米大統領選で最終回となる候補者テレビ討論会が10月19日(日本時間20日)、ラスベガスであった。五つのポイントを振り返る。
1. トランプ氏は日米同盟を再交渉すると言及
日本という言葉が飛び出したのは5回。トランプ氏は日本などが核兵器を持つことを支持する発言をしており、これをクリントン氏は非難した。
するとトランプ氏は日米同盟の見直しという持論を展開。
「日本などに関してだが、われわれはすべての国から搾取されているんだ。われわれは他国を防衛しているんだ。そのために大金を使っているんだ」
「こうした合意を再交渉しなければならない。なぜなら、サウジアラビア、日本、ドイツ、韓国などを防衛する余裕はないからだ。負担し続けることはできない」
「日本、ドイツ、韓国、これらは豊かで力のある国々だ。サウジは超金持ちだ。そのサウジを防衛しているんだ。なんでこうした国は支払いをしていないんだ?」
「日本には丁寧に言ってやらなければならない。ドイツにも、韓国にも。『君たちはわれわれを助けなければならないんだ』とね。オバマ政権下で財政赤字は倍増した」
対照的にクリントン氏は同盟の重要性を強調した。
「アメリカは同盟関係を築くことで平和を保ってきた。トランプ氏は同盟を破綻させようとしている。同盟によってアメリカの安全は強化される。私はアジア、ヨーロッパ、中東などの同盟国と協力する。さもなければ、平和は保てない」
2. 暴言の応酬「操り人形(パペット)」「なんて不快なオンナだ」
下品な暴言の応酬は2016年大統領選の特徴の一つ。この日の討論会では、ロシアのプーチン大統領から褒められて上機嫌のトランプ氏を指して、クリントン氏がこう揶揄した。
クリントン氏「プーチン大統領は、アメリカ大統領を操り人形にしたいのだろう」
これに黙っているようなトランプ氏ではなかった。
トランプ氏「操り人形じゃない。操り人形じゃない」
クリントン氏「それは明白で......」
トランプ氏「お前が操り人形だ!」
クリントン氏「それは明白で、あなたは認めたく......」
トランプ氏「違う、操り人形はお前だ」
「操り人形」と連呼しないでくれ......
メキシコ国境に「万里の長城を築く」と豪語するトランプ氏。不法滞在の移民に議題が移ると、こんな発言が飛び出した。
「ここには悪いヤツら(バッド・オンブレ)がいるから、追放してやる」
オンブレ(hombres)とはスペイン語で「やつ、あいつ」の意味。かつて「メキシコ人はレイプ魔、犯罪者だ」とののしったトランプ氏がこの言葉を使ったことは、メキシコ人を指して侮蔑したと受け取られた。
トランプ氏の暴言はこれで終わらなかった。社会保障について、政策を説明し続けるクリントン氏に向かって、こう口を挟んだ。
「なんて不快なオンナなんだ」
この発言の前に「私より女性に敬意を持っている人間はいない」と豪語して、失笑を誘っていたトランプ氏。うっかり漏らした本音にインターネットはわいた。
こんなコラが登場。トランプ・タワーにあるトイレのドアに「不快なオンナ」「悪いヤツら」と書いてある。
3. 人工妊娠中絶 「女性の権利」「子宮を切り裂く」
敬虔なキリスト教徒が多いアメリカ。人工妊娠中絶は、宗教と女性の権利が交錯する微妙な問題だ。
トランプ氏は中絶反対で、中絶した女性は「罰せられるべきだ」とまで踏み込んできた。クリントン氏は中絶容認だ。司会者は妊娠後期の中絶への賛否を尋ねた。
クリントン氏「家族にとって、非常に心痛む、辛い決断となる。妊娠後期に最悪の告知を受けた女性を知っている。妊娠を続けると母体が危険になるようなケースだ。米国政府は、最も個人的な選択に介入するべきではない」
トランプ氏「これは恐ろしい。クリントン氏が言うのは、妊娠9カ月で、出産直前に、胎児を母親の子宮から切り出せるということになる。決して容認できない」
クリントン氏「それは事実ではない。怖がらせるレトリックを使うのは非常に残念だ。私が会った女性たちにあなたも会うべきだ。どんな女性にとっても、その家族にとっても、非常に辛い選択なのだ。中国のように中絶を強要したり、ルーマニアのように妊娠を強要したりするような国々も訪問してきた。だから言える。信条や医学的助言にもとづいて女性たちが家族と共に下す決定に、政府が介入すべきではない。女性の権利を守る」
4. 民主主義国家なのに選挙結果は受け入れると言わないトランプ氏
アメリカの主要メディアがこぞって取り上げたのは、トランプ氏のこの発言だった。
司会者「選挙結果を受け入れると誓うか?」
トランプ氏「その時に考える」
司会者「平和な政権移行がアメリカの原則だ。この原則を守れないと言っているのか?」
トランプ氏「その時になってから言う。お楽しみにということだ。オーケー?」
かねてより、「この選挙は不正がされている」と自らの集会で不満をぶちまけてきたトランプ氏。開票されるまで回答を留保するとして、答えなかった。
ニューヨークタイムズはこの発言によって、トランプ氏から距離を置く共和党員が増えるだろうと評した。
5. メディアの反応は?
「クリントン氏はトランプ氏の裏をかいた。驚くべき新しい方法で。それはトランプ氏の手法だ」と賞賛。「話の流れを変え、絶え間なく攻撃し、見下す態度をとった。トランプ氏のトレードマークを本人に向けてぶつけた」
トランプ氏は「最も優れた討論のパフォーマンス」を見せ、クリントン氏と「互角に戦った」と評した。だが、選挙結果を巡る発言で水泡に帰し、「投票日までトランプ氏を悩ませるだろう」と書いた。
トランプ氏はスタート時は過去2回よりはよかったものの「終盤にかけては、さながらトランプ氏の選挙戦の縮図だった。怒りをぶつけ、さえぎり、侮辱する。前半に積み上げたものを崩してしまった」
13ポイント差でクリントン氏
討論会を見ていた人たちは、どちらに軍配を上げたのか。CNNなどの調査によると、クリントン氏が勝ったと考えた視聴者は52%、トランプ氏は39%だった。