく、それが増えることによって通常の医療の質が落ちてしまうことも含まれます。本来救えるような他の病気にまで手が回らなくなる。

例えば、災害の時は、重症度に合わせて同じ部屋に複数の患者を入れられます。でも感染症は違う。感染している人としていない人を同じ空間には入れられない。集中治療の場所も全部コロナ用にしなければならなくなるかもしれません。

でも地方で集中治療をやっている病院は、地域全体の集中治療をまかなっています。そこが一つの感染症で占有されてしまったら、他の医療の質が落ちてしまいます。将来的な医療への圧迫は、総体として考えなければなりません。

駒込病院はがんセンターでもあります。がん患者の治療もしっかり安心して行えることを目的に、この病院は作られました。建物の構造も、どんなことがあってもがん治療を死守できるように、考えて作られています。コロナだけに視野を狭めてはいけません。

ーー命の選別をしなければいけない事態が、日本で起きたらどうしようかと心配になります。

まだ大丈夫です。そこまで行く前に分母を抑えることが必要です。流行シナリオの数字は、あまりにも大きいので行政は驚いています。

あの数字を見たら思考停止してしまいます。あれは何もしなかった場合の最悪の場合のシナリオで、それを考えたら、今の大変さは、将来起こり得る大変さを食い止めるためにも、まだ頑張りがいのある大変さです。

それぞれの立場の人たちがそれぞれの場所で頑張って、そこに至らないように引き下げていく。そういうメッセージが強く出ているのだと思います。

あの数字で準備をしなさいと言っても決まらない。流行は一気に進むわけではないですから、段階ごとの想定をするプランをたてるのがいいと思います。

検査はスムーズか?

ーー診療の上で困っていることはありますか? 当初は検査を依頼しても受けてもらえないという声がありましたが、保険適応となって、保健所をかませずに、直接、検査機関とやり取りできるようになりましたね。

検査の柔軟性があるかどうかは地域差もあったと思います。検査を回せる数も地域によって違う。また、その時の負荷のかかり方によっても検査の対応能力は変わってきます。

東京はクルーズ船の人をいっぱい抱えていた中での件数です。やらざるを得ない検査も多かったと思います。

もう少し柔軟にやれたらいいのにできなかった事実は確かにある。検査を拡充することは必要で、今の感染がどうなっているか把握するために少し拡大した検査も必要だったりもします。

ただ、今、流行を抑えるために一番重要なキーポイントは、クラスター(感染集団)対策です。これまでわかってきた情報では、多くの人は他者に感染させていません。広まっているところをいかに抑えるかがうまくできれば、この感染症をコントロールできるかもしれない。望みはそこにあります。

そうすると、クラスターの中で複数の人に感染を広げている人を見つけるためには、基本となる人が見つかったら、徹底的に接触者を調べ、その人を優先して検査しなければいけません。先日、ジムに通っていた陽性者で、濃厚接触者数が約1400人となった例がありました。

相当な数になることはよくあることで、韓国でMERSが流行った時も、一時、濃厚接触者が1万人を超えました。そういう人たちの検査がどれほど必要かを考えると、検査にも優先順位があります。そうでない人を片っ端から検査することは望ましくありません。

病床や人員の対応、感染防御のための物品など、現実的なことを考えると、本当の専門家で、全体像が見えている人は日本全体の不安な人まで検査しようということは言わないです。わかっている人は言わない。

無症状でも不安のある人、ごく軽い風邪症状の人など、検査を希望する人も多くいることは理解しています。そして、軽症も多いという新型コロナウイルスの特徴から、その中にも陽性者がいる可能性は否定できません。

しかし、安易に検査を拡大していくことで、本当は避けることができる医療崩壊のカウントダウンが始まってしまう、ということも知っておかなければならない。

そういう人たちでベッドが埋まり、防護具が減ると、本当に守らないと救えない人が救えないことが起きてきます。しかもコロナの患者だけでなく、それ以外の患者の命も救えないということが近い将来に起こってきます。

治療やフォローアップの全体像に気をつけて

ーー軽症の患者も入院させる措置は変えられないのですか?自治体に決定権があるようですが。

長い目で見ると、軽症者でなおかつ自分でも自宅での健康観察を希望する人を、みんな自宅で診られるようになるといいです。病床確保や、防護具の節約や、マンパワーの問題を考えると、それができるかどうかは今後大きな鍵になる。

でも、その時にはその人が公共の交通機関で帰らない配慮も必要だし、医療のマンパワーを救うためかもしれませんが、帰ったら今度は、保健所が観察することになります。帰った後のフォローアップの負担は一方では増える。

医療だけの問題ではないので、そのバランスや、人的なサポートをできるかまで考えないといけない。

こうした感染症の流行では、本当に全体が見えていないと語れないんです。外野の人は結構気軽に、「〜をすべきだ」と言うことがありますが、全体が見えていないだけだと思います。

僕らはこの病気に限らず結核など隔離する病気をずっと診ていますから、どこをどうすると、どこに負担がかかるかわかる。誰が動いているかもわかる。そういう全体像を知らないから、気軽に「こうすべきだ」と言えるのだと思います。

ーーなるほど。思いつきで対策を打ち出すと、バランスが崩れて現場がめちゃくちゃに混乱することもあり得るのですね。

そうです。細かいところまで視野を行き届かせて、そこがケアされるようでないと、狙いとは違う方に進むことはあります。

「検査を多くしろ。なぜ増やさない」という意見についてもそうです。「流行の全体像を知るため」という一部分だけ見たら、良いことのように見えるかもしれませんが、全体を見るとマイナスが多いから専門家は疑問を投げかけたのです。

ーーそうですね。韓国もイタリアも医療崩壊が進んでしまいました。

あの海外の状況が見えてから、みんなも少し納得するようになりましたね。

患者の気持ちに配慮して メディアへの注文

ーー検査も保険適用になりましたが、さすがにこの規模の専門病院では、一般の人が不安だから殺到するということはないですよね?

