「シロガネ山に登場する初代主人公は、すでに死んでいる……」
人気ゲームソフト「ポケットモンスター」シリーズには、このような都市伝説が多数、語り継がれている。
では、こうしたポケモンの怖い話は海外にも存在するのか?
海外の幽霊や怪談などを研究した「世界現代怪異事典」(笠間書院)の著者で、怪異専門家の朝里樹さんに聞いた。
海外のネットで流行った2つの都市伝説
ーー「世界現代怪異事典」には、ポケモンに関する怖い話もあるとか。
そうですね。日本のポケモンの都市伝説って、とあるキャラクターが実は死んでいるとか、ゲームの中で完結するような話が多いんです。
でも海外だと、ゲームだけじゃなくて現実世界にも侵食してくるタイプの話があるんですよね。
その中で、事典では海外のネットで流布した2つの代表的な都市伝説を選ばせていただきました。
都市伝説「シオンタウン症候群」
『ポケットモンスター赤・緑』に纏(まつ)わる怪談。このゲームではストーリーの中盤、シオンタウン(英語ではラズベリータウン)という町を訪れるが、この町のBGMを聞いた七歳から十二歳の子どもたちが二百人以上自殺を図ったという都市伝説がある。
また自殺しなかった子どもたちも、激しい頭痛を訴えたという。
実はこの事件は発売直後に『ポケットモンスター赤・緑』をプレイした人々のみに発生しており、そのBGMには大人には聞き取ることができない高音が含まれており、それが自殺の原因になったという。
このBGMはすぐに低い音に差し替えられたという。
「世界現代怪異事典」291ページより一部抜粋(朝里樹,笠間書院,2020)
都市伝説「ベリードアライブ」
この町(編集部注:シオンタウン)にはポケモンタワーと呼ばれるダンジョンが存在するが、この塔は死んだポケモンを埋葬し、供養する墓場の役割を担っている。
ベリードアライブはこのポケモンタワーの最上階に出現する敵キャラクターとされ、その姿は墓場から這い出てくる死体のように見える。
戦闘は最上階にある墓石に話しかけることにより始まるが、その際、「ここです」「私は閉じ込められています」「私は孤独です。とても寂しい」「私の仲間になれ」というテキストが表示される。
またこのベリードアライブはストーリー上ありえないほどレベルの高いポケモンを使用し、最後には上限であるレベル100を突破したレベル101の「ホワイトハンド」というゲーム上存在しないはずのキャラクターを使用する。
このため、ベリードアライブに勝つことは難しいが、負けるとゲームオーバーとなり、ベリードアライブの「新鮮な肉だ」というセリフがテキストによって表示される。
そして主人公がベリードアライブによって殺害されてしまうような画面が表示され、そのままゲームを動かせなくなってしまうという。
またその画面の向こうでシオンタウンのBGMのアレンジと、肉をむさぼり食うような音が聞こえてくるという報告もある。
名前となっているベリードアライブは生き埋めを意味する言葉。
「世界現代怪異事典」309ページ,310ページより一部抜粋(朝里樹,笠間書院,2020)
ーー年齢とか細かい数字が出てくるので、妙にリアルで怖いですね……。
シオンタウンという町自体がですね、ポケモンの死に触れられていたり、気味の悪いBGMが流れているようなホラーに特化した町ですからね。怖いですよね。
「シオンタウン症候群」に関しては、日本で起きた「ポリゴンショック」の影響が大きいんじゃないかと思います。
ーーアニメで起きた光の点滅で子供たちが体調不良になってしまった事件ですね。
「ポリゴンショック」が伝聞を重ねてアメリカまで広がって、その間にいろんな人の手が加わって作られていったんじゃないかと。本当にこんなことが起きていたらニュースになってると思うので(笑)。創作の一種だと考えられています。
ーーなんでこんな都市伝説が流行ったのでしょうか。
みんながシオンタウンの知識を共有しているのが大きいと思います。シオンタウンと聞くだけで、ほとんどのポケモン好きがシオンタウンは怖い町で、あの不気味なBGMが流れることを知っている。
シオンタウンなら本当にそういうことが起こりうるんじゃないかと思ってしまうんじゃないかと。
ーー子供の頃に聞いたら信じてしまいそうです……。
あと、海外のネットだと文章の体験談をすぐに動画化する人がいて、YouTubeに投稿されるので信じられやすいんですよね。
映像になることでさらに信ぴょう性が増すといいますか。
ベリードアライブも動画化されてますし、海外の人って技術力がすごいんですよね(笑)。
ーー動画でも見るとますます本当に起きたように感じますね……。
そうやって自分の記憶の中にあるシオンタウンから、だんだん違う姿のシオンタウンに変化していく様子が文章や映像で表現されていく。
だから余計に信じる人が多くて、どんどんネットで広がっていったんじゃないかと思います。
〈世界現代怪異事典〉20世紀以降に世界各地で語られた、現時点では常識から外れていたり、明確にその実在が証明されていない存在や現象を集めた事典。怪異や怪談などを800種類以上掲載。
ゲーム系では「ポケットモンスター」のほか、「ゼルダの伝説」「Minecraft」に関する怪談が収録されている。
<ポケットモンスターに関する怪異>
・シオンタウン症候群(291ページ)
・ベリードアライブ(300ページ、310ページ)
<ゼルダの伝説に関する怪異>
・ベン・ドラウンド(310ページ)
<Minecraftに関する怪異>
・ヒロブライン(306ページ、307ページ)