性奴隷にされた難民女性が国連親善大使に 「ジェノサイドが起きている」とアマル・クルーニー弁護士

    求めるのは復讐ではない。正義だ。

    「ナディアさんの母親は処刑され、埋められました。犠牲となった年配の女性たち80人の一人でした。墓標もありません。兄弟らも殺されました。たった一日で600人が殺されたんです。これはジェノサイド(大虐殺)です」

    Amal Clooney @UN supporting of new @UNODC Goodwill Amb @NadiaMuradBasee: https://t.co/c7F1YppytP #HumanTrafficking

    アマル・クルーニー弁護士は9月16日、国連本部でこう訴えかけた。左隣に座るのがナディア・ムラド・バセ・タハさん(23)。イラクの少数派ヤジディ教徒の女性だ。クルーニー弁護士が代理人を務める。

    イラク北部にあるナディアさんの故郷の農村は2014年8月、過激派組織「イスラム国」(IS)に襲撃された。母親と兄弟6人は殺された。ナディアさんは他の女性たちと共に誘拐され、性奴隷にされた。

    3日間捕らえられた後、イスラム国の兵士らに「配布」された——。ナディアさんはTime誌などに語る。

    「兵士らはイスラムの名のもとに、レイプとジェノサイドに及んでいます」

    自殺した女性もいた。「わたしは自殺しようとは思いませんでした……そうではなく、殺されたかった」

    妻子がいる男の奴隷にされ、部屋に閉じ込められた。逃げようとして捕まった。「罰として」、殴られ、脱がされ、6人の兵士に集団レイプされた。「意識を失うまで、続きました」

    兵士たちの間で売り買いされた。2014年11月、ナディアさんは鍵のかかっていない家から逃げた。難民キャンプを経て、ドイツに亡命した。

    ナディアさんは9月16日、人身売買の被害者らの尊厳を訴える国連親善大使に就いた。

    Incredible to see @NadiaMuradBasee honored for her work agnst ISIL as new @UN Goodwill Amb. Inspiring, strong woman.

    ナディアさんと潘基文・国連事務総長

    就任したナディアさんが演説した。

    「母は亡くなりましたが、その魂はいまここに私と共にあります。多くの人が亡くなりました。私の村の夢も希望も失われました」

    ナディアさんは一瞬、言葉を詰まらせた。隣のクルーニー弁護士がそっと体を支える。

    「2014年8月全てが変わりました。イスラム国が誘拐、殺害、レイプするために来ました。これはジェノサイドです」

    「私のような女性たちが解放されない限り、私は自由を感じることができません。3200人のヤジディ教徒がとらわれたままです。救わねばなりません」

    クルド系のARANewsは6月、檻に入れられた少女19人が焼き殺されたと報じている。イスラム国兵士との性行為を拒んだためだったという。

    パンフレット

    国連で、ナディアさんからマイクを継いだアマル・クルーニー弁護士。イスラム国が兵士らに配布したQAパンフレットの内容を紹介した。

    「質問19、女の奴隷を殴ってもいいか。答え、しつけとして、女の奴隷を殴ってもよい」

    「質問13、思春期前の女の奴隷と性行為をしていいか。答え、よろしい。ただし性行為に向かなければ、それなしにその女を楽しめばいい」

    「質問6、女の捕虜を売ってもいいか。答え、女の捕虜を売り買い、贈り物にしてよい。ただの財産にすぎないから」

    クルーニー弁護士は訴えた。「この奴隷マーケットはいまも続いています」

    Amal Clooney on @NadiaMuradBasee: "She has defied all the labels that life has given her." #HumanTrafficking

    クルーニー弁護士は続ける。

    「この議場で話すのは初めてです。ここにいることを誇りに感じられたらと思いますが、そうではありません」

    「国連の支持者として、恥ずかしく思います。どんな国もジェノサイドを防ぐことも、罰することもできないでいるからです。自国の利益を優先しているからです」

    「弁護士として、恥ずかしく思います。正義がなされず、告発もほとんどされていないことを」

    「女性として、恥ずかしく思います。ナディアさんのような女性が身体を売られ、戦場で利用されることを」

    「人間として、恥ずかしく思います。助けを求める叫びを無視することを」

    静かな拍手が広がった。

    "Maybe I lived so that I would be able to use my heart & soul & my words to be their voice." -- @NadiaMuradBasee

    「ナディアさんたちは復讐を求めているのではありません。正義を求めているのです。ハーグの国際裁判所で、虐待した者たちと対時する機会を」

    ナディアさんの強さをこう讃えた。

    「この若い女性の隣に座ることを誇りに思います。その強さとリーダーシップに驚きました。孤児、レイプ被害者、奴隷、難民、どんなレッテルもはじき返してきました」

    「代わりに、逆境を跳ね返す人、ヤジディ教徒のリーダー、女性の擁護者、ノーベル平和賞の候補者となりました。そして、今日からは、国連親善大使です」

    「ナディアさんを知れたことを誇りに思います。私たちが救えなかったことを申し訳なく思います。本日の就任が、人身売買における性的暴行の被害者にとって、岐路になることを望みます」

    「ナディアさんを暴力で打ち砕けると思った人たちに、知らしめてやりましょう。ナディア・ムラドの精神が屈することはない、声を上げるのをやめない。今日から、国連大使として、世界中にいる生き残った人たちのために声を上げていくのです」

    壇上から

    9月19日、ナディアさんは再び壇上から各国のリーダーらに訴えた

    What an inspiration @NadiaMuradBasee is! Frm #ISIS slave 2 #refugees advcate @#UNGA #UN4RefugeesMigrants #endslavery

    「首をはねられ、性奴隷とされ、子どもがレイプされても動かないのなら、いつ行動するのですか」

    (サムネイル写真 Chris Jackson / Mark Wilson / Getty Images)