ないです。そこの負荷は他のところにかかっているはずです。色々なことを切り替えた時は、どこに負荷がかかっているかを把握しにいかなければいけないですね。見ないでおくと気づかない。

不満が出る時はもう悲鳴のような形で出ますからね。制度や人を動かすには時間がかかる。

ーーそれを伝えるのもメディアの仕事でしょうけれども、先生から報道を見てメディアに注文したいことはありますか?

感染症をコントロールする時は、いろんな職種の人が関わっています。例えば、今、メディアの中では保健所はあまり語られていませんが、クラスター対策を中心に進めるには、かなり細かく濃厚接触者を追いかけていく作業が必要です。

その中心を担っているのは保健所の人たちです。保健所は人数が限られているし、感染疑いの人がいたらその検体を取りに行くこともあるし、陽性だった時の届け出を受理したりする。

指定感染症は強制的に入院させる「勧告入院」ができるのですが、人権を制限することでもありますから、入院期間を延ばす時に審議会を開きます。僕も審議会の委員ですが、この延長の審査をする手続きをするのも保健所です。退院後のフォローアップもしています。

ーーそういう負担が様々なところにかかっていることに目配りしながら報道してほしいということですね。

そういうところもスポットを当てないと、サポートもされないまま負荷がかかり続けます。

患者さんへの配慮を

それからメディアは患者さんへの配慮がなさ過ぎます。僕は、隔離した患者さんを診ています。そこにいるのは人であって、ウイルスじゃない。隔離しているのはウイルスが広がるのを防ぐためです。

人にうつす期間は入院勧告をして、いてもらっている。だから公費で補助する。みんなのためだからです。

でも、患者さんは仕方なく協力しているのです。感染したくて感染した人は一人もいない。最初は症状が軽くても、いつ悪くなるのかという不安を抱えながら毎日過ごしています。

その恐怖感は大変なものですし、友達もお見舞いにはこれません。普通に面会はできず、防護具の脱ぎ着を訓練された医療者だけが病室に入れます。

健康の不安やいつ出られるかわからない不安を抱えながら、仕事や生活、家族や友達との交通も遮断されている中で、入院生活を続ける。入ってくる医療者も普通の格好じゃなく、防護具ですから不安だろうし、怖いはずです。

そういう患者の現実をみんなあまりわかっていない。退院してからバッシングする話を聞くと、患者さんの不安をみてきた医療者は、すごく心が痛みます。

ーー本来は私たちのために隔離に協力してくれたのに。

そうです。周りにうつさないためにそこにいてくれていた人なのにバッシングはあり得ないです。しかも、この感染症が広がっていくことを考えれば、そのバッシングは次は自分に降りかかるかもしれないのです。

そのあたりの人への配慮がメディアは弱いです。そんな差別がないのが成熟した社会なのだと思います。

ーー再感染か再燃かわからない、一度陰性になったのにまた陽性になるという事例が、周りの人に不安を抱かせるのかもしれないですね。

あれも判断は難しいです。もともと長く保持している人がいて、ウイルスが減っていくと検査で偽陰性が出やすくなる。たまたま次に陽性になることもあるし、少し体の中に残っていたのがまた増えたのかもしれません。

そのため、今は退院後、4週間は経過観察をするようになりました。詳しい状況がまだわかっていない段階では一応、ケアしておこうという意味です。

一般の人にお願いしたいこと

ーー最後に一般の人へ伝えたいこと、お願いしたいことをお願いします。

かかった人への配慮をまずお願いしたいです。その人たちを診ている医療者としてはこのことを忘れないでほしいというのがまず一点あります。

そして、将来、医療現場や保健所や行政なども含めて、医療提供体制が崩壊しないようにみなさんに協力してほしい。新型コロナの医療が破綻すると、一般の医療にも影響が及んで、通常の病気の人も救えなくなります。それは、今後の感染の規模によって決まります。

その今後の感染の規模を決めるのが、今の対策です。

行政レベル、社会レベル、個人レベルで行える対策があります。今、2週間ということでみんな頑張ってくださっていますが、状況によってはまた厳しい対策を追加しなければならないこともあるかもしれない。

あるいは少し落ち着いて制限が緩和されても、海外でも起こっている以上、すぐには収まりません。国内が少し収まっても海外からまた入ります。

持続可能な予防がどこにあるか、それぞれができることを考えて、それをしっかり続けていくしかない。一人一人がやっていくその積み重ねが、全体の状況を決めてくると思います。

日本人の国民性は感染症に有利です。こんなに手洗いしている国はないし、マスクもこれだけつけている。日本は皆保険制度ですし、生活保護のようなセーフティーネットも作られている。

実は海外と比べて誇るべき部分がたくさんあるんです。それと個人の努力が、今後の日本がどうなるかという時に、希望になると思います。ぜひみなさん協力してください。

【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。駒込病院感染症科のウェブサイトはこちら

都立駒込病院は第一種感染症指定医療機関として、指定感染症の診療に当たっている。

追記

イタリアで人工呼吸器の使用に年齢制限が設けられているという報道は虚偽だという指摘もなされているため、正確な情報が確認できていませんが、質問部分からいったん削除します。