安倍晋三総理大臣は6月19日、通常国会の閉会を受け、首相官邸で記者会見を開いた。
森友学園をめぐる問題を端に、「共謀罪」をめぐる議論、さらには加計学園の獣医学部設置に関する疑念、そして憲法改正などに注目の集まった今国会。
それを振り返る会見はまず、国民への謝罪から始まった。
「国民に大変申し訳なく感じている」
安倍首相はまず、自らの政権の原点が第二次安倍内閣発足時の「国会で建設的な議論を行い、結果を出していくこと」にあると述べた。そのうえで、今国会の内容をこう反省した。
「建設的議論とは大きくかけ離れた批判の応酬に終始してしまった。政策とは関係ない議論に多くの審議時間が割かれてしまい、国民の皆様に大変申し訳なく感じております」
安倍首相は今国会、憲法改正をめぐり「読売新聞を熟読してほしい」などと述べたり、「印象操作」という言葉などを強い口調で連発したりした場面もあった。
「印象操作のような議論に対し、つい強い口調で反論してしまう。そうした私の姿勢が結果として政策論争以外の話を盛り上げてしまう。深く反省しております」
さらに野党からは、さまざまな問題に対する説明が足りないのではないか、との指摘が上がっていた。
「何か指摘があればその都度真摯に説明責任を果たしていく。4年前の原点にもう一度立ち返り、建設的な議論を行い、結果を出していく。そうした政治が実現していくよう政権与党としての責任を果たしてまいります」
「国民のみなさまから信頼を得られるようひとつひとつ丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならないという決意を新たにしております」
安倍首相の発言は、支持率下落を受けたものとみられる。
6月18〜19日に公表された各社の世論調査では、安倍政権の内閣支持率が大きく下落している。読売新聞で49%と前回調査12ポイント下落。毎日新聞では36%と、前回比10ポイント下落だった。
加計学園について
加計学園の獣医学部新設をめぐる問題についても、自ら「不信を招いた」との言葉を用いた。
新設そのものではなく、そもそもは「怪文書のようなもの」(菅義偉官房長官)としていた「総理のご意向」「官邸の最高レベル」などと書かれた文書をめぐる対応についてだ。
「最初に調査した段階ではそれらの存在を確認できなかった。二転三転した形となり、長い時間がかかることとなりました。こうした対応が国民の皆様の政府への不信を招いたことは率直に認めなければなりません」
そのうえで、新設については「行政が歪められた」との前川喜平・前文科事務次官の発言を意識してか、「歪められた行政を正すものだった」と主張した。
「獣医学部は50年以上新設がまったく認められてきませんでした。しかし今、鳥インフルエンザや口蹄疫など、動物から動物、動物から人に移るかもしれない伝染病が大きな問題となっている」
「専門家の育成や公務員獣医師の確保は喫緊の課題で、そうした時代のニーズにこたえる岩盤規制改革は、歪んだ行政を正すもの。スピード感を持って進めることは、まさに総理大臣としての私の意志であります」
民進党批判も
また、その決定プロセスについても「透明で公平公正」だったと主張した。
「透明で公平公正なプロセスこそが、内向きの議論を排除し、既得権でがんじがらめとなった岩盤規制を打ち破る大きな力となる。これが国家戦略特区であります。審議にたずさわった民間議員の皆さんは、プロセスに一点の曇りもないと断言されております」
そのうえで、民進党が国家戦略特区を廃止する法案を提出したことに言及。「改革を後退させようとする発想」と批判した。
「岩盤規制改革には抵抗勢力が必ず存在しますが、私は絶対に屈しません。既得権と手を結ぶことは決してありません。総理大臣の私が先頭になり、ドリルの刃となってあらゆる岩盤規制改革を打ち破る決意であります」
共謀罪について
「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織的犯罪処罰法の成立については、従来の答弁を継承した。
「テロを未然に防止すするため、国際組織犯罪防止条約を締結し、国際社会と連携を強めていく。そのために必要なものであります」
ただ、説明不足もこう認めている。
「残念ながら国民的な理解を得ることができていない。率直にそれは認めないといけない」
「テロ対策について国際的な連携を強化したという考えに基づくものだが、不安や懸念を持つかたがおられることは承知している」
この法律をめぐっては、野党などが「組織犯罪」ではなく一般人が対象になったり、権力側による濫用の危険性があるのではないかと、批判を強めていた。
また、安倍首相が根拠にしている「国際組織犯罪防止条約」がテロ対策とは「全く関係がない」との指摘もあがっている。
「私からはっきり申し上げたいことは、一般の方が処罰の対象になることはない。被疑者として捜査の対象となることはないと改めてはっきりと国民の皆さんに申し上げていきたい」
「さまざまなご指摘などをしっかりと踏まえながら、法を適正に運用し、国民の生命と財産を守ることに万全を期してまいります」
法律については、その成立過程を批判する声も大きい。参議院法務委員会での審議を「中間報告」という手段を用いて省略したからだ。
この点についても記者から質問が出たが、安倍首相は明確に答えることはなかった。
憲法改正について
一方、自らが自民党総裁として「2020年までの改正を目指す」とした憲法については、多くを語らなかった。
「憲法改正は、自民党立党以来の党是であります。先日、総裁としての私の考え方をお示ししました」
「これを受けて党内では具体的な改正案の検討がはじまっています。憲法審査会に提出していない段階。この後の発議について申し上げる段階ではない」
そのうえで、「そもそも衆参両院の3分の2を形成すること自体がそう簡単なことではない」と指摘。「与野党を超えて建設的な議論を行えるような提案を優先したい」と述べるにとどめた。
新たな有識者会議も設立
会見で安倍首相は今国会の成果にも言及。「150日にわたった会議で、政府が提出した法案60本以上ほぼすべてが成立しました」と述べた。
たとえば、大学生らの「給付型奨学金」に関する法律や、農政改革関連法が成立したこと、さらに民法・刑法が改正されたことなどを成果として挙げた。
また、「今後も経済最優先で取り組む」とし、「一億総活躍社会」の実現のため、「これまでの画一的な発想にとらわれない人づくり革命」をするための「みんなにチャンス構想会議」という有識者会議を夏に立ち上げる方針も明らかにした。
繰り返した「反省」の言葉
山積したさまざまな問題点に対する疑念はまだ残るとして、野党は閉会後も説明すべきと主張。前川・前次官の証人喚問なども求めているが、与党側は応じる姿勢を見せていない。
森友学園についても、記者に問われたが多くを語らなかった。「会計検査院が検査に着手しており、政府としては全面的に協力してまいります」と述べただけだ。
加計学園、森友学園、そして共謀罪。さまざまな指摘に対する説明は続けるのか。そう記者に問われた安倍首相は、冒頭の「反省」を繰り返すようにこう語った。
「国会の開会、閉会にかかわらず政府としては今後もわかりやすく説明していく努力を積み重ねていく。論争の反省に立って、国民のみなさまの信頼を得ることができるようにひとつひとつ丁寧に説明していきたいと思います」
具体的にどう説明するのか。その内容を示す言葉はなかった